木曜日
昨晩は、非常に神経を使った。
KABUKIコーポレーション本社の庶務に勤める菊池陽子さんと安藤先輩は、中々良い雰囲気で、お母さんと帰宅した。
問題なのは、その後だ。
女豹が舌なめずりしながら、俺を食らおうとする。
深紅のFerrari SF90 STRADALE V8エンジン780馬力のハイブリットモンスターは、如何わしいホテルに入ろうとするのに、俺が無理やり何度ハンドルを握り直したことだろうか。
最近、妻の舞は、勉強と育児に専念しており、俺と候葺縁さんとのことにとやかく言わなくなった。
それを好機と、女豹は得物に襲い掛かってくる。
屋敷では、仁父さんや家族の目があるので、中々悪さ出来ずにいたうっぷん晴らしのためか、今は二人きりなので、舌なめずりして襲い掛かってくる。
「縁さんは、僕をからかっているんですか?」
「どうしてそう思うのかな?」
美しき女豹は、横目でチラリと俺を見て、舌なめずりする。
俺は、色香満載の美女に面と向かってはっきりと宣言する。
「以前も言いましたが、僕に舞以外の女性と関係を持つような気持ちも器用さもありません。」
美女は前を向いたまま一言ぽつりと
「今はね」
俺は、意味深な言葉をらしくない口調で言うロングヘアーの美女を見つめた。
(いつもの彼女らしくないな)
等と、油断していたら喰われた!!
赤信号で、急停車してそのまま肉食動物は、草食系の俺を喰いちらかさんばかりに、小さく赤い唇で俺の口を塞いだ!!
「&%$#◇"!'&▽&×%」
色香漂う女性の舌が俺の口の中に入ってきた、逃げ場は狭い車内で、どこにもない。
俺は、力を込めて縁さんの両肩をつかみ、自分の身体から引きはがす。
「縁さん!!」
「なぁ~に~」
「こういうことは、しないでもらえますか!」
「いやよぅ~私、武将様に心の底から惚れてるんですもの」
「ぼ、僕には妻も子供もいます。そしていずれ僕は起業します。他人にも自分自身にも尊敬される人間でありたいと思っています!!」
「わかっていただけますか!」
「わからないわよぅ~」
(・・・・・)
麗しき女性は、続けて
「武将様のお考えは、わかりましたけど、私のこの熱く燃えるような感情はおわかりになります?」
「こんな気持ち、私は恥ずかしながら生まれて初めてです。あなたと別れるなら私はこの場で、死を選びます。」
「本気ですよ。」
(念を押してきたよぅ~、コミュニケーション能力じゃ勝ち目はないな、、、)
俺は速攻で、車から飛び降り自宅まで走り出す。
「僕は走って帰ります。屋敷迄、競争しましょう」
「くす」
1人苦笑して、優美で色香漂う淑女は、その微笑むだけの行為で自分を納得させた。
(流石は、私が惚れた男だわ。簡単には落ちないわね)
言葉にしては
「このFerrariに勝てたら、1千万円差し上げますわよ。」
「よ~し、じゃ全力だ。信号はちゃんと守ってくださいよ!!」
爆音と汗を夜のオフィス街に響かせ撒き散らしながら、二人と一台は、桜田通りを駆け抜ける。
結局、俺は汗だくになるだけで、勝つことはもちろん不可能だったのだけれど、汗をかくといろいろもやもやした気持ちが吹き飛んで気持ちが良い。
清々しい気分だ。
昨晩徹夜明けで、今晩もおそらく相当遅くなることは分かっているのに、身体を酷使することに快感を覚えてしまうのは、、、俺は、、、マゾ?
いやいや、そこは青春という言葉で濁しておこう。
そんなこんなで、夜もくれ朝陽は無常に登る。
眠い。
ちょ~ね・む・い。
昨晩寝たのは、明るくなり始めた頃だったろうか?
