取引中止それとも
オッサンは苦しく、藻掻いていたが,
19歳の体力差と対格差では、どうする事も出来ない。
俺の全体重を乗せて、動けないようにする。
オッサンは、あから顔で怒鳴り続ける。
(口だけは、よく怒鳴るなぁ~)
「お願いですから、そう感情的にならずに落ち着いてください。」
俺は優しく話したつもりだが、帰ってきた言葉は
「うるせぇ!!このクソガキ!!」
だった、、、、
(こりゃ、ダメだわ)
そこで、店の店長や男性従業員が、大勢かけつけてきた。
俺は、そこでやっとクソオヤジを解放してやる。
するとまた、暴れだそうとしたが、今度は従業員が数に任せて外に押し出す。
「覚えとれよ!!このクソガキ!!」
(覚えていられるわけないでしょ、、、)
すると、店の奥からスリムな体型に、髪をキッチリ、オールバックにしたスーツを着た40歳くらいの男性が、俺達家族の元にやってきて名刺を渡しながら
「ご迷惑をおかけいたしまして、大変申し訳ございません。私は支配人の田中と申します。」
俺は隙の無さと、厳しい中にも優しさを含んだ、田中と名乗る支配人の第一印象に好感を持った。
「お気になさらずに、こういうトラブルは付き物ですから、他のお客さんに気を使って、上げて下さい。」
「お気遣い誠に、ありがとうございます。」
っと、俺は周りの客席に目を向けると、1卓ごとに既に女性従業員が謝罪して回っていた。
(この田中と名乗る、支配人は無能とは無縁のようだ。)
「私どもの方は、ご心配に及びません。大丈夫です。」
俺はいたって、最初から最後まで変わらない声のトーンで、淡々とそして、王者のように堂々と話し続けていた。
田中支配人は、正座して頭を深く下げる。
「そう言って頂けると大変助かります。」
「お詫びと言っては何ですが、本日のお勘定は結構です。私どもの気持ちございます。」
俺は、これまた調子を変えずに
「お店には、何のミスもありません。お勘定はきちんと払いますからお気遣いなく」
田中支配人は、少しどもりながら
「い、いえ、そういう訳には、、、」
俺はまたまた変わらずに
「このお店は、とても美味しかったので、また来たいのです。ここでお金を払わなかったら、来辛いじゃないですか」
「それに、妻はこの近くの大学に合格したので、友人と一緒に来ると思いますよ」
妻の舞が美しい笑顔で「そうですよ。お気になさらずに」と付け足してくれる。
田中支配人もこれ以上言っても、禅問答になってしまうと感じたのか、これまでの経験からか、身をサッと引き
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます。」
「近くの大学と言いますと、東京大学ですか?」
舞が豊かな胸をはり「はい、今日合格発表だったもので、お祝いにこのお店で、食事をしていたのです。」
田中支配人は、相当優秀らしく、全てを一瞬で納得して余計な事は言わずに
「お若いのに、それは大変おめでとうございます。また、おめでたい日に、この様な事になってしまい重ねてお詫び申し上げます。」
「ありがとうございます。今度は学友と一緒に来させて頂きます。」舞は、ランチでかつ丼1人前8000円のお店に、未成年でしかも学生なのに、また来店すると約束する。
田中支配人は、その言葉を邪険や馬鹿にしたように 扱うことなく、若くても全く変わらない態度と言葉遣いに、俺達みたいな人種がいることを経験上、高級店の支配人としてカンが、働いたのだろう。
「心よりお待ち申し上げております。」
っと、再度頭を下げ店の奥に引き返していく。
そこで、舞節が炸裂する。
「なんなの、あのオッサン!!平日の真昼間から酒飲んで絡んできて、最後は暴力沙汰!!どういう神経してんのよ!!もし子供たちに怪我でもあったらどうすんのよ!!」
俺は、一通り舞の噴出し続ける、不満をしばらく黙って聞いて、舞がやっと疲れて話さなくなってから
「まぁ、舞の気持ちはよく分かるけど、俺が一緒にいる時は絶対俺が家族を守るから、安心してくれよ」
「ありがと。武将さぁ~いつの間にあんな格闘技みたいな技、覚えたの?」
「ああ、谷樫さんに教わったんだよ。護身術として覚えておいてくれって、頼まれてさぁ」
