大人の戦い方
KABUKIコーポレーション【社長室】
重道勘蔵は、KABUKIコーポレーション現社長、火吹竜治を前に、矍鑠とお辞儀をし、話し始める。
火吹竜治は武将の父親の弟、叔父にあたる人だ。
「お耳に入れておきたい事が、ございましてこの様な時間に大変申し訳ございません。」
「武将様の事でございます。」
ついさっき、起こった事件の事を話し始める。
竜治叔父は話をずっと、黙って聞いていた。
重道が話し終わると一言
「火吹家の害になるものは排除する。」
と言い、自分のスマホを取り出し電話を掛ける。
相手はワンコールで直ぐに出た。
「火吹だ、水島君 君に頼みたい事がある」
「暁企画と言う芸能プロダクションを知っているか?」
「そうだ、その暁事務所を潰して欲しい」
「金?そんなものいくらかかっても構わん、やり方は君に任せる報告だけしてくれ」
「ああ、それじゃよろしく頼む」
スマホの画面をタッチして通話を切る。
電話の相手はKABUKIコーポレーション傘下のグループ会社KABUKIエンターテイメント芸能プロダクション社長の水島浩二だった。
KABUKIエンターテイメントは芸能事務所としては大手も大手、KABUKIコーポレーションの子会社として、潤濁な資産とKABUKIコーポレーションのもつ各方面への人脈パイプが太く繋がっており、国内では5本の指に入る大手芸能プロダクションだ。
重道に向き直る竜治叔父。少し前とはまるで違う柔和な表情で
「武将は元気にしているかな?」
重道は直立不動のまま、丁寧に語る。
「葛城舞様、始めご友人に恵まれ、健やかにお過ごしでございます。」
「そうか、それは良かった。私も会いに行きたのだが、何しろ社長業がこれほど大変なものだとは思ってもみなかったからな」
重道が丁重に言葉を紡ぐ
「私の様な者が言うのも、憚られますが竜治社長は立派におやりになっていると思います。この様な遅い時間まで仕事場におられる」
「兄の右腕だった君にそう言ってもらえると、心強いな」
「武将の事はよろしく頼むよ、また何かあったら報告してくれ」
「かしこまりました」
いぶし銀の様に慇懃にお辞儀をして部屋を出る。
ー2週間後ー
新宿3丁目の雑居ビル5階にある、暁企画事務所では
前に帝城高校に舞をスカウトに来た、茶髪のチャラい社員がタバコを吹かしながら
「社長、うちの会社の株、バンバン売れてますぜ~」
金のネックレスに金のブレスレット髪は茶髪の似合わないロン毛の太った男が社長らしい、、、
如何にも悪そうな匂いがプンプンする。
「がっはははー株が売れりゃ、銭が沸いてくる。なんもせんで金儲けができるっちゅうこっちゃな~」
ガラの悪い社長が金歯をむき出して大口で笑う。
茶髪のチャラ男が
「社長、もう5千万位儲かってますぜ!!」
嬉しそうに叫ぶ。
ッとそこに来訪を告げる、チャイムが鳴り響く。
ピンポ~ン
ガラの悪い太った社長が
「なんや、いってこいや」
チャラ男が玄関に向かう、、、
「何じゃお前ら~、何の用だ!」
チャラ男が玄関先で吠える。
来訪者は無視して、土足で部屋に入って来る。
ガラの悪い社長が
「なんじゃ、お前ら」
ドスの利いた声で威嚇する。
来訪者の一人が土足のまま、1歩前に出てデブ社長に無言で名刺を渡す。
デブ社長が名刺を受け取り、読み上げる。
「KABUKIエンターテイメント顧問弁護士やと、、、」
後ろからKABUKIエンターテイメント社長水島浩二本人が出てくる。
「暁企画の元社長、初めまして、私はKABUKIエンターテイメント社長の水島と言います。」
デブ元社長は驚きながらも
「KABUKIエンターテイメントの社長さんが、うちみたいな所になんの用やね」
