衝撃
「素晴らしいですわ、武将坊ちゃまに舞様、楓真様。」
「皆さんとても、堂々としてカッコいいですわ!!」
港区のど真ん中に、立つ火吹家本家のお屋敷の中で、テレビを見ていたツネさんが、興奮を顕わにして叫ぶ。
だが、ツネさんの興奮とは裏腹に冷静に、なっている大人たちがいた。
父であり京仁織物株式会社社長 葛城 仁。
執事のシゲさんこと、重道勘蔵。
俺の妾と公言しているCOOBデザインCEO候葺縁さん。
この3人だけは、今のテレビを見てから一言もしゃべらない。
そこに仁のスマホの着信音が鳴り響く。
ルリン ルリン ルリン
黙ってゆっくりと、スマホを取る。
相手を確認してゆっくりと話を始める。
「テレビを見たんだね」
電話の相手は俺の叔父である、現在のKABUKIコーポレーション社長の火吹竜治からである。
竜治は仁と、親友であった俺の実父、故火吹虎雄の弟だ。若い時はよく一緒に飲み歩いていたらしい
「ええ、仁さん武将の言っていたことを御存じだったんですか?」
仁は静かに
「25歳で、独立したいとは聞いていたけど【ゼロシティ】を作りたいと聞いたのはつい最近だよ。」
竜治叔父は威厳と共に声を発する。
「そうですか、わかりました。」
「25歳という事は、6年後という事ですね」
仁父さんは何時でも誰とでも、話し方態度が変わることは無い。
「そうなるね」
日本を背負う会社の大社長は、心に秘める思いと共に言葉にする。
「仁さん、武将をよろしくお願いします。」
仁は変わらずに
「任せてくれていいよ、自分の息子以上に鍛え上げるからね」
「ふふ、お手柔らかにお願いしますよ。」
竜治叔父は、静かにスマホを切る。
仁は黙って今の会話を聞いていた、大人2人を見て声を静かにかける。
「我々も準備しておこうかね」
シゲさんが慇懃に答える
「かしこまりました。」
縁さんは、黙ったまま何かをジッと考えていた。
そんな、大人のやり取りなど全く知らずに、俺と舞は楓真の生ライブをスタジオの端っこから眺めて、改めて親友の才能に感動していた。
「やっぱすげぇな!!あいつの歌は」
俺が舞に熱い視線を送ると帰ってきた言葉は、全く違った内容だった。
「そんなことは、とっくに知っていた事実よ。それより武将のあんな夢があったのなら、もっと早く話して欲しかったわ」
大きな胸を張り、腰に両手をあて俺を睨み付ける女王様だ。
「それは謝るけど、舞だって東大受験に外国語をあんなに覚えていたなんて、俺全く知らなかったぞ」
舞は、悪びれもせずに女王様として宣言する。
「武将が事業を起こすのに、日本だけに留まるはずは無いと思ったから、私は文系だから言語を学んだのよ。世界中の人と仕事ができるようにね」
(こりゃまた、俺も随分と高く見積もられたな、、、)
タカヒコやホト、アメリカにいるミッドたちもこのテレビ番組を見たはずだ。
誰からも、俺に連絡はない!!
皆、覚悟が決まってやるべきことをやるという事か!
(よっしゃ!!準備は出来た。後は進むだけだ!!)
火吹武将と仲間の人生はここがスタート地点に着いたと言えよう。
今までは、親に学校に社会に守られて、生きてきたが、これからは自己の責任において、全て決めていく。
その結果は後から付いてくる。
今は、まだ結果など考えない。ガムシャラにひたすらに進むのみ!
翌々日、月曜日いつもと同じように渋谷にある京仁織物株式会社本社ビルに出社すると、入り口で意外な人物が待っていた。
俺は直ぐに気付き自分から声をかける
「おはようございます。神戸部長」
人事部の鬼部長の異名を取る、武将にとって尊敬できる大人の1人だ。
35歳で、人事部長職に就いているという実績が、本人の能力の高さと人柄の良さを表していた。
「おはよう、火吹課長代理。テレビ見たよ。」
俺はいつも一般社員より30分以上早く出社する。
その事を知っていて、俺にテレビのことを言いたくて早く来て、待っていたわけではあるまい。
俺は考えを自分の中で、思考を重ねる。
「何か社内で、あったんですか?」
鬼の人事部長と人は呼ぶが、俺はまったく正反対の感情を抱く部長が言いずらそうに、小声で話す。
「君が、KABUKIコーポレーション創設者の曾孫だったことは、人事の僕でも知らなかったことなんだけど、土曜日のテレビでそれが、公になり社内で随分騒がしくなっているらしいんだよ。」
俺は少しは影響があると考えたが、土曜日の午前中の番組なんてそれほど見ている人もいないかと思っていたが、どうもそうでなかったらしい。
神部部長は、続けて小声で話す。
「こう言う事は、せめて僕には言ってくれても良いんじゃないかな?」
「すいません。別に隠していたつもりでは無いのですが、、、自分で築き上げた物でもないので、、、その恥ずかしいような、、、」
神部部長は、スリムなスーツと長身で仕事できますオーラを全開にして、右手を拳にして口に当てて笑う。
「くっ、くっ、冗談だよ」
(いつもの癖だ、、、)
「それより、今日の午後に緊急取締役会があるみたいだよ。僕も呼ばれているからね」
(緊急取締役会?なんかすごくやばい事が起こった?)
