表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
76/107

十柄氏 源吉

戸塚営業所に赴任した、俺たちは挨拶をすますと自分の私物やパソコンなどをそれぞれの自分たちのデスクに整理しに行った。


これが結構面倒で、まったく何もないところに私物やら書類やらパソコンの設定やら、配線、接続設定など結構やることは多く。


火吹部隊の4人は、ずっと動き回っていた。


戸塚営業所の営業所棟は、3階建てで1階が会議室、応接室になっており2階がそれぞれのブースに分かれた、営業から事務、庶務、総務、経理などすべての部署がワンフロアに置かれて、3階は食堂や大会議室兼自由フロア(大勢集まるときや体育イベントなどに使われる)、資料書庫室などがあった。


その2階の一番奥に、営業所所長室があり一応個室になっている。


俺は営業所所長室に、元営業所所長と副所長のデスクを所長室内に設置してもらい、仕事についてなんでもいつでも聞けるようにしてもらった。


所長室に、他の人のデスクが置かれるのは初めてのことらしく、かなり驚かれたが


「僕は右も左も全くわからないので、皆さんの経験と知恵と力を貸してください。」


っと、言ったら心よく快諾してくれた。


所長室始め、皆の整理がやっと片付いたのは、陽が暮れて退勤の時間になった頃だった。


戸塚営業所兼工場の元統合所長の十柄氏 源吉(とがらし げんきち)さんが、俺の方へやってきて


「火吹所長。よろしかったらこれから歓迎会がてら、晩飯でもいかがですかな?」


っと、優しげに声をかけてきた。


もちろん俺は「よろこんで」と返事して、火吹部隊の方を見ると


皆「 大丈夫ですよ」「所長のおごりですよね」「ご相伴します」「お供します」っと、それぞれ返答が返ってくる。


戸塚営業所のメンバーは。十柄氏さんと副所長の五十吾茂三(いそごしげぞう)さんと工場長の木島菊蔵(きじまきくぞう)さんの3人だ。


十柄氏さんが申し訳なさそうに


「わしらの時代なら、所長が交代するとなれば、全営業所員総出で宴会を開いたもんですが、今の時代だとやれ、時間外勤務だとか残業代は出るのか?業務命令ですか?などと言われてしまうんですよ。」


俺は火吹部隊の近藤直子(こんどうなおこ)主任と寸動永誇(すんどうえいこ)主任をチラッと見て


「別にそれは、かまいませんよ。私もまだ未成年ですから」


それに反応したのが


「今。所長、私たちのことチラッと見ましたよね」


近藤さんが、笑いながら言う。


寸動主任が近藤さんをたしなめる。


「ナオ。(すね)に傷持つ私たちでは、何も言えないわよ」


いつの間にか、寸動さんは近藤さんのことを【ナオ】と愛称で呼ぶようになっていたことに今初めて知った。


ちなみに近藤さんは、寸動さんのことを【エイコ】と呼び捨てにしているらしい。


その場が、パッと明るく和む。


やはり、業務以外でも若い女性がいるのと、いないのとでは雰囲気がまるで違って見える。


まさに【華】があるのだ。


俺個人的には、オジサンだらけで一向に構わないのだが、今後の業務のことも考えて、火吹部隊のことを知っていてもらうことは悪いことでは無いだろう。


十柄氏さんは、未成年の俺に気を使ったようで、連れていかれたのはお洒落な、洋食屋さんだった。

しかも、このお店は【全面禁煙店】として、保健所に届けているそうで、未成年の俺でも入店が、可能なのだ。


十柄氏さん曰く、ちょっと前?

