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KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
63/107

クソオヤジ

パッカ~ン


スリッパで、夫を叩く妻、、、、


夫婦漫才???


「すみませんね~、内の旦那はいつもこんなで、申し割りません。っで、どちら様?」


奥さんとは、話ができそうだ。(思わずホッとする)


自分のスーツの上着の胸ポケットから、名刺を出し女性に渡す。


「京仁織物さんの課長代理、、、ま・さ・か 取引辞めるってんじゃないでしょうね。」


女性は年の頃は、ツネさんと同じくらいだろうか、50代前半くらいのまだ働き盛りの、ちょっとふっくらした、昭和の肝っ玉母さん風の感じだ。


俺は全くいつもと変わらず、平静に「とりあえず、中を見せてもらっても良いですか?」


小袋社長の奥さんは、気が強いが良い人で頭の回転も早かった。


(まぁ~この旦那と長年夫婦やってるだけあって、肝っ玉の座りっぷりは大したもんだ)


「どうぞどうぞ、汚い所ですけどね。」


と言い俺達3人を招き入れてくれる。


1階が縫製工場になっており、2階が事務所兼社長家族の住宅になっているようだ。


1階の工場の一角にある、テーブルに俺達3人は座る。

奥さんがお茶を入れてくれるまで、俺は工場をジッと見ていた。


オッサンは、それから一切、一言も 喋らない。


奥さんが、俺達3人分のお茶を入れて、持ってくる。

何処か、焦りを感じる緊張感を含んだ顔つきだ。

俺達が何しに、此処に来たか不安で一杯の顔つきだ。


恐らく、あの旦那の性格のせいで、いくつもの取引先から契約を切られているのだろう


もし、内が取引中止たら、間違いなくここはつぶれる。


俺は奥さんの方を向き「奥様、此処に従業員は何人いますか?」


奥さんは直ぐに緊張気味に答える。


「正社員が3人です、あとアルバイトが5人位いますが、、、」


「今日は、誰も出勤していないのですか?」


奥さんは困ったような顔をして「実は、仕事が無いので、休んでもらっているんです。」


俺は全く変わることなく「仕事が無い?おかしいですね、内から受注されてる商品が、届かないと言っていましたが」


おかみさんは、実に言いずらそうに


「先週、内の旦那と従業員が大げんかしちゃってね、内の旦那もあんな性格だから、売り言葉に買い言葉で、それなら全員来なくていい!!なんて言っちまうもんですから、みんなへそ曲げて、出社してくれないんですよ」


(・・・・・・・)


俺はおかみさんの意表を突いたお願いをしてみた


「正社員の連絡先を教えてもらえませんか?」


「あっ、もちろん個人情報保護法は順守しますので、決して他に漏らす事はしませんから」


電話番号、メールアドレス、住所どれでも一つでも、他人に漏らしてはいけないという法律が、個人情報保護法だが、実際近年できた法律で、確かに正しいとは思うが、気軽に電話番号も聞けない世の中に、マナーとか思いやりという言葉は、無いのだろうかとふと考えてしまう。


全く関係のない話だが、最近の日本の法律はオリンピック開催に向けて、無理に無理をしている感が歪めない。


【働き方改革】残業をなるべくさせない会社が増えてる中、管理職の人間は残った仕事に追われる。


仕事頑張って、出世したい人間や独立するためのスキルを学ぶために、仕事を覚えたい人間は、いつ仕事を覚えればよいのだろうか?

タイムカードを押さずに、仕事をすればブラック企業だの、モラルに反するだのと会社は許可をしない。


【受動喫煙防止法】美味しいお店なのに、未成年が入れない店舗が増えてきた。東京では喫煙は【悪】として、飲食店や公共の場では全面禁煙だ。

俺自身、周りの大人もタバコを吸う人間はいないが、そこまで無理に世界水準に合わせる必要はないのではないか?


日本には日本の良き歴史と文化があるのだから、他国の真似をする必要はないと思う。


新しい事をする事は、良い事だ。

それが間違っていれば、直せばよい。

会社も国も、規模の違いはあれど、人間が集まって仕事を通して、生活しているのだから同じだと思うのだが、やはり規模が大きくなると、フットワークが重くなるものだろうか?


