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KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
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火吹家の力

翌日、彭城楓真(さかきふうま)のマネージャー兼運転手の武藤真一さんが、予想したようにゴシップ週刊誌で有名な週刊誌のトップ記事に両開きで【彭城楓真アイドルと熱愛発覚!!】の見出しで、堂々と記事になっていた。


その記事により、テレビ局始め各ネットサイトでは【号外】として、配信放映され続けた。


正に一日中、楓真でテレビ局とネット、世間が噂話で一色で染まってしまったようだ。


武藤さんが心配したように、港区虎ノ門にある火吹家本家の屋敷正門には、うじゃうじゃとその手(・・・)の人間たちが100名以上集まっていた。


当然、火吹低の縦3メートル、横2メートル×2枚扉は固く閉ざされ、一切の進入を固く拒んでいた。


屋敷周辺は、2.5メートルある塀彫りで固められており、その上を侵入しようとすれば、赤外線で探知され警報が鳴るシステムになっている。


現在、火吹衛士隊総勢40名は全員呼集されて、屈強の戦士が正門に10名。


衛士塔に10名。


本低に10名。


庭周辺警備に10名をあてており、庭周辺警備の衛士は大変よく訓練された、5匹の大型犬ジャーマン・シェパードを連れていた。


衛士隊隊長谷樫心衛(たにがししんえい)は衛士塔で、屋敷各場所に配置された、監視カメラのモニターを眺めながら各衛士隊に無線で指示を出している。


この警備は、もはや一個人の家の警備の範疇(はんちゅう)を軽く50倍は超えていた。


丁度、土曜日という事で虎ノ門の住人は平日の100万分の1にも居なかったから、それほど近所迷惑になることは無かったが、そもそも端正なオフィス街のど真ん中である。


とてつもなくでかい屋敷の正門に陣取る、マスコミ関係者の異様さは一見、常軌を失っているようだった。



当の本人である、楓真は大リビングのソファに足を組んで腰掛けて、自分が掲載されている週刊誌を見て


「写真の角度が悪いな」


等と、他人事のようにつぶやく。


多忙を極める楓真も流石に、今日は休みをもらい仕事は全てキャンセル又は日程変更担ていた。


「あんたがそれ言う!!」


妻の舞が、おでこに怒りマークを付けながら、楓真に文句を言う。

舞、以外に楓真にこんなことを言える人間は、いない。


リビングには、土曜日なので屋敷の住人全員が集まっていた。

この状況では、外出するのは無謀そうなので、結局リビングンに皆集まってきている。


俺は衛士塔に行き、谷樫さんと一緒に正門前のモニターを見つめる。


モニターに映るのは脚立を立て、カメラを構えるテレビ局のスタッフらしいのが、6組。


マイク片手にリポーターを連れているマスコミが、4組。


その他、ユーチューバーだのよくわからんのが、大勢、、、


俺は谷樫さんに


「予想以上に凄いですね」


頑丈丈夫最強屈強の体躯を持つ、信頼する衛士隊隊長は俺に報告してくる。


「朝から、塀を超え侵入しようとした人物、裏口をよじ登った人物、合計3名。排除しました。」


「正直、呆れますね。」


俺は溜息を心の声と一緒に吐き出しながら「そうですね。」と答えて、衛士塔から本低に戻る。


俺がリビングに入ると、大人たちは何やら真剣に話し合っていた。


仁父さんが、シゲさんに対して


「シゲさん、私の方は準備できましたよ。」


シゲさんは慇懃(いんぎん)に頭を下げ


「先ほど、火吹竜治社長からも連絡があり、処理済み(・・・・)との事です。」