なら、18歳過ぎればべろべろになるまで、アルコールを飲んでいたもんだとゲラゲラ笑いながら言っていた。


十柄氏さんも五十吾副所長も木島工場長も皆。【昭和】の人間だが、タバコは吸わないらしい。


俺の周りにいる大人たちも、タバコを吸っている所を見たことが無い。


今の時代、タバコ=悪 となるような印象だが、これも昭和の時代ではほとんどの男性は、喫煙家だったらしい。


話はちょっと変わるが、10年ひと昔とはよく言ったもので、ここ最近のインターネットIT情報関係のインフラは激変している。


それに付いて行くのに、昭和の人間は相当の努力をしていると葛城仁社長から聞いたことがある。


俺や安藤先輩は、まさに物心付いた頃から身近に、パソコンやスマホ、タブレットがあり、それらを使いこなすのは当たり前だが、仁父さんの時代だとWindowsやios、androidなどのOSオペレーションシステムは無く、MSーDOSのDOSコマンドを使って、パソコンを使っていたので相応の知識のある人でないと、パソコンも使えなかったらしい。


以前に仁父さんが、今のパソコンには取扱説明書が無いけど、昔は滅茶苦茶分厚い取扱説明書が付いてきていたらしい。


今では、分からない事があればすぐにググれば、大抵の事は解決してしまう。


時代が変われば、環境も変わるっということか


京仁織物株式会社も取締役が一新して、若帰りが実行され、俺が戸塚営業所所長に配属されたのもその一環かもしれないと思った。



連れて行ってもらった洋食屋さんはこじんまりとしたお店で、戸塚駅からちょっと離れた住宅街に入る所にある閑静な街並みの中にあるお店だが、出てくる料理は家庭料理の息を軽く超えていた。


店の名前は【甚太郎亭】となっていた。

おそらく店主の名前をとったのだろう。


個人的にこれからご贔屓(ひいき)にしていきたいと思った。


俺たち7人の集まりは、一番奥の4人掛けのテーブルを二つつなげて用意されており、俺と十柄氏さんはテーブルをはさんで向き合い、十柄氏さんは生ビールを美味しそうに頼んで飲んでいた。


副所長の五十吾さんも生ビールだ。工場長の木島さんはいかにもらしいが、日本酒を愛飲していた。

しかし洋食屋さんに、日本酒が置いてある時点でこのお店は京仁織物戸塚営業所ご用達なんだろうと、(うかかが)え得た。


俺は、この人事が決まった時から不思議に思っていたことを元戸塚統合営業所所長の十柄氏さんに尋ねてみた。


「ところで、十柄氏さん。戸塚営業所長に私を推薦してくださったのが、あなただと聞きましたがよかったら理由をお聞かせ願えますか?」


火吹部隊の連中が、一瞬で静まりかえる。


皆もその理由、会社の考えを聞いておきたかったのだろう。


十柄氏さんは、白髪の頭を掻きながら答えてくれた。


「わしゃ~、葛城社長が京仁織物を立ち上げる以前から、一緒に前の職場で働いていたんじゃよ。それで社長が独立するっていうんで、わしにもお声がかかり共にこの会社を立ち上げたんじゃ」


アルコールが入ったせいか、本来の喋り方になっているようだ。

俺個人はこの方がとても話やすい。


「会社がどんどん大きくなると、わしゃこの営業所を立ち上げて、守るように葛城社長に頼まれたんじゃ。今の戸田営業本部長、おっと今では副社長じゃったか、あいつも以前はここにおって、わしの部下として営業を担当していたのじゃ」


(京仁織物株式会社の生き字引みたいな人だな)


「もちろんわしゃ、喜んで引き受けてそれこそ全力で仕事に没頭したよ。しかし、わしも歳じゃし年々新しくなる工場機械、パソコン、情報環境というのかな?」


「正直、頭がな追い付いていけなんだ。」


「そこで、本社人事部部長の神戸正志。ありゃ~わしの甥でな。」


「「「えっ!!」」」


十柄氏さんは、目じりの(しわ)をさらに深くしてにこやかにほほ笑むと


「正志がな~、火吹君が入社したころから【面白い社員が入ってきた】と、言っておったのが最近では、火吹君のことをやたらとほめるようになってな。」


「あいつは人事部長、何ぞやってるから普段は【鬼の人事部長】何ぞと呼ばれているらしいが、元々あいつは優しくお喋りな奴なんじゃよ。」


「それで、わしも君のことが知りたくなっての、この戸塚営業所に研修に来るたんびに見ておったんじゃよ。」


俺は自分の知らないところで俺のことが、話されていたことを打ち明けられたことと、あの(・・)神戸人事部長、いや今では常務取締役だ。


っが、十柄氏さんの甥?


