一流のバンカー新倉誠
し~んと静まり返る、マツウラ商事本社3階にある役員会議室では、松浦真一社長だけが荒く息をし、熱風の如く怒りの感情を吐き出していた。
皆が押し黙る中、横濱銀行戸塚支店渉外部長 新倉誠が静寂を破るようにしっかりと一言ずつ話を始める。
「バンカーとして、トナミ銀行さんのお考えは全く分からなくもありません。」
「しかし!!」
「融資とは、返済計画の確実性と信頼関係の上に成り立ち代表である社長の人柄を一番理解し重視しなければなりません。」
「信頼関係が、成り立たないのであれば、銀行に限らず企業としても失格だと私は思います。」
「以前にテレビドラマでやっておりましたが、銀行として【貸すのも貸さぬのも優しさなり】というセリフがありましたが、私は全てそれは信頼関係があってこそ成り立つものだと思います。」
「時には厳しいことも申し上げねばならぬのが、私どもの仕事であります。しかしそれはあくまでも信頼関係が成り立った上でのお話です。」
「私がこの案件を上にあげるのには、まず松浦社長との絆があってこそです。火吹武将様のご紹介であれば尚更です。私ども銀行屋の商品は【お金】です。それは未来に向けた適切な投資として使うものでなければならないと私個人的には考えております。」
(新倉誠、、、この人もやはり立派な人間だ。一流のバンカーか、、、)
俺は自分の見る目が間違っていなかったことを再認識した。
「よろしくお願いします。」
若き獅子の松浦社長は、自分の右手を新倉部長に差し出してにこりと微笑んでいた。
その右手を新倉誠は、自分の両手で包み込むように握手する。
ガシッ!!
固い絆が今結ばれたような、気持ちが俺はした。
微笑みながら新倉部長は大きな手を放さずに
「来週の金曜日までには、お返事できると思いますのでお待ちください。私のバンカーとして、横濱銀行行員として培ってきた経験と知恵を総動員して、今回の件にあたりたいと思います。」
「重ねてお願いします。新倉さん。」
スマートで冷静に見えるが実は、あっついハートを持った男は新倉誠部長の眼底にある魂までも貫くように、見つめる。
そこで、俺が空気を読んで
「来週の金曜日だと、ちょうど私の誕生日です。私も同席してよろしいですか?」
「「「「!!!」」」」
「火吹武将様のお誕生日に今回の件の結審報告とは、気が入りますな。」
大き目の体を揺さぶって、興奮気味に喋るが俺はすっと自分が冷める心を感じて更に冷静になる己を感じながら、制御できずに心の叫びが沸き上がる。
「新倉部長、それから松浦社長はじめ皆様にも申し上げますが、私はまだ二十歳になるかならないかの小僧です。様付けで呼ぶような特別扱いは御遠慮していただきたい。」
「私は京仁織物株式会社 戸塚営業所所長 火吹武将です!!」
ここには俺の信じられる人間が沢山いる。
俺はいつの間にか自然に、何時もの自分のリミッターをカットしていた。
凛と張った大声と堂々たる姿勢で、皆の前で宣言する。
王者の風格と威厳を前面に押し出して、火吹財閥家当主としての風格を嫌というほど全身に纏い前に押し出して、大勢の民を率いる大国の主然のように普段は隠している、候葺縁さんがよく言う【帝王学】【王者の風格】を隠さずに堂々と全開で、託宣するが如く宣言する。
熱く熱した空気は俺の言葉によって、すべてかき消されてまたもや会議室は静まり返る。
(しまった!!やっちまった)
俺は直ぐに作り笑顔を振る巻き、その場を和ませようとするが、既に時遅し。
その場にいる全員が、固まって何も喋れないところを年齢が近いという事と先ほど話した30分ほどのくだらない話で築けた絆のせいか
「そうですね。これからは火吹所長と呼びますね。」
いち早く立ち直ったのは、松浦真一社長であった。
「しかし、火吹所長は迫力ありますね。二十歳でその迫力では、未来が末恐ろしいですね。」
周りを振り返り、【なぁ~みんな~】ってきに笑顔を振りまく。
「そうですな~、正直肝が冷えましたよ、、、」
「所長を怒らせてはいけないという事が身に染みてわかりました。」
「そのお年で、営業所所長を務めるだけはありますな」
「流石としか言いようがありませんなぁ~」
それぞれの感想を俺にも聞こえるように漏らすが、誰も【KABUKIコーポレーション】の名前が出ないのは、俺への気遣いだろうと伺えた。
今はまだ俺は修行中の身。
素の自分を出すことなど、まずない。
たとえ妻の舞の前や家族の前でも、俺の本性を出すことはまずない。
そう育てられたからだ。
亡き父
火吹虎雄によって。
だが今、徹夜していい仕事ができて、横濱銀行さんマツウラ商事さん、京仁織物と俺達が築いてきた信頼関係が、全てを繋ぎ形になろうとしている所を見ていると、自分を失うほど興奮してしまった。
何年ぶりだろう、素の自分を曝け出したのは、、、
舞が妊娠して、帝城高校を中退することを決めて、葛城仁義父さんにこの会社に来いと言われた時くらいかな?
