ホトの成長
俺の二十歳の誕生日会が盛大に不意打ちを食らって終わった。
火吹邸は時間と共に、普段の静けさを取り戻し各々の思いと覚悟は別に、普段の生活を取り戻していった。
しかし、俺の誕生日如きにこれほど手間暇かける必要あるのか?
常にまとわり続ける解けない疑問。
自分の価値を一番自分で理解しない男は悩み続ける。
※※※※※※※※※※※※※※※※
そして、いきなり3年後。
六本木にあるCOOBデザイン株式会社社長室では、週一の定例役員及び重要責任者の会議が行われていた。
始めに、40歳くらいの営業統括次長が議題を上げる。
「大変提言しずらいのですが、伊藤百貨店様系列すべての店舗で当社のブランド商品取引が今月いっぱいで、終了となる旨、先方様より連絡がありましたことを遺憾ではありますが、ご報告いたします。」
COOBデザインCEOにして、経済界の女帝は相変わらず全く変わることない美しさと色気を周囲にまき散らして、細く長い脚を交差させ社長の椅子の上に腰かける。
「理由は?」
簡潔に、返答を求める優秀で無駄を嫌う、女帝だ。
営業統括次長は、大汗を搔きながらハンカチで自分の顔を拭い返答する。
「そ、それが、全くなんの理由もなく、一方的に言われまして、、、その、、、、」
キラリっと、候葺縁の眼が光る。
「ホト!!」
大声で叫ぶ。
美しいCEOの後方に立ち、ノートをとっている男こそ、火吹武将の親友保東康臣ことホトである。
ホトは、COOBデザインに就職して既に3年間発つ。
帝城高校在学中から卒業するまでの1年間。
毎日登下校の道のり10キロを候葺縁CEOに命じられて走り続け、ポッチャリ体型から完全脱却して3年経った今。
更に引き締まった体に、精悍さが備わっていた。
彼のアイデンティティーとでもいうべき、柔和な部分は全く失われることは無かった。
変わったといえば、外見だけでなく、内面的には会話も無駄なお喋りは激減した。
これまでは、喋って喋って仲を取り持つ人間だったのだが、優しさの中に厳しさを備えた、言わば【徳】のある人間に成長していた。
「はい」
静かに動じることなく答える。
「調べてきなさい。」
「かしこまりました。」
淡々と交わされる二人の会話。
現在、ホトの役職は社長室長という肩書だが、内容は縁さんにとっての何でも屋的立ち位置にいる。
ホトが初めに向かったのは、法人営業部。
当然と言えば当然だが、担当者にまず会って、話を聞こうと思ったのだ。
デザイン会社にとって、企業秘密になる部分はとても多く、何処にでも誰でも自由に行き帰、出来る会社ではない。
デザイン会社に限らず、ほとんどの上場企業は立場と役職によって、行動できる部署が制限される。
俺が京仁織物株式会社 本社勤務の時に何処にでも自由に行けたのは、葛城仁社長の配慮のおかげだ。
ホトも然り、候葺縁CEOの権限で、ホトの行動に法律で触れ得ること以外は一切の制限はない。
法律で触れると言うと、個人情報保護法やマイナンバー管理権限など、法律で定められた人間しか閲覧管理出来ない部署の事を言うが、現実的にホトの権限は社内では無制限と言っても過言でなかった。
ホトがCOOBデザイン法人営業部に入ると、ホトの顔を見つけた営業部部長が席を立ち、ホトを迎える。
22歳のホトに対して、40歳半ばの女性部長が気を遣う。
「保東さん、どうかされましたか?」
40歳過ぎても若々しく見える、法人営業部長は流石上場デザイン会社で女性部長として勤務しているだけあって、実年齢よりはるかに若く見えた。
また、この3年間で築き上げた、保東康臣の実力。
社長の右腕という事は、本社社員にとっては周知の事実である。
「伊藤百貨店さんの担当者に会いたいのですが、いらっしゃいますか?」
綺麗な顔の法人営業部長の顔が暗くなる。
「どうかしたんですか?」
ホトは優しく、年長者の大先輩に尋ねる。
「そ、その、、、彼女は休職中でして、、、」
歯切れが悪い。
ホトの直感が、何かを察知する。
「名前を教えてもらえますか?」
優しいが、反論は許さない姿勢で、畳みかける。
法人営業部部長は伊藤百貨店の担当は弥田麻依子26歳と教えてくれた。
直ぐにホトは、人事部に行き首からぶら下げてる、入室許可証を扉のセンサーにタッチして、入室する。
二つ目の扉をノックして、中から鍵を開けてもらう