十柄氏さんは、生ビールを2杯飲んだところで、ハイボールに切り替えて飲みながら喋ってくれる。


「君が、この営業所の研修に来ていた時、昼休み中に従業員のおばちゃんたちと話をしていたろう」


俺は思い出しながら、静かに「はい」っと答える。


十柄氏さんは、少し酔いが回り始めたようで、赤ら顔で俺を睨む。

急に真剣な眼差しで俺を見る。


「あの時、君は泣いていたね。」


俺も十柄氏さんの目をしっかり見て


「はい」


っとだけ答える。別に恥ずかしいことじゃない。

俺は純粋にあの時、工場で働く もし生きていたら自分の母親より年上の女性たちの会話に感動したのだ。


俺はあの時、本社の法人営業として葛城社長の義理の息子として、現場で働く女性たちに何か自分にできることは無いかと尋ねたところ帰ってきた言葉は、、、


工場の機械の調子が悪いとか、針の調子が良くないなど仕事の話ばかりだった。


この年齢で、朝から夜まで仕事をしていれば、相当に疲れるだろうに、待遇の改善や働き方についての注文など一切なく。


ただ、自分たちの仕事に誇りを持ち、機械の調子の良しあしを訴える姿に感動してしまったのだ。


まぁ~火吹武将らしいといえば、その通りなのだが。


俺は、間違いなくあの時心が震えた。


俺は自分の思い出の中に潜り込んでいると、現実世界に十柄氏さんの言葉が呼び戻してくれた。


「その姿をわしゃ、遠くから見ていたのだよ。」


「本来なら、副所長である五十吾君がなるべきなんだろうが、本社の方も急激な若帰りが図られているようだと、正志から聞いたもんでな、五十吾君と話し合って君に白羽の矢を立てさせてもらったんじゃ」


「最終的に決めたのは、社長である葛城さんだが、未成年の営業所長なんてかっこいいじゃないか。」


(かっこいいとか、そんな話じゃないでしょう、、、それに僕はもうすぐ成人ですよ)


初めて副所長の五十吾さんが、話に入ってくる。


「もちろん、最大限のサポートはしますので、これからよろしくお願いします。」


「火吹統合営業所所長。」


「一応、お耳に入れておきますが、先日のテレビ出演の事はこちらでもほとんどの者が知っておりますので、秘密にする必要はないと思います。」


俺は頼もしいやら恥ずかしいやらで、不思議な顔をしながら


「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします。」


っと、答えて俺は席を立ち上がり、十柄氏さんと五十吾さんと工場長の木島さんに向けてそれぞれ右手を差し出す。


自分より倍以上の人生を送ってきた、三人は喜んで立ち上がり


「「「よろしくお願いします。」」」


ガシッとそれぞれと固く握手を交わす。


すると、火吹部隊の4人もすぐさま立ち上がり男組の二人は腿にピタッと両手を添えて、女性二人は両手を前で組んで丁寧に腰を折る。


「「「よろしくお願いいたします!!」」」


4人一緒にお辞儀をして、挨拶をする。


とりあえず、戸塚営業所所長としては、順調な滑り出しであった。


その後は、手作りなお料理と美味しいお酒&ソフトドリンクで楽しい時間を満喫した。


倍以上の年齢差と経験がある、五十吾茂三(いそごしげぞう)副所長と木島菊道(きじまきくみち)工場長とは、実に有意義な時間と人間関係が築けた大切な時間であった。


こういう時間が、たまにはあっても俺は良いと思うが、今の時流だと時間外に会社の人間と仕事以外で、時間を束縛するのは良くないことになりつつある。


だが、こういった場所だからこそ話せる話もあるし、築ける人間関係もあると思うのだが、どうなんだろうか?