いや、有限会社小袋織物の再建稟議を上げた後だ。
社長室で、故虎雄親父の事を思い出して、大泣きして以来だ。
どちらにしろ、やってしまったことは取り戻しようが無い。
逆に開き直って、後は周りに言われるがまま今後の事を考えていた。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
そして、その日はその後何事もなく帰宅した。
玄関では、妻の舞とCOOBデザインの美しきCEO候葺縁さんが屋敷玄関前で待ち構えていた。
屋敷の正門を入ると、誰が帰宅したのか分かるようにこの屋敷のシステムは出来ている。
そもそも、正門くぐって衛士塔を通って自宅まで敷地を抜けていくのに、これほど時間がかかること自体おかしいと思わずにはいられないが、ここで生まれ育った俺にはこれが俺の日常であり、普通なのだ。
「徹夜で~お疲れ様ですわ武将様~」
今日も妖艶な容姿に、際どい服装で俺を玄関で迎えてくれる経済界の女王だ。
俺は舞と縁さんそれぞれに向かってお辞儀をする。
「差し入れ、ありがとうございました。皆も大変喜んでました。」
美しさには、唯一縁さんとタメ張れる、俺の妻である舞がきれいなソプラノの声で
「縁さんが、始めに言われたの。私はお手伝いしただけ」
「とんでもございませんわ~私は~居候の身ですから~そのくらい当り前ですわ~」
「ところで~武将様。お仕事はうまくいきましたの?」
(今まで【妾】と公言していたのに、居候と最近はよく言うようになったな、、、舞との人間関係がそうさせたのかな?)
「来週の金曜日に全ての答えはでるそうです。私も立ち会うことになってます。」
舞が真っすぐ伸びた腰まである美しい黒髪を振りながら
「来週の金曜日って、武将の誕生日と一緒じゃない」
「ああ、そうなんだ。良い報告ができると一層嬉しいんだけどな」
俺は靴と上着を脱ぎながら、屋敷に入りながら会話する。
正直、徹夜明けの仕事だから疲れも無いとは言えない。
リビングに向かうと、父であり尊敬する社長の葛城仁が、着替えをすまして愛飲する赤葡萄酒を大き目の薄いガラスで出来た高級ワイングラスを右手で、くるくる回しながら嗜んでいた。
「お疲れ様、大変だったみたいだね」
俺の方に顔を向けて、笑顔で話をしてくる仁社長だ。
珍しく、仕事の話を屋敷内でする。
とても珍しいことだ。
俺は、シャツにズボンはそのまま、リビングの巨大ソファに座る仁義父さんの向かい側に静かに腰掛ける。
静かに出される、お茶。ツネさんが気を利かしてそっとテーブルの上に多く。
俺はそのお茶を軽くすすりながら、昨日からの流れを報告する。
その間、葛城仁社長は黙って聞いていた。
そして最後に一言だけ
「わかった、それはお疲れ様だったね。今日は早く休むと良いよ」
っと、俺を労う言葉だけかけてくれた。
「すいません。お言葉に甘えさせてもらいます。」
っと言って、俺は立ち上がり風呂場に向かい、その晩は軽くご飯を舞と縁さんの3人で食べて、他愛もない話をして就寝した。
その日はぐっすりと深く深く眠りにつけた。
単純に疲れているというのもあるが、良い仕事ができたという満足感からかも知らない。
結果は来週にはっきりとするが、、、
翌日 土曜日のお昼頃まで俺はぐっすりと眠ってしまった。
こんなに長い時間寝たのは、京仁織物に入社して以来初めてかもしれない、、、
みんな俺に気を使って、起こさなかったのかもしれない。
顔を洗って、着替えをすましてリビングに行くとそこには舞と彭城楓真だけソファでくつろいで、話をしていた。
この二人で、会話が成り立つこと自体珍しいのに今は更に楽しげだ。
