ハニートラップ
卒業式も無事?に終わり、舞やタカヒコは進学が決まっているので、春休みという有給休暇に入っていた。
俺や彭城楓真走り出している、俺達にそんな優遇は無い。
また、恐らく楓真もそうだと思うが、欲しいとも思わない。
足を止めるのはもっともっと先で良い。
今は走り続けるのみ!!
楓真は卒業式に、自分が計画したサプライズが大成功に終わり、1人こっそり喜んで仕事をこなしていた。
恐らく、手伝わされたスタッフ始め、KABUKIエンターテイメント水島社長には、とんでもなく迷惑をかけたことだろうが
、こんな我がままを嫌でも受けざるを得ないほど、楓真の人気は苛烈で急激で盤石になりつつある。
お金の面からしても、これくらいの我ままならKABUKIエンターテイメントにとっては、痛くもかゆくもないのだろう。
逆にボランティアだッとしても、プラスにしか働かないだろう。
そして楓真は今、テレビの音楽番組収録真っただ中だ。
周囲には、有名どころのアーティストが山ほどいるが、こいつは全くいつもと変わらない。
話さない。愛想を振りまかない。愛嬌も無い。
様は全く誰に対しても、スキを見せない。
悪くいえば、生意気な新人。
しかし本人は、変わらない。己を貫き通す。
テレビ局の一番大きなスタジオで、収録は行われていた。
楓真は、自分の番が来るまでスタジオ内の自分の席に腰かけていた。
隣には、有名どころ大勢の女性アイドルグループの美人がずらりと並ぶ。
楓真のすぐ隣は、アイドルグループのリーダー的存在のアッチャンこと、鷺原 歩さんだ。
週刊誌を良くにぎわす、アイドルだ。
顔は綺麗でスタイルも良く歌もまぁまぁうまい方だ。
アッチャんが、楓真の方を向き美しい口から小声で
「彭城さん。今度、ご一緒に食事でもどうですか?」
楓真はただ一言
「けっこうです。」
俺からしたら、敬語使ってるだけかなりこいつなりに、気を使っているんだろうと思うんだけど
アッチャんには、そう感じられ無かったようだ。
怒気を含んだ、怖い眼で睨み付けぼそりと
「ちょっと、新人のくせして歌がうまいからって、好い気になってんじゃないわよ」
楓真は全く無視。
微動だにしない、強心臓。
そんなこと罵倒されたとも感じない。
そんな楓真の態度に、アッちゃんは怒りの感情をあらわにする。
もともと、アイドルなんてやるくらいだから、小さい時からちやほやされて育ち、年頃になると周囲の男どもは、自分の思い通りに動き、自分をもてはやす。
それが当然の行為と、勘違いしてしまってる典型的な気の強い我がまま女子。
舞や縁さんだって、半端ないくらい美人だが、品もあり性格も良く、コミュニケーション能力に長け他人にも気が使える素晴らしい女性だ。
だが、世の中の大抵の綺麗な顔立ちスタイルとか、学歴が良いとか、お金持ちだとかで、己の性格を歪めてしまう人間の多い事多い事。
人間も動物だから、人よりも優れている。
人よりも自分の方が幸福である。
人よりも金がある。
人よりも自分の方が、、、、
っと、マウントを取り承認欲求が強い輩は、山ほどいるし俺も良く見る。
自分に自信のない人間ほど、マウントを取りたがる傾向が強く俺個人的には、思う。
自分に自信があって、夢や目標をしっかり持ってる奴は、ぶれない。
人を悪く言わない。(言ってる暇がない?)
