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KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
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プレゼンテーション

「やったー!!出来たぞ」


朝陽が登り始めた頃、京仁織物株式会社 戸塚営業所所属の営業山口洋二社員が、両手を上に延ばして叫ぶ。


そうだ。


徹夜で行っていた、戸塚営業所取引先のマツウラ商事さんの本社及び工場の建築と新しく開発された防水シートの見積もりとプレゼンを今日マツウラ商事さんに提示しなければならないことを山口社員がうっかり忘れていたのだ。


それを清水号建設社長の清水郷壱さんの協力と、戸塚営業所の主要人物と火吹部隊で、一晩で見積とプレゼン内容を作り上げたところだった。


差し入れに来てくれた、妻の舞とシゲさんは日付が変わる頃には帰宅していた。

居ても何もできないのだから仕方ない。


武将を慕う、女性陣二人にとっては舞と直接会うという事は、普通ならショックかもしれないが、舞のあまりの完璧さと圧倒する美しさと気品さえ感じる心使いにショックの前に呆れてものが言えないといった感じだ。


さすが自分たちが慕う、火吹武将という男が選んだ女性だと感心の気持ちしか浮かばなかったようだ。


安藤係長にとっては、恩人でもあり今の自分があるのは、火吹舞という人間に出あっていなければ、存在しない現実だ。

キチンと挨拶と感謝を述べたかったが、現状が現状だったので軽く挨拶だけ交わしていた。


「山口さん、プレゼンの時間は何時ですか?」


俺は営業の今回この現状を作り出した張本人に聞いた。


「はい、午前10:00となっております。」


俺は、自分の腕時計を見て時間を確認する。

午前5:30。


「清水社長、大変助かりました。後はこちらで対応しますので、帰宅してください。」


っと、今回のMVP。


いや、勲章ものの英雄に声をかけると、有能な戦士の帰ってきた言葉はまた、とんでもなかった。


「私もプレゼンご一緒します。見積もりや工事の件で、質問が出た場合は私が対応いたします。」


(いやはや、すげぇなこの人は、、、)


