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KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
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雪(前編)

今朝はとても冷え込む。

雪もちらほら降り始めている。


俺は(かじか)む手に愛妻 舞の手作りの毛糸の手袋をはめて、屋敷を出るところだ。


何時もの様に、舞と玄関で愛溢れる挨拶を交わしていると、後方から声がかかる。


「まぁ~朝からお熱いことでわね~」


候葺縁(こうぶきゆかり)さんだ。


舞は、俺から体を離して両手を前でそろえて、縁さんに挨拶する。


「おはようございます。縁さん。」


その横をスッと、走って抜ける黒い影


今や、世界的大スター。


俺の親友【彭城楓真(さかきふま)】だ。


すれ違いざま、俺にだけ聞こえるように呟く。


「お熱いことだ」


こいつが言うと、ごく普通のことなのに何故かカッコよく聞こえるんだよなぁ~


特に最近のこいつの男の色気というか、フェロモンっパネェの。


同じ人間とは外見では思えないくらいだ。


縁さんが、舞に対して挨拶を変えして会話が始まる。


「楓真さん、最近殿方としての魅力が増しましたわね」


舞は楓真にはいつでも辛辣だ。


「芸能人なんですから、あの位ないと通用しないですよ。それに外見だけでなく、中身ももっと成長してもらわないと」


「まぁ~舞様は相変わらず、楓真さんには手厳しいのですわね」


「調子に乗らないように、戒めているだけですよ。」


確かに、舞の気持ちは理解できる。

俺や舞は上場企業の子供として育てられ、チームの常慶貴彦(じょうけいたかひこ)の父親は東京地検特捜部の支部部長だ。悪さなど出来るはずもない。


御堂大智みどうだいちの父親も外資系IT企業に勤めていて中目黒に一戸建ての家を所有できるほどの経済的に成功した家庭である。


保東康臣(ほとうやすおみ)もなんだかんだ言って、帝城高校に通うほど経済的余裕はあり、キチンとした家庭で育てられた人物だ。だからこそ、候葺縁さんの荒修行に耐え、婚約まで取り付けることが出来たのだ。


だが、これは俺と舞しか知らないが、楓真の両親は実は母親しかいない。

いわゆるシングルマザーで、母親はいわゆる場末のバーの専属ジャズシンガーだったそうだ。


だから潜在的能力は別として、経済的にはかなり厳しい環境で育ったのだ。


舞の厳しさは、本人が成功を収めて、天狗にならないようにする為の、いわゆる【愛の鞭】なのだ。


【調子に乗るんじゃないわよ!!】的な、舞にしかできない真の友に対する、思いやりなのだ。



だから、今でこそ何百億というお金が彭城楓真というブランド名で動く現状に溺れることが無いように、厳しく見守っているのである。


一番近くで見ている俺からすれば、奴に限ってはそんな心配はもういらないんじゃね?


って思うんだが、舞の考えは変わらない。


自分に厳しく、他人にも厳しく、友人には時には優しく、時には更に厳しく。


親友には、深い愛をもって常に厳しく。


言葉にすれば簡単だが、実行するのは優しく接するよりはるかに心のパワーが必要だ。


俺の尊敬する愛する妻は、平気でそんなことをやってのける、心の図太さには絶対の声価がある。


話しは変わるが、縁さんとホトの婚約が決まり、6月には火吹邸に新婚夫婦として暮らし始めるそうだ。


(俺が決めたわけではないが、、、)


本邸の縁さんの部屋を拡張して、作るらしい、、、


(俺は知らないが、、、、)


清水号建設の清水郷壱社長が、縁さんの無茶ぶりを素で引き受けて、全て自分で手作りすることになったようだ、、、、


何とも、、人使いが荒い、、、


清水号建設も売上成績を短期間に伸ばしており、始めて知り合った時は従業員5人ほどの会社だったのが、今では50人以上の職人と本社兼作業場を持つ会社に成長している。


専属下請け会社、孫請け会社までいれると、すごい規模になっている。

売上高だけでも、現在200億円は超えているようだ。


建築という単価の高い仕事なので、売上高が高いのは理解できるが、利益率はさておき作業に手を抜かないことが業界内で非常に評価され、超大手ゼネコンからも仕事が回ってきているらしい、、、


とても4年前には考えられなかったことだ。


まだまだ、そのポテンシャルは余裕があり今後も更に発展していきそうだ。


それもこれも候葺縁(こうぶきゆかり)という人間が、叩き上げた成果ともいえるが、清水社長の順応力の高さと体力と気合の賜物であろう。



★★★★★★★★★★★★★★★★



また、俺は22歳になり、普通乗用車の免許を取得した。

時間のない俺の為に、重道勘蔵こと火吹家の金庫番シゲさんが、KABUKIコーポレーション系列関係会社に縁のある自動車学校を夜中に貸し切りにして、俺だけの為に営業してもらい俺は無事?