以前に仁社長が、【法律は万能ではない】と言っていたことがあるが、なんでも法律で解決するのはどうかと俺個人は思う。


マナーや思いやり、それこそ、【おもてなし】の心はとても大切なものではないのかと密かに思うこの頃だ。




おかみさんは、良い人で直ぐに3人の正社員の携帯電話の番号を教えてくれた。


俺は立ちあがり「門田さん、ちょっとここで待っていてもらえますか?」直ぐに「はい」と返事が来る。


安藤先輩には小声で「あのオッサン、暴れださないように見ていてください」「ま、任せて下さい」武闘派とは無縁の安藤先輩が、緊張しながら答えてくれる。


俺は自分のスマホを出し、工場の外に出て従業員一人ずつ電話をかける。


「突然、お電話してしまい申し訳ありません。私 京仁織物㈱の営業しております、火吹と申します。御社の社長の人柄について、率直な感想をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」


同じ内容の電話を3度する。


30分以上かかっただろうか、俺は工場内に戻ってきて皆が座る、テーブルに腰かける。


オッサンだけが、俺を見ないが、他の全員が俺に注目する。


俺はまた、意表を突く質問を投げかける「奥様、お子様はいらっしゃいますか?」


おかみさんは直ぐに「20歳と18歳の2人の男の子がいます。」


俺は続いて尋ねる「この会社を継ぐ予定などあるのですか?」


おかみさんは、正直に話してくれる。


「この会社は、旦那のお爺様が、開業したんですよ。その後、旦那の父親と内のと3代続いてきてます。私も先代の代から従業員として働いていて、お父様に気に入ってもらい、【うちの息子の嫁になってくれ】って言われて、今こうしているんですけど」


「こう言っちゃなんですけど、先代、先々代ともに頑固で職人気質でしてね、内の旦那もああ見えて、仕事はいい仕事するんですが、性格と仕事に対する(こだわ)り具合が強すぎちゃってねぇ」


「もうちっと、愛想がありゃ、この工場ももっと新しく出来たんでしょうけど、今うちの家計は火の車ですよ」


「このままじゃ、次の代に渡す前に潰れちまいますわ」


肝っ玉母さんも、流石にここまで来ると、崖っぷちのようだ。


俺は話をよく聞き、向きをかえ話しかける


「小袋社長。」


帰ってきた言葉は


「なんだ、クソガキ」


だった。


それでも俺は、変わらずに


「これで、本当によろしいのですか?社長の代で、築いてきた技術、信用を全てを失ってもよろしいのですか?」


また帰ってきた言葉は、予想通り


「おめぇに何の関係がある、クソガキ!!」


だった。


俺は全く変わらずに話し続ける


「この工場の見た目は、相当に酷い。しかし工場で使う機械は、相当古いにもかかわらず全て隅々まで、綺麗に手入れされている。」


「だから何だ!クソガキがいっちょ前に分かった風な口きくんじゃねぇ」


パッカ~ン


スリッパの叩く音が響く


「あんたは黙ってな!この人の言う事を聞くんだよ」


(夫婦漫才の方が、お金になるんじゃない?)


「先ほど、正社員の3人の方とお話しさせて頂きましたが、皆さん声をそろえて、社長を誇りに思うと言っていましたよ」


門田係長と安藤主任が同時に


「「えっ??」」


っと答える。


俺は自分の話を続ける。


「社長と喧嘩になった原因も、社員のお一人がミスをして取引先に酷いことを言われたことに対し、小袋社長は取引先に謝罪を求めに直談判に行ったところ、、、まぁ~当然の結果ですが、取引を断られたという事で、社員さんは自分を首にしてくれと嘆願したが、小袋社長は首を縦に振らず。」


「結局、言い合いになり喧嘩に発展してしまい、引くに引けぬで、全員欠勤という現状になっているのだそうですね。皆さん出社したいのに、小袋社長が怖くて 出社できないと言っていましたが、皆社長の行為に対しては【誇り】に思うと言っていましたよ」


