金曜日の昼
COOBデザイン株式会社本社の本社は、六本木駅から徒歩8分くらいの所に、白と黒をはっきり分けたデザイン感あふれる、お洒落な15階建ての立派なビルだ。
その最上階に、社長室があり
俺達は全員、社長室に案内され、目の前にはCOOBデザイン株式会社CEO候葺縁さんが相変わらず、色気と女性フェロモンをまき散らしながら、社長室の自分のデスクの大き目の椅子に長い足を交差させて、魅力的に座っていた。
俺は、驚いているメンバーより一歩前に出る。
それは、そうだ東証一部上場企業の社長が、自分たち平社員の前にいること自体が異常事態だ。
流石の肉食系女子たちも、候葺縁さんの迫力にはかなわないらしい。
俺はお辞儀をして、話し始める。
「お世話になっております。候葺縁社長。」
候葺縁社長は何も言わず、自分の椅子から優雅に立ち上がり、机を回って俺達の目の前に来る。
後ろのメンバーが、緊張するのが感じる。
候葺縁社長は門田主任の前に立ち、じっと睨む。
背の高い門田主任は、候葺縁社長の上から見える大きく開いた胸元に目のやり場に困り、思わず深くお辞儀をする。
「お世話になっております。門田と申します。」
候葺縁社長は、「よし」と小声で言い、次に安藤聡先輩の前に立つ。
「確か、あなたは帝城高校でお会いした、素敵なナイト様ですね。」
安藤先輩も緊張しながら、「あの時は失礼いたしました。」と言いまたまた、深くお辞儀する。
女王は「失礼な事なんて、何もあなたはしていないわよ。あの時も言いましたけど、あなたは素敵なナイト振りでしたわ」
そして、次に近藤直子さんの前に立ち、話しかける。
「あなたのお名前と出身大学は?」
近藤さんは、誇らしげに「近藤直子。出身大学は早稲田大学 経済学部です。」とはっきりと答える。
「っそ」
女王は、無視して次に歩みを進める。
寸動永誇さんの前で、同じ質問を投げかける。
「あなたのお名前と出身大学は?」
寸動さんも胸を張り誇らしげに「寸動永誇上智大学です。」
「ふ~ん」
「二人にお聞きしますわ、当社が御社との取引額はご存じかしら?」
寸動さんが、はっきり答える。
「おかげさまで、先月は3560万円で、概ね1か月4000万円前後のお取引を頂いております。」
女王は、更に聞く「その売上額は、そちらにとってどれほどの取引先になるのかしら?」
寸動さんが、変わらずに答える。
「御社にとりましては、大変大切なお客様です。」
「そっ」
「ところで、あなた方お二人は、火吹係長の事をどう思いかしら?」
「「???」」
いきなり、仕事の話と関係なく俺の話になった。
嫌な予感しかしない、、、
「火吹係長は高校中退で、未成年で係長。あなた方の上司として相応しいとお考えなのかしら?」
近藤さんが、女王陛下に物申す。
「それは、当社内でのことなので、お答えする義務を感じませんが」
色香漂う、女帝は爪をとぎ、大きく口を開け牙で食らい尽くすように苛烈な言葉を吐きだす。
「それが、上顧客社長に対する態度とは思えないわね。」
門田主任が、おたおたしながら割って入ろうとする。
「候葺縁社長、彼女らは営業ではなく、、、」
候葺縁社長はチラリと、背の高い門田主任を見て
「京仁織物株式会社の社員でもないの?」
寸動さんが、感情的にヒートアップして言葉の炎を吐く。
「そのような事を、おっしゃるのは、候葺縁社長と火吹係長の間に親密な関係があり、火吹係長が候葺縁社長に私たちを納得させてくれとでも言われたんですか?」
「あなたは、論外ね。人を見る目も謙虚さも備わっていない。地球は自分を中心に回っているとでも思っているの!!」
女王陛下は、ついに業火を身にまとい、氷の意志ある槍の言葉を投げつける。
あまりにらしくない。と俺は思った。
しかし、候葺縁の攻撃は更に続く。
「近藤さん、寸動さんあなた方が優秀で、頑張ってこられたのは、よくわかります。しかし組織や世の中はあなた方が思う程、優しくなくてよ。」
「今月限り、京仁織物株式会社との取引は中止させていただきますわ!!」
ついに、女王陛下の決定は告げられた。
門田主任と安藤先輩がおろおろする。
それは、そうだ。