「あら~ホトさん、今度はどんなお役目なのかしら?」
人事部の担当者は、やはり美しい30代半ばくらいの女性だった。
CEOの考えなのだろうが、デザイン会社というだけあって男女関係なく能力主義を徹頭徹尾叩き込んでいる。
しかも、役職に就く男女比率は圧倒的に綺麗な女性が多い。
ホトはその精悍な体系と優し気な雰囲気と社長の肝入りとあっての能力の高さで、あっという間にCOOBデザイン本社の社員達の間では、最優良物件となり、人気は右肩上がりだった。
「法人営業部の弥田麻依子さんの自宅住所を教えていただきたいんですが」
人事部の女性は、二コリと微笑み
「ちょっと、待っててください。」
と言い、奥に入り込み30秒くらいで帰ってきた。
「ホトさんのスマホに送りますね」
っと言って、ホトのスマホに住所が送られてくる。
こういう事案は、どうやら初めてではないらしい。
人事部の女性は、ホトのスマホの番号かラインを知っており、過去にも同様の案件があった証だ。
「ありがとうございます。」
っと、ホトはお辞儀をして出ていこうとするところに
女性から声がかかる。
「ホトさん今度、ご一緒にお食事でもどうですか?」
ホトはにこりと笑い
「ありがとうございます。」
っと、同じ言葉を二回続けて部屋を出る。
断られたことに、嫌な思いをさせずにに優しく接する。
簡単な様だが、これが中々難しい。
まして、女性が多くいるこの会社にとっては
そう感じさせないのが、この男の一番の凄さなのかもしれなかった。
弥田麻依子さんの自宅は、中野坂上にあった。六本木に本社を構えるCOOBデザインからなら40分ちょっとあれば行ける。
直ぐにホトは、地下鉄に飛び乗り、中野坂上に向かう。
住居は直ぐに見つかった。
お洒落な15階建てのワンルームマンションの10階に、彼女の部屋はあった。
入り口は1階にモニター自動ロックの扉があり、ホトは迷わず部屋番号を押してモニター越しに微笑む。
「COOBデザインの保東康臣と言います。ちょっとお話させていただきたいのですが、ドア越でも構いませんので開けていただけませんか?」
オートロックの扉は、自然に空いた。
「どうぞ、、、」
モニター越しの彼女の表情と声は、、、暗かった、、、
ホトはエレベーターに乗り10階まで上がり部屋の前でインターフォンを押す。
ピンポ~ン
ガチャ。
鉄の扉が、少しの隙間だけ空く。
ホトは、そのまま待つ。
「僕はこのままでも構わないので、少しお話させてもらえますか?」
ホトの人柄を表現する、温かみのある声と柔和な笑顔。
性質は意外にも忍耐強く、ちょっとやそっとじゃ負けない根性がある男だ。
弥田麻依子さんは暗く
「ここでは、ヒトの眼もあるので中でお願いします。」
っと、答えてきた。
ホトは、この女性は元来明るい性格なのでは無いかと感じた。
玄関だけ見ても整理整頓されており、女性らしく可愛いアイテムがあちこちに飾ってあった。
それがどうしてこんなに暗く、、、休業中と何か関係があるのか?
「それでは失礼します。」と言って、玄関に入り扉を閉めたが、靴は脱がなかった。
玄関に立ったまま、弥田麻依子さんに話しかける。
「会社の同僚とは言え、女性のお宅に上がり込むのは失礼なので、ここでよろしいですか?」
「、、、、、、」
「弥田麻依子さん、顔色があまり良くないようですが、何処か悪いのですか?」
「、、、、、、」
何の答えも帰ってこなかった。
「僕は保東康臣、22歳独身です。性格は自分で言うのもなんですが良い方だと思います。血液型はO型。兄弟は下に妹がいます。自宅の住所は、、、」
弥田麻依子さんが暗く叫ぶ。
「そんなこと聞いてもいないのに、何故言うのですか?」
ホトは動じずに優しく変わらず
「僕の事をもっと知ってもらおうと思ったのです。僕は悪い人間ではありません。信頼していただけると嬉しいです。」
ポロポロ
いきなり弥田麻依子の両目から溢れるほど、涙が出てきた。
ホトは黙って彼女が静かに落ち着くのを待った。
両手で、顔を隠し泣きじゃくる女性に対して、どうしていいのか分からないホトは黙って、ただ黙ってそこに優しく立ち尽くした。
30分ほどして、やっと落ち着きを取り戻した弥田麻依子さんにホトは自分のハンカチをそっと手渡した。
「よかったら、使ってください。」
オロオロしない。
絶対の安心感。