っと考えたのは、結果的には一瞬だけだったが
「おはよう。珍しいな楓真が土曜日のこの時間にいるなんて」
俺はポロシャツにジーパンというラフな姿で、現れると方やスーパースターの親友と方や東大文一をトップ入学を果たした俺の最愛の妻の2人が俺を見て同時に話し出す。
「楓真が、自分のオリジナルアルバム出すから、曲を作るのを手伝ってくれってって言うのよ」
俺は、ツネさんが淹れてくれた炭酸水をゴクゴクと飲み干しながら
「何曲作るんだ?」
俺は単刀直入に余分なことを省いて話を進める。
社会人となってから身に付いた癖の様なものだ。
超が3つ以上つくイケメンは綺麗な高いソプラノ声で
「全部で13曲、そのうち6曲は出来ている。」
「偉そうに言うんじゃないわよ、半分以上できていなくてその上、シングルカットされている曲が2曲入っていて、そのの残りを私たちに全部手伝わそうっていうんだから、もっと丁寧にお願いしなさいよ」
我が家の女王様は、相変わらず楓真には厳しく物申す唯一の人間だ。
俺はツネさんに
「ツネさんすいませんが、おにぎり作って地下のスタジオに持ってきてもらっていいですか?」
「かしこまりました。武将坊ちゃま。」
この人だけは、俺の事を愛からず【坊ちゃま】っと呼ぶ。
いくら言っても変えてくれないんだよなぁ~
まぁ~俺が生まれた時からこの屋敷にいるから、ツネさんからしたら俺はいつまで経っても【坊ちゃま】なのかもしれないけどな
俺は首をクイッとひねり、楓真に合図する。
楓真もすぐに、ソファから立ち上がり俺と一緒に火吹家の地下にあるスタジオに向かう
「もうぅ~」
っと言いながらもついてくる、舞だった。
地下に向かう途中、俺はふと気になたので舞に聞いてみた。
「仁義父さんと縁さんは、どこかに行かれたの?」
舞は優雅に細く長い脚をモデルの様に左右交互に出しながら
「朝から、父さんと縁さん二人で何も言わずに出かけて行ったのよ」
俺は少し引っかかるものを感じながらもこれから作る曲を頭の中でイメージしていた。
そして
「6曲となると、タカヒコやホトにも声をかけてみるか」
っと言い、自分のスマホを取り出しLineでメッセージを送る。
舞もそこの言葉に反応して、自分のスマホをいじくりだす。
「桜木優香さんも呼んでいいかしら?」
「ああ、かまわないぜ」
楓真が普通に言うのもかっこいいと感じるのは、俺だけではなくこの国のほとんどがそう思うだろうが、俺の妻は例外のようだ
「偉そうに言うんじゃないわよ。」
優香さんは、ミスターマルガッス・シュタインさんの援助によって、ヨーロッパ留学中だが短期で現在帰国中だ。
何やら、何かの手続きに不備があったらしく、帰国して書類を作り提出し直し、また、ヨーロッパにとんぼ返りの忙しい中だ。
しかし優香さんは直ぐに舞のスマホに出て、弾んだ声で了承してくれた。
忙しい時間の使いようは、彼女にとっての優先順序の違いかな?
何が大切かなんて、本人しか知らないし聞いてもしょうがない。
だが、確実なのは彼女は今この場所に来ることを非常に喜んでいるという事だ。
俺たちの悪友は、直ぐに既読マークがつき、タカヒコからは【すぐ向かう】っと連絡あり、ホトからは【走っていく】とメッセージがスマホの画面に映る。
俺は【了解】と打ち直し、火吹家の警備責任者の衛士隊隊長の谷樫心衛さんにその旨、電話で伝える。
「かしこまりました。」
っと、野太い声で返事が返ってきた。
この人には、俺に対して敬語を使わないで欲しいとか敬うような態度は慎んでほしいと、言っても全く完全に無視される。
っというか聞く気が無い!!
