ミッド帰国
3年半渡米していた、火吹武将の親友にして頭脳である御堂大智ことミッドが今、日本に凱旋帰国することになった。
新たなミッドの活躍が期待されるが、その姿に一同は、、、、
京仁織物株式会社 戸塚営業所
所長室
俺は、重要取引先のマツウラ商事株式会社 社長の松浦真一氏との話し合いが行われていた。
「火吹君、おかげさまで業績も順調に推移していますよ。これも火吹所長のおかげですね」
相変わらず、スマートなイメージの若き社長。
俺が提案した、業務用巨大空気清浄機を完成させて、様々な分野で販売に成功していた。
ショッピングモールからオフィスビル、果ては個人宅まで一年中外気にさらされているのにも関わらず、一切のメンテナンスがフリーなのが特徴だが、何といってもその商品である大型空気清浄機の性能がずば抜けて良いのは言うまでもないだろう。
売上実績が性能を実証しているものである。
名前を【MASAKAクリーン】というのだが、その性能がずば抜けて良いのは前述した通りだが、性能以外にマルガッス・シュタイン氏が作り上げた、塩を原材料とした特殊コーティング剤が更に評価を押し上げているのはこちらも疑いようのない事実だ。
しかし、【MASAKAクリーン】と名付けた理由を聞いた時は、驚きというか少々呆れたほどだ。
俺のタケマサと、まさか!の意味合いを重ねて付けたのだそうだ。
「いえ、松浦さんの努力とマツウラ商事さんの技術力、営業力の賜物です。」
マツウラ商事さんに大型業務用空気清浄機を提案したのは、3年前のことだ。
まだ、俺が戸塚営業所長に成り立てのことだった。
今では、様付けで呼ばずさんとお互い呼び合っているほどだ。
年齢も上。
俺のことも【君】っと呼んでくれる間柄になっていた。
上取引先の社長に対して、若造の俺がさんで呼ぶことは、公の場では決してないが、こういった気の許せる会談の場では親しみを込めて、あえて呼ぶようにしている。
そしてこの部屋にはもう一人、火吹武将が信用する人物がいた。
「突然で申し訳ございませんが、マツウラ商事様、京仁織物様共々、弊社最重要顧客様の業績が伸びまして、私 新倉の株が上がりましてこの都度、本社営業本部長職に転勤となりました。」
横濱銀行 戸塚営業支店長
新倉誠である。
そう、実は今日は新倉さんの栄転の報告だったのだ。
間もなく50歳になる、新倉さんが本社営業本部長に大抜擢されたりゆうは銀行という職業においては、例外中の例外といえるだろう
全ての銀行ではないにしろ、基本的に銀行の出世は主に、切り捨て型と言われているほど、敗者に対して復活はありえないのが通例だ。
優秀な大学を出て、3年以内に次長補佐という職に慣れるかがまず初めの関門。
この関門を同期入社の中から4割程度の人間がクリアして、次の3年以内に部長補佐という職に就く。
これもまた、次長補佐の中から4割程度選ばれる。
その人選に漏れた人間は、営業本部長という要職に付けることは決してない。
常に戦い続けなければならないのが、バンカーという仕事なのだ。
そしてその敗者復活戦が全くない、銀行と言う会社で50歳近い いち支店長が本社営業本部長に抜擢されることなど、かつて例が無いほどの異例中の異例だろう
まぁ~ここ数年の横浜銀行 戸塚支店の業績と火吹財閥との深い繋がりを成し遂げた、実績は異例抜擢でもおつりがくるほどであった。
「松浦さん、今度私の自宅にもMASAKAクリーンを設置して下さい。」
「ええ、よろこんで。お互い小さい子供がいると、やっぱり気を使いますよね」
「そうなんです。私も仕事ばっかりしているものですから、たまには父親らしいことをしてあげたくて」
「あ、それよくわかりますよ。」
「「ははは」」
和気逢いあいとした、雰囲気の中 新倉誠の栄転話は進んでいった。
銀行マンの転勤は、通常3日しかない。
3日前に通達され、取引先への挨拶で1日終わり
次の日は、引越し。
3日目は新しい取引先への挨拶。
何ともバタバタした、動きだが【お金】という商品を扱っている以上、不正は絶対に防がなければならず。
不正防止策の一環であり、仕方の無い事なのだろう。
逆に新倉さんの戸塚支店勤務年数は、銀行としては長すぎる程だ。
それだけ、この戸塚支店が横濱銀行にとっても大きな稼ぎ頭に成長していたのだろう
一通り話を2時間ほどして、松浦さんと新倉さんはそれぞれの職場に戻っていった。
2時間も栄転挨拶している職場など、まずないだろう
しかも、ここ京仁織物株式会社 戸塚営業所で3人で挨拶するなど通例では無い事だ。
それだけ、火吹武将という人間に魅力と恩を二人とも感じているのだろう
