金曜日
係長昇進。
新しく俺の係の副官は、門田応史主任が行い。
実戦部隊として、俺と安藤先輩が動く。
後方支援として、女性二人が加わった。
近道直子さん25歳、清潔感があり綺麗な顔立ちだ。まぁ俺の周りには超が付く美人が何人かいるので、免疫力が付いているので驚くようなことはない。
仕事ができそうで、気が強そうに思えたのが、第一印象だった。
もう一人は、寸動永誇さん26歳。
小柄でショートヘアーな女性だが、目に宿る力が意志の強さをはっきりと表現していた。
また、意外にも二人に共通するのが、当然と言えば当然だが、はっきりとした、俺への反感感情。
18歳の未成年。入社1年目の若造の下に着く事など、承服しかねると言った感じだ。
まっ、普通の感情だろうなぁ~
とりあえず、安藤先輩と門田主任3人で、デスクを移動して場所替えする。
ちなみに余談だが、俺が係長になった為に、前任の3課課長直属係長は、課長代理に昇進し移動になったそうだ。
俺も甘いのかもしれないが、自分が出世した陰に、不幸になる人がいるのは、嬉しい事ではない。
まだまだ、甘ちゃんなのかもしれないが、、、
午後5時
終業時間になる頃、やっと全部片付いた。
俺のデスクが、木下課長の前にあり俺のデスクの右側に門田主任のデスク、左側に安藤先輩のデスク。
向かい側に並んで近藤さんと寸動さんのデスクが並ぶ。
木下課長は外出しており、今日の所はこれで解散となるところだが、近藤さんが俺の前に立ち見上げて物申す。
「係長、ちょっといいですか?」
「はい、近藤さんどうしましたか?」
「火吹係長の営業部での武勇伝は、この1年間いろいろお聞きして知っておりますが、それにしても18歳で、入社1年で係長なんておかしくないですか?」
「そうですね。おかしいですね。実は私自身が一番驚いているんですよ」
堂々と話す、俺を下から睨むように
「そうは見えませんけど、、、何か裏にあるんじゃないんでしょうか?」
(裏にあるかと聞かれれば、、、全く無いとは言い切れないが自分で決めたことでもないからなぁ~)
「それは、会社が私を正当に評価していないことに対する不服と捉えてよろしいですか?」
「ぐっ」言葉に詰まる近藤さんに代わって、寸動さんが俺に向け火を噴く。
「会社側がどう判断しているかは、私たちにはわかりません。ただ普通に考えておかしいと判断し、その理由をお聞きしたいだけですが」
「それは、先ほども言いましたが、私が決めたことでないので、私は説明できません。ただし今後 お互い良い人間関係を築いていければ、会社にとっても私やあなた方にとっても良いと考えますが、どうですか?」
そこで、長身で人の好過ぎる弱気な門田主任が、間に入る。
「近藤君に寸動君のいう事もわかるが、私は火吹君のお世話係としてこの1年一緒に仕事してきたからわかるけど、彼は君たちが、思うような人間でないことは確かだよ。それに係長昇進も僕からしたら全く不思議な事じゃない。逆に火吹係長の下で働けることを嬉しくさえ思うよ。」
気の強い、二人組は顔を見合わせて
「門田主任がそうおっしゃるなら、わかりました。私たちも精一杯頑張らせていただきます。」
「門田主任の判断が間違っていなければ!」
っと、最後に捨てセリフを吐くようにして、女子更衣室に着替えに行った。
「はぁ~」
思わず、人の良い門田主任がため息交じりに、ストレスのたまった息を吐き出す。
「あの二人は、うちの部署でも気の強さでは、天下一品で有名なんだよ。また、なんだって二人揃って火吹係長の下に入れたんだろうね?」
(仁社長の気配りかな?どんなタイプの人間とでも上手くやって行けという事かな?)
(まさか、神部人事部長の配慮?)
(まぁ、どちらにしろ、俺のやることに変わりはないな)
(仕事するだけだ!!)
そして、陽は暮れて女子社員も帰宅して、俺達も帰宅することにした。
今日は、いろいろあったな、、、
戸塚営業所兼工場の研修は、実に中身の詰まった体験だった。
工場で働く、人の苦労。スキル。人柄。
社風というものがあるとすれば、京仁織物株式会社の社風はとても素晴らしいものだろう。
社長の人柄なのかな?