「それと、社長の事も言っていましたよ。不器用だけど、仕事に対する(こだわ)りは自分たちにとって、自慢だと言っていました。」


「皆さん、良い人ばかりですね。」


「もう一度聞きますね、この会社を小袋社長の代で終えていいんですか?」


小袋社長も黙り込む


「いいわけがねぇ、、、」


俺は初めから最後まで、変わらず静かに同じ調子の火吹節(かぶきぶし)で話す。


「それでは、会社は継続していきたい意志があるという事ですか?」


「あったりめぇだろ!!そんなことクソガキに言われんでも、、、」


パッカ~ン


(夫婦漫才の域を超えてるよ、、、)


おかみさんが、話に加わる。


「この人は、見かけも性格も乱暴だけんど、仕事は真面目だし いい仕事するんだよ。どうしたら助かるんかの?」


俺は席を立ち、小袋社長の前に立ち


「あなたに、今の自分を変える意志と、勉強する強い気持ちがあれば、この苦境を乗り越えられます。」


「小袋社長のお歳からでは、正直とても大変な事だと思いますが、出来ますか?」


思わず、黙りこむ小袋社長。


俺は、軽く『ああ、できるよ』なんて答えたら、信用はしないつもりでいた。

相当な覚悟を持たなければ、今の状況を打開することはできない。


軽くてはダメだ。


強い覚悟の上に、成功はある。


中途半端では駄目なのだ。


しばらく、小袋社長は考え込む。


沈黙が重く続く。


誰も軽口を叩くものなどいない、小袋社長の言葉を待つ。


するとやっと、小袋社長がゆっくりと言葉を絞り出すように、ガラガラ声で話し出す。


「おめぇの言う事は、俺もこの年まで生きてきたんだ、俺が悪い事も良く分かっちゃいる。 だけどよ、すぐに変えられるもんでもない。おめぇの話の様にすれば、会社と社員が助かるってんなら、頑張ってみる、、、つもりは 【ある】」