俺の妾を宣言している、COOBデザイン株式会社のCEO候葺縁(こうぶきゆかり)さんが


「後は、水島さんの連絡待ちですわね。」


葛城仁社長は、土曜日だというのにスーツを着込んでいる。


突然屋敷の電話のベルが、やかましく鳴り響く。


プルルルル~



シゲさんが、電話を出る時に全員に聞こえるように、電話のスピーカーを受話器からスピーカーに変更する。


そして低く腹に響く声で「火吹家でございます」といつもの調子で、電話に出る。


相手は若く自分の名前を名乗りもしないで


「彭城楓真いるでしょ!だしてくんない!!」


っと、無礼な物言いで、暴言を堂々と吐く。


その汚い言葉が、火吹家のリビング中を飛び回る不快感丸出しにして


どうやって、この家の電話番号を調べたのかしないが、その労力をもっと違う方に回せば、もう少しまともになったんじゃねなどと思っていた。


シゲさんは変わらず


「失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますか?」


っと尋ねるが、相手は


「そんなこといいから、彭城楓真だしてよ」


シゲさんは、全く様子を変えずに


「失礼を承知で申し上げますが、、、、【出直してきなさい!】」


っと言い、電話を切りその後は電話の回線ジャックは外してしまう。


俺は(さすがだな~かっこいいなぁ~)っと素直に自分がこの世に誕生した時から、常にそばに居てくれる亡きオヤジの右腕だった、重道勘蔵という男に惚れ込んでしまう。


その直後、シゲさんのスマホ着信音が鳴り渡る。


「失礼いたします。」


ッと皆に聞こえるように言い、スマホに出て一言。


「はい畏まりました。」


と言い、仁さんや縁さんを見て


「用意が整ったようでございます。」


今の電話は、KABUKIエンターテイメント社長水島浩二さんからだったようだ。


今回の騒動に対し、大人たちは当人の楓真を含め、俺や舞などにも一切の介入を許す気配さえなかった。


俺も肌で感じたので、これは大人の戦いで、俺達が出る幕では無いのだと理解する。


ただ、俺の尊敬する大人たちが、どんな戦いをするかはとても興味があったので、黙って見つめていた。


それは、舞も同様だ。


普段は実の父親の事を邪険に扱う事も、しばしば見受けられるが、仁父さんが本気になった時の怖さを良く知る実の娘はこういう時は、一切口出しない。


「よし、それでは行こうかね」


スーツ姿の仁父さんは、ソファから立ち上がりシゲさんと縁さンに目線で合図を送る。


3人は、玄関まで行く途中、別室で待機していた。


スーツ姿の男性と合流して、本低の玄関を出て衛士塔で、谷樫さん含め4名の衛士隊を引き連れて、正門へと向かう。



とてつもなく大きく頑丈な火吹低の正門が、両開きにゆっくりと自動で開いていく。


それを見て、テレビ局のリポーターたちは本気ダッシュで走ってくる。


「い、今、彭城楓真さんがいると思われる家の玄関の扉が、開きました!!」


「中から、人が出てきます!!」


一斉にフラッシュが、嵐の洪水の如く嫌になるくらいの数のシャッター音と共に浴びせられる。


動画を取るカメラは、一斉に向きを正門に向け、砲弾でも発射しそうな勢いだ。


ユーチューバーだかなんだわからん奴らは、自撮り棒の先に自分のスマホを取り付け、腕をこれでもかと伸ばし駆け寄ってくる。


正門から出てきたのは


先頭にシゲさん斜め後ろに、仁父さんと縁さんと合流した見知らぬ40歳代くらいのキッチリ髪の毛を7対3にワックスで分けたスキのない男性。


そして周囲には、谷樫さんを中心に衛士隊が、4名護衛に着く。


合計8名の大人が、正門を出ると正門はまた自動で閉じる。


ガシャン!!


