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KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
55/107

金曜日の夜

木下課長に頼まれた、資料データを作る仕事は午後4時には終了した。


俺一人でやっていたら、今夜一晩かけても終わる量で無いのは確かだ。


寸動永誇さんと近藤直子さんの能力に頼るところは、非常に大きかったと言える。


俺と安藤先輩は、18歳と19歳。


まだ、パソコンのスキルはそれほど高くない。

こんな時、帝城高校のITスペシャリストの御堂大智(みどうだいち)がいてくれたらと、真剣に考えてしまう。


ミッドも、楓真の成功と時を同じくして、来年にはアメリカのマサチューセッツ工科大学入学に準備が忙しい事だろう。


門田主任は、年齢と経験がある為、素早くこなしていた。


しかし、寸動さんと近藤さんのコンビは、門田主任のスキルを勝る、打ち込みの速さと正確さと集中力の持続時間だった。


約3時間、ぶっ通しでパソコンを打ち込む集中力は半端ない。

伊達に、優秀な大学を出ているわけでは無いのだ。


きちんとした、上司に恵まれ。


ちゃんと道筋の通った、仕事と人間関係があれば、大変優秀なスキルを発揮する持ち主たちなのだ。


元来の性格上、今まで腫れもの扱いされてきたのだった。


それをたった一日で、人間関係を築き。

良き上司として、火吹係長は采配を振るっていた。


「皆さん、お疲れさまでした。」


俺は、デスクから立ち上がり、自分のメンバーにお礼を言う。


門田主任が、やや疲れた顔をしながら


「何とか間に合いましたね。」


「それにしても、こういう仕事は、寸動君と近藤君にはとてもじゃないが敵わないなぁ~」


寸動さんは、全く普段と同じく


「普通ですよ。単純な打ち込み作業じゃないですか」


近藤さんが、俺を見て


「会食に間に合ってよかったですね、係長」


「そうですね。皆さん助かりました。ありがとうございます。」


背の高い、優しい門田主任が後を引き継いでくれた。


「後は、僕らで木下課長に渡しておくので、係長はもう上がっちゃってくださいよ、和装で行かれるのでしょう」


俺は、全員に向かって両手を両太ももに付け、深くお辞儀をする。


「感謝します。すいませんが、そうさせてもらいます。」


俺は腕まくりを戻し、シャツのボタンを留め上着を羽織るとタイムカードを押して、部屋を出た。


寸動さんが、近藤さんに向かって一言。


「火吹係長って、かっこいいわね」


近藤さんも答える。


「そうね、妻子持ちじゃどうしようもないけど、上司としては今までで最高点ね。」


俺の知らないところで俺の話をされるのは、毎度の事だがまだまだ、底が見えない男 火吹武将ではある。


午後5時


俺は急いで、屋敷に帰った。


ツネさんには、途中で連絡していたので、オヤジの着物を用意してもらっていた。


用意されていたのは、深く濃い銀色を基調とした、立派な着物であった。


俺は着替える前に、シャワーを浴びて汗を流す。

大事な人と、会食するのだ。

身だしなみとして、当然だと自分で思う。

シャワーを浴びて、風呂場から出てきて大きくフカフカのバスタオルで全身を拭うと、自然に気合が入る。


「よし!!」


リビングの隣にある和室に行き、飾ってある着物を見つめ、自分の頬を両手で叩く。


パン!!


気合が入った。


(オヤジ、借りるよ)