俺は満面に笑みをこぼしながら、「それでは早速変えていただきたいことが、3つほどあります。」


「よろしいですか?」


ツナギの作業姿の社長は「あ、ああかまわねぇぞ」どもりながらも、俺の言葉を肯定する。


俺は変わらず微笑みながら3つの課題を話し出す。


「一つは、私は【クソガキ】では、ありません。火吹武将と言います。【火吹君】と呼んでもらえますか?」


小袋社長にとって、こんな事でもかなりハードルが高いようだ。

額に汗が、(にじ)む。


5分が経過した頃「か、火吹君、、、」っと小声で言う。


まぁ、自分の子供と同じくらいの年齢の俺に、君付けで話すだけで、この人にとっては相当苦しい事なのだ。


俺は変わらず、微笑みながら


「では、二つ目です。私の妻に謝罪してもらえますか?」


先日の国宝亭・随庵こくほうてい・ずいあんでの一件の謝罪を求める。


これまた、かなりこの人にとっては、ハードルが高いらしい。


顔が汗でまみれ、顔色が悪くなってきている。


だが、小袋社長は苦しそうに「わ、わかった」と言った。


俺は、既に妻の舞には、現在の事情を話してあり、自分のスマホのズームを開いて舞の顔を小袋社長の顔の前に差し出す。


舞は、既に春休みに入っており屋敷にいた。


小顔で、黒髪が見事な美人の顔が、スマホに現れて小袋社長は少し驚いていたが


画面の中にいる、舞の方から話しかける。


「小袋社長、始めまして。私は火吹武将の妻 舞と申します。」


画面越とはいえ、自分の父親より上の男性で、しかも先日とんでもないトラブルにあわされた本人にきちんと、堂々と挨拶をする。


心強い、愛する綺麗な妻である。


小袋社長は、またしても黙り込み顔中汗だらけになっていた。


だが、舞も挨拶した後は何も言わずに、小太り社長の言葉を待つ。


また、沈黙のひと時が流れる。


これまた、スマホの画面に映る舞に向かって、声を絞り出す。


「こ、こ、この間はす、すまなかった。」


画面の中の、舞は俺と同様 超素敵な笑顔を見せて


「社長の謝罪を受け入れます。どうぞこれからはご自重ください。」


っと、女王の如き対応で、返す。


以前の小袋社長ならすぐにカッとなり、【なんだと!!生意気な女め!!】ぐらい言いそうだが


社長は、グッと自分をこらえているのが、端から見ていても分かるほど、我慢していた。


「わ、わかった。」


言葉少なに、返事をする。


俺は、最後の問題をさらりと言う


「小袋社長には、社長を降りていただきます。」


もう精も根も尽き果てたように、小袋社長は答える。


「それで、会社が守れるなら仕方あんべぇ」


俺は口調を全く変えずに淡々と話す。


「社長は当面、奥様になっていただき、【会社の顔】になっていただきます。息子さんが会社を継がれましたら、息子さんが社長をして下さい。」


「息子さんには、社会人としての必要な全てを弊社で働きながら学んでいただきます。よろしいですか?」


「奥様、二人の息子さんのどちらが会社を継がれるか、また、経営者に向いていると思いますか?」


スリッパ母さんは、迷わずに


「二人とも、実は父ちゃんの事が大好きなんだけど、何しろみんな不器用でね、、、でも二人とも会社を継ぐにふさわしいと思いますがね」


俺は何となく、想像しながら息子さん像を考えて


「わかりました。では二人とも、弊社で面倒見ます。それと、この会社の土地は会社資産ですか?」


肝っ玉母さんが「ええ、3代続くボロ会社ですけど、土地は法人名義で、どこの銀行からの抵当権も付いてません。」


俺は(うなず)きながら「わかりました。」と言い、続けて


「小袋社長は会長(・・)として、最先端技術の勉強に(いそ)しんで、社員への教育をしてください。」


小袋社長は体中から、汗を拭きだしながら首にかけたタオルで、顔を拭く。


「俺が、か、会長、、、それで、どうやって会社を立て直すんだ?」


(お、早速話ができるようになってきたぞ)


っと、俺は

密かに思い。


「弊社では、今度 ケプラー繊維と弊社の生地で作った、新素材の商品を開発しました。その製品を丸ごと、御社に製造していただく。その為の必要な資金は、弊社より貸付するよう私が上司に掛け合いましょう」


「金額は、大体3億円を私は想定しております。」


「「さ、3億!!」」


夫婦漫才の夫婦が、驚愕の顔で俺の顔を見る。


「もちろん、今貸し付けをお約束することは出来ませんが、私が責任をもって、上司に案件を上げて弊社で話し合います。」


「その間、小袋社長には弊社製造工場にて、最新機械での製造技術を取得していただく」


「よろしいですか?」


小袋社長は、始めて俺の顔を真正面から見て、俺の両手を取り 頭を下げる。


「よろしく頼みます。」


こういう、頑固な人間が変わるのは、とても大変だが 本人が変えようと努力し、それを支えられるのは 俺個人としても嬉しい。


まして、それが一つの会社と社員を守り、発展し人生に係わることが出来れば、尚更だ。


(さぁ~今度は俺の番だ。)


3億ものお金を下請け会社に貸付するんだから、稟議書(りんぎしょ)を作らなければならない。


課長の許可をもらい、第2営業法人部長にあげて、更に事業統括部長にあげ、役員会議で決定する。


とても優秀な、上司たちを納得させることができる、稟議書を作らなければならない。


最後に俺は小袋社長に向かい


「この土地を弊社が貸付する際に、担保として抵当権を付ける お覚悟はありますか?」


小デブの社長は、「ああ、どうせこのままなら倒産だ。火吹君の話に全てかけるよ」っと、覚悟のほどを見せる。


抵当権とは、支払いが滞った時に貸し付けた会社が、その土地を自由にできる事である。


いわば、小袋一家にとっては、先代から守ってきた土地、全てを失うかもしれないという最後の賭けだ。


正直、今のままでは社長の言う通り、倒産は目前だろう


俺は最後に「それでは、小袋ご夫妻には来週の月曜日 朝9時に弊社 第2法人営業部までスーツを着て身だしなみを整えて、来ていただけますか?」


肝っ玉母さんが、代表して答える。


「わかりました。よろしくお願いします。」


夫の頭を左手で、掴みお辞儀させながら


(夫婦漫才は変わらないんだろうなぁ~)

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