ただし、上司として仕事以外の誘いで断れたからと、それを人事考課に入れることは決してあってはならないと、きつく思う。


21:00頃、女性もいることなので、とりあえず今日はここまでとして、解散することにした。


店前で十柄氏さんたちと俺たちは分かれて、戸塚駅に向かう。


少し酔った門田応史戸塚営業所営業課長は俺に、相変わらずの人の好い優しい話方で話しかけてきた。


そう、門田さんも係長から営業課長へ昇進したのだ。

他の3人も門田課長の下に配属されて、それぞれ安藤係長、近藤主任、寸動主任となっていた。


「副所長の五十吾さんや工場長の木島さんにしても、自分の息子より若いかもしれない、火吹所長の下に付くのを了承したのは、もちろん十柄氏さんの言葉もあったと思いますが、テレビでの影響力や葛城社長の義理の息子、KABUKIコーポレーション当主といった、肩書は大きかったんじゃないですかね?」


(そういうのもあるだろうな、、、)


今まで、頑張って仕事をしてきた中で一番、有効だったのはやはりそういった世間的な立場や権威、権力なのは身に染みて理解している。


だが、それでも俺はそんな物より、人を、、、心を、、、


大事にしたい。


俺は心優しい長身の門田課長と並びながら横を向いて


「確かに、それは、、、あるでしょう。」


「それでも、私は私です。何も変わりませんよ。」


門田課長は嬉しそうに微笑み、人の好さを何倍にもして返してきた。


「そうでなきゃ、所長は所長です。それでも火吹所長と一緒に仕事をして、あっという間に私は課長職にまで出世できました。本社で火吹所長に出会わなければ私は今でも、法人営業部の冴えない一営業マンですよ」


俺達の会話を聞いていた、残りの3人も酔いに任してか、熱い呼吸を吐き出しながら熱い言葉を投げつける。


「それは、僕だってそうですよ。高卒でもう主任ですよ。火吹所長と舞さんに会っていなければ、今頃は工場勤務で毎日ラインに並んで同じ仕事を同じ時間、働くだけでしたよ。」


安藤主任が、まだそれほど強くないお酒に、酔ったように珍しく【舞】の名前が出てきた。

プライベートな事はまず話さないのが、安藤聡という人間の安定感だが、今は気心知れたメンバーとお酒とそういう雰囲気で話したんだな、、、


たまには、そういうところもあった方が、人間らしい。


近藤主任や寸動主任も熱く、女性ならではの(ほの)かに酔った色気を放ちながら叫ぶ。


「私たちだってそうですよ。火吹所長に出会っていなければ、今頃出会い系アプリで条件の良い人捜して、専業主婦していたかもしれないです。」


近藤さんが寸動さんの言葉に突っ込む


「エイコは、内面見ないで外見や条件ばかり見るから、良い人が見つかっても3年後には離婚ね」


「なんですって!ナオだって、火吹所長が良いとか言っていたじゃない!不倫趣向があるんじゃないの」


「エイコだって、火吹所長が良いって言っていたじゃない!!」


「まぁまあ~、まだ僕らは始まったばかりだから、これから戸塚営業所をどうしていくか、考えていこうよ。」


安藤先輩が、間に入って仲裁する。


まだまだ、アクが抜けきらない女性陣二人だが、優秀なのは俺たちにとっては周知の事実だ。


男性にも女性にもモテル火吹武将という、間もなく20歳の記念すべき職場は、今は順調な滑り出しであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