さずがに2日続けての、徹夜はかなり応える。
だが、身体が動き出し、心の動力炉が稼働しだすと不思議と普段と同じく、動き出す事が出来る。
食堂に、朝食を取りに行くと彭城楓真が今、帰宅して夜食?を食べていた。
俺は声をかけ「お疲れ、今帰りか?」
「ああ」
相変わらず、コミュニケーション能力が低いスターである。
おそらく疲れもあるのだろう、体格が細すぎるくらいだから、体力も俺ほどないだろう
心の強さは、俺以上かもしれないが、、、
楓真のドラマの視聴率は、ついに先週20%を超え、テーマソングの【ジャスティス・ロー】は80万ダウンロードを超えた。
名実ともに、スターの成績だ。
最近確かに、秘密にしているのに何故か、屋敷周辺にファンらしき人やテレビ局、ユーチューバーなど何かわからん人達がうろうろしだした。
火吹衛士隊を創設しておいて、心から良かったと思う。
頑丈厳重な、正門に屈強最強の警備員がいる、屋敷の敷地には誰一人として、忍び込もうとする人間はいなかった。
楓真は、最近では地下トンネルを抜けて、向かいの火吹家が所有するビジネスビルの駐車場から、KABUKIエンターテイメントの送迎車に乗って出入りしているため、出入りは全く見られることはなかった。
しかし、これだけ秘密にしているのに、なぜ楓真がここに住んでるってわかったんだろう?
SNSの影響力ってすげぇな・・・
まぁ、帝城高校の連中は、ほとんど全員知っているからな~
人の口とネットにふたをする事は出来ないか
自分たちの身は、自分たちで守るしかないな。
そんなことを考えながら、ツネさんの作ってくれた純和風の朝食を取り、鞄を持って会社に出勤する。
屋敷を出るときは、谷樫衛士隊長が武士と共に正門外まで着いてきてくれる。
巨人二人に挟まれて、俺は挨拶していつもの様に走り出す。
俺だって、身長180センチあるんだが、この二人に挟まれると自分が小さくなったように感じる。
谷樫さんが195センチ、武士にいたっては2メートルを超える。
しかも二人とも、分厚い胸板にぶっとい腕、鋭い眼光。
まじ、こぇえって。
雇い主の俺でも思うよ。
30分かけて、渋谷にある職場という戦場に到着する。
朝8:00ジャスト。
安藤先輩は、先に来ていた。
俺の顔を見るなり声をかけてきた「昨晩は、ご馳走様。とても楽しかったよ。」
「おはようございます。こちらこそお母様とのお食事会に突然お邪魔しちゃってすいませんでした。」
先輩は、照れながら「いや、それは全然大丈夫。それより火吹スタンダードにも、だいぶ慣れてきたと思っていたけど、やっぱり君は凄い人間だね。」
(火吹スタンダード?)
「高級ブランド傘を見知らぬ困ってる女性に、貸してお礼も何の要求もしなくて、しまいには食事までご馳走して、自宅まで高級車で送り届けるなんて」
「凄いの一言じゃない?」
俺は、首を振りながら
「いやいや、それはたまたま、僕の家がそういう家だったからですよ。僕はそこらにいる人間と一緒ですよ」
先輩は更に朝からヒートアップして、珍し興奮して話してくる。
「君自身がその自覚がない。というのが一番すごい所だろうね」
俺はこれ以上会話しても、あまりいい感じにならないと思い。
話しを変える
「それより、菊池陽子さんとは何か、良い雰囲気に見えましたけど、何か思う所はあったんですか?」
分かりやすい性格の安藤聡は、一瞬で顔中真っ赤にして
「こ、今度、ディズニーシーに一緒に行くことになったんだ」
「それって、デートじゃないですか」
「い、いや彼女は、そ、その慶応出てるし内はシングルだからさ、釣り合わないというか、、、」
俺は、キッと顔を先輩に近づけて目を睨み助言する
「先輩、また自分で格差を勝手に作ってますよ。先輩の人柄は僕も十分理解しているつもりです。堂々と胸を張って大丈夫ですよ。自信を持ってください。」
「そ、そうだったね。うん頑張るよ」
とても、18歳と19歳の会話には思えない会話が、早朝からかわされていたのは、安藤聡が言う【火吹武将スタンダード】のせいかもしれない。
そこに、木下課長が出社されてきた。