目いっぱい走っているからこそ、他人でも同じく目いっぱい走ってる奴の気持ちは共有し理解できる。
だからこそ、手を差し伸べる事も出来るが、走っていない奴の事は一切無視する。
それが彭城楓真たる所以だ。
俺が奴の親友でいられるのも、あいつに認められているからこそだ。
俺があいつの信頼を裏切ったら、奴は直ぐに俺から離れていくだろう
そういうドライなところが、あることを俺は知っているが、まぁそんなことにはなるまい。
俺は、走りを止める気など全くないからな。
場所は戻り、テレビ局の歌番組の収録も無事に終了して、それぞれ出口から出て行く。
楓真もマネージャー兼運転手の武藤真一さんと、共にテレビ局のスッタフ専用出口から出る時だった。
武藤さんが「楓真さん、車取ってきますんで、ちょっとお待ちください。」
楓真は「わかりました」と一言いい。
その場で、時間にして数十秒一人で立っていた。
その時だった。
後ろからいきなり女性が、楓真の右手を掴み自分のふくよかな胸を押し当ててきた。
楓真は全く動じずに
「何してんだ?」
っと、言った瞬間。
パシャ、パシャ、パシャ
っと、連続してカメラのフラッシュがたかれる。
腕に抱き着いてきたのは、アイドルグループの鷺原 歩ことアッちゃんだった。
写真を撮影したのは、ゴシップ週刊誌で有名な記者とカメラマンだった。
キィキキキ~!!
近道さんが運転する、真っ黒のワンボックスが記者と楓真の間に割り込み、武藤さんが運転席から飛び出てくる。
「楓真さん!大丈夫ですか?」
楓真は何が起こっているか、全く理解しておらず
「何がだ?」
っと、変わらずに答えるが、武藤さんの慌ててぶりから、何かとんでもない事が起こったのは理解できたが、自分が悪い事は何もしていないので、全く変わらず立っている。
鷺原 歩が楓真の横で
「明日の週刊誌のトップ記事が楽しみね。楓真さん」
っと、嫌になるくらい憎らしい表情をして、その場から立ち去っていく。
武藤さんはかなり焦って、写真を撮影した記者を追いかけようとしたが、既に逃げられた後だった。
「くそっ!!」
思わず、武藤さんが感情をあらわにする。
楓真は、全く変わらずまた理解もしていなく
「武藤さん、どうした?」
武藤さんは、楓真が理解できるように今の一瞬のでき事を説明する。
「今のは鷺原 歩のハニートラップです。明日の週刊誌トップの見出し記事は、楓真さんと鷺原 歩の熱愛発覚!なんて記事になります。」
楓真はそれでも理解できずに
「なんでだ?俺はあいつを知らない。」
武藤さんもこの緊急事態に、楓真の天然さにちょい苦笑しながらも直ぐに行動に移る。
KABUKIエンターテイメント本社事務所に今の出来事を報告する。
次に楓真の住居となっている、火吹低に連絡し事情を説明する。
「おそらく明日は、テレビ局や記者、ユーチューバー、野次馬、ファンなどがお屋敷周辺に大勢現れるでしょうから、警備を厳重にお願いします。」
「すいません、私が付いていながらこんなことになってしまって」
武藤さんは、平謝りだ。
火吹低で、電話対応していたのはシゲさんだ。
シゲさんは「武藤様、こちらの対処は万全です。」
「それより、今後の対応をお考えになった方がよろしいかと」
武藤さんは、ハッと気づき
「わかりました。直ぐに事務所で対応策を考えます。」
その後の仕事は、武藤さんに変わって楓真のスケジュール管理の山田仁造さんが、運転手を務めてその日最後の仕事をこなした。
武藤真一は、そのまますぐにKABUKIエンターテイメント本社のある六本木に向かった。
途中、直属の上司から水島社長に事情を報告してもらった。
有能な水島社長は、話を聞いた途端にあちこち電話をかけ始めた。