自分たちのせいで、大きな取引先を失ったとあっては、左遷もしくは希望退職者リストに名を載せる事になりかねない。
始めて肉食系女子たちの顔に焦りと動揺が見られる。
そこで俺が、自然体で堂々と話に加わる。
「候葺縁社長、取引を中止されるのは、私の係の者が失礼なことを言ったせいですか?」
「そう言う事になるわね」
「私の部下が、失言をしたことは謝罪しますが、それが原因で、取引自体を辞めるとは、いくら何でも大人気ないのではありませんか?」
「もし、どうしてもお気持ちを変えられないというのでしたら、私が御社とのお取引を中止させます。」
「部下の失態は、上司である私の責任でもあります。しかし、彼女らに非はあるものの、取引中止の責任まであったとは私には思えません。」
「よって、私の責任で、御社とのお取引を中止いたします。」
俺は、最初から最後まで変わらず、堂々と声を荒げることなく、普通に話す。
女王は、両手を豊かな胸の前で組みながら、近藤さんと寸動さんの前に行き
「わかった? 京仁織物株式会社と取引しているのは、そちらの商品に魅力があるのは事実だけど、もし火吹係長が京仁織物株式会社を退職して、ライバル会社に就職したら、内は火吹係長の新しく勤める会社に全部乗り換えるわよ。」
「所詮、会社同士のつながりなんて、担当同士の人間関係が一番大切なのよ。」
「そして、これが一番大事な事だけど、火吹武将という人間は、上司として人間として男性として超一流だという事よ」
「彼は、内との取引を自分で中止したとしたら、その穴埋めを自分の力で、新規顧客を必ず取ってくるでしょうね、会社には絶対迷惑をかけないために。」
「それが、【火吹武将】という人間なのよ。」
「それと、これもきちんと言っておくけど、私と彼は男女の関係もありませんからね。」
「クリーンな信頼関係よ」
(縁さん、俺の事を心配して、演技しているんだ、、、)
「っと、言う事で取引中止の話は無かったことにしましょう」
俺以外の一同が、ホッと安堵する雰囲気が伝わってくる。
俺だけは、変わらずに堂々と自然体でいるだけだ。
そして、門田主任が感謝と謝罪と退出の挨拶をしている所に、最後の核爆弾が落とされた。
「ところで火吹係長。今晩の【ユタカ自動車】の豊社長との会食は、着物で行きましょうね。」
「「「「えっ!!」」」」
当然の結果だが、皆に驚きが一気に走る。
そりゃそうだろう、いち係長が天下のユタカ自動車社長と会食するなんて、有り得ないものな。
散々振り回されて、やっと解放された時は既にお昼時だった。
俺は六本木にある、よく亡き父に連れて行ってもらったうなぎ屋に皆を連れて、行くことにした。
始めてできた部下との、人間関係を構築するために、、、
散々食い散らかされた後だけど、、、
暖簾をくぐり、扉を開け人数を受け付けの女性に伝える。
寸動さんが、俺に話しかける「係長、ここって高級うなぎ屋さんじゃないですか」
俺は、後ろを振り向き
「私の初めての係の食事会です。せっかく六本木に来たのですから 美味しいものでも食べて帰りましょう。」
寸動さんは、俺を心配する顔で
「いえ、そうではなくて、係長失礼ですが、大分高いお店ですよ」
「そこは、私のお小遣いで出しますので、気にしないで下さい。」
俺の事情を知る、安藤先輩だけ安心した顔をしているが、他のメンバーは、動揺しっぱなしだ。
一般的には、そうなのかもしれない。
特上うな重がランチで1人前、12,000円(税別)だからな、、、
5人分で6万円+税&サービス料、席料。
未成年の係長に払える金額にしては、確かに高い。
席について、注文すると同時に寸動さんと近道さんが、噛みついてくる。
「COOBデザイン株式会社の社長と何であんな、深い信頼関係を係長が築けたのですか?」
「ユタカ自動車社長と会食って、一体どういう事なんです?」
たたみかける様に、話し込んでくる。
俺は葉美香噛みながら
「一生懸命仕事してるだけですよ。」
「まぁ、とりあえず、美味しいウナギでも食べて親睦を深めましょう」
ほくほくとした、高級国産ウナギが湯気をまき散らして、テーブルに配膳される。
流石にランチで1万円を超える、うな重はうまかった!!