着替えは、ツネさんが手伝ってくれた。


午後6時前、俺のスマホの着信音が高らかになる。


候葺縁(こうぶきゆかり)さんからだ。


「武将様~帝都ホテルの前で、18:30にお待ちしておりますわよ~」


「わかりました。午前中は、気を使わしてしまいすいませんでした。」


「お安い御用ですわよ~私、武将様の妾ですから~」


「・・・・・・」


「あら~お返事が聞こえませんわよ~」


「・・・・・・」


「あらあら~まだ無視なさるの~つれないわね~」


「18:30に帝都ホテルの前で、お待ちしております。」


この人と、会話で勝てる自信がない事は、明白なので最近では無駄な会話はしないよう努めている。


勝てぬ戦いをするほど、俺は愚かではない。


スマホの画面にタッチして、通話を切る。


相手の気持ちに、嘘偽りはない事は分かっているが、俺の気持ちも変わることはない。


その上での言葉遊びを楽しんでいる、女王陛下には悪いと思うが、付き合う気持ちはない。



週末金曜日の帝都ホテルの入り口前は、混雑していた。


高級一流ホテルとはいえ、週末となれば宿泊する人や、食事に来る人、接待や会議で使う人々で溢れかえる。


そんな中、帝都ホテルの豪華な作りの入り口前に、タクシーで到着した和装美人は、当然ながら候葺縁(こうぶきゆかり)本人だ。

渋めの赤色に金色のデザインが入った、とても豪華で素晴らしい着物を着た女傑は、長い髪を見事に結い上げ、帯は漆黒で今風のお洒落な色使いの帯が巻いてあり、帯を止める紐は金色に輝いていた。


タクシーから降りた途端に、周囲の注目が集まる。

これまた、候葺縁(こうぶきゆかり)にとっては日常の事だが、見られる事に慣れるというのは、一種の芸能人の感覚に近いかもしれない。


そこに、黒いロールスロイスファントムが静かに、そして威厳と豪華さを載せて静かに、滑り込んでくる。

もちろん運転するのは、重道勘蔵ことシゲさんであり乗っているのは、火吹武将本人である。


今晩の武将の出で立ちは、亡き父、火吹虎雄の来ていた深く渋い銀色に黒の柄が少し入ったこれまた、見ただけで高級そうな和装であった。


髪の毛は、ワックスで固めてオールバックにしている。


帯は偶然にも、候葺縁(こうぶきゆかり)さんと同じく、漆黒の渋い黒色に、高そうな扇子(せんす)を差し込んでいた。


とても、未成年には見えない出で立ちと、振る舞いであった。


「まぁ~とても素晴らしく凛々しい、お姿ですわ~」


身を(よじ)りながら、腰をくねくねして俺の着物姿を見て楽しんでいる、縁さんだ。


(とても、午前中に会ったCOOBデザイン株式会社社長と同一人物とは思えないって)


「こんばんは、縁さんもとてもお綺麗ですよ。」


「まぁ~、わたくしの姿に惚れ込んだなんて~私嬉しくてたまりませんわ~」


(いやいや、そこまで言ってないから)


等と、帝都ホテルの入り口でじゃれ合っていると、周囲の視線がどんどん集まってくる。


(これは、またまずいパターンだな)


「縁さん、先にホテルに入りましょう。ここでは目立ってしょうがありませんから」


「ええ、よろしくてよ」


自分の右手をそっと、しなりながら俺に差し出す。


和風にエスコートしろってか?


俺は後ろを振り向き、シゲさんに声をかけ縁さんの手をそっと支える。


「終わったら連絡しますので、屋敷に戻っていてください。」


昭和の執事は慇懃に


「かしこまりました」


っと、言い深くお辞儀して来た道を静かに走り出す高級車。


俺は縁さんの柔らかく、細く長い指を優しく握りながら、帝都ホテルに入り、最上階まで行くエレベーターの扉の前に行く。


突然、それは起こった!!


エレベーターの扉が開くと同時に、長身の細身のひげ面の男がサングラスに帽子、マスク姿といういかにも怪しげな奴が乗り込んできたのだ!!


咄嗟に反応したのは、候葺縁(こうぶきゆかり)さんの方が、コンマ何秒か早かった。


しかし俺は、直ぐに事情を察して、縁さんが右足を大きく踏み出し左手を曲げて、左肘で相手の顔面を殴り倒そうとした、左肘を俺は 全力で両手で受け止めた。


ガシッ!!