リポーターが駆け寄り先頭にいる、シゲさんに向かってマイクを差し出す。


「「あなたは、彭城楓真さんの御関係者なのですか?」」


シゲさんを含む、大人たちは


無言。


更に、好奇心の塊のユーチューバーたちが、駆け寄り敬語も使わず。


「あんた誰よ!」


「何この爺さん、彭城楓真とどんな関係なのよ!」


「後ろの綺麗なおねぇさんは、もしかして彭城楓真の愛人?」


(失礼にもほどがある)


モニター越しに見ていた俺と舞は、同じ感想を抱く。



それでも、出てきた大人たちは


無言。


じれったくなってきた、リポーターや鼻から礼儀知らずのユーチューバーが、更に数歩近寄る。


そこで初めて声を発した者がいた。


「今、あなた方がいる場所は、私有地です。即刻退去をお願い致します。」


鋭く頑丈、鋭利で研ぎ澄まされた双方の瞳は、細く静かに他人を威圧する。


谷樫心衛だ。


さすがに、谷樫さんの体格と研ぎ澄まされた目を見て、暴言を吐く輩は、おらずやや気圧された感じがしたが、周囲にいる人数多さと集団心理からか、誰もその場からは動こうとはしない。


再度リポーターがシゲさんにマイクを向けてくる。


「あなたは、この家の方ですか?」


シゲさんは、何時もの様に白い手袋をはめたまま、昭和の執事然として


「私は当家の執事をしている者でございます。ご用件は私が承ります。」


丁寧だが、その言葉と動作の中には何物にも動じない揺るがない、信念を見て取れただろう。


大人なら、、、


暴虐武人のユーチューバーには、そんな行為も何の障害にならないようだった。


「誰オッサン!!」


「いいから、彭城楓真だしてよ!」


「邪魔だよジィジィ!!」


モニター超しに俺は、右手の拳をギュウっと握っていた。

俺の尊敬する重道勘蔵さんに対して、初対面のこの若者の暴言に珍しく、俺は腹が立っていた。


横にいる舞も気持ちは同じようで、そっと俺の握る右手の拳の上に自分の手を重ねる。


「父さんたちを信じましょう」


俺は愛する舞の目を見つめて


「ああ、そうだな」


怒気を含んだように、口から邪悪な気持ちを吐き出す。



一方、正門前では再び、谷樫心衛が大柄な体躯と大声で


「再度、申し上げる。ここは私有地です。直ちに退去願います。」


「うっせぇ~んだよ!お前何様なの?報道の自由って権利知って言ってんのかよ!!」


賢いんだか馬鹿なのかわからんが、自分の権利ばかり主張してくる、こう言う輩は実際今の世の中には、、、多い。


そこで、はじめて後ろで控えていた、40歳代の隙の無い男性が、一番最前列にやってきて話を始める。


「報道の自由という権利と私有地への無断進入、不法占拠、不法侵入。どちらの罪が重いかわかりますか?」


若いユーチューバーは、更に感情的になり激高する。


「報道の自由に決まってんだろ!!オッサンよぅ~」


男性はそこにいる全員に聞こえるように大声で


「私は弁護士の木島卓也と言います。報道の自由とは【権利】でありますが、不法侵入、不法占拠は刑法を無視した【犯罪】です。」


「あなた方は、この私有地を管理する者の2度にわたる、退去勧告を無視しました。これは立派な犯罪となります。よって、直ちに退去しない場合、相応の対応となりますが、よろしいですか?」


そう、マスコミやユーチューバーやなんかよく分からん野次馬ギャラリーは、つい興奮するあまり、これまた集団心理もあり火吹家所有の私有地に踏み込んでいたのである。


弁護士が出てきたことによって、大人たちである、テレビ局スタッフは明らかに動揺し、後方に下がり始めた。


しかし若さゆえの常識の無い者は、加熱さを愚かさと共にヒートアップする。


「ふざけてんじゃねぇぞ!!オッサン!俺の動画のバックには5千人の視聴者が付いてんやぞ」


訳の分からん、理屈を言う。


弁護士は、ゆっくりと若者の前でかみ砕き話す。


「いいですか、あなたの持っている常識と大人の常識は、まず初めに違うという事を理解してください。」


「あなたが、(おこな)っている犯罪であなたが逮捕起訴され有罪が確定すればあなただけでなく、将来あなたが結婚し、子供を授かったとして、その子供の未来も(せば)めてしまうという事ですよ。」