そして、最後に親会社である。
KABUKIコーポレーション社長である。
俺の叔父、火吹竜治社長に電話する。
相手は中々、電話に出なかったが6コール目で電話に出た。
威厳のある声で静かに
「どうしたんだ?水島君。」
水島社長は電話越しにも伝わるくらい、謝罪の気持ちを込めて事情を説明する。
竜治社長は「その鷺原 歩の所属する事務所は何処だ?」
水島社長は平身低頭で「あのアイドルグループは、個人事務所で社長は、かつて芸能界で活躍した冬元誠二です。」
竜治叔父は「わかった、そっちは私が抑えるから、君は今後の対応を考えなさい。」
「わかりました。誠にご面倒をかけてしまい、申し訳ありません。」
水島社長は、可哀想なくらい体を小さくして、スマホの通信スイッチをオフにする。
竜治叔父は一人(火吹家当主の親友に泥を塗るとは、いい度胸だ。)
竜治社長は、秘書を呼び「松下君、冬元誠二という人物が今どこにいるか、調べてくれ。」
呼ばれて、出てきたのは身長180センチはありそうだが、体重は75キロも無いと思われるスリムで、銀縁の奥の瞳には知力と有能な証である、力強い双方の眼に宿っていた。
天下のKABUKIコーポレーション社長筆頭秘書を務めるくらいだ。
優秀過ぎても足りないくらいだろう。
その頃、俺は金曜日という事もあり来週から戸塚営業所への引継ぎや引っ越しの準備に追われていた。
すると、俺の個人用のスマホが鳴る。
俺は個人用と会社用と分けて、スマホを持っている。
会社用は、会社から支給されたものだが、普通部署が変われば会社用スマホも次の担当に引き継がれるものだが、どうしても俺個人と連絡を取りたがる、顧客が多くいる為無理を言って、会社用スマホも俺が継続して持ち歩いている。
実際、俺が叩き出した利益に比べれば、スマホ代など微々たるものだよと、仁社長は笑いながら許可してくれた。
っが、今は就業中だ。
個人のスマホに、出るわけにはいかなかった。
一応、相手を確認すると【舞】からだった。
俺は悩んだ末に、上司である木下課長に許可を取り、プライベートな電話に出る事にした。
「どうした舞?」
舞は珍しく興奮したように
「楓真がハニートラップにはまって、明日屋敷の周りは大変なことになるだろうって、武藤さんから連絡があったようなの」
俺は瞬間的に理解して
「わかった。後はまかしてくれ。」
「お願い。」
っと、珍しく心細い様に舞は答えた。
俺は直ぐに、火吹衛士隊隊長の谷樫心衛さんに直接スマホで連絡する。
詳しい事情は、分からないが楓真の人気を利用した、女性が無理やりそれっぽい、写真か動画を撮影したんだろうと、谷樫さんに話して屋敷の門を閉じて、住人には火吹家が所有する向かいビルの駐車場から、全員地下通路を使って帰宅してもらうよう、連絡を頼む。
有能で、体術に関してはプロでも敵わないほどの、総合格闘家元チャンプは、頼もしく低い声で。
「了解しました。直ちに衛士隊全員招集し、万全の対応を致します。」
俺は「すいません、お願いします。」と言って通話を切り、社長である葛城仁父さんに、直接自分のプライベートスマホで連絡する。
仁父さんは、ワンコールで出てくれた。
「どうしたんだい?こんな時間に」
俺は事情を説明して、火吹家が保有する向かいのビル地下駐車場から帰宅してもらう旨、お願いした。帰ってきた言葉は俺の想像を超えていた。
「それは、我々だけで火消しをするのは無理かもしれないね。一応僕も手を打っておくよ」
「よろしくお願いします。」実に頼りになる、父親だ。
だが、竜治叔父にしろ、仁父さんにしろ有能な大人が、これほど心配するくらい、楓真の人気が凄くて、今回の件がただ事では無いという事なのかな?
