月曜日
今日は月曜日。
天気もいい。
仕事日和だ。
さぁ~1週間頑張るぞ!!
渋谷にある京仁織物株式会社 本社ビル7階にある第2法人営業部第3課。
ここが俺の戦場だ。
一番奥の自分のデスクに行くと、隣に既に安藤聡先輩が来社していた。
(俺も結構早く、いつも来てんだけどなぁ~)
「早いですね。安藤先輩。」
身長175センチと標準体型の雀斑が目立つ好青年はにこやかに
「一生懸命頑張るしか取り柄が無いのが僕だからね」
(充分、素晴らしい取り柄だと思いますよ。今時、挨拶しない、上司と話していてもスマホを見ている奴もいるくらいだからな)
っと、思いながらも言葉にしては
「それじゃ、早速始めますか」
「はい。」
俺と安藤先輩は、社内フロアの清掃を始めた。
もちろん、専門業者が毎日入って清掃していてくれているものだが、細かい所まではしてくれない。
個人個人のデスクのごみや、窓枠の埃拭き、シュレッダーの裏側の溜まったゴミ清掃などなど、俺が毎日日課としていることだ。
そこに門田応史主任が、出社してきて俺達に声をかける。
「おはよう。相変わらず、早いね。火吹君達は」
「「門田主任、おはようございます。」」
二人、声が重なる。
安藤先輩が入社して、社会人としての基礎を学ぶ研修が済んで、ここに配属されて早くも、1か月が過ぎた。
俺はともかく、安藤先輩も俺と同じように人より早く出社して毎日、掃除から始める日課を続けている。
根が明るく真面目なのが、本人が面接で言っていたように【頑張るのが自分の良い所】っと、言う事がよく分かる1か月でもあった。
次々と、上司や先輩方が出社して朝礼が始まり、今日の予定や今月の営業成績などを簡単に木下課長が報告する。
ここ第2法人営業部第3課の今年度の成績は、前年対比250%アップだそうだ。
物凄い成績に、木下課長始め課のメンバーの士気は高い。
詳細は聞かされていないが、そのほとんどを自分が稼ぎ出した事を俺自身は知らないし、実感もない。
ただ、仕事を真面目にこなす。
火吹武将流に!!
これが、他人との大きな違いだとはその時の俺には全く理解できなかった。
「それじゃ、安藤先輩。行きましょう。」
俺は、自分のデスクから鞄を持ち出し、上着を羽織り出かける。
安藤先輩はただ一言
「はい、火吹先輩。」
っと答え付いてくる。
(俺の方が年下なのになぁ~)
月曜日の午前中は、経理部に行く。
実践の経理を学ぶためだ。
当然、葛城仁社長の許可というか命令に近い指示を受けてやっている。
将来の自分の為に、必要だと社長は考えてくれているのだろう。
各部署にも、連絡は行き届いていて余所者の俺達を気持ちよく受け入れて、指導してくれる。
経理部の美しく、若い女性社員たちが俺達を快く迎えてくれる
「あらぁ~火吹君に安藤君いらっしゃい。」
経理部入社5年の佐久間真琴さんが、俺達の教師役だ。
目がぱっちりとしていて、小柄な女性だ。
聞いた話だと、社内の社員と婚約していて近々結婚するらしい。
「先週出した、宿題はやってきたかな~?」
佐久間さんは、月曜日の午前中と限られた時間内で。経理の勉強をする俺達にいつも、次の月曜日までにやってくる宿題をだす。
今週出された、宿題は会社が高額な経費として、計上する時に減価償却費の定額法と定率法の違いについてだった。
様は、車や設備投資をした時に、税法上では一括で落とす(処理)事が認めらておらず、減価償却費として複数年掛かけて処理するものなのだそうだ。
その処理の仕方に前に述べた、定額法と定率法があるのだが、その違いを宿題として出されたのだ。
俺はすぐさま、鞄を開き自分で勉強した事をまとめた書類を机の上に出し成果を説明する。
