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KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
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彭城楓真とその仲間たち

帝城高校体育館は、大人を含めて熱狂の渦と化していた。


彭城楓真(さかきふうま)というか、俺達の演奏会はこの体育館で結局3回目だ。

俺と舞の結婚式。

昨年、安藤先輩世代の卒業式。

そして今年、俺と楓真も中退していなければ出席してた卒業式。


まさか、毎年恒例なんてならないよなぁ~


っと、一人思いながらエレキギターのストラップを肩にかけて、スタンドマイクの位置を修正する。


楓真は普段着とはいえ、芸能人。

お洒落な、濃い緑色のロングジャケットにスリムな黒いパンツ。

顔は小さく、髪は真っ黒で豪奢だ。

薄く化粧もしているようだ。


ただ、立ってるだけでもモデルのようだ。


そして俺は、オヤジの黒のスーツ。


舞とタカヒコ、ホト、桜木優香さんは当然、帝城高校の制服だ。


へんてこな組み合わせだが、美男美女が多く。

何よりも、最近の彭城楓真の人気たるや物凄く、一挙手一投足に体育館中の目が楓真を注視している。



先ほど感動的な卒業生代表の挨拶をした、桜木優香さんも自分のエナメルイエローのハードケースから自分のバイオリンを出して、肩に乗せ顎で挟む。


(彼女だけは、この話聞いていたのかもしれないな。ここに自分のバイオリンがあるはずないもんな)


熱狂の渦の中、俺は冷静に分析する。


校長先生はじめ、仁父さん、縁さんも大興奮だ。

唯母さん、興奮しすぎて大丈夫かな?


俺は昨年もここで、楓真と演奏をしたが、今年は違う意味で冷静になっている俺が心の中にいた。


高校生の頃、HANZ(_)で演奏して、歌う事には興奮とエキサイトな気持ちが付きまとっていた。

だが、今はどうだ?


興奮はしている。


だが冷静だ。


周囲が見える。


緊張も全くない。


俺も成長しているのか?


楓真は元々、喋るのが滅茶苦茶苦手だったのに、1年間の芸能生活のおかげか、今日はよく喋る。


だが、俺が登壇するとマイクを俺に渡してきた。


(俺に喋れってか)


「毎年、騒がしい卒業式になってしまい、大変申し訳ありません。」


「それでも、皆さんの心に届いたらとても嬉しく思います。」


俺は周りを見て、痩せて逞しくなったホトがドラムの席に座り、タカヒコがベースを肩にかけて、舞が電子ピアノの前に座るのを確認して、最後に桜木優香さんに目で合図して


「すべての学友に送ります。」


「卒業おめでとうございます!!」


ホトがドラムのスティックをカンカンと2回叩き、いきなり音楽が始まる。


HANZ(_)時代にいつも初めにやっていた曲だ。


俺が作ったオリジナル曲【蒼天に羽搏(はばた)く翼】。


一気に盛り上がる、アップテンポの曲だ。


キュゥィイイイイーン!!


俺のギターが、始めっからぶっ飛ばす。


直ぐに舞のピアノとタカヒコのベースが続く。


しっかりとリズムを刻むのは、ホトだ。

ホトの奴、身体がシェイプアップしたからか、ドラムに切れがあるな。


ミキサー兼DJのミッドが居ないのが、とても残念だが、あいつは今アメリカにいる。

自分の戦いを異国の地で、たった1人で戦っているんだ。


あいつは昨年の9月で、帝城高校の卒業単位を全て取得して、アメリカの理系工学科のトップ。


マサチューセッツ工科大学に入学しているのだ。


そんな事を演奏しながら考えていると、楓真の声と桜木さんのバイオリンが同時に割り込んできた。


(来た来た!音楽はこれが楽しいんだよな。)