縦社会で生きてきた闘争のプロフェッショナルは、自分の雇用主に対して、、、というか俺に対して、絶対の忠誠を誓ってくれている。
そして、それはこの人が死ぬか、俺が谷樫さんの忠誠心に値しないと思われる裏切り行為があった時だけだと、確信している。
両方共にありえないと俺は、現在の所は思っている。
谷樫心衛の後輩で俺の親友土門武士も同様なのだ。
地下のスタジオに付くと、すべての電源を付けて現在完成している6曲(内2曲はシングル曲だからもう何度も聞いている曲だ)のデモテープを聞くことにした。
たまにしか使わない、このスタジオも全く汚れや埃が無いのは、ツネさんが常に掃除してくれているからだ。
ツネさんにとっては、日常の作業なのだろうがこの屋敷全てを一人で清潔に保ち、俺達住人の衣食住を確保するのは相当大変なことだろうと想像できる。
だが【坊ちゃん】だけは何とかして欲しいと本気で願うところだ。
楓真が作った6曲を聞き終えるころ、ツネさんがおにぎりとタカヒコが一緒にやってきた。
俺は腹ペコだったので、おにぎりを食べながら
「タカヒコ早かったな」
タカヒコは銀縁の眼鏡を左手の指先で、位置を修正しながら
(いつものこいつの癖だ)
「楓真のアルバム制作の手伝いができると聞いたからには、親父に車で送ってもらった。」
常慶貴彦の自宅は虎ノ門にある帝城高校から見て、火吹家とは正反対の方向だが赤坂見附近くにある。
土曜日の今日なら、道路がすいているから上手くいけば10分くらいで着く距離だ。
しかし、父親が東京地検の検察官ともなれば、東京のど真ん中に自宅を構えることも可能なのだ。
昔から住んでいるのであれば、不思議はないが一代で購入するとなると1億円を下ることは絶対にない。
アメリカにいる御堂大智の父親も中目黒の高級住宅街に一軒家を購入して住んでいた。
帝城高校に通うという事は、そういう事なのだと最近はよくわかる。
人事部の神戸正志常務からもよく聞き、体験し勉強して来たからこそ、帝城高校に通い難関大学に入ることの大変さ大切さを痛感する、高校中退の火吹武将である。
そう、考えると火吹武将の周囲は自然と恵まれた家の子供たちが多いという事なのだ。
ただ、学歴が全てではないという事実もしっかりと理解している武将だ。
高卒の安藤先輩はシングルマザーで、帝城高校に通っていたが今は俺の安心感抜群の信頼する片腕だ。
土門武士もそうだ。
身長2メートルを超す、人類最強大魔神のこの男も通ってた高校は偏差もそれほど高くなく、勉強より体を鍛えることが何よりも幸福感を持つある意味、偏った人間だが、その心根はとても優しく頼りになる男だ。
そして、俺がおにぎりを全部食べ終わる頃、舞と楓真は既に音を出して楽曲作りに入っていた。
舞が「こんな感じでどう?」といい、ピアノでメロディを奏でる。
それに楓真がハミングで合わせる。
自然とタカヒコがそれに、ベースを合わせていく。
俺はギターより作詞に打ち込み。
曲がある程度でき上ってくると、舞が楽譜に落として作詞の方は俺が曲に入れたい単語を皆に聞き、その単語をつなげていくといった作業が続く。
そこへ、汗びっしょりになった、保東康孝ことホトと桜木優香さんが、ツネさんに案内されて入ってきた。
バスタオルと清涼剤と着替えのTシャツを背中のリュックに入れて、走ってきたのだ。
「遅くなって、すまない。」
「私も遅くなって、ごめんなさい。もしよかったらと思って、以前作った曲の楽譜を探していたの」
はぁはぁ息を吐き出しながら、既に作業が進んでいるこの状況を見て、謝罪から入るチームの緩衝材にして一番の安定感と常識と根性を持つホトは爽やかな汗をかきかき、拭き拭きしながら準備を整える。
桜木優香さんは既に、俺達の仲間の一人だ。
しかも、間もなく音楽留学に旅立ってしまう。
しばらく会えなくなるが、彼女の瞳は未来への希望と興奮を隠しきれずに、今を楽しんでいた。
俺は一旦作業する手を止めて、皆を見て
「休みの所、みんな悪いな。楓真のファーストアルバムになるから、手伝ってやってくれよ。」
「でも凄いな、初めてのCDで自分で楽曲制作アルバムとは恐れ入るな」