二人が帰社する時刻となり、俺は玄関まで二人を見送りに出るため立ち上がり歩き出す。
そして、マツウラ商事若き獅子。
松浦社長と横濱銀行新倉誠新営業本部長を戸塚営業所玄関で別れの挨拶をしたが、二人とも送りに行った俺に対して手を振り、何度も何度も振り返りながら帰社していった。
その二人の姿を京仁織物株式会社 戸塚営業所 所員たちは微笑ましく遠巻きにしながら笑顔で見守っていた。
皆の信頼と信用を勝ち取った、自分らの最高上司としてまた、一人の人間として、火吹武将という男を誇りに思いながら
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ピロン~
俺のスマホにメッセージが来たことをします音がする。
すっと、目を向けると
妻の舞からの連絡であった。
【今晩、ミッドが成田に帰ってくるわよ】
俺は直ぐに、返信する。
【皆を集めて向かいに行こう】
ピロン~再度すぐになる軽やかな音
【手配完了済み】
(いやはや~お早い事で、、、)
出来る妻は無駄を嫌う。
19:00
火吹財閥家自家用車
ロールスロイス ファントム 特別改造版
が、俺と舞と常慶貴彦とホトこと保東康臣とホトの婚約者の候葺縁さんが向かい合って、ファントム特別改造の座席に座り高速道路を成田に向かって走っていた。
流石に天才有名アーティスト彭城楓真はスケジュールが入っていて、来れなかったようだ。
当然と言えば当然。
今の奴の人気は、日本を代表する世界的スターの一人だ。
逆に、一般ピーポーの俺達と一緒にいたら、大騒ぎになる事間違いない。
夜の高速道路は、車のヘッドライトと道路を照らす照明が素早く駆け抜けていく。
車が割いていく風の音など一切聞こえない、静かな車内で会話がにぎやかに交わされていた。
俺が初めに言葉を発する。
「ホト、婚約おめでとう。」
保東康臣こと親友のホトは、帝城高校卒業後COOBデザイン株式会社に入社して3年。
憧れであったCEOの候葺縁さんに認められるだけでなく、片思いであった縁さんと婚約までする運びとなったのだ。
その事情の裏に隠れている本人の努力を知っているのは、俺だけでなくここにいる全員が共有するものだ。
見た目だけ見ても高校生時代とは全くの別人。
ぽっちゃりしていた姿は、跡形もなく消滅して今では精悍ながら微笑を絶やさない、厳しさと優しさを共有する大人へと変化した男性になっていた。
この短期間でこれだけ、変化できる人間はそうはいないと俺は確信している。
勿論、京仁織物戸塚営業所 所長火吹武将の周りを固めるメンバーも優秀という言葉だけでは済まないものがあるが、それは火吹武将という人間がいて、初めて成り立つものだ。
ホトは己一人だけで戦い、自分という難敵に勝利した数少ない人間だ。
そうでなければ、あの候葺縁さんが自分の代わりに会社を任せて、結婚までしようなどとは絶対に言わないであろう。
その裏にあった、候葺縁さんの激しくも切ない恋慕の終幕については、武将の義理の父親であり社長である葛城仁以外は、誰も知らない。
これも悲しい思い出であるのは間違いないことであった。
ホトだけでなく、常慶貴彦ことタカヒコも東大法学部に進み、司法試験に合格。
東大という大学は通常と異なり、入学してから成績順で希望学科を選択するというシステムだ。
人気の法学部でしかも主席をとるタカヒコの才能と努力が、人並外れた桁違いであるという証拠だ。
しかも来週からはハーバード大学大学院のロースクールに通う事が決まっている。
ハーバード大学に入学するためには、足切りとなるテストを通過して、本人の成績は言うまでもないが、3人以上の推薦状に論文、面接とすべて英語で話さなければならない。
英語圏でない日本人には、それだけでも不利な要因だ。
だが、タカヒコは短期間にそれらすべてをクリアして、更に世界に羽ばたこうとしている。
とんでもない才能であり努力家である。
そんな素振りも一切見せないストイックという言葉が実に当てはまる男だ。
妻の舞から言わせると【武将化】が進んでいるという事らしいが、実際当人の俺にはよくわからん。
何とも天然な、リーダーである。
妻の火吹舞も、才女ぶりを遺憾なく発揮して既に10か国語以上の言語を理解し話術にたけている。
会社経理にも最近は精通しているようだ。
美しさの中にとんでもない図太い心臓と頭脳が潜んでいるとは、見た目には全くわからない。
彼女の一番近くで見てきた俺が、一番よく知る。
美しさと秀麗さを兼ね備えた女傑である。
ホトは普段会社では、見せないであろうニヤケタ顔で
「将軍、ありがとうぜよ」と答えながら顔を真っ赤に染める。
純粋に候葺縁さんとの結婚を喜んでいる本人だが、、、