水島社長は感情を込めずに淡々と話し出す。
「暁企画の株は80%、当社と当社管理会社が保有しました。」
「昨日、緊急役員会議を開きあなたを含む、現在の暁企画役員全員の解任が決まりました事を報告します。」
「そして、管理職の人間は全て解雇します。」
「社員は北海道の網走に営業所を作りましたので、そちらに全員転属です。ちなみに営業所に暖房機械は一切ありませんから」
会社組織として、運営した場合いろいろな形で登記する事が出来るが、一番多く一般的なのは株式会社である。
今では資本金0円で会社が出来る。
暁企画の場合、会社組織を株式会社で一般に株式を公開発行していたのである。
もちろん自社株が、買われれば資金が調達でき会社としては運転資金が増え、いろいろな事業展開もできる事になる。
しかし、株取得割合が半数つまり50%以上保有されてしまうと、その会社は他社に乗っ取られてしまう。
当然、その予防策として手段を講じているのが普通なのだが、暁企画の場合は金儲けの手段にしか株式の発行を考えていなかった為、いわばザルの様なずさんな会社であったという事だ。
デブ元社長が顔を真っ赤にして叫ぶ
「なんや、なんのこったいこりゃ!」
水島社長はひたすら淡々と
「暁企画はもうあなたの会社ではないという事ですよ」
「危機管理が出来ていない、暁企画の様な会社を買い取るのは簡単な事でした。」
顧問弁護士が引き継ぎ、喋りだす。
「この事務所も、当社の所有物です。金庫の中身に触れる事は窃盗罪に当たります」
「法人の銀行口座も凍結してありますので、現金を引き出す事もできません。」
「それでは、10分以内に私物だけ持って、退去して下さい。関係者以外は立ち入り禁止ですので」
デブ元社長が怒り狂って、水島社長の胸ぐらを掴み
「何言うとんじゃわれぇ~」
っと、掴みかかるが顧問弁護士が静かに
「その汚い手を水島社長から離しなさい。傷害罪として訴えますよ」
と静かに言う。
わなわなと手を震わせながら、、、手を離すロン毛のブタ。
「ど、どうしてこんな事になったちゅうんや、、、」
頭を抱えて、うずくまる。
水島社長が一言
「あなたは怒らせてはならない人を怒らせてしまったんです。」
「もうこの世界で、生きていく事は出来ませんよ。」
「それから下に新宿署の刑事さん達が、貴方の逮捕状を持って待ってます。未成年者に強制わいせつ行為をさせたとかなんとか言ってましたけど、、、」
がっくりと膝を落とすロン毛の暁企画の元社長、、、
両手に手錠をはめられ、パトカーに乗せられ連行される醜いブタ。
チャラい茶髪の社員始め、全員が肩を落とし、寂しく出て行く。
水島社長はそこでスマホを取り出す。
電話を掛けると4コールで相手は出た。
一言、、、
「すべて解決しました。ご報告まで」
相手も一言
「わかった。」
と言って電話を切った、電話の相手は当然火吹竜治社長である。
翌日の各方面のニュースでは、暁企画の元社長逮捕!!未成年タレントにわいせつ行為強要か?
等と見出しを飾り、デカい顔写真入りで報道された。
翌朝、ミッドが授業が始まる前に、俺達の教室にやってきて暁企画のニュースを見せる。
「やっぱ断って、良かったんじゃん」
小動物系の天才プログラマーは口をとがらして叫ぶ。
「私を拉致しようなんてするからよ」
と、舞は気丈に言う。
「でも、これで一件落着だな。」
(武士にも伝えておこう)
実は、武士は自分から言い出して、舞のボディガードを買って出てくれていたのだ。
武士が用事のある時は、乱呪の怖いお友達が代わりに、、、
今度、きちんと武士と友達にはお礼を言わないとなと密かに思う、将軍である。
そして、またいつもの日常に戻って行く。