やられたらやり返す、こう来たからこう返す。


ここでそのアドリブするか!!ってときはサポートにも回る。


これが、バンドの楽しさだ。


楽器で会話(・・・・・)する。


俺や舞は3歳の頃から、音楽にかかわってきているから、大体一緒に演奏すれば、そいつがどういう奴かわかる。


楓真は間違い用の無い大天才。


舞も違う意味で、何でも広く深く(・・・・)こなす才女。


タカヒコは見た目は地味で、中身もオヤジっぽいジャッジィーだが、実はとても熱いハートの持ち主でブレが全くなく現実的だ。


桜木さんは、情熱的、感情的でアドリブ大好き天才バイオリニスト。


ホトは、、、この一年で一番変わったな。

音楽の音色がリズムが、別人のようだ。裏拍(うらはく)で叩くドラムなんてまったくやらなかったのに、こいついつの間にかドラムの腕も上げたな。


縁さんの影響が早くも表れたのかな?


うん、カッコいいぞ!!


そして俺達HANZ(_)の頭はこいつだ。


楓真の頭のてっぺんから、拭き溢れる高音の響き渡る声。


声量も半端ね。マイクいらねぇんじゃね~


唄い方も少し変わったな、動きが入るようになった。

小刻みに首を縦に振り、足でリズムを取り踊るように舞うように歌う。


前は棒立ちで、歌っていたんだがな、、、


そこに舞が電子ピアノを弾きながら、高い女性特有の綺麗なソプラノでハミングする。


楓真は、ギターを弾く俺の隣に来て、ひとつのマイクで一緒に歌唱する。


場内が黄色い歓声で、溢れ渦巻く。


舞が言うには、元帝城高校女子人気ナンバー1とナンバー2のコラボだ。


級友達にとってみたら、久しぶりに元クラスメートに会ったら、1人は大スター。

もう一人は、先日のテレビで暴露した壮大な夢を抱く、KABUKIコーポレーション創設者直系の曾孫。


驚きの現実だ。


盛り上がる、盛り上がる、盛り上がる。


校長先生や教育に厳しい教頭先生もリズムを取って、踊っている。


興奮の坩堝(るつぼ)に一瞬で巻き込んだ中、俺は汗を溢れさせながら一曲目を終えて、マイクを握る。


「次の曲は、本来ならここで皆と一緒に卒業式を迎えていた、俺達の親友御堂大智(みどうだいち)君が作った楓真のデビュー曲、ジャスティス・ローを演奏します。」


俺は後ろ振り向き、ホトを見て頷く。


ホトがいきなり、シンバルをジャン!!っと、叩き割るように力強く慣らし曲は始まる。


実は俺が作詞作曲した、楓真のデビュー曲。


楓真の俳優として、歌手としてデビューとなった思い出深い曲だ。


あの時、ミッドは俺の屋敷の地下で、汗でびしょびしょになりながら、曲を完成させていたっけな。


ちょっとの間、今は遠く異国の地で1人戦っている、親友の思い出に浸りながら、ギターをかき鳴らす。


舞は無論のこと、タカヒコもホト、桜木優香さんにとっても初めて聞いた曲でもその場で、合わせる事は簡単な事だ。


タカヒコは幼いころから、父親のジャズを叩きこまれて育った。相対音感、コード進行なんて即興でやってしまう。というかやりすぎてしまう


ホトは、危ないと思ったら確実にリズムを刻みだす。

あえて、無理はしない。それがホトの良さだ。


舞は3歳から俺と同じく、ピアノをやっていたので絶対音感に近いものを持っている。

音楽に関しては、楓真と唯一タメ張れる実力者だ。


桜木さんとの演奏も幾度と、なくやってきた。

彼女のバイオリンは、魔術の様に音を自在に操る。

型にはまった、綺麗なバイオリンでは無く、自由に生き生きとした、アドリブ大好き天才少女だ。

クラシックの様な、芸術っぽい音楽は苦手なのかもしれないが、彼女は音を楽しむのが好きで似合っている。


楓真は歌を音楽をやる為に生まれてきたような人間だ。

これほどの天才を俺は知らないし、天才がこれほど努力することも知らなかった。


俺なんか、楓真に比べりゃまだまだまだと思う。


ハイ!!ハイ!!ハイ!!