現時点では、俺は全てを理解していなかった。
KABUKIコーポレーション本社ビル最上階の社長専用室。
と言っても普通の家が、優にとんでもない広さ2軒は立つほどの広さだ。
人間なら100人のパーティーは、余裕で出来そうだ。
その奥壁に、社長のデスクが3メートル四方ほどの大きさで陣取っていた。
後ろの壁には、KABUKIコーポレーションの銀色で出来た【KABUKI】マークが2メートルはある大きさで、飾られていた。
「社長、失礼します。冬元誠二の現在いる場所がつかめました。」社長筆頭秘書の松下さんが、15メートルは離れている扉からお辞儀して、報告してくる。
「早いな。どこにいる?」
竜治叔父は、余計な会話を仕事中はしない。
プライベートはもちろん別だが
タブレットを開きながら松下秘書は
「現在、赤坂の料亭にいるようです。」
「店の名前は?」
「はい、【TANIJIN】です。」
竜治社長は、上着を羽織りながら
「車を回してくれ、直ぐ行くぞ。後の予定は調整してくれ」
松下秘書は静かに
「畏まりました。火吹社長。」
と言い、お辞儀してそれぞれの部署に連絡する。
竜治社長には、別の秘書と護衛が扉の外で待機していた。
松下筆頭秘書が、先手を打ち用意しておいたのだろう
これくらい出来て当たり前だと、言わんばかりに火吹竜治社長は、周囲を囲まれながら速足で歩きだす。
KABUKIコーポレーション本社ビルの地下駐車場エレベーターの出口に横付けされた、黒塗りの国産超高級車が用意されており、前後にも黒塗りの高級車が護衛として停車していた。
竜治社長が、真ん中の超高級車に乗り込むと、3台は滑るように走り出した。
KABUKIコーポレーション本社も港区虎ノ門にあるから、赤坂までならよほどの渋滞でもない限り、30分くらいで到着する。
【TANIJIN】は中華と和食を混ぜ合わせたような、創作割烹料亭のようだ。
玄関は、中華街っぽく朱色に染まった直系1メ-トル近い柱が2本屹立しており、一歩中に入ると和風庭園の様な豪華さだ。
竜治叔父には、そん事には全く興味が無いようでズンズンと奥に入っていく。
護衛兼秘書たちが、先に事情を説明しており店長に福沢諭吉の顔が印刷されている紙幣を5枚【心づけ】として渡して、冬元誠二の部屋まで、案内してもらう。
冬元誠二は、若い女性と二人だけで料理とアルコールを陽も落ちないこんな時間から嗜んでいた。
赤ら顔で、突然の訪問者に向かって
「誰だ?君たちは?」
黒服のスーツの人間が、一度に大勢個室に入り込んでくれば、驚くのも当然だが、火吹竜治社長は全く気にせずに個室の中に入り込み、勝手に座る。
「な、なんだ、、、」同席していた若い女性も驚き、冬元誠二の隣に逃げるように移動する。
かなり動揺する冬元誠二に秘書の1人が、歩み寄り名刺を渡す。
冬元誠二は名刺を受け取り、名前を読み上げる。
「KABUKIコーポレーション代表取締役社長火吹竜治!!」
竜治社長は、冬元誠二のテーブルの反対側に勝手に座り低い声で話し出す。
「鷺原 歩という女性を解雇して、二度と芸能界で働けなくしてくれ」
冬元誠二は驚き、話が飲み込めぬようだ。
竜治社長は、続いて自分の顔の前に人差し指を一つ立てて
「ただでとは言わん。これでどうかな?」
金の話になり、冬元誠二の顔が変わる。
「KABUKIコーポレーションの社長さんが、どういったことで来られたのか分かりませんが、鷺原 歩はうちのトップスターです。とても1千万では見合いませんよ。」
竜治社長は一言
「10億だ。」
「えっ!!」
酔いも一気に吹き飛ぶほど、冬元誠二の顔は豹変した。
ニヤニヤしながら
「そ、それなら、、、」
火吹竜治社長は、秘書の1人に向いて顎を縦に振る。
合図された秘書は、タブレットの電源をつけて、冬元誠二に向かって
「銀行名と口座番号を教えて下さい。今振り込みます。」
秘書と冬元誠二の間で、いくつかやり取りがあり、10億円の入金を確認すると、冬元はニヤニヤが止まらずに
「鷺原 歩が何か火吹社長のお気に障ることでもしたのですか?」
竜治叔父は愛想も無く
「余計な事は言わなくていい。」
秘書に再度、顎を振り
秘書が一歩前に出て
「冬元様、こちらがこの度の契約書です。印鑑が無ければ右手の親指で捺印してください。」
筆頭秘書松下さんは既に、契約書まで用意して部下に持たせていた。
優秀過ぎる秘書だ。
話の途中だというのに竜治社長は
「失礼する」
と言い、着た時と同じく暴虐武人の様に、勝手に部屋を出て行く。
契約書を交わしている秘書を一人残して、残りの警備の者は竜治社長と共に黒塗りの車に戻り、KABUKIコーポレーション本社ビルに戻っていく。
滞在時間わずか5分余りという、10億円の契約にしては時間が短すぎる誓約だった。