それが、保東康臣の原点だ。
「ありがとうございます」
っと言い、弥田麻依子さんはハンカチを受け取ってくれた。
涙を拭きながら、思わずクシャミをしてしまい思わず反射的にホトのハンカチで口を押える弥田麻依子さんだが
ちょっとの間の後に、思わず2人目と目が合い吹き出し笑いしてしまう。
「ふふふ」
「ははは、やっと笑ってくれましたね。」
「、、、、」また弥田麻依子さんは暗く沈黙になろうとしたところで
「そっちに行っちゃ駄目ですよ。ダークサイドに落ちてしまいます。」
ホトはにこやかに笑いながら「スコースコー」っと、SF映画の悪役の真似をする。
思わず弥田麻依子さんがまた笑う。
「保東さんは、ルーク・スカイウォーカーに似てますね。」
「よく言われるんですよ、意外ですけどね。」
片目をつぶってウィンクして答える。
「ふふふ、保東さんは面白い方ですのね、、、」
「ははは~実はそれもよく言われるんですよ~」
ホトは僅かの時間の間に、真相を知る謎の女性と仲良くなってっしまっていた。
これこそが、彼の神髄だろう。
男女関係なく、心の中に自然に入り込むのが、とても得意なのだ。
そして、決してその築いた信頼を失うようなことは言わない。
そしてしない。
候葺縁さんと3年間弟子として、仕事を一から叩き込まれた。今のホトは高校時代とは全くの別人となっていた。
以前皆と約束した『一切泣き言を言わないという』約束は現在でも継続有効中であった。
しかも、縁さんからの命令で英語もスラスラ喋れるまでに上達していた。
ちなみに他の仲間の約束も結果から先に言うと、全員達成されていた。
将軍こと、火吹武将は京仁織物株式会社 戸塚営業所の売上を前年対比300%アップにするという約束は、現実には400%以上のアップとなり、とんでもない金字塔を打ち立てて、絶対破られることのない売上を叩き上げた。
本人の努力も当然だが、個人一人だけでこの売上を上げるのは不可能だ。
戸塚営業所全員の団結の勝利。
そしてその、団結を促し進む方向と戦略を立てたのが火吹武将だったという事だ。
そして、火吹武将という男は常に最前線に我が身を置き、指揮を執る。
後方から結果だけをとるような上司では決してない。
部下のしりぬぐいを当然の様に行い、失敗を成功に転換させる。
まさに【経済の若き帝王】の如き振る舞いであった。
彭城楓真も、英語を完璧に覚えて流暢に話していたが、驚きなのは全米 全英で日本人としては初めてビルボードトップ1位に8週間連続達成した偉業と言える現実であった。
俺達と一緒に制作された、アルバム【to 楓真】は全て英語でリメイク録音制作されて、全世界で発売されて一躍4000万ダウンロードを記録した。
突き合わされた俺の方が、英語が出来ずに困ったものだ。
楓真とのデュエット曲【誠の親友】だが、顔出し一切無しなので未だに俺が【SYO軍】当人だとは、身内以外はほぼ知られていないのでまだ助かっているが、ばれたらまたとんでもなく面倒くさく大変なことになるのは明白の事実だ。
よって、俺の悪友彭城楓真は日本のスターを飛び越えて、世界的に有名なスターにのし上がっていた。
また、タカヒコこと常慶貴彦も東大一年生にして、司法試験に合格し今では学生と法律事務所に勤める二足の草鞋を履いていた。
しかも今秋には、渡米してハーバード大学に入学しロースクールに通うことが決まっている。
妻の舞は、「私が一番簡単だったわ」などと言い、インド語とアラビア語とスペイン語をほぼ完璧に話せるようになっていた。
ミッドはマサチューセッツ工科大学を飛び級で、進級して今では大学院に通いながら、アメリカのサイバーセキュリティーを助けるFBIの顧問役までこなしている。
結局、日本語以外話せないのは、俺だけになってしまった、、、
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そしてホトは、2時間ほど話しを終えて弥田麻依子さんの家を後にする。
マンションを出て、少し歩き路地に入るといきなりホトは、自分のスマホを取り出して、電話をかける。
ルンルンルンルン
相手は、少し着信音がなり続けてから出た。
「どうしたのホト?」
「悪いミッド、今そっちは夜中だよな。」
「うん大丈夫。何かトラブル?」
