表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
49/107

火曜日

蒲田にある、ジャメノ靴製造会社本社兼工場の受付フロア。


蛇目野社長と社員たちは、笑い俺に挨拶してくれる。


かつての会社とはが雰囲気が、まるで違う。


火吹武将のいい意味での【毒】が、蛇目野社長によく聞いた結果だろう


結局、、本人のやる気がなければ、何も変わらない。


変えられない。


しかし、蛇目野社長は変わった。


火吹武将という毒薬によって


結果、会社も変わり、社員には笑顔が生まれた。


俺は本気で、良かったと思った。



そこで、思い出したように蛇目野社長に安藤聡先輩を紹介する。


「社長、今度私と二人で御社を担当させていただく、安藤です。」


「火吹君だけでなく、二人で内の担当になるというのかな?」


「はい、安藤は僕の中退した高校の先輩なんです。」


「ほう、それは楽しみだな」


かつて、高級学歴絶対主義者だった大人の言葉とはとても思えない。


そこで、安藤聡が鞄の中より、名刺入れを出して名刺を教わったように両手で、蛇目野社長に渡す。


蛇目野社長は、微笑みながら名刺を受け取り、若々しさの残る安藤聡先輩を見て


「君も火吹君の影響を受けた一人かな?」


「はい、よろしくお願い致します。」


自分に父親がいたとしても、それより年齢が上の蛇目野社長に向かって、何度も何度もお辞儀をする。


蛇目野社長は、ただ、ニコニコと微笑んでいただけであった。


その日は、蛇目野社長も時間が無いようで、挨拶だけして別れた。


そして、ジャメノ靴製造会社の担当者がくるまで、俺は安藤先輩と話をした。


「先輩、失礼ながら 名刺は胸ポケットに何枚か入れておいて、直ぐに渡せるようにした方がいいですよ」


「それと、お辞儀は一度だけで充分です。何度もするとこちらを甘く見られます。常に堂々としているようにして下さい。」


「わかりました。これからも気が付いたことがあったら何でも言って下さい。」


「・・・・僕に対して敬語を使う事も禁止です。」


「でも、君はKABUKIコーポレーションの当主だし、僕にとって恩人でもあるから」


「先輩、はっきり言います。」


「世の中には金持ちもいれば貧乏人もいます。それでもそこには何の格差もありません。自分の心の中に【誇り】を持ってください。格差は自分で作ってしまっているんです。自分は貧乏人だから、自分は出来が悪いから、自分は姿が見苦しいから。」


「全部、自分の中で作って勝手に、含まらせているんです。」


「どんな偉い人だろうと、どんな金持ちだろうと、どんな高級な場所でも、安藤聡という人間は変わりません。」


「いつも、どこでも堂々としていてください」


「わ、わかったよ、直ぐには無理かもしれないけど、努力する。」


俺は片目をつぶって見せて言う。

「まぁ、全部僕の亡き父の受け売りなんですけど」


「そうか、君の御父上はやっぱり、凄い方だったんだね」


「凄いかどうかはわかりませんが、この世で一番 尊敬しています。」




そして、その日は何のトラブルもなく終了した。


そして翌日。


火曜日の朝。


今朝の天気はどんよりと曇り空だ。

雨が降ってきても、不思議ではない。


それでも、全くいつもと同じように会社に出社して、掃除を始める。


火吹武将と安藤聡であった。


これまたいつもの様に木下課長の朝礼から始まった。


火曜日の俺のスケジュールは、午前中は人事部での研修という名の勉強会だ。


これも、葛城仁社長が指示してくれたおかげだ。

会社の仕組みの全てを勉強したいという、俺の言い分を組み取ってもらったおかげだ。


朝礼後すぐに、本社ビル3階にある

個人情報の(かたまり)である、人事部に顔を出す。


2重扉のロックを外してもらい、俺と安藤先輩は中に入る。


担当はもちろん、神戸正志部長35歳、独身。


仕事できます。


オーラ全開の俺の尊敬する大人の1人だ。


扉のロックを外して中に入れてくれたのは、春日百合さん28歳独身。俺の最初の大人の同僚だ。


神戸部長は、安藤聡先輩の面接にも立ち会ってもらったから安藤先輩も良く知った、人柄だ。

思わず、目線が下がり下に向きかける安藤先輩。


神戸部長のオーラにあてられて、目を合わせられないでいる。


俺は右ひじで、先輩を小突く。


「先輩」


安藤先輩は、昨日の会話を思い出したように、キッと口を引き結び、神戸部長に挨拶する。


「神戸部長、おはようございます。」


「うん、二人ともおはよう。時間無いから早速始めよう」


俺たち二人を奥の大きめの会議用テーブルに案内する。


「春日君、お茶を貰ってもいいだろうか?」


「はい、只今お持ちします。」


3人で向かい合って着席する。


直ぐに温かいお茶を、春日さんが持ってきてくれる。

神戸部長は直ぐに話し始める。


「今、君たちが飲んでるお茶だけどね、これも規則的にはアウトなんだよ」


俺は驚いた。


「えっ、何がダメなんですか?」


神戸部長は、にこりともしないで話し続ける


「女子社員にお客様でもない、君たちにお茶を注がせることを命令したろう。これは明確な規律違反。女子社員はお茶くみではないからね」


「一昔前なら、当然の行為も時代と共に変わっていくという事だよ。前に火吹君の入社祝いに居酒屋に連れて行っただろう」


「はい。」


「あれも、今では完全にアウトなんだ。業務命令でもないし、残業代も付かないことを命令する権限は、上司には無いんだよ」


(あれは、俺にとっても嬉しかったけどなぁ~)