このメンツになると、坂本龍馬のような話し方になるのは相変わらずだ。
新しくパートナーになる候葺縁さんはここでは沈黙を守った。
まだ、完全には心の整理がついていない、、、
ただ微笑むだけで、余分なことは一切言わない。
このチームに入って、自分が一番年長とはいえ新参者であることを理解して、何時もとは全く違い控えめに振舞っていた。
今、帰国の為迎えに行っている。
チームのメンバーである御堂大智ことミッドだが、彼も飛び抜けた逸材である。
帝城高校を高校3年生9月の秋に必要な単位を全て取得して、アメリカの理系工科ではトップと言われる、マサチューセッツ工科大学に一発入学して、飛び級に飛び級を重ねて、わずか2年間で卒業した。
アメリカ工学部最高峰ミッツのあだ名を得る、マサチューセッツ工科大学を2年間で卒業するのがどれほど大変なことだか、知ることはできないが日本人の彼がそれをこなしたのは、口には表せないほどの努力と根性の賜物だ。
っという事は、俺たち全員が理解している。
だからこそ、こうやって帰国を祝いに出迎えに向かっているのだ。
1つの結果をクリアして、堂々と凱旋する勇者を迎えに
しかもミッドの凄さは、それだけでは終わらずミッツ卒業後はFBI~CIAとアメリカの警察機関に協力して、情報系のスペシャリストとしてサイバー犯罪防止に協力した実績がある。
アメリカならではの文化かもしれないが、優秀な人間に対しては敬意を払い、大きな権限と高額な報酬を与える。
日本で同じことをしようと思ったら、あと10年は経験を積まないといけないだろう。
日本が遅れているという訳ではなく、それぞれ国には文化や歴史といったものが存在する。
違いがあって当たり前なのである。
だが、武将は思う。
愛と平和と教育。
これだけは、どんな国であろうと平等でなければならないと
それが、武将が思うゼロシティの先にある未来像なのかもしれない。
今のところ、チームのメンバーにも妻の舞にも気付いた者はいない。
それを考え、皆を引っ張るのが将軍こと、火吹武将の存在なのだ。
2時間ほど真っすぐ伸びる光の道を、世界的高級車は静かに滑るように走り、成田エアポートに到着する。
途中、簡易な検問があり運転するシゲさんが、対応していたが警察官が念の為と言い、窓を開けるよう促してきたので窓側に座っていた妻の舞が分厚い高級車の窓から顔を出して若い警察官に対して声をかける。
「こんな時間まで、ご苦労様です。」
若い警察官は、舞の美しさと若さに驚いていたが、車内をパッと見て
「失礼しました。お気をつけて」
っと、車を通してくれた。
成田空港を警備するという経験上、俺達みたいな若くてもこういう車に乗っている人種がいるという事を理解しているのだろう。
警察官の驚きは、一瞬で消えて次に来たのは、緊張と言う態度であった。
俺達が只者ではないという事に気付いたのだ。
警察官とは言え人間だ。
職務とは別に、そういう事もあるだろう
だが、高校生だった頃の俺達ならばちょっとは天狗になったりはしゃいだりしたかもしれないが、こういう事にも慣れた今では全く自然に堂々と振舞う。
自分たちの環境や状況、置かれた立場を全て飲み込んでここに俺達は立っている。
夢だけを追いかけるために
権力や金銭、地位、名声そういったもので威張ることをリーダーである俺が一番嫌うと皆が理解してる証だ。
成田に到着したのは、22:00近くになっていた。
それでも日本の玄関口は、かなりの人でごった返していた。
その中を周囲の視線を全てかき集めるように、俺達一行は堂々と俺と舞を先頭に通路を歩き、ホト、縁さん、タカヒコ、シゲさんが最後に続く。
美男美女に昭和の執事の代表と言わんばかりのシゲさんを見て、只者ではないという事は一目瞭然。
だが、ここでもこういうことは慣れるしかないものだと理解している俺達は自然にそして全く気追うことなく、自然に会話しながら歩を進める。
「ミッドも変わったでしょうね」
先頭を行く舞が、後ろを振り返りホトやタカヒコに聞こえるように首を後ろ向きに振り返る。
「何度か、モニター越しには話していたじゃが、アッチはカロリーがかなり高いケン、変わっとるじゃろな~」
ホトが竜馬節を全開に話し続けると
「ああ、俺も何度かインターネットで話したけど、、、、会うのが楽しみだな」
俺は前だけを見て、皆に聞こえるように大きな声で話す。
この時間でも、喧噪やまぬここではかなり大きな声を出さないと、全員には聞き渡らない。
搭乗口とは反対側の出口で俺達は、並んで待っていると、、、
ミッドは、直ぐに出てきた、、、、
想像を遥かに超えた姿で。