(さすがに武士相手は、お断りしたけど、、、だって、あいつマジでこえぇからな)
「私は、勉強や育児でこの一年間ほとんど、武将の事知らないんだけど、家でやっていた?」
「衛士塔の最上階に、リングがあってさ、そこで教わっていたから、舞は知らなかったんだよ。谷樫さんが言うには俺は筋がいいらしいよ、感情的にならずに冷静に相手を見て動きに無駄がないって褒められたんだ。」
「でもマジでやると、コテンパンにやられるんだけどな、谷樫さんに比べりゃ、あのオッサンくらいならなんともないよ」
舞は、不満をぶちまけて、俺から頼もしい言葉を聞き、安心して
「そうなんだ、、、私も護身術やろうかな?」
「えっ?どうしてまた」
「以前に、縁さんに美人の嗜みだって、言われて、、、縁さん滅茶苦茶 凄いの、大の男を軽く放り投げちゃうんだから」
(お!舞の縁さんへの感情に変化が出てきたな)
俺はそんな舞を喜ばしく、思いながら
「大学も合格したことだし、少しやってみてもいいと思うよ。」
(前に何とか企画のスカウトに拉致られそうになったこともあったことだしな)
舞は、子供達二人を抱きながら「そうね、なまった体を元に戻すためにもいいかもね」っと、自分の思考の中で、何か考えているようだった。
その日は、その後 子供達も疲れてきたようだったので、早々に帰宅することにした。
そして、仁父さんと唯母さんに、東京大学合格を報告する。
「凄いじゃないか、舞。」
仁父さんが、眼を大きく開いて両手で自分の膝を叩きながら、喜びをあらわにする。
「頑張ったわね、舞。」
優しく微笑む、唯母さんを俺はみて、唯母さんだけは受験の事を聞いていたんだなと、直感した。
母娘で仲がいいのは、良い事だが、俺にも話して欲しかったな、、、
まぁ、俺は俺でハチャメチャに忙しい毎日だったけどな
受験学校位、教えてくれてもいいのにと、1人何やら悶々としてしまう俺だった。
そして翌朝、いつもの様に他の社員より早く出社して、安藤主任と清掃していると、近藤直子班長と寸動永誇班長がいつもより早く出社してきて、俺達が毎日の日課にしている掃除を手伝うと言ってきた。
ちょっと以前では考えられない、行為だ。
業務時間以外は働きません!なんて、言ってたからなぁ~
安藤先輩は、1人(火吹君に影響された人間が、どんどん増えていくのは、いいことだなぁ)っと、心の中で思う。
俺は「近藤班長に寸動班長、掃除は僕たちが勝手にやってることですから、付き合う必要はありませんよ。」っと声をかけるが、帰ってきた言葉に驚かされた。
「私たちも、勝手にやっているだけですから、ご心配無用です。火吹課長代理。」寸動さんが代表して言う。
「そうですか、ご苦労様です。」っとだけ、俺は答えて掃除を続ける。
少しずつ、社員が出社し始めて、門田係長が出社してきて、火吹部隊で 自分が一番遅くに出社したことを恥じる様に、背の高い大きな体を小さくして
「すいません、火吹課長代理。年長者の自分が一番遅いですね」
朝から、頭を下げる優しい29歳独身の門田応史係長。
「皆にも言ったのですが、まだ始業時間になってません。遅刻してもいないのに謝る必要はありません。これは僕たちが勝手にやっているだけですから」
俺はごく普通に言ったつもりだったが、翌日から門田係長も30分早く来て、一緒に掃除をするようになっていった。
今の時代。
人より早く出社して、掃除をする行為が正しいとは決して俺は思わない。
だから、掃除に参加しなくても人事考課にマイナスをつける事はない。
ただ、俺は未成年で役職はついているが、一番の年下で新参者だからやっているだけなのだ。
俺の部下は、皆良い人ばかりなのだなっと、自覚のない火吹課長代理は一人思う。
そこに渋い顔をして、この課唯一の上司である、木下課長が暗い顔をしながら出社してきた。
俺はごく自然に「おはようございます。課長。どうかしたんですか?」
木下課長は、薄くなりつつある髪の毛をムシャムシャかきながら「小袋織物という、内の下請け会社があるんだけどさ、そこと契約を切れと上からのお達しでなんだよ」
俺は不思議に思い「売り上げが伸びている今、下請けを増やす事はあっても、切る事なんかないのではないですか?」