「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」


若きほとばしる魂は、ブレーキの外れた暴走車だ。


それでも弁護士は、忍耐強くしっかりと(さと)すようにゆっくりと話す。


「未来の子供は、あなたが逮捕有罪となった事により、あなたは前科者となり、子供は公務員は当然、教員や警察官、自衛官などには就職できなくなるのですよ。」


「あなたの身勝手な、理屈のせいでね。」


この時点で、マスコミ各社の全員が敷地を出ていた。

周囲には若いバカっぽい奴以外、ほとんど誰も居なくなった、口だけのユーチューバーも流石にこれはまずいと持ったのか、後ろを振り返り走り立ち去ろうとするが


逃げようとするところを谷樫心衛が、襟首をガシッと掴み、右手の関節を軽く押さえて動きを封じる。


そして、元格闘倶楽部【乱囚(らんじゅ)】で共に鍛えぬいた仲間に目配せして、敷地内に残っている野次馬たちを全員拘束する。


関節やら力業(ちからわざ)で、抑え込みあっという間に、鎮圧制圧完了となる。


流石にテレビ写りが悪すぎる、土門武士は衛士塔内に待機していた。


そこに丁度見計らったように、パトカーがサイレンを鳴らしながら、3台やってくる。


パトカーの中から、この現場の指揮官らしきスーツ姿の人が仁父さんの前に向かう。


仁父さんは静かに話しかける。


「多田君、悪いね手間かけさせちゃって」


スーツ姿の警視庁に勤務する警察官は葛城仁父さんの友人のようだ。


制服姿の警察官の部下に向かって


「全員連行しろ」


「「はっ!!」」


っと縦社会バリバリの警察という組織の大人たちは敬礼し、命令を実行する。3台のパトカーにそれぞれ若き無法者たちえを乗せる。


多田と呼ばれた、警察官は直ちに法を執行し、白黒で塗り分けられた国産高級車の赤色灯を鮮やかに回し、高く響く不協和音を響かせながら走り去る。

最後に多田さんという警察官は、小声で


「葛城先輩、こんな時は何時でも呼んでください。」


っと、言い。最後に残ったパトカーに乗り込み、警視庁というとんでもなく大きい警察署に向かって走り出す。


距離としては5分もかからないくらい滅茶苦茶近く、とてつもなく広い桜田大通りを走り去っていく。



仁父さんは、横にいる弁護士に向かって


「木島先生今回は、お灸をすえるくらいでいいからね」


そうこの弁護士は、京仁織物株式会社の正式な顧問契約弁護士だ。


「わかりました。」と木島弁護士は答えて、呼んでいたタクシーに乗り込み警視庁まで向かう。


あっつ~いお灸をすえに。


「さてと、、、」


仁父さんは、マスコミ各社の方を向き


「今回の騒動の真実を皆さんにお知らせするので、各社2名迄屋敷に入ることを許可します」


「なお、屋敷に入る人物は、必ず身分を証明してからお入りください。」


ギィイイイイイイ~


再び、火吹低の大正門は自動で、開き始める。


中には、火吹衛士隊40名全員(土門武士除く)揃っており、勇敢な番犬も5頭キチンと座って、待機していた。


マスコミ各社の人達は、意外な展開に驚きながらも言われた通り各社2名ずつ名刺を門で、シゲさんに渡し屋敷内に入ってくる。


正門入ってすぐの緑の芝生の広場に、大型移動式のビジョンを積んだ大型トラックが止まっていた。


マイクを掴み、移動型ビジョンを積んだトラックの荷台の上に立つ経済界の女帝は、豊かな胸を誇りながら、マイクで圧倒的な反論を許さない絶対言語で話し出す。


「初めから、申し上げますわね。」


彭城楓真(さかきふうま)さんの魅力と才能に嫉妬(しっと)したアイドル鷺原 歩(さぎはら あゆみ)さんが、楓真さんにお食事のお誘いをしたところ、むげに断られて仕返しに今回のハニートラップを仕掛けたことという事ですわ。」