タカヒコが現実的なことを言う。
確かに、テレビラジオ、ネットなどの情報発信基地局から【彭城楓真】の単語を聞かない日は無いというくらい、今の日本いや世界にも影響を与えつつある。
ミュージックビデオのユーチューブの登録チャンネルは、優に100万を超し、200万に迫る。視聴回数は既に毎回新曲を流すほどに増えており、今では一億再生回数は当たり前。日本の人口より多いこともある。
この数は、日本だけでは可能ではない数字だ。
世界から注目されるアーティストとして、育っているという絶対的な事事だ。
俺は作業に戻る前に、今一度全員に確認する
「念のために言っておくけど、楓真のアルバムの事もここでの楽曲作りについても、極秘で頼むよ。」
「もちろんだ。金が欲しくてここに来た訳じゃない。親友の力になる為に来ただけだからな」
常識理論派の東大理1現役入学を果たした。常慶貴彦だ。
「わ、私なんかが こ、ここにいてもいいのかしら?」
火吹武将の事を初恋の人と慕う、桜木優香だ。
「お前のバイオリンはカッコいい!」
当の彭城楓真が、一言喋る度に皆の顔がそちらを向く。
存在感ありありのトップスターだ。
それに嚙みつくことができる唯一の人間が
「友人の事をお前と呼ぶのもどうかと思いますけどね」
「まぁまぁ~時間も決まっているし、楽曲作りに入ろうぜよ。」
こういう時に一番、頼りになる男はやはりホトだ。
舞が仕方ないわねっという感じで、ピアノの前に座りながら話し出す。
「7曲のうち、1曲は今作った曲で良いと思うんだけど、後ね楓真、裏声って出せる?」
「こんな感じか?」
フゥウウウウウ~
元々高く響くソプラノの声が、更に高く女性の声の様に優しく、綺麗に響き渡る。
「悪くないわね。その裏声でブルースっぽいの作らない?」
「いいな。タイトルは【TOMOYO】なんてどうだ?」
俺がいつもならミッドこと御堂大智が座る、ミキサーの前の机で詩を書きだす。
すると自然と、タカヒコがブルースと言えばジャズだろう的にベースでリズムを取り始める。
そのリズムに、ホトのドラムが加わり、舞が鍵盤をゆっくりと叩きながら、ハミングする。
っと、いつもならここまでがHANZOの曲作りだが、今日はそれにバイオリンが華麗に加わる。
音の厚みがまるで違う。
バイオリンが入っただけで、これほど変わるのかと思うほど曲のイメージが変わる。
俺はこのバラードが楓真の新しい才能を引き出すとともに、大ヒットとなる記念楽曲として、詩は俺達の事を書いた。
「友がいたから、戦えた。友がいたから前に進めた。友がいたから今がある。俺達の青春 それは誇りとプライド同じ意味だけど違う、まるでそれぞれの友の魂の形の様に同じ言葉なのに、違って聞こえる。それが俺の友、、、」
「戦い疲れたら、いつでも声を掛け合おうぜ。愚痴なんざいつでも聞いてやる。頑張れなんて簡単には言わない。それはお前が人一倍頑張っていることを知っているから、頑張れなんて簡単に言えるわけがない。俺だって、そこまでたどり着いていないんだから、それでも翼を休めたい時は俺たちを頼りにしてくれよ、、、」
「友だから、、、、」
「銃弾が飛び交う血みどろの戦場を共に戦う友だから、共に戦おう。お互い背中を預けて共に進もう。共に苦しみ、共に楽しもう。」
「友だから、、、」
「永遠なんて、わからない。未来なんて知ったこっちゃない。だけど将来を恐れて今、戦わない弱虫にはなりたくない。お前に笑われたくないから、お前に軽蔑されるくらいなら俺は生きている意味なんかありゃしない。お前の友に相応しい人間となる為に俺も剣を振るおう。」
「友だから、、、」
「俺は本当は弱虫なんだ。見た目じゃ見えないかもしれないけど、そんなに強い人間じゃない。そこらにいる普通の人間なんだよ。それでもお前たちがいてくれたからこそ、戦えるんだ。前に進めるんだ。」
「友だから、、、」
(中々いい感じで、出来たな。)
俺は立ち上がり演奏している皆の前に立ち上がり、今作った詩をコピー機で印刷して、皆にわたす。
(そもそも、なんでもあるのがこの屋敷とは言え、地下のスタジオにコピー機まであるってどうなの?)