そうホトが電話した相手は、アメリカにいる親友御堂大智ことミッドだった。
「ああ、すまないが日本の伊藤百貨店社長の現在位置を調べられないかな?」
「伊藤百貨店の社長ね。ちょっと待ってて」
スマホの受話器に、ミッドがコンピューターを操作する音が静かに響く。
パチパチパチ
物凄い速度で、キーボードを叩いているのは音だけでもよくわかる。
1分ほどして
「わかったよ。今は伊藤百貨店銀座本店の社長室にいる。そっちの時間で4時から大阪に向かう予定が入ってるみたいだよ」
伊藤百貨店と言えば、日本の中ではトップの売上成績を誇る百貨店だ。その社長の個人情報をどうやって調べえたかなんて、聞く気もないし向こうも言う気は無いだろう、、、
っというか聞いても俺達が理解することは100%無理だ。
「ありがとう、ミッド助かったよ。」
「いいよ又何でも言ってきて、頑張ってね」
最後の方は、寝息が聞こえていた。
半寝の状態で、こんな個人情報をどうやって調べ上げたのやら、ミッドの能力の高さにも呆れるくらいのレベルである。
ここ中野坂上から銀座までならお昼過ぎくらいには着くな。
ホトはダッシュで、銀座にある伊藤百貨店社長室目指す。
アポも無く、、、
午後2時前、伊藤百貨店銀座本店の地下従業員用駐車場。
黒塗りの高級車が、ゆっくりと眩しいLEDライトを照らしながら、走ってきた。
地下駐車場ならではの、タイヤの軋む音と静かに木霊する空間に眩いライトに照らされても、動じない男が、車の進行方向中央に両手を広げて立っていた。
当然その男は、ホトだ!!
黒塗りの高級車が停車し、いきなり甲高い警報音を高らかに鳴らす。
ホトは全く動じない。身動きもしない。
しばらく、高級車とホトの睨み合いが続いた。
いきなり、助手席が空き若い男が大声で怒鳴りながらホトに近づいてくる。
「君はなんだ!!警察を呼ぶぞ!!」
ホトは全く動じない。
若い男は、ホトより身長はあるが体積的にはホトが勝る。
若い男が、ついに我慢できずにホトのスーツの襟をつかみ
「貴様!この車に乗ってる方がどなたか知っているのか!」
ホトはその言葉を待っていた。
にやりと笑い
「伊藤百貨店社長のお車ですね、私はCOOBデザインの保東康臣と申します。」
襟をつかみ上げる、若い男は
「COOBデザイン!うちの業者じゃないか!客に対してこんなことして只で済むと思っているのか」
ホトは表情を変えずに
「あなたに要はありません。社長と5分だけ話をさせてくれませんか?」
「何をふざけたこと言ってんだ!!警察を呼べ!」
ホトは初めて車の中にいる伊藤百貨店社長に聞こえるくらい大きな声で
「警察を呼んで、困るのはそちらの方だと思いますが、それでもいいなら警察でも機動隊でもなんでも呼んで下さい!」
「私は社長と話がしたいだけです。しかも私どもと御社にとってとても緊急性のある、大事な要件です。」
ホトの襟元をつかむ男は、更にギラついた顔で
「貴様の様なチンピラに、社長が会うはずないだろうが!!」
ホトは静かに声のトーンを落として、自分の襟を掴みギャーギャーわめく男の眼を初めて見据えて
「お前と話してるんじゃない。後で後悔するのはお前自身かもしれないぞ」
ドスの聞いた落ち着いた小声で、睨みを利かす。
思わず、その迫力に相手の男の手が、ホトのスーツの襟を離す。
ガチャ
黒塗りの高級車の後部席扉があき、威厳のある50代くらいだがシュッとした、剃刀をイメージさせるだ男性が立ち上がり一言。
「5分だけ、話を聞こう」
ホトは、変わらずに走り寄り
「無理を言い、大変申し訳ありません。」
「いいから、手短に話したまえ。」
ホトは、これまでの経緯を手短に搔い摘んで話す。
伊藤百貨店の社長の表情が、ホトの話を聞き続ける程に険しくなっていく。
そして全てを話し終えた後、伊藤百貨店の社長の決断は早かった。
「COOBデザインさんは、内の主力商品であり、取引を中っ資することなどありえない。COOBデザインCEO候葺さんには、よろしく伝えていただきたい。そして、こちらの方は私が責任もって、処理する旨お伝えいただきたい。」
ホトはゆっくり御辞儀して
「ありがとうございます。社長、またご無礼の段は容赦ください。」
伊藤百貨店代表取締役社長は、厳しい表情を一瞬だけ緩めて、ホトを見て囁いた。
「COOBさんのところも優秀な懐刀をお持ちらしい」