マスコミの1人が手を上げて発言する。


「す、すいません。東都テレビの湯崎と言います。そのハニートラップしたという証拠は、あるのでしょうか?」


縁さんは、腰に手を当て


「もちろんあるから言ってるに決まってますわよ。」


「こちらをご覧くださいな。」


移動式の大型ビジョンを積んだトラックのビジョンに電源が入り映像が流れ始める。


先日、楓真が収録した、音楽番組のスタジオが写しだされていた。


そこには隣同士に座る、楓真と鷺原 歩(さぎはら あゆみ)が隣道に座っていた。


ちょっと聞こえづらかったが、映像と音声が流れ始める。


「彭城さん。今度、ご一緒に食事でもどうですか?」


確かに鷺原 歩(さぎはら あゆみ)はそう言っていた。


そして楓真はご存じの通り


「けっこうです。」


っと、断っている。


次の言葉に、マスコミ各社は驚愕を覚えた。


鷺原 歩(さぎはら あゆみ)が吐き出した言葉は


「ちょっと、新人のくせして歌がうまいからって、好い気になってんじゃないわよ」


当然楓真は無視。


テレビ局にある、音声マイクは大変高性能で二人の会話を拾い、何台もある撮影用カメラがたまたま、この現場を撮影していたのだ。


そして、次に縁さんは両手を広げて


「次に、楓真さんがハニートラップを取られた瞬間です。」


ビジョンに移ったのは、テレビ局の防犯カメラの映像だ。


楓真は確かに、武藤さんと専用出口まで行き、武藤さんは車を取りに行くと言っている音声迄入っている。


っと、次の瞬間。


鷺原 歩(さぎはら あゆみ)が楓真の後方から走り寄り、楓真の右腕を掴むと自分の胸に押し当てた。


次の瞬間。


フラッシュが3回たかれる。


そしてここでも鷺原 歩(さぎはら あゆみ)の放った言葉に皆、驚愕させられる。


「明日の週刊誌のトップ記事が楽しみね。楓真さん。」


その後の武藤さんと楓真の天然ボケの様な、経緯迄撮影放映されており、これが証拠でなくて何だと言わんばかりに


候葺縁(こうぶきゆかり)縁節(ゆかりぶし)を激しく地面に叩きつける様に炸裂させる。


「これが、ハニートラップで無くて何というのかしらね」


醜悪(しゅうあく)な売名行為?(みじ)めな女の(みにく)嫉妬(しっと)?けがわらしくて言葉にもならないわね」


「それとそろそろ、皆さんのスマホが鳴り出すのでは無くて?」


予言の様に、縁さんが言うと屋敷内にいるマスコミ各社のスッタフのスマホが鳴り出す。


あちこちで、同じような会話が繰り返される。


「えっ!!撤収?いいんですか!!」


「すぐ戻れって?どうしたんです?」


「いいから早く戻れって、どうしたんですか?」


縁さんは、一呼吸おいて右手を優雅に正門に向けて歌でも歌うように


「皆さま~、お帰りはあちらでございますわよ~」


動揺しながらも、はっきりした証拠と上司から緊急撤収命令に従い、バタバタと火吹低から出て行くマスコミ各社。


俺と舞は、何が起こっているかわからずに、モニターをただながめているだけだった。


10分もしないで、何時もの静寂さを取り戻す火吹低だった。


俺達は、衛士塔を出て本低のリビングで、尊敬する大人たちの帰りを待っていた。


「ああ~すっきりしましことよ~」


始めにリビングに帰ってきたのは、縁さんだった。

超タイトで際どいミニスカートをはきながらも下品に感じないのは、彼女の個性ならではだな。


等と、俺は関係のない感想を抱いてしまう。


仁父さんも帰ってきて


「母さんすまないが、ワインを貰えるかな?」


唯母さんは、何も言わずに夫の好きなワインが貯蔵されている食堂という名の厨房にあるワインセラーに向かい、グラスを2つ持ってくる。


縁さんも同じワインを、趣向しているので縁さん用のグラスも持ってくる。


まだ陽が高いにもかかわらず、一仕事終えた二人に気を使ったのだろう。