「ひっでぇ~な、いきなり問答無用でぶん殴られるとは思わなかったぜ」


不審人物は、扮装した彭城楓真(さかきふうま)だった。


「楓真さん!!どうしてここに、それにその恰好は、、」


珍しい、この女王陛下でも動揺することがあるんだな。


最近、滅茶苦茶有名人になった、彭城楓真(さかきふうま)は、昨晩の話を聞いていて、話もせず、許可も取らずに変装して無理やり参加しに来たらしい、、、


(おいおい、ドラマ撮影は大丈夫なのか?こんなわがままな新人いねぇだろぅ~)


「どうせ、今更【帰れ】って言っても、聞かねぇよな」


「無論。」


(せめて、もう少し言い訳しようよ)


彭城楓真(さかきふうま)は変装を全て取り、本来の自分の姿に戻ると、全身漆黒の超細身のスーツを見事にカッコよく着こなしていた。

パンツは、細く長い足をこれでもかというくらい、かっこよく見せていて、シャツは黒と銀の間の色合いで、(すそ)はパンツの外に出していた。


ジャケットは、パンツと若干色合いの異なった、艶無(つやな)し漆黒の色で、銀色に輝く糸が縦に使われている。


ウエストはこれまたよく引き締まっていて、丈がやや長い。こいつだから似合うが、普通の人じゃ着れねぇだろうって上着だ。


流石は、芸能人本職だけはある。


俺や、候葺縁(こうぶきゆかり)さんが、どんなに着飾ってもこのオーラと雰囲気は出せねぇなぁ~


(ひげ)は、撮影現場から借りてきた付け髭だったらしい。


何とも手の込んだものだ。


そこまでして、ここにお前が来る必要あるか?


等と、悶々としていると、エレベーターは最上階に到着して扉が静かに開く。

流石は、一流ホテル。

エレベーターの扉迄気配りを感じる。


虜・夢味庵(とりこ・ゆみあん)】は最上階の一番広く目立つ場所に、高級レストランに相応しい門構えと雰囲気を漂わせていた。


受付で、【葛城仁】の名前を告げると、直ぐに丁寧に個室の部屋に案内された。


部屋に入る前に、案内してくれたスタッフから


「葛城様と豊様は、お先にお待ちです。」


っと、伝えられた。


今、午後6時40分。


約束の時間は午後7時。


20分前に来たのに、大切な先方様を待たせてしまった。

俺の中に、焦りが生じた。

気付いたのは、恐らく楓真だけだと思うが


草履(ぞうり)を脱ぎ、座敷に上がる。


部屋の前で、案内してくれたスタッフが、両ひざをつき両手でそっと取っ手に手をかけ、「お連れ様が起こしで、ございます。」と言い、(ふすま)を開ける。


20畳はありそうな、大きく贅を尽くした和風の部屋には、中央に朱色に染められた、一枚板の高そうなテーブルが置いてあり、テーブルを挟んで葛城仁社長ともう一人、ユタカ自動車社長、豊 一颯(ゆたか いぶき)が座していた。