「わかりました。では少しですが時間がまだあるので、休憩してください。」


即、俺の言葉に反応するのは、火吹部隊の2人の女性たちだ。


ソファにクッションを置き、紙コップにコーヒーを入れて清水社長の休む場所を確保する。


「すみません、それじゃお言葉に甘えさせてもらいます。」


大柄な体を何時間ぶりかに、座っていたデスクと椅子から離し、ソファに深く腰掛けて寸道永誇(すんどうえいこ)主任の入れたコーヒーに

口を付けながら、自分の(あご)に手をやり、(ひげ)が生えてることに気づき


「近くにコンビニか銭湯なんてありませんか?」


っと尋ねてくるが、先に反応したのは十柄氏元営業所長だ。

「この営業所の一階の奥に小さいですが、浴室と洗面所があるので使って下され。山口君タオルと石鹸、髭剃りを用意するんじゃ」


「はい!!」


返事だけはいつも元気いっぱいだ。徹夜したのも何のものだという感じだ。

若さ故もあるだろうが、心が負けてしまっては良い仕事はできない。


カラ元気でもないよりはましだ。


「それでは、十柄氏さんと五十吾副所長と木島工場長は今日は有給取ってください。」


俺は向きを変えて、話しかける。

さすがに50代と60代に徹夜は応えるようで、目が窪んで顔に疲労感が表れていた。


丁度今日は、金曜日だ。


今日有給取れば、3連休だから疲れもきっと取れるだろう。


五十吾元所長は、俺の申し入れを素直に聞き


「そうじゃな、後は若いもんに任せるとしようかのぅ~五十吾君。」


「わかりました。土井田課長それでは報告だけ後で連絡をメールでもラインでもいいので送ってください。」


木島工場長は無言。


この4人は、今まで戸塚営業所を守り通してきた、俺達にはわからない人間関係が成り立っているのだろうと感じた。


「わかりました。グループラインで十柄氏さんと木島工場長にも送ります。」


土井田課長は35歳。


まだまだ、現場で無理がきく年齢だ。

古堅部隊の責任者として、俺たちと同行してその結果を報告する任務も担う。


「よし、それじゃここで一度解散。朝食をそれぞれ取ってプレゼンに参加する人は8:30に玄関に集合してください。」


「「「はい!!」」」


俺の号令と共に、わずかな休憩と気持ちの切り替えをそれぞれのやり方で、自由に動き出す。


帰宅していく人たちには「お疲れさまでした!!」皆が声をかける。


長い夜は終わったが、問題はこれからだ。

この苦労が報われるかどうかは、これからが本勝負だ。


(絶対負けられない!!)


俺は心の中で、自分を奮い起こし心を燃やすのだ。


シャツやスーツの替えは、昨晩舞が持ってきてくれていた。


髭剃りは、自分の電動カミソリ機があるから大丈夫。


軽く清水さんが入った後にシャワーでも浴びるかな?


しかしこういった、非常時にその人柄はよくわかるものだな。


清水郷壱という男気の凄さ!!


火吹部隊二人の女性の皆に対する気づかいの進歩。


戸塚営業所古堅の人たちの連帯性、責任感の強さ。


山口洋二社員のミスを隠そうとしない明るい態度。

良くも悪くもあるが、責任感についてはあるのが分かったのは良いことだろう


そして、妻の舞の気遣いと候葺縁(こうぶきゆかり)さんの心使い。


シゲさんのほんの些細な思いやりある行動。


実に勉強になった、一晩だった。

だが、一番凄いのはそういった些細なことでも見逃さず、自分の中に取り入れようとする火吹武将と言いう人間のアイデンティティーだろう。


簡単なようで、中々出来ないし気付かない人間は多くいる。

しかし、火吹武将は違う。


帝王になるべく、修行を重ね続ける男の戦いはこれからが本番だ。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


午前8:30


京仁織物株式会社 戸塚営業所正面玄関前には、身支度を整え直した、俺と清水郷壱社長と土井田課長と山口営業社員の4人が揃っていた。


留守は、火吹部隊の責任者でもある、門田応史(かどたおううし)課長に任しておいた。


五十吾さんも十柄氏さんも木島さんもいない今、戸塚営業所を守る責任者は門田課長だ。


残るものも、大変だろうが、そこはこれまでの付き合いの長さと人間関係で信頼している。

安藤係長も残留組なので、まず問題は無いだろう。


また、何かあればすぐに連絡が来るだろう



社用車を運転するのは、営業の山口社員。

助手席にお俺が乗り、後部座席に清水社長と土井田課長が乗る。


滑るように、戸塚営業所の玄関を俺たちの乗った社用車が出ていく。


それを見送る火吹豚の面々。


寸動永誇主任が遠ざかっていく、車を見ながら


「上手くいくといいね」


友人で同僚の近藤直子主任が笑いながら答える。


「大丈夫に決まってるでしょ。火吹所長は今迄だってぜ~んぶ結果を出してきたんだから!!今回だってみんなこれだけ頑張ったんだし、ぜ~ったい受注してくるわよ」


100戦100勝とはいかないが、デカい勝負には過去に負けたことが無い、火吹武将の信用度は半端ない!!


俺は車の中で、密かに今回の受注するためには、俺の持っている物っすべてを使ってでも受注に結び付けようと覚悟を決めていた。


みんなが、、、


信頼する仲間たちが、、、


尊敬に値する、清水郷壱社長がこれだけ頑張ってくれたのだ。

結果を出すのは、俺の仕事だ。


絶対負けられない!!