俺もそうなりたいと、思いながら地下鉄を乗り、屋敷迄帰宅する。
夜7時ころに屋敷に着いた。
谷樫衛士隊長が、モニター越しに直ぐ俺に気付き正門ロックを解除して、武士と共に走って出てくる。
「「お疲れ様です。」」
(相変わらず、声が低くてドスが訊いてんな)
「ご苦労様です。仁父さんは帰宅していますか?」
谷樫体調が「はい、先ほどお戻りになられています。」直立不動で受け答えする。
大きく屈強最強の警備隊長。
素手では、身長2メートルを超す、武士でも敵わないそうだ。
火吹衛士隊は現在25名。
全て、格闘倶楽部【乱囚】出身者、もしくは格闘家のライバルや友人達だそうだ。
格闘家の就職先は、思ったより限られていて、火吹衛士隊創設は彼らにとっても、喜ばしいことらしかった。
最強の警備隊であるのは、絶対間違いがない。
火吹低 正門周辺には、夜7時だというのに彭城楓真ファンのギャラリーらしき人だかりがある。
彼ら衛士隊がいるからこそ、安心して暮らせるのは事実だ。
衛士塔を抜けて、屋敷が見えてくると、屋敷の扉の前には昭和の執事の見本のような、重道勘蔵ことシゲさんが、白い手袋をはめて扉を開けて出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、武将様。仁様がお話があるようで、リビングでお待ちです。」
「ありがとうございます」
と言い、皮靴を脱ぎリビングに向かう。
リビングに入ると、彭城楓真と候葺縁さん、仁父さんと唯母さんがソファにくつろぎ歓談していた。
恐らく、最近の楓真の活躍ぶりを皆で話し合っていたのだろう。
楓真が機嫌が悪そうだから、、、
(もうちょっと、素直に喜べよ。誰にもお前の真似は出来ねぇんだから)
なんて勝手に思っていると、仁父さんが首を俺に向ける。
「武将君、明日の夜、明けといてくれないかな?」
俺は上着を脱ぐと、ツネさんがサッと自然に近寄り、預かってくれる。上着をそっと渡しながら答える。
「ええ、大丈夫ですが、改まってどうされたんですか?」
仁父さんは、赤葡萄酒を大きなグラスに注ぎ飲みながら
「うん、明日【ユタカ自動車】の豊社長と会う予定があって、君も一緒にどうかなと思ってね。」
「豊社長は、僕と君のお父さんと同じ大学出身の先輩で、昔からよく会っていたんだけど、君の話をしたところ是非会いたいと言ってきたものだからね」
華麗で色香漂う女王である候葺縁さんが間に入ってくる。
「あら~天下のKABUKIコーポレーションと並ぶと言われている【ユタカ自動車】の社長さんは、どんな方なのかしらね~私もお会いしたいですわ」
「多分、そう言うと思って先鋒には君の出席も伝えてあるよ」
「流石は仁さん。出来る男はそうでないとダメよね~」
候葺縁さんの本気の恋の初めての相手が、仁父さんだとは俺達は知らない。
だが、二人の間に何か深い絆の様なものを感じる事は、多々ある。
それは、気まずいものではなく。
むしろ良好な信頼関係といった感じに俺の目には映る。
きっと、唯母さんも気が付いていると思うが、仁父さんに対する信頼感からか全く心配していない様子だ。
「それじゃ、午後7時に帝都ホテルの最上階にある【虜・夢味庵】というお店に来てくれるかな?僕の名前で予約してあるから、受付で言ってもらえばわかるからね」
「帝都ホテルなんて~武将様と初めて行ったホテルじゃありませんか~」
「ぶっ!!」
「ご、誤解されるような言い方しないで下さい。」
俺は、珍しく動揺していた。仁父さんが、っ自分の勤める会社の社長であることが、どんなことか?
仁社長の築き上げた実績がどれほど素晴らしいものであるのか、この一年で嫌というほど感じたから、屋敷の中でも尊敬の気持ちを今までとは違った、感情が沸いているのは事実だ。
その尊敬する仁父さんの前で、不埒な言葉を吐かれるのは、正直 恥ずかしいを通り越して、心が大きく動揺してしまう。
「うふふ、冗談よ~、むきになっちゃって、まだ若いわね~武将様は~」
(コミュニケーション能力じゃ、ぜってぇ~この人には勝てる気がしない。)
そして、様々な能力の長けた、女王陛下は最後に止めを投げかける
「武将様、係長に昇進なさったんですって?」
「え、ええまぁ~」
何と答えても、嫌な予感しかしない。
「それでは、明日の午前中に私のオフィスに、係の皆様を連れてきてくださいな」
(何を考えているんだろう?)
「わかりました。」
ま、行けば分かるだろうし、勉強の一環になるかもしれないしな、、、
そして翌日、やっと一週間の終わりだ。
金曜日の午前中は、不本意ながらお得意様周りだ。
様は、、、昨晩約束した、COOBデザイン株式会社に顔を出さなければならない。
営業担当者と会えば済む話が、必ずと言っていい程、社長が自ら俺に会いに出てくる。
毎日屋敷で会ってるだろうに、、、
朝、朝礼が終わり、係の皆がデスクに着くのを待って、俺は話し始める。
「今日の午前中の営業先は、COOBデザイン株式会社です。先方の社長よりこの係全員来るように言われてますが、皆さんの都合はどうですか?」
実戦部隊の門田主任と安藤先輩は、全く問題ない。
残り、肉食系女子が俺を睨み付ける。
「なぜ、営業でもない私たち迄、行かなければならないのでしょうか?」
「先鋒様の要望です。COOBデザイン株式会社は弊社にとって、大切な顧客です。これくらいの希望は聞くべきと判断しますが、どうですか?」
「それは、業務命令と受け取ってよろしいですか?」
寸動さんが、変わらず俺を睨み付けながら、辛辣な言葉を吐きだす。
俺は何ら同時ずに「はい。就業時間内ですし、それほど無理な指示ではないと思いますが、いかがですか?」
「業務命令では 仕方ありません。お給料分は働きます。」
横で、長身の人の好い門田主任が、静かにため息をこぼす。
緊張感をはらんだ雰囲気の中、六本木にあるCOOBデザイン株式会社本社に向かって、皆で電車に乗り移動する。
その道中でも、会話はほとんど交されない。
安藤先輩が心配して、小声で「火吹係長、大丈夫ですか?」
俺は、全くいつもと変わらずに先輩の雀斑だらけの顔を見て
「ま、何とかなるでしょう」
そして、沈黙と緊張をはらんだ、5人組はCOOBデザイン株式会社本社ビルに到着した。