体育館内は、圧倒的な情熱の渦に包まれて、熱気は体育館の外まで溢れ出ていた。


(やっぱ、こいつらと演奏するバンドは楽しいな)


最近、仕事しかしてこなかった俺には、新鮮でリフレッシュできるひと時だった。


ただ、久しぶりに引くギターが思いもよらずに、上手く左手が動かないことが、ちょっと悔しかった。


舞やタカヒコだって、久しぶりに弾く楽器だろうに、、、


上手く奏でるな。


負けないぞ。


そして3曲ぶっ続けに弾き語り、会場内の熱気は全く冷めず、逆にまだまだ盛り上がりそうな雰囲気の中、俺が一呼吸おいてマイクを持つ。


「はぁ、はぁ~、最近仕事ばかりで、体力が落ちているのかな?みんなの熱気に押されっぱなしで、息が上がってます。」


「楓真は、私の事を悪友と言うけど、あいつが人の何倍も努力してきたことを私は知っています。」


「こいつは、今の人気を運ではなく自分の力で捥ぎ取(もぎと)ったんです。ここにいる皆さんにも同じ可能性があります。」


「人は成長し、変わることができます。それを私は会社という世界で、沢山見てきました。」


「自分が変われば、周りが変わります。周りが変われば、未来が変わります。皆さんも成長を止めないで下さい。楽をする事は簡単な事ですが、それでは自分の未来に(ふた)をしてしまいます。」


「これからの日本を変えていくのは、僕たちです。これからも一緒に全力で走り続けましょう!!」


ワァ~ワァ~


「火吹ー!!」「彭城く~ん!!」「舞ちゃ~ん!!」


それぞれに、歓声を浴びながら


「それでは、時間も決まっていますので、最後の曲です。今大ヒット中の楓真の曲【片翼の堕天使】です。」


「一生の思い出になってくれると、嬉しいな。」


ハァアアアアア~


演奏が始まる前に、楓真が一人で歌いだしたよ。


すげぇうまいけど、自由すぎだろ!!


舞のピアノが入り、曲が始まるかと思いきや舞が引いてる曲は確かに、【片翼の堕天使】だけど、ベートーベンの【運命】混ぜてるじゃん。


僅かに開いた間に、ジャジャジャジャーン!!


(おいおい)


それに合わせて、タカヒコが悪乗りを始める。


【運命】に【運命】を乗せて重ねる、アドリブたっぷりで


っで、こうなるともう手に負えん。


桜木優香さんの左手が魔法の様に動き、豪華に素敵に【運命】を挟み込む。


楓真は、そんな事に全く動じずに、いつもの調子以上の迫力と透き通るハイトーンボイスで、友達の卒業式を祝う。


俺は、自分の未熟さを感じたので、ホトと同じくリズムをキッチリと刻み弾く。


若くはじける熱気と溢れんばかりの興奮を乗せた卒業式だ。


最後の曲が、終わる。


自然と場内から湧き上がる、声、声、声。


「「「「アンコール!!」」」」


「「「「アンコール!!」」」」


「「「「アンコール!!」」」」


まさに騒然だ!!


俺はギターを置き楓真の右手を取り、左手に桜木優香さんの手を取る。


舞やタカヒコ、ホトも楽器から離れて、壇上前に横一列に並び手を繋ぐ。


俺が行った自然の振る舞いに、皆が合わせてくれる。


俺が駆け声をかける。


「いっせ~の!!」


横一列に並んだ、HANZ(_)+1人は握り合った、両手を高々と上に上げて、ゆっくりと下におろしながら深々とお辞儀をする。


しばらく、誰も顔を上げない。


俺が顔を上げると、皆も合わせて顔を上げて、手を振りながら壇上横に去っていく。


「楓真く~ん!!」

「火吹く~ん!!」

「舞ちゃ~ん!!」


会場内は興奮冷めやらぬ中、出演者たちは壇上から降りる。


裏口から諷真だけ、次の仕事があるようでスタッフに囲まれて出て行く。


「わりぃ、先にでるわ」


皆に片手を顔の前に上げて、すまなそうに駆け出していく。


マジで、これだけでカッコいいんだよ。こいつは!!