シゲさんは、散々暴言を吐かれたことなど、無かったかのように、何時もと全く変わらず白い手袋を室内では、外して部屋の隅で、静かに(たたず)む。


俺は好奇心を(おさ)えきれずに、赤葡萄酒を大きなグラスに注いでいる、仁父さんに尋ねる。


「お父さん、一体どういう流れだったのか教えていただいてもよろしいですか?」


「うん、そうだね。それは縁さんからお願いしようかな?」


仁父さんは、赤葡萄酒を候葺縁(こうぶきゆかり)さんのグラスに注ぎながら、頼むよ的に首をちょっと縦に振る。


縁さんは、注いでもらった赤葡萄酒を一口飲み


「前にも申し上げましたが、マスコミの影響力は我々当人が思っている以上に、大きゅうございます。」


「まして、今や文句なしのスーパースター【彭城楓真】さんの初めてのスキャンダルですから、マスコミはこぞって面白おかしく集まってくると私たちは判断いたしました。」


「しかし、楓真さんが音楽以外に興味があるのは、火吹武将様のチームの事だけです。女にうつつを抜かすような人柄で無いのは、私どもは重々承知しております。」


「そこで、ハニートラップであると始めから判断して、先手を打っておきました。」


敬語で、一つ一つかみ砕きながら話す、縁さんは俺達の人生を生き抜き方を教えてくれる、尊敬する教師だ。

俺と舞は、真剣に聞き耳を立てて、一字一句逃さずに聞き入る。


「これは、言わないでくれと言われたのですが、KABUKIコーポレーション火吹竜治社長が、鷺原 歩(さぎはら あゆみ)を所属事務所より解雇させて、2度と芸能界で生きていけないように手配なさいました。」


「えっ!竜治叔父さんがどうして?」


俺は、講義中にも関わらずつい口を挟んでしまった。


縁さんは俺のそんな無作法を気にする事もなく話を続ける。


「竜治社長は、火吹家当主のご親友である。彭城楓真(さかきふうま)さんの顔に泥を塗った事に対して、大変ご立腹されていたそうです。」


俺は、今度は不躾(ぶしつけ)の無いように、右手を上げる。


「どうぞ、武将様。」


妖艶な美しい教官は、舞踊(みおど)るように右手を優雅に俺に差し出す。


「諸悪の根源が鷺原 歩(さぎはら あゆみ)さんだとは、わかりましたが竜治叔父さんはどうやって、そんな手配が出来たのですか?」


縁さんは美しく、小さな口に人差し指をあてて


「さすがにそれは、企業秘密ということでお願い致しますわ。」


何とも納得いかない俺だが、縁さんからしたら10億でアイドルの芸能人生を切り捨てたことを今の(・・)俺には知らせたくなかったのだろう。


「そして、このお屋敷にマスコミその他大勢が押し掛けてくることを想定して、京仁織物の顧問弁護士 木島先生にお越しいただき、お灸をすえてもらったのですわ」


「理解できる大人の方には、屋敷内に入っていただき、証拠を写したのですわ」


そこで、舞が俺と同様に手を上げる。


「どうぞ、舞様。」


些細な動きでも、妖艶な女帝は変わらず優雅に手を差し出す。


「ありがとうございます。しかしハニートラップの現場を押さえた映像は、テレビ局が管理しているものでは無いのですか?」


縁さんは、赤葡萄酒のワインを揺らしながら


「テレビ局にとって、飛ぶ鳥を落とす勢いのKABUKIエンターテイメント所属の彭城楓真さんと個人事務所所属のアイドルどちらが、今後大切になるかという天秤(てんびん)にかけた結果ですわ」


舞は「つまり、あの証拠映像やあの大型ビジョンを積んだトラックはKABUKIエンターテイメント社長の水島さんが、映像をテレビ局から出させ、トラックを用意されたという事ですか?」


「ご名答ですわ。」


大きなワイングラスを顔の前に出しながら、優秀な生徒を褒める様にグラスを(かか)げる。

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