豊社長は、中肉中背で、年の頃は仁父さんより少し上に見えた。

年齢に割には、お腹も出てなくシャープな研ぎ澄ました、日本刀のようなイメージを受けた。

髪の毛もグレーで、7:3にワックスでキッチリと分けていた。

スーツは、紺色でシンプルだが、生地といい体格にピッタリ合ってることとで、完全高級オーダースーツだとわかる。

イメージと同じで、目付きも鋭く眉毛は、意志の硬さを表すように太く濃かった。


俺達3人は、音を立てず部屋内に入り、正座して挨拶する。


「豊社長、遅くなりまして大変申し訳ございません。火吹武将と申します。」


俺が3人を代表して、頭を下げながら挨拶する。


豊社長は、威厳と風格を伴って、俺に低い声で話しかけてくる。


「私を待たせるとは、随分偉いじゃないか、火吹家の若き当主は!」


「「「!!!」」」


俺達3人が、頭を下げる。


珍しく、楓真も俺に習い、土下座する。


「遅参しました事、誠に申し訳ございません。」


豊社長は、変わらず威厳という(よろい)(まと)って、静かにそして低く話す。


「詫びをしてもらおうか」


俺は頭を下げたまま


「【詫び】と申しますと、どうすればよろしいでしょうか?」


嫌味など何も言っていないとばかりに、静かにそして無理を宣言する。


「ワシを楽しませてくれ。」


「・・・・・畏まりました」俺は返答し、静かに着物姿で立ち上がり、帯に刺していた扇子(せんす)を持つ。


俺が立ち上がり、扇子を持った時点で、頭の良い候葺縁(こうぶきゆかり)さんは俺が何をしようとしているか気づいた。

姿勢を正し、両手を膝の上に置く。


楓真も気づいたらしく、頭をあげ真っすぐ前を見る。


俺は、姿勢を正し すり足で、音を立てずに前に出る。


そこで、いきなり縁さんが気合を発する。


『はっ!!』


腹に響く、(たましい)(こも)った、覇気をだす。


俺は、静かに舞を踊る。


バッと、扇子を広げて、メリハリ付けて踊りだす。


【日本舞踊】を俺の舞う姿に、縁さんが合の手を入れる。


『はぁ~はっ!!』


驚きなのは、その後だ。


彭城楓真(さかきふうま)が、日本舞踊ではあり得ない、高く響く声で、アカペラでハーモニーを歌いだす。


時には、熱く高く激しく、そして踊りに合わせて、静かにそして低く。


俺が踊っているのは、父に習った西川流という日本舞踊だ。

日本舞踊5大流派のうちの一つで、日本舞劇とも呼ばれてドラマ性の高い日本舞踊だ。


亡き父が、こよなく愛し よく屋敷でも練習していたので、教わった踊りだ。


ただ、今踊っているのはかなりアドリブの入った、舞踊だ。


候葺縁(こうぶきゆかり)さんが、合いの手を【気】と共に発し、彭城楓真(さかきふうま)がアカペラで、バックで歌う。


始めて、突然やった芸にしては、完成度が滅茶苦茶 高い出来栄えだった。


楓真は、アーティストでプロだから当然だが、俺の舞と魂の籠った気合を発する候葺縁(こうぶきゆかり)さんとのトリオは充分プロとして通用するレベルだった。


候葺縁(こうぶきゆかり)さんのポテンシャルの高さをまたも感じた一瞬だった。


もしかして、こうなることもあり得るからと、和装にしたのか?


舞を踊りながら、無性に感心してしまう俺だった。


でも、俺が舞を踊る事なんて、想像できないだろうに、、、


【出来る限りの対策を考えて、手を打っておく。】


これは、とても重要な案件だと、俺は手の先から足のつま先まで神経を研ぎ澄ませ舞いながらも、勉強していた。


そして、15分ほど経ち 日本舞踊は終了する。


3人、横並びに正座し俺が、代表して話す。


「お粗末様です。」


豊社長は、雰囲気がガラリと変わり、大きな声で俺に話しかけてきた。


「がっははは。素晴らしい!!見事じゃて、まるで火吹虎雄の面影を見ておる様じゃった。」


「君を試すような真似をしてすまなんだ!皆、近くに来なさい」


どうやら、またしても葛城仁父さんの罠にはめられたみたいだ、、、


道理で、何も助け舟を出してくれない訳だ。


そこで、始めて仁父さんが、そこにいる全員を豊社長に紹介する。


「今更ではありますが、彼が私の義理の息子で、火吹家当主。火吹武将君です。」


俺は、即座にその場に対応して、テーブルの前で頭を下げる。


「よろしくお願い申し上げます。」


続けて、仁父さんは候葺縁(こうぶきゆかり)さんを紹介する。


「COOBデザイン株式会社の社長の候葺縁(こうぶきゆかり)です。」


女王陛下は、しずしずと


「候葺です。お見知りおきくださいませ。」


豊社長は、微笑みながら


「経済界の女王と呼ばれる、あなたにお会いできたのは嬉しい事ですじゃて、それに噂通り大変美しく、品がおありだ。」


「褒めすぎですわ、豊社長」


「ほっほっほ」


(このおっさんも、年とっても【男】に違いはない。)

密かに俺は、思う。


仁父さんは、イレギュラーのプロの色男。楓真に顔を向けて


「そして、彼が彭城楓真(さかきふうま)君で、武将君の親友で、一緒に生活してます。」


楓真は黙って、お辞儀だけする。


意外なのは、豊社長の方だった。


「彭城君、本人とこんなところで会えるとは思わなんだ。うちの娘と孫が君の大ファンでね。是非 後で一緒に写真を取ってくれんかな?」


楓真は、黙って(うなず)く。


超意外な展開から、会食は始まった。

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