課長は、しっぶ~い苦虫を噛み潰したような、表情で
「あそことは、私が係長の頃からの付き合いなんだけど、社長のこだわりが強すぎて、気に入らないと何度も作り直させるらしいんだ。」
「それで、納期は遅れるわ 自分とこの従業員も辞めて行ってしまうわで、ついに内の上層部でも堪忍袋の緒が切れたって感じなんだ。」
「あの社長は、口調や態度は悪いが 悪い人じゃないんだがな、、、」
最後は独り言のように、消えていった。
(木下課長にとっても、契約破棄は心苦しいものがあるのだろう、、、そうだな、東証一部上場企業の京仁織物との取引が無くなってしまえば、正直 死刑宣告にもなりかねない。)
「課長、その案件 私に任せてもらえませんか?」
俺は、直接その頑固な社長に、会って話を聞いてみようと思い、自ら嫌な仕事を買って出る。
木下課長は、暗い表情が吹き飛び
「火吹君に任せていいかい?」
「あの社長とは、私も若い時、お世話になっていた時代もああってね、根は悪い人間じゃないから、言い辛くて 助かるよ」
俺は、正直な話 小袋織物の従業員の事が心配だった。
内との契約が切れて、もし倒産なんてことになったら、その従業員と家族の生活の事の方が気になった。
「はい。任せて下さい。」
朝礼が終わり、俺は直ぐに、上着を羽織り鞄を持ち出かける。
門田係長と安藤主任が、同行すると言ってきたので、3人で北千住にある【小袋織物製造 有限会社】に向かう。
今【有限会社】は存在しない。
昔は、資本金300万円で法人化できるので、【有限会社】から起業して、大きくして資本金1千万円で、【株式会社】にするのが、普通だったらしいが
今は資本金0円で、起業できるから【株式会社】が起業する形態のほとんどを占める。
逆に、今では【有限会社】という企業設立は無いので、それだけ昔からずっと続けているという【証】でもある。
長く続く、会社は何か魅力があるはずだ。
何が、原因なのかそこをまずは調べようと思った。
上場もしていない、会社を調べるのは直接行くのが一番手っ取り早い。
自分の目で見て感じる。
これが一番だ。
そして、北千住から徒歩15分ほどの所に、ひっそりと古い建物の工場らしき、建物が建っていた。
俺の第一印象は、正直良くない。
そして、入り口に行きチャイムを鳴らす。
ピンポ~ン
ぼろ工場とは、全く似使わない軽い音色が響く。
ガチャリ
扉があき、ガラガラ声で
「どちらさんで、、、」
俺と目が合うと、そこには国宝亭・随庵でトラブった、あから顔の作業着姿のおっさんが、たまげた顔して立っていた。
「おめぇ、この間のクソガキじゃねぇか!!」
(ここで会うとは、何とも、、、)
「小袋社長にお会いしたいのですが、いらっしゃいますか?」俺は変わらず、いつもの事だが、普通に話しかける。
ブゥ~ン
いきなり拳が、飛んできた。
(やめてよ~、今仕事中なだからさぁ~)
っと、思いながらも軽く、オッサンの拳を交して
おっさんの右手を掴みひねり上げ、背中に回りオッサンの右腕の関節を決めて、動きを封じる。
いきなりの展開に、驚いている。
安藤先輩と門田係長である。
「いててててーいてぇじゃねぇか、離せこのクソガキ!!」
俺は解いて聞かせるように穏やかに
「ちゃんと話を聞いてくれると言うなら、話しますよ」
「誰が、クソガキの話なんぞ聞くものかよ!!」
(どうしようもないなぁ~、このオッサン)
そこで、横から女性の声が割って入ってくる。
「あんた!!何してんのさ!」
オッサンの動きを封じている、俺に向かって女性は
「すみませんの内の旦那がまた、お気に障る事でも言いましたか?」
俺はやっと話ができる相手が出て来てくれたことが嬉しく、オッサンを解放してあげる。
オッサンは、自分の右手をさすりながら
再度俺に襲い掛かってきた。
「辞めろって言ってんだよ!!」
パッカーン
このオッサンの奥さんらしき、女性が履いていたスリッパで、オッサンの頭を思いきり叩いた。
安藤先輩も門田係長も無言、、、、驚いてどうしていいかわからずにいる。
すごすごとやっと、落ち着きを取り戻す。超短気なオッサンんだが、もっと驚いたのは
このオッサンが小袋織物 有限会社の社長だと紹介されたからだ。