更に俺に顔を近づけて耳元に神戸部長の口を近づけて小さな声で囁くように一言。
「午後1時、君のパソコンから緊急取締役会を見る様にと葛城社長から、直接君に言うように伝言を頼まれてね」
「えっ!!」
(昨日、俺と舞は衛士塔で、谷樫さんと縁さんからそれぞれ護身術の訓練を受けていたので、仁社長とはほとんど顔を合わせていなかったけど、今朝だって仁社長になんの変わった様子なんてなかったのに、、、)
(それに、神戸部長に伝言を託すって、、、直接連絡くれれば済むはずなのに、、、それほど重要な事なのかな?)
口に出しては、全く別のことを言う。
「神戸部長、それは大変お手を煩わしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「ご指示に必ず従うと、お伝えください。」
と言い、両手を両足の太ももにピッタリと付け、180センチの長身の体躯を折り曲げ、お辞儀をする。
一分の隙も無い、スリムで渋い男性ホルモンを放ちながら神戸部長は微笑みながら
「うん、わかった。それじゃよろしくね」
っと、言いエレベーターまで、颯爽と歩く姿が凛々しく自信にあふれていた。
俺は別のエレベーターで、第2法人営業部の部屋に向かう。
営業部の扉を開け、3課に行こうとするといきなり話しかけられた。
「「火吹課長代理!!」」
俺の部下の寸動永誇班長と近道直子班長が、朝から大声で話しかけてきた。
俺は、全く変わらずに
「おはようございます。」
っと普通に挨拶したが、帰ってきた言葉は熱さと興奮を大きく含んで俺に頭から降りかかってきた。
「どうして、KABUKIコーポレーションの創設者の曾孫さんだったこと、教えてくれなかったんですか!!」
「あの彭城楓真さんと親友って、どういうことですか!!」
「奥さんが、あんな素敵で優秀な方だったなんて、紹介してくれても良かったんじゃありませんか」
「それにあんな、凄い目標を持っていたなんて私たち全く知りませんでした。」
「課長代理は自分のことを話さな過ぎです!!」
「私たち、もっと課長代理と近い場所にいると感じていたのに、全然知らないことばっかりだったんですね!!」
俺はもう、どう言っても納得してもらえないと、両手を上げて一言。
「すいません。」
っと、謝罪する。
気の強い二人は、話しているうちにヒートアップし過ぎて少し涙目になりながら
「謝って済む問題ではありませんよ!」
そこで、出社してきた全てを知っているが、一切口外しない信頼する先輩が口を挟んでくれる。
「朝からどうしたんですか?大声が外まで聞こえてますよ。」
安藤聡主任で、信頼と安定感を併せ持つ、心優しき帝城高校の先輩だ。
「「安藤主任!!テレビ見てないんですか?」」
安藤先輩も俺とは違った意味合いで、何処にいてもどんな状況でも自分を偽らない。変わらない。
それが安心感を産む。
「テレビは見たけどね。」
「そして君たちが、興奮する気持ちも分かるよ。」
「でもここは会社で仕事する場所だよ。課長代理がどういった人間だろうと仕事には、関係ないだろ」
「僕や課長代理が、君たちのプライベートな事を聞いたことあるかな?僕には記憶にないけど、それと同じだよ。」
安藤先輩の進化の速度は、とても速い。
入社して1年で、人ってこれほど成長できるんだな。
思わず感心する俺だが、気の強く、自己主張が強い女性の扱いには慣れてるというか、俺の周りに多くいるので、これほどの事で感情をむき出しにしたりは俺は無い。
ただ、説得や言い訳は無力だと知っているだけだ。
安藤先輩に救われたな。
流石に、二人も言い過ぎたと感じたようで揃って
「「火吹課長代理、失礼しました。」」
謝罪してきた。
俺は全くいつもと変わらずに
「構いませんよ。それじゃ今日も一日頑張って仕事しましょう」
「「はい!!」」
またもや、二人の声が被る。
俺は心の中で、(やれやれ~この感じだと、社内の人間は全員知っていると考えた方がいいな、、、テレビの影響力ってすげぇ~な)
そんな中、午前中は溜まっていた事務仕事をこなし、昼食は近くの定食屋さんで済ませて、約束の午後1時15分前には自分のデスクに座り、自分のパソコンのアクセスキーを使って、役員会議室の様子をモニターする。
もちろん、誰でも閲覧できるわけではない。