肉食女子も、食欲に釣られて俺への追及は一時お預けとなった。
安藤先輩と門田主任は、既に先に食べ始めていた。
「係長!こんなうまいウナギ初めて食べましたよ!!」
安藤先輩が、目を輝かして微笑み一杯で俺にお礼を言う。
「うん、これはめちゃくちゃ美味しいですね。係長」
門田主任は、今年29歳になる長身の心優しい独身だ。
結婚する気は、あるのかないのかは話したことがないので、知らないが、良い夫になる素質は十分あると思うと俺は思っている。
極上ウナギを全てたいらげて、一息つき会話が始まる。
寸動さんが、満腹なお腹をさすりながら、今までとは違う雰囲気で、俺に話しかける。
「係長の事をもっと知りたいですね。お話を聞いても良いですか?」
俺は、寸動さんの纏う空気が変わった事に気が付いていたが、何ら普段と変わることなく話し始める。
「私の事ですか、、、そうですね妻と子供が二人いますね。」
「「え~!!」」
寸動さんと、近藤さんが声をそろえて、驚く
(いつもの事だけど、そんなにおかしいかな?)
「18歳で、結婚、父親という事ですか?」
「そうです。妻が妊娠したので、高校を中退して働き始めました。たまたま知り合いが京仁織物にいたので、入社できました。」
裏事情を知っている、安藤先輩は黙って只聞いている。
信頼のおける人柄だと俺は、密かに思った。
近藤さんも今までとは全く違う、話し方で俺に話しかけてくる。
「それで、たった一年で実績を作られて、係長昇進ですか。」
「まじめに仕事しているだけですよ。」
近藤さんは、じっと俺を見つめて
「係長は、簡単そうにそうおっしゃいますが、私の大学の同期でも皆真面目に仕事してますが、係長になった人はまだいません。」
「COOBデザインの候葺社長のおっしゃる通り、火吹係長は特別な、方なのですね。」
「そんなことありませんよ、どこにでもいる普通の男ですよ、僕は」
安藤先輩が、ついに溜まりかねたらしく、発言する。
「いや、自覚が無いのは係長の悪い所ですよ。係長は充分特別です!」
「ははは」
笑うしかないよ、、、
あっという間に、お昼のひと時は終了し、高級ウナギ店を出る、火吹係長のメンバーだが、入った時と出る時の雰囲気は全く異なるものとなっていた。
肉食系女子の火吹係長の見る目、態度が全く180度変貌していた。
優秀な大学を卒業した、プライドより火吹武将という人間の性格に惚れ込んだのだろう。
頭の良い人間ほど、自分を変える事が容易なのだろう。
二人とも、もともとのポテンシャルは、きっと相当高いのだ。
渋谷にある、京仁織物株式会社 本社に帰社すると、丁度午後からの支度をしていた、俺の所に木下課長が慌てた様子で、走ってきた。
「火吹係長、申し訳ないんだが、トラブル発生だ!!」
木下課長は、髪の毛がやや薄いがキリッとした、眼光は鋭く仕事は間違いなく出来る男性だ。
その課長が、焦りながら俺に助けを求めてきた。
「どうしました?」
俺は課長の動揺しきった態度とは裏腹に、全く変わらない態度で話しかける。
木下課長は、まくしたてる様に大量の資料を持ちながら、話してくる。
「庶務に任せていた、この資料をまとめる仕事が担当の庶務の子が風邪をひいていて、誰も引き継いでいてくれていなかったんだよ。」
「この資料は、今日中に顧客担当に渡さなければならない資料なんだ。今から手伝ってもらえるかな?」
大量の資料を持ち大量の汗をかきながら、俺の顔をじっと見つめる小柄だが、厳しさの宿る目で俺を見る。
俺は即断する。
上着を脱ぎ、シャツのボタンをはずして、腕まくりする。
「わかりました。午後の予定はキャンセルして、お手伝いします。」
「僕も手伝うよ」
門田主任と安藤先輩が、同時に俺の行動に準じる。
意外だったのは、近藤さんと寸動さん迄も
「そういう仕事は、私たちの方が早いですから、こちらに回してください。」
っと、声をそろえて言う。
「それに、係長は今夜は大事な会食の予定が入ってるじゃないですか!皆で手分けしてやっつけましょう」
俺の起こしたアクションに瞬時に応じる、優秀でやる気あるメンバーたちだ。
「よしじゃ、課長。資料をこちらに下さい。」
「助かるよ。」
ドサッと、大量の資料の束を俺のデスクの上に置く。
サッと、近藤さんと寸動さんが、資料を分別してそれぞれに割り当て、即座にパソコンに打ち込み始める。
データは係全員で、サーバーにあげて、共有しお互いの間違いを確認できるようにして、数分後には作業が始まっていた。
思わず驚くのは、自分でお願いしてきた木下課長だった。
「か、火吹係長、、、」
感嘆のあまり、言葉が出てこない。
そりゃそうだ、法人営業第2部でも超有名な気の強く、自己主張が強く協調性に欠ける、厄介扱いだった女性2名をたった一日で、従え一致団結した優秀なチームを火吹武将は作り上げていたのだ。