30分ほど車を走らせると、マツウラ商事と大きく掲げられた看板が目に入ってきた。


建物は確かに老朽化しているのを感じたが、清潔にしてあり従業員の働く姿も皆、キビキビしていてとても良い印象を受けた。


来客用の駐車場に車を止めて、俺たちはいざ戦場へと赴く。


プレゼンする場所は、本社ビルの3階にある役員会議室で行われるようだった。


事前にマツウラ商事という会社について、調べていたので役員はじめ社長の名前は全て、頭に叩き込んでいる。


社長は松浦真一。創業者の孫にあたるらしい。

(同じような話を俺もよく聞く)


年齢は登記簿には記載がなかったので、不明だが会社としての成績は中小企業の中では上の中といった感じだ。

これだけの設備投資する余裕があるのだから、当然と言えば当然だが、今の社長の手腕次第では東証一部上場も視野に入るほどの売上高と利益と規模だった。


主力商品は、様々な大手各メーカーが製造に使う機械の金型の生産だ。


ようは、車メーカーにはこういった部品を作る製造機械の部品の試作品から大量生産までの流れをすべて。また、家電メーカーからは、新しい新型エアコンに使用する主力部品の開発から製造まで下請け企業として、受注している会社だ。


まさにメイドインジャパンが世界に誇る技術力だ。


ただ、昨今ではこういった部品をわざわざ下請け会社に出すより自社で開発製造するような動きも出ている。


それは、3Dプリンターの登場に他ならない。


ただどんな優秀な3Dプリンターでも、何十年と培ってきた熟練の人間の手には未だ完成度としては敵わない。


コスト面と完成度。メーカーがどちらを優先するかという事だが、、、



役員会議室に案内された、俺たち京仁織物一行だが会議室に入って驚いたことがあった。


一番奥、いわゆる上座に座す松浦社長が意外と若い。

30代半ばくらいだろうか?


まぁ~俺も二十歳で、戸塚営業所所長なんてやっているんだから、あまり他人のこと言えたもんでもないな。


「「「「失礼いたします。」」」」


俺を先頭に清水社長、土井田課長、山口営業が続く。


「本日は、御社の本社建築並びに工場建設の見積もりを頂き誠にありがとうございます。」


俺が代表して、お礼の口上を申し述べる。


マツウラ商事の役員席の末席に座る、初老の役員が話しかけてきた。


「十柄氏所長の後任は、君なのかな?」


俺は堂々と「申し遅れました。先日着任いたしました、火吹武将と申します。」っと再度お辞儀をして挨拶する。


奥の席から突然声がかかる


「随分お若いですね。おいくつですか?」


マツウラ商事社長の松浦真一だ。


「今年で二十歳になります。」


俺はまぁ~いつもの事だが、平然と堂々と話す。


ざわつき出す、会議室。


「いくら何でも、20歳とはどうなんだろうね、、、」


「20歳という事は、大学も出ていないことになるな。」


「うちの息子より、若いぞ。」


あちこちで、ざわつく声を松浦真一社長は一言で、黙らせる。


「今回の見積もりは、3社でアイミツしてます。京仁織物さんとは付き合いも長いので、一応見積もりを打診しましたが正直今回の計画はコスト重視です。建設会社でない京仁織物さんにとっては厳しい内容だと思いますが、プレゼンをお伺いします。」


アイミツとは、合い見積もりの略で他社と競合させてなるべく安くしようという趣旨で行われるものだ。


俺は心の中で【まずい!】っと、思ったが何ら動じる様子もそぶりも見せずに、自分のパソコンを起動してプレゼンを始める。


横では清水社長も自分のパソコンを開き、図面や完成デザイン絵を会議室にあるプロジェクターにつなぎ準備をすます。


俺は全員の目が集中する中、話を始める。


「まず初めに、松浦社長がおっしゃられたように、当社は建設会社ではありません。よって、コストだけで決めるというならば、勝てるはずはありません。」


また、ざわつく会議室。


俺は無視して話を続ける。


「しかし、当社には当社にしかできないご提案がございます。拝聴いただけますでしょうか?」


松浦社長は右手をひらりと机の上にだして【どうぞ続けてください】と動作で示す。


「ありがとうございます。まず、御社の今後10年後を想定させていただきました。」


更にざわつく役員たち


「現在の御社の業績は、大変素晴らしく。代表取締役社長も世代交代され若帰りを図るとともに、従業員の皆様の士気も高くやる気に満ちております。そして本社、工場の建設へと投資を行うという積極性は、大変素晴らしいと思います。」