社長の仁父さんが、俺のパソコン権限を無限に許可してくれているからこそ、出来る事だ。
俺は隣に座る安藤主任に声をかける。
「主任、すいませんがこれから重要なリモートがあるので、私の周りに人を近づけないでもらえますか?」
安藤主任は、深く詮索せずに即答してくる。
「わかりました。」
余計な事も聞かない。安心感絶大だ。
俺と違う意味で、20歳とは思えない態度だ。
俺はパソコンのBluetoothで、イヤホンを繋ぎ音声を俺にだけ聞こえる様に耳にはめる。
13時5分前。
モニターには、徐々に集まりだす京仁織物株式会社の役員と主だった部長、本部長、事業部長、各支局長や工場長たちが集まりだしている様子が写されていた。
小袋織物会社融資の件で、稟議書を上げてプレゼンテーションした折に、全ての取締役の顔は覚えている。
仁社長の話だと、この会社には副社長、常務、専務が居ないとの事だ。
葛城仁のワンマン会社と言えなくもないが、その人柄がワンマンという単語とは結び付かないことは、おれは重々知っている。
戸田営業本部長取締役始め、それぞれの取締役には任された部署があり、その部署を統括する責任者でもある。
仁社長がそれら、すべて一人でこなすのは物理的に不可能だ。
上場企業である。この会社の規模からいっても取締役の人数は相応だと思うが、序列が無いのはいかにも仁父さんらしい。
年功序列でもなく、成果主義でもなく、強いて言えば人間主義。
のような会社が、この京仁織物会社だ。
人間の個性を大切にして、挑戦をし続ける会社。
それが、俺が働いてきて思った、この会社の社風だ。
一代で上場企業まで、登り上げるのは人材の途用にも、組織作りにも練度が足らないのは、致し方のない所だろう。
だが、偉業であることは間違いない。
午後1時丁度。
それぞれの役員、部長たちが座る大きなデスクの上座に、葛城仁社長が秘書の木原柑奈さんを連れて、入室してくると同時に、全てのその場にいる、要職に就く人物が席を立ち上がり社長を迎え、社長が座ると同時に着席する。
仁社長が、こう言った形式的なことに執着しないことはよく知っている俺にとっては、自然と生まれたものなのだろうと思った。
だが、大人として人の上に立つ人間として、その会社の最高経営責任者に敬意を払うのは当然とは思うが
全員が着席すると、いきなり仁社長自ら話を始めた。
「新年度から、大規模な人事異動を行おうと思うんだ」
皆、黙って社長の言葉を聞く。
仁社長は続けて
「まず、此処にいる取締役の人事を改革しようと思う。これから私が言うのは、あくまでも私個人の考えだよ」
前置きして、
「まず、副社長に戸田営業本部長取締役。」
「続いて、常務取締役に神部人事部長。」
「専務取締役に木島事業部長。」
「取締役に私の秘書である、木原君が入る。」
「まずは、此処迄どうだろうか?」
取締役の人事は、取締役会で決定される。
よって、社長とは言え辞令を出すように命令する事は出来ないのが、規則だが葛城仁社長は自社株式を60%以上自己で保有していて、現在の経営最高責任者である。
これは、いわば暗黙の強制辞令だ。
仁社長は、即座に言葉をつむぐ。
「反対のある人は、挙手して」
初老の取締役が挙手をする。
「恐れながら」
仁社長は即「爪伊取締役。」指名し発言許可する。
(この取締役は、俺がプレゼンした時に散々文句を言っていて最後は捨てセリフを吐いた性格の悪い奴だ。)
爪伊取締役は年の頃、50代後半。白髪に嫌味な性格がにじみ出たような、目付きの悪い人物だ。
「葛城社長は、どういったお考えでこの人事をお考えいただいたのですか?」
仁社長は、爪伊取締役をジッと見つめて優しく
「会社の若帰りかな?当社も私が起業して25年以上が経ち、そろそろ会社の中枢に若い人たちを入れようと考えたんだ。」
まったくいつもと変わらずに、話す。
意地の悪い爪伊取締役は、社長にも噛みつく。
「若帰りは必要と思われますが、幾らなんでも部長職やまして女が取締役とは理解しかねますが」
葛城社長は変わらずに淡々と
「まず今の発言に対して、言わせてもらおう。」
「公の場で、女性の事を【女】などと呼ぶ者は、人の上に立つ資格があるとは私は思えない。それに仕事の能力を男女で分ける事も時代錯誤だね。」
「ぐっ!」
言葉に詰まる、爪伊取締役だ。モニターからもその内に含んだ怒気が感じ取れる。