普通自動車の免許を取得できた。


京仁織物株式会社 戸塚支店勤務 俺の秘書である寸動永誇(すんどうえいこ)係長の俺のチーム参加希望は、当面見送りとなった。


まだ、時間もあることだし、今は目の前の仕事に集中したいからだ。


まぁ~想像するよりはるかに本人(寸動永誇さん)の抵抗は激しく苛烈を極めたが、、、、


結局、十柄氏元所長、五十吾副所長に間に入ってもらい、何とか説得してもらった。


何の保証もない仕事をするより、大企業で安定の道を選ぶのも人生においては一つの選択肢だと思うのは否めない。

彼女との付き合いも、大分経つが俺達(・・)とは育ちも考え方も全く違う。


今の俺にその全てを背負う自信が無い。


っというのが本音だろうか、、、


仲間の親友たちには、帝城高校時代にその場の勢い、若者故の溢れたパワーみたいに言ってしまったが、皆それぞれ俺の夢の為にそれぞれの能力を最大限伸ばすように努力して、既に5年余りがたち各々間違いない成果を出している。


中でも、一見地味そうだが保東康臣(ほとうやすおみ)の進化が俺は一番凄いとここ最近感じる。


何の資格も大学も卒業していない、俺とホトだが奴の人間進化術の速度は想像を絶する。


教師は候葺縁さんで、現場は東証一部上場企業の運営、舵取りだ。


とんでもなく、過酷でそのストレスは想像を絶するだろう。


そんな、ホトが自ら勝ち取った。恋する女性であり社会勉強の教師であった女性との婚約。


それと同じことを今から、寸動永誇(すんどうえいこ)さんに科すのは、幸福になるとはとてもいいきれない、自分がいるのは紛れもない事実だ。


もちろん彼女の有能さもよく知っているし、俺は決して優しいだけの上司ではない。


厳しくする時は、厳しく鍛えてきたつもりだが、人生経験とあの超人的個性をもつ縁さんと同等に鍛えられたかとなると話は別だ。


その結果、まだ時間もあるのでお互い時間をかけて結論を出すという、先送り政策の様な感じに落ち着いたのだった。


外は朝方降り始めた雪が、本降りになってきた。


思わずを外を眺めていた五十吾顧問役が呟く


「こりゃ~、積もるかも知れないですね。朝の天気予報じゃ、午後には雨に変わるなんて言っていたのになぁ~」


俺も窓の外を見て、思わずその純白の光景に驚く。


(こんなに降っていたのか、、、これは、、、)


俺はふと不安になり、電話の受話器を取り電話をかける。


「戸塚営業所の火吹です。葛城社長はいらっしゃいますか?」


俺が、電話を掛けた先は京仁織物株式会社の渋谷にある本社であった。


仁社長は直ぐに、受話器に出てくれた。


「この雪の事かな?」


いきなり本題を前置きも無く、喋りだす。

義理の父親であり尊敬する、男は俺から電話がかかってきた時点で、何の相談か理解していたらしい。


「ええ、そうです。従業員の安全を確保した方が良いと思いますが、、、、」


「うん、そうだね。本社含めて関東圏にある支店、工場には帰宅指示を出しておくよ。そっちは君に任せていいかな?」


「はい、わかりました。それでは失礼いたします。」


ガチャリ


静かに電話を切る。


現在、午後2時。


皆の方を向き


「聞いた通りです。全従業員に帰宅指示をお願いします。」


元営業課長で副所長の土井田敦(つちいだあつし)が言いにくそうに言葉をはさむ。


「わかりました。しかし、納期が迫ってる商品もあるので木島工場長とも話し合った上で決めたいのですが、女性たちは帰宅させ男性陣の希望者はこの支店に宿泊してはいかがですか?」