壇上の楽器やアンプ、スピーカーは直ぐに別のスタッフたちによって、すぐさま撤去された。


体育館横には、いつの間にか大型トラックが横付けされていて、機材は全てトラックに詰め込まれて、運ばれていく。


(これだけの人数使って、金かかってんじゃねぇ~これ?)


「みんな、良かったな!!」


俺は即興というか、まんまと楓真の罠にはめられたわけだが、楽しかったのは事実で興奮し、思い出に残ったのも事実だ。


舞が「楓真にはめられたのが、ちょっと悔しいけどね」


タカヒコは「これはこれで、良かったんじゃないか?皆もとても喜んでいるし」と淡々と感想を述べる。タカヒコ節か?


ホトは汗をタオルでふき取りながらも、特別何も言わなかった。


桜木さんは、興奮冷めやらぬ様に


「こんな素晴らしい、卒業式になるなんて、私絶対一生の思い出に残ります。」


(まぁ~普通じゃないのは確かだな)


壇上では、厳しいイメージ全開の教頭先生が、いつもの様に興奮する生徒たちを一括して、厳粛(げんしゅく)な卒業式に無理やり引き戻す。


これはこれで、流石は教頭先生だけあるなって思う。


これも俺が社会人として一年半、生きてきたから感じる事なんだろうな。

学生の時は、「こえぇ~な~」しか思ってなかったからな。


卒業式は、次に卒業証書の授与に移っていた。


俺はそっと、来賓席に戻り他の皆もそれぞれの、自分の席に戻る。


俺が来賓に用意された、椅子に掛けると横にいる候葺縁(こうぶきゆかり)さんが、俺の両手を握りしめて


「言葉では、表現できないほど素晴らしかったですわ。」


まつ毛が長く、切れ長の美しい目をウルウルさせながら俺の目を見て感動を訴えてくる。


俺は周囲にいる、仁父さんや唯母さんの目も気にしたが、一番気になったのは、親友のホトが縁さんに恋心を抱いている事実を知っているのに、本人に見えるかもしれない場所で、そういう(・・・・)行動は出来なかった。


「縁さん、ありがとうございます。」


「しかしここには、あなたの事を心から慕っている僕の親友が居ます。これ以上はご遠慮ください。」


縁さんも立派な大人の1人だ。


俺の気持ちを直ぐに理解してくれて


「これは、気が回りませんで、失礼いたしました。」


ッと言って、手を放してくれる。


高校生からの告白なんて、大人からすれば真剣に捉えずに自分の欲望を優先する人など、山ほどいるだろうけど、この人はホトの気持ちを馬鹿にしたり(ないがし)ろにすることは無い。


俺の親友だから、、、


もちろんそれもあるだろうけど、ホトの気持ちをこの一年で感じ取った部分、候葺縁としての人間のパーソナリティが大いに関係があるのは間違いない事実だ。


そしてその事実知っている俺は、彼女にとても好感が持てる。


ホト自身もこの一年で見違える体型になり、今日も本来よく喋る奴が、無駄口を一切聞かない。


4月から、ホトは縁さんのCOOBデザイン株式会社の営業社員だ。


ホトのやる気が、ヒシヒシと伝わってくる。


そんな時に、親友の気持ちを踏みにじるようなことは俺には出来ない。


葛城仁社長が、俺の斜め目前に座っていたが、何気ない縁さんとの会話を耳にして、心の中で笑い感心していたとは俺には全く分からないことであった。


そして、今年の卒業式は昨年ほどのハプニングは無かったけど、とても個性的な卒業式として終了した。


みな、それぞれ新たな第一歩を踏み出す事になる。


「やるぞ!!」


火吹武将の覚悟は既に決まっている。

今は、修行の身だ。

とことん、仕事をやり尽くすだけだ。

結果は後からついてくる。

不安になることは無いかと聞かれれば、全く無いとは言えない。


俺を神輿(みこし)(かつ)いで、共に進もう!っと言ってくれる親友がいる。


困ったことがあれば助けてくれる、素敵な大人が沢山いる。


俺がリーダーであるが、1人ではない!!


みんなで戦っていくのだ。


この世界を舞台に!!

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