「ただ、御社の業態はメーカーの下請けに頼っている比重が非常に多く、今後10年後も今の状況であるかどうかはとても不安視される点でもあると思われます。」


役員の一人が立ち上がり


「なんだと!!若造の分際で、言いたいことをズケズケと、、」


「田代さん、話を最後まで聞きましょう」


松浦社長の一言で、黙り込む田代と呼ばれた、生きていたら俺の父親より年上の役員が、黙って引きさがる。


(この社長は、若い割にはカリスマ性と能力が高いんだな)


「どうぞ火吹さん、続けて下さい。」


俺にまたもや右手を差し出し、話の続きを促す。


俺は軽く会釈して、話を続ける。


「そこで、私どもがご提案させていただきますのは、今回の設備投資と共に新事業のご提案をさせて頂きたく存じます。」


「メーカーの下請けだけを頼りにしていては、進化する情報や技術力または、世間の流れに置いて行かれてしまいます。今回の設備投資だけでも返済に、15年以上はかかると思いますが、それまで現状の利益を維持するためにも、新しい挑戦をご提案いたします。」


松浦社長は、両手をテーブルの下から出して自分の顔の前で組み顎を乗せて、じっくりと考える様子になる。


「続けて」


「はい、これからの日本経済はいかに人を使わないで、利益を出すかという点に大きく舵を取っていかざるを得ないと思います。」


「皆さまもご存じのように、少子高齢化による人件費高騰、仕入れ材料の大幅な高騰、技術力を持った人たちの少数化などを考えますと、いかに固定費を減らし利益を確保するかという点になります。そうしますと情報化を推進し在庫を持たない。人を使わない。という点は避けられません。」


「しかし、私が御社にご提案するのは、全く逆の事であります。」


「御社の強みである、技術力を生かした高級高耐久なオリジナルブランドの営業生産販売をご提案させていただきます。」


本日何度目かになるかわからないざわつき。


松浦社長は変わらず手を自分の顔の前で組んだまま


「それで君は、うちの会社に何を作ったら良いと思うんだい?」


俺は身長180センチのデカいガタイで胸を張り


「当社の防水コーティング材と防水シートを使用した屋外屋内のメンテナンスフリー業務用大型強力空気洗浄機です。」


松浦社長は身を乗り出してきて、俺の目を見て尋ねる。


「それは具体的にどういった商品なのかな?」


「はい、大型商業施設やビル、学校、体育館など様々な人が大勢集まる施設に屋外と屋内に設置する空間除菌機能をついた大型で強力な空気清浄機です。昨今のウィルスやダストアレルギーなどに関して、現代人は非常に敏感であります。そこで高価ではありますが、強力なメンテナンスフリーの強力空気清浄機の開発販売をご提案させていただきます。」


役員一同が、今度は押し黙り会議室はシ~ンとなる。


松浦社長は全く変わらずに


「君はその商品開発がうちで出来ると考えているのかい?」


「はい、御社の資料にありました。メーカーからの下請け内容の中にあります、エアコンの主力部品の開発と製造とありました。それを私は勝手ながら、調べさて頂いたところ評判は非常によく、故障も一般同等商品よりはるかに低いことが判明しました。」


「そこで、将来のニーズと御社の技術力を考えた結果。この案件に辿(たど)りつきました。」


俺は本社と工場の建て替え工事の見積もりとは全く関係ない話を始めた。


横にいる清水社長はじめ、4人が全員呆気(あっけ)にとられる。


「ふぅ~、京仁織物さんの新しい営業所長は、とんでもない話をしてくるもんだね。ちょっと、休憩にしてゆっくり考えてみようじゃないか」


松浦社長は、席を立ち


「あっ、そうだ。肝心のうちの本社工事の見積もり諸々も今のうちに印刷して、皆に配っておいて下さい。」


「かしこまりました」


俺は、役員全員が休憩のために部屋を出ていく間、頭を下げ続けた。


最後に部屋を出ていく、松浦社長が俺の右肩に手を乗せて


「上手くまとまるといいね」


っと言って、にこりと笑い部屋を後にした。

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