「そうですね、、、あくまで希望者だけというなら許可しましょう。当然私も泊まりますよ。」


土井田副所長は、目をほころばせながらも


「この雪の降り方からして、明日の出勤も大変なことになる事が予想されます。今の戸塚営業所を2日も閉めることになるのは、納期からいっても難しいかと、、、」


すると、秘書の寸動永誇係長が烈火の如く、言葉を連射する。


「男性と女性で分けるのは、不公平ですよ。火吹所長が泊まるなら、私も泊まります!!」


何とも、個人的な感情と意見でその場になだれ込む。気概は十分なキャリアウーマンである。


「ほっほっほっ、寸動君。気持ちはわからないでもないがね、会社としては女性を会社に宿泊させるのは、ちぃ~っとまずいんだよなぁ~」


顧問役で好々爺とした印象の元所長十柄氏源吉(とがらしげんきち)が年齢にあった、口調と貫禄でゆっくりと説き伏せるように話す。


「十柄氏さんが、そうおっしゃるなら仕方ありません。定時で帰りす。」


(いやいや、そうじゃなくて今すぐ帰宅して下さいって言ってるんですよ~)


「男性方が、宿泊されるならその準備も必要ですよね。私とナオの二人定時まで残り、宿泊の準備します。」


(もう~こうなったっら、テコでも帰らないだろうなぁ~)


「わかりました。では会議室の机を片付けて、宿泊できるようにしてください。毛布は倉庫にありましたよね。」


「ただし、定時になったら私が二人を駅まで車で送っていきます。」


「ありがとうございます!!」


(眼が輝いているよ~そんなに仕事したいの?)


外は戸塚営業所の中とは全く関係なく、深々と白い粉が降り続けている。

既に道路も白くなり、屋根の上には3センチほどの積雪があった。

簡単に雪ダルマが作れそうな、積雪量だ。


結局、木島工場長とも話し合った結果。


男性陣は顧問役の五十吾さんと十柄氏さん含めて、全員が戸塚営業所に宿泊することになった。


雪は太平洋を異常に発達した低気圧のおかげで、珍しく関東圏全域で大雪警報が出たほどになった。


午後5時


「それじゃ、寸動係長と近道係長は私が駅まで送るので、準備して下さい。」


仕方なさそうに二人して、テンション下げ下げで


「わかりました~」


語尾伸ばし過ぎで、言う。


京仁織物株式会社 戸塚営業所の車両は冬のこの時期は、全車スタッドレスタイヤを履いて、雪道も何のそのだ。


免許を取った、俺の運転する車の助手席にどっちが座るかでひと悶着あり、結局寸動さんが俺の横に座り、近藤さんは後部席に渋々乗り込んだ。


午後5時半


サクサク音を軋ませながら、会社の車は雪道を何ともせずに走り出す。


既に雪は、踵が埋まるくらいになっていた。

急な坂道では、歩行者でも歩行困難な状況かもしれない。


俺は周囲を見ながら、慎重に運転していく。


駅まで普通であれば、10分もかからない距離だがこの天候と家族の安否を心配して送迎に来たらしい、車の渋滞に合い思いもよらず時間がかかる。


駅がやっと、遠目で見えてきたが、溢れんばかりのヒトで埋め尽くされている。

この雪で、バスやタクシーっを使う人、家族の車を待つ人などが駅ロータリーを埋め尽くす。


とても駅に近づくことは出来そうにないので、二人にはここらで降りてもらおうかと考えていたら、後部座席に座る近藤直子係長が自分のスマホを見ながら、興奮したように話し出す。


「火吹所長、で、電車がほとんど止まってしまいました!!」


「どういうことですか?」


俺は首を後ろに振り向き、目で説明を求める。


近藤さんはスマホのニュースを見ながら


「ネットニュースの緊急情報で、首都圏の山手線はじめ、東海道線、京浜東北線、中央線、私鉄各社が運航を現時点をもって、この雪で取りやめたらしいです。」


「動いているのは、地下鉄くらい、、、現在の電車は現在到着している駅で、止まるそうです。」


午後6時


戸塚駅の周辺は、雪と同じくらいの数の人で溢れかえっている。


(おいおい、こりゃ~大変だぞ、、、)


サラリーマンから子供を連れた女性、お年寄りに年齢、性別問わずに戸塚駅は人で溢れかえっていた。


とてもじゃないが、バスやタクシーでの代替え運航は間に合わない。


俺は車を脇道に曲がり、戸塚営業所に戻るようにハンドルを切る。


その時点で、寸動さんと近藤さんは俺が何をやろうとしているか、理解したように黙って自分のスマホをいじくりだした。


家族宛にラインで「今日は帰宅しない」っと、、、


雪は止む気配も全くなく、深々と降り続けて行き交う人、立ち止まり途方に暮れる人たちの肩にどんどん積もっていく。


ニュースは、激しさを増すように交通遮断の情報を何度も何度も繰り返して流す。


近くのビジネスホテルやネットカフェに、避難できた一部の人間は大変幸運だっただろう、、、


だが、大半の人は、、、何十万という人間は帰宅方法の手段を失っていた。


立ち止まることも帰宅すことも叶わず、ただこの寒さと雪の中で、立ち止まる。


若い男性などは、決意を込めて自宅まで徒歩で歩き出す者もいた。


だが、皆が全員この気候の中、徒歩で帰宅できるはずがない!!