っと、自分で思わず突っ込んでしまう。
コピーされた詩をそれぞれ受け取り、読み込む。
「素敵です。」
アドリブ大好き天才バイオリニストは、興奮したように頬を赤らめて、そのまま感動の言葉を吐き出す。
楓真が何も言わずに、今出来上がったばかりのバラードに俺の詩を乗せて勝手に歌いだす。
真っ何時もの事なんだけどね
そして何時もの様に、舞のピアノとタカヒコのベース、ホトのドラムが自然と入ってくる。
そして、俺もギターを持ちストラップを肩にかけて楽器を奏でる。そこには当然、櫻木優香さんのバイオリンも入ってきている。
詩も曲に合わせて、文字を区切ったりしたっ訳でもないのに、楓真は実に上手くアドリブでこなす。
音楽に関して天才とはこういう奴の事を言うんだなと、何度も改めて感心させられる。
(いいぞ!いいぞ!かっこいいぞ!)
ジャン!!
曲を弾き終わる。
「すごく素敵!!」
「いいじゃないか!!」
「まぁまぁ~ね」
「うん、やっぱ楓真は凄いんだな」
それぞれに感想を漏らし、舞が楽譜に速攻で書き込み、一応録音もしておく。
こういう時、ミッドがいてくれると滅茶苦茶助かるんだがな、、、っというのは俺だけが感じていることでは無いと確信持てるほど、ミッドの能力は高く俺達には必要な人間だ。
舞が楽譜に落とし込み終わるとすぐに
「あと4曲ね。どんどん、行っちゃいましょ。」
音楽について、唯一楓真のライバルとなれる可能性を潜む俺の愛する妻が、ちゃっちゃと作業を進ませる。
そこで、桜木優香さんが、自分の持ってきた楽譜を出して
「あ、あのよかったら、私が作った曲があるのだけど、聞いてもらえないかな?」
俺が楽譜を受け取り、またもや現代の優秀な機械を使って、楽譜をコピーして皆に手渡す。
HANZOのメンバーは皆、楽譜くらい読めるのが当たり前。
これも、育ってきた環境が個々の能力の底上げにつながっていると考えると、やはり神戸人事部の常務取締役の言う事がよく身に染みわたる。
俺たちとしてはとても珍しく、楽譜スタンドに楽譜を置きホトがスティックを叩きリズムをとる。
一般的な流れだが、俺たちにとってはとても珍しい入り方だ。
カンカンカン
いきなりバイオリンが優雅にそして荘厳に、響き渡る。
右手に持つ弓は魔法の様に、前へ後ろへ力強く、時にはゆっくりと重々しく厳かに音を奏でる。
十分に個性的なバイオリニストだが、俺たちの中に入るとものすごく正統派な音作りをする。
楽譜があるので、皆それぞれ初見な為に、そのまま音を鳴らす。
まぁ~こいつだけは別格だけどな~
楓真は、意味もなく何を言っているのかもわからない言葉で、楽曲に合わせて歌いだす。
これは歌なのかと思うほど、何を言っているのか分からないが、こいつがやるとやっぱ違うんだよな~
一気に桜木優香さんの作った曲を弾き終わり、舞がピアノ越しに
「素敵じゃない。是非このまま使いましょうよ。」
「ほ、ほんとですか!!」
桜木優香は火照った、頬を更に赤く朱に染めて自分の作った曲が採用されたことを嬉しく思う。
俺は作詞担当として、桜木さんに聞いてみた。
「俺も良いと思うんだけど、詩に桜木さんのことを書いたらまずいかな?」
自分の命の恩人で初恋の相手である、火吹武将の提案を桜木優香さんは、喜んで受け入れた。