「権限というか、拒否されても人事考課に入れてはいけないという事かな?」


俺は新しい単語に反応した。


「部長、人事考課って何ですか?確か以前もおっしゃっていたような気がしますが」


神戸部長は変わらず淡々と話す。


「社員の成績表。 みたいなものかな?」


「給与の昇給、賞与の金額、役職を付ける基準だよ。」


「当然、付けるのは当直の上司に当たる、各課長がしてそれを部長が判断して、最終的には人事部長の僕が、取締役や社長に進言して、上が決める素となるものだよ」


「だから、担当課長が飲みに誘って断られたから、人事考課をマイナスにするなんてことはあってはならないし、そういう人間が役職にいる事を許す会社であってはならないということさ」


「役職に就くという事は、皆の手本となり尊敬される人物でなければならない。だから時代と共に基準が変われば、自分自身も変えられる柔軟な人間でなければならない。」


(すげぇなぁ~神戸部長はやっぱり俺の思っている以上の大人だ。)


「まぁ、でもたまには羽目を外してしまうのも、人間だからしょうがないけどね」


俺は、興味本位か聞いてみた。


「神戸部長でも、お酒で失敗したりすることなんてあるんですか?」


すると横から、女性声で


「ありませんよ。神戸部長ほどお堅い人間なんて、何人もいたら居心地悪くて大変ですよ」


春日百合さんだ。


「おいおい、僕だっていつもかたっくるしくしてばかりじゃいよ。」


春日百合さんは続けて言う


「そうですね、今日の部長はいつもとは別人のようによくお喋りになって楽しそうですね」


神戸部長は、クックックッと右手で拳を作り口に当て、笑いをこらえている。


「春日君の言う通りかもしれないね、今日の僕は(はしゃ)いでいるよ、若い二人の活気にあてられたかな?」


「【鬼の人事部長】と異名を取る方が、それは大変珍しい事ですね」


流石付き合いが、長いだけあって春日さんと神戸部長は息が合うらしい。


コホンと咳払いして、神戸部長は話しを戻す。


「それで、人事考課の付け方の基本だけどね、大切なのは3つ」


「1つ、私情を交えない」


「1つ、半年以前の失敗や成功は考慮しない」


「1つ、会社と本人にとって公平正当であること」


「この3つが基本にあり、その上で細かく部署に沿って、各項目に点数を付けて、ポイントで判断するんだ。」


「そのポイントが正しいかどうか、部長が判断して、僕が判断して、最終的には役員会議で議決される流れなんだ。」


「以前居酒屋で、君の第一印象を3+と評価したのは、そういったことを前提に出した僕の私的な評価なんだ。」


「でも君は、この一年間だけで 僕の評価以上の成績を収めて係長昇進が内定しているよ」


「えっ!!僕がですか」


「うん、社長の承認も得てるから、近日中に通達が出るよ」


そこで、また春日百合さんが話しかけてくる。


「口のお堅い神戸部長が、公示前の人事を当人に通達するなんて異例ですね。そもそもこんなに長く沢山、お話しする姿 私始めて見ましたよ。」


またもや、神戸部長はクックックッと右手で拳を作り口に当て、笑いをこらえている。


癖なのかな?


安藤聡先輩は、ずっと必死にノートに記帳している。


俺みたいに、周りに直ぐ相談に乗ってもらえる人がいないだけあって、かなり頑張っている。


学習能力が、高く真面目だ。


しかし、高校中退で未成年、入社1年目で係長昇進なんてあって良いのだろうか?


義理の父親が、社長だとは言え、ちょっとありえなくねぇ


自分のポテンシャルにまだ気が付いていない、火吹武将本人であった。


今日だって、朝から普通の様に仕事して、話をしているが彼は昨晩は経理課から出された、宿題をこなしていたため徹夜で一睡もしていない。


いくら若いからとはいえ、徹夜でもいつもと変わらない仕事ぶりを黙ってできる人間が、この世にどれだけいるだろうか?


弱音を吐かない。


疲れた顔を見せない。


困った表情をしない。


声は大きく、常に堂々と胸を張って話す。


今は亡き、父親 火吹虎雄から骨の髄まで教え込まれたそれは、人の上に立つべきものが持つ【帝王学】であった。


火吹武将という人間は、本人が気づいていないだけで、既に王としての資格を持ち備えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