「「おはようございます」」
俺と先輩は、同時に挨拶する。
木下課長は、俺の方を見て
「おめでとう、火吹君。係長に昇進だ。我が社始まって以来だぞ、就社1年で班長、主任を飛ばして係長昇進なんて!私も鼻が高いよ。」
昇進を知っていた、俺はただ「ありがとうございます」とお辞儀してお礼を言う。
安藤先輩の方が、興奮して「凄いね、やっぱり火吹君は、いや火吹係長は、普通じゃないですね」
「やめて下さい。先輩。」
木下課長は、続けざま「火吹係長は、部下に安藤聡君他、3名を部下として、第2法人営業部3課 私の直属となるから、デスクの位置を私の前に持ってくるように。今日中に、変更しておきなさい。」
「わかりました。」
っと、俺は腰を45度に折り、お辞儀する。
そして、やっと業務に入る。
木曜日午前中の研修は、神奈川県にある戸塚工場にてライン製造体験だ。
東海道線を使えば、戸塚までそれほど時間はかからなかった。
一番地味だが、疲れ方は半端ない。
同じ姿勢で、ずっと特殊繊維を機械で製造する。
見た目以上に、スキルと体力忍耐が必要だった。
だが、ここで働く方たちが、会社を支えていると言ってもおかしくない場所だ。
特殊繊維を作り出しても、製造する工場、人がいないと売ることもできない。
黙々と皆製造ラインに並び、業務をこなすがお昼になると、作業着を脱ぎお昼だ。
意外と女性が多いのに、驚く。しかも結構年配の女性もいる。
生きて言れば、自分の母親よりも年上かもしれない。
話しを聞くと、勤続25年を超えるという。
この戸塚工場と営業所が出来た当時から、勤めているそうだ。
ただ、ただ頭が下がる。
こういった、下積みで努力してくれている従業員がいるから、商品を自信もって売れる。
そして、購入したお客様に喜んでもらえる。
お金を払って、喜んでもらえる。そんな仕事とても素晴らしいじゃないか!
しかも自分の生きてきた、年齢より長い時間ここで働いているのだ。
結婚し、子育てしながら頑張って頑張って生きてきたんだな。
俺は無性に、感動していた。
「ほらよ、兄ちゃん茶でも飲みなよ」
横から、緑茶が入った湯飲みが、俺の前に出された。
その手は、とても皺深く、職人の手だった。
50代くらいの女性の手だ。
俺は、思わず差し出された湯飲みを両手で受け取り、自分では知らぬうちに、涙が頬を伝い貰った湯飲みに落ちる。
「兄ちゃんどううした?なんか悪いもんでも食ったか?」
年配の女性は全く動じることなく、微笑み俺を見てくる。
【あたたかい】
「い、いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
「所で、働いていて何か困ったところはありますか?」
年配の女性は、「そういやぁ~2号機の編み機の調子が悪いなぁ~、最近よく針がよく折れるかんな」
(自分たちの事より、機械の事を言うなんて、、、)
「わかりました。そこは早急に対応させていただきます。」
「今日は、とても貴重な研修になりました。皆さまありがとうございました。」
研修が終わって、午後の作業が始まる前に全員の前で、安藤先輩と深々とお辞儀する。
「いつでも、おいでよ。待ってるでな~」
「兄ちゃんは、イケメンだかんな。」
「ばあちゃんばかりだけんど、今度は上手いもん食わしたるよ」
やはり
【あたたかい】
最後は、この工場兼営業所の責任者である、所長に挨拶して本社に戻る。
感動を胸に抱きながら、東海道線を今度は上り線で都内に向かう。
午後3時ころ、渋谷にある本社に到着した。
すぐさま、朝命じられたデスクの入れ替えを始めた。
そこで、驚いたのが来月一日より、発令される俺の係長という役職の部下に、安藤先輩のほかに門田応史主任と2人の20代半ばの女性が、俺の係にはいるらしい。
門田主任は、ニコニコしながら
「いやぁ~出世コースでは、すっかり火吹係長に追い越されちゃいましたね」
人柄の悪い人間ではない、門田主任らしい物言いだ。
普通、未成年の上司なんて、馬鹿にしてくるものだろうに、、、
しかし、他の二人の女性は、なかなか手強かった。