葛城社長は、全く動じずに
「他に反対の者が居なければ、決定事項とするが構わないかな?」
「「「「はい!!」」」」
その場にいる、ほとんど全員が返事をする。
仁社長は話を続ける。
「それでは、後の議題は木原柑奈新取締役に説明してもらう」
仁社長の後ろに控えていた、冷静冷徹一部の隙も無い女性は、持っていた資料を机の上に置いて、社長に変わり話を前置きもなくいきなり本題から始める。
「爪伊取締役、岸口取締役、恩田取締役の解任と辞職の議題に移らせていただきます。」
「「「「!!!!」」」」
爪伊取締役が立ち上がり、怒りを顕わにする。
「ふ、ふざけるな!!女の分際で何を言ってやがるんだ!!」
木原さんは、銀縁の眼鏡の奥の鋭い目で、爪伊取締役を睨みつけて、それぞれの席の前にあるモニターに資料を写す。
感情を込めずに話し出す。
「爪伊取締役は、商品材料仕入れ担当取締役として、その責を全うしてこられましたが、その業績とは裏腹に取引業者に対して有害な接待を強要したり、金銭を要求しておりました。その証拠がこちらにある、資料と弊社取引業者担当部長本人の証言動画です。」
そこには、キャバクラの領収書やら、取引業者の接待交際費の詳細が人物の名前入りで、克明に記入されていた。
そして、この場に居るほとんどの人間が知っている、自社の製品に使う材料仕入れ業者の営業部長が移った動画が流れ始めた。
「爪伊取締役に、強制されてキャバクラや風俗店等に接待しました。また、時には金銭を要求されることもありました。弊社としては、京仁織物様とのお付き合いが無くなれば、倒産にもなりかねませんので、仕方無く従っておりました。」
「それは、間違いない事ですね」女性の声で確認される。
「はい、間違いありません。どこにでも出頭して証言いたしますから、どうかお取引の中止だけは」
「それは、ご心配なく。これはあくまで弊社内での調査ですので」
っと、また女性の声が入る。
(きっと、この声は秘書課の人なんだろうな、秘書課室長兼社長直属秘書。それが、俺の尊敬する木原柑奈新取締役だ)
指名された、爪伊取締役は青ざめた顔をドス黒く怒気をまき散らして、下を向く。
木原新取締役は辛辣に更に話し続ける。
一切の感情を込めずに事実だけを淡々と語り続ける。
「続けて岸口取締役は会計責任者でしたが、横領が発覚致しました。手口は実際支払われていない出費を帳簿上で操作しごまかしました。」
「横領した金額は、6000万円。全て岸口取締役の奥様個人口座に振り込まれていました。」
「続けて恩田取締役は福利厚生、人材教育の責任者ですが、その立場を利用して、若い女性社員に対して醜悪なセクハラ行為または、強制性交をしておりました。」
「証言、証拠は全てここにあり、皆様のモニターに映しております。ご確認ください。」
少し待ち、木原新取締役は更に止めを刺す。
「以上3名とも、人道に反する外道以下であると判断し、解任辞職は当然のこと法の裁きも受けるべきかと愚考いたします。」
「よって、この場で皆様に決めていただきたいと存じます。」
スッと、引き下がり社長の後ろに静かに控える。
感情的にならずに、事実だけを述べ辛辣な言葉で批評するが冷静冷徹。これが木原柑奈さんというパーソナルなんだ。
葛城仁社長が、その後を引き継ぎ
「うん、これはダメだね。」
言い逃れできない、証拠が山ほどあり言い逃れできる様な状況ではない。
指名された3人とも顔を下に向け、青ざめている。
仁社長はそれでも優しく
「爪伊君は、日井商社からの中途採用だったよね。入社したてはよく頑張ってくれて、会社の業績も上がったんだけどね」
「岸口君は、僕が創業当時からのたたき上げだよね。実に残念だ。恩田君は言語道断だ。君にも娘がいるんじゃなかったかな?その娘が自分の行った非道と同じ目に会っていたら父親として君はどう思うのかな?」
「ここで、決を採るけど、まさか反対する人はいないよね」
「「「「はいっ!!」」」」
全員一致で、3名の辞職が決まる。
葛城社長は、変わらず穏やかに
「これを公にするのは、我が社のイメージもあるから、社内で処理しようと思う。」
「岸口君が横領したお金は、全額返金してもらう。もし足りない分があれば、退職金より弁済するものとする。」
最後まで、変わらぬ話し方をする葛城仁という男に心底惚れる、息子の俺だった。