俺の運転する車は、戸塚営業所に戻ってきた。

送っていった、二人を乗せたまま。


俺は、何も言わず玄関前に車を止めて、会社の中に入っていく。


皆がいる、会議室目指して


大股で闊歩する俺の後ろに小走りで、ついてくる女性二人だ。


バン!!


会議室の扉を大きな音と共に開け広げ、仁王立ちする俺の姿に皆の視線が一気に集まる。

皆がスマホ片手にニュースを見ていた。


俺はそのまま、仁王立ちしたまま喋りだす。


「みんな、現在の状況は理解できていると思うが、今戸塚駅に行ってきたが、想像以上に大変なことになっている。」


全員が一瞬で、緊張をはらみ黙って俺の言葉に耳を傾ける。


「ここには、50台近い車がある。駅では途方に暮れたお年寄りや小さな子供を連れた女性が、帰宅できずにこの寒さと雪の中で立ち尽くしている。」


「俺は、一人でも多くこの人達を助けてあげたい。」


「仕事が終わった後で、疲れている所申し訳ないが、力を貸してもらえないだろうか?」


やはりこういう無茶ぶりで、想定外な事柄に一番早くに反応するのは、俺の性格をよく知る先輩


安藤聡営業課長だ。


「僕は良いですよ。」


席から立ち上がり、自分の意見を述べる。

あくまで管理職として、業務に関係ない内容なので、個人としての立場を崩さないのは、素晴らしいと俺は感じた。


「「「「もちろん、俺らも手伝いますよ!!」」」」


「「「「所長にとことん付き合いますよ!!」」」」


一気に会議室の温度が上昇し、仕事を終えたサラリーマンたちは、激務のボランティアに立ち上がる。


そこで、年の功である十柄氏顧問役が口をはさむ


「いくつか確認せにゃならんですが、葛城社長のご許可は取れれてますかな?ボランティアとなると給料は発生しやせんが、会社の車を使用する以上、万一事故やトラブル、それにガソリン代などどうしますか?」


俺は仁王立ちのまま


「責任は全て私が取ります。ガソリン代やその他会社の経費あたるものは私が個人的に補填します。社長からはここ戸塚営業所については、全て私に任すと言われてますから問題ありません。」


「そうですかぁ~」


十柄氏顧問役は、正しく忠臣として俺に意見を言ってくれた。


そして、俺の覚悟に納得して


「それじゃ、作戦立てましょうや~」


五十吾顧問役も加わる


「全ての人を助けるのは、無理ですからターゲットを絞って送迎コースを決めて、班分けしましょう」


現役歴戦の有能な戦士である副所長 土井田敦が即座に仕切り始める。


「まずは送迎の対象者はお年寄り、小さな子連れの女性に絞り込みます。次に駅のターミナル内に、弊社のバスを止めてそこを拠点として、指揮を取りながら送迎対象者の一時待機所にします。」


「大々的に動くと、パニックになる恐れもあるので、対象者に対しては女性陣と顧問役に声をかけてもらい、バス内でコース分け待機といった手順でいいでしょうか?」


俺はこの男性の能力の高さは良く知っていたつもりだが、今晩更に人事考課を更新することにした。


「それでは、ドライバーの班分けとコース分けは僕がやります。」


安定感抜群の安藤先輩だ。


「そいじゃ、声掛けとバス内での管理はわしら年寄りに任せてもらおうかの~」


十柄氏顧問役だ。


「皆さん!!本当にありがとうございます!」


俺は思わず、皆に頭を下げていた。


木島工場長が厳しい眼付と緊張をはらんで


「火吹所長の為にも、【絶対無事故】これは守るんだぞ!!」


「「「「「はい!!」」」」」


一斉に、仕事が終わった後なのに騒々しくなる、京仁織物株式会社 戸塚営業所だった。

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