安藤先輩はただ、聞いているだけだが一生懸命理解しようとノートを取っていた。
帝城高校は腐っても、超進学校だ。
進学しなかったとしても、入学できた安藤聡の優秀さは変わるものではなかった。
シングルマザーという、状況と安藤聡という個性、パーソナリティでなければ、余裕でマーチクラスには進学できたことだろう。
学習能力が低いわけがない。
付け加えれば、正義感もとても強い。
経理部の幸せ絶好調の佐久間真琴さんは、嬉しそうに俺たち二人を見つめて、説明してくれる。
俺の出した、書類を一通り精査して
「万点以上の回答ね」
「頑張ったね、火吹君。この問題って結構大人でも難しいのよ」
「しかも、銀行が会社を審査する時の基準について減価償却費を選考の一つにしているなんて、普通の人は全く知らないわよ」
俺は照れながら
「そこは、知り合いに教えてもらったんです。」
COOBデザインの美しきCEO候葺縁は実践経済学の家庭教師でもあるのだ。
佐久間さんは、俺の10ページ近くにわたる資料を見て
「火吹君には、とても良いお友達がいるのは分かったけど、この資料だって、大したものよ。経理部にスカウトしたいくらいよ」
「まぁ~営業部でのあなたの活躍ぶりは有名だから、絶対無理でしょうけどね。」
「はははぁ~」
(笑うしかないなぁ~)
安藤先輩はしきりにメモをとって、いくつか佐久間さんに質問していた。
(勉強熱心だし、真面目だ。)
俺は素直に、そう感じた。
超が付くほど、天才でないのかもしれないけど、努力家であることは間違いない。
ほんとに俺の周りは、超が付く天才がめちゃくちゃ努力してるやつが多いから、呆れるやら何やら基準にならねっての
最近の妻である舞の必死さは、尋常をはるかに超える。
育児に進学勉強。
尋常じゃないんだな、これが!!
元々、親友の常慶貴彦と学年トップを争っていた、頃とは次元が違うレベルに達している。
タカヒコだって、父親が東京地検の検察官で、自分も司法試験受けて、国際弁護士目指しているアホみたいなやつだが
舞はタカヒコとの勉強の差もかなり差をつけているらしい、、、
最近俺とも会話したか?
寝る時間も、俺より遅い時があるくらいだ。
末、お・そ・ろ・し・い・な
あいつ、何を目指しているんだ?
【戦士】の覚悟を知らずに、俺は不安に駆られる。
経理部での勉強会は、あっという間に時間が来て終了となった。
来週の宿題は、銀行からの利子の種類。
元金均等法と元利均等法の違いについてだ。
う~ん、今はわからん。
今夜は徹夜だな。
俺は佐久間真琴さんに、お礼を述べ経理部の方々にも、挨拶をして、8階にある経理部を後にする。
「安藤先輩、お昼はコンビニでおにぎりで良いですか?」
「僕は何でも構わないよ。」
俺は本社近くのコンビニに飛び込み、お握り3個とサンドイッチを買う。
安藤先輩は意外にも、お握り4個と唐揚げ弁当を買っていた。
この一か月、共に仕事してきたからわかるのだが、安藤先輩は意外に食べる!!
これが、原動力になっているんだろう
始めは、お金が持ったないからとお弁当を自分で作ってきていたけど、意外に仕事が激務なのと、【給料】をもらえるようになって、お金の使い方を覚えてきたみたいだ。
きっと仁社長の配慮で、大卒と変わらない給料が支給されているんだろうな、、、
「おにぎり食べたら、スタバに寄って一服して午後の営業に行きましょう。」
「うん、わかった」
安藤聡先輩は、この一か月。
一度として、俺の指示に逆らったことがない。
意外にタフで、懐が深い。
体力も標準以上あるし、感情の起伏が殆ど無いのが何よりの美点だとおれは思う。
午後の営業先は、蒲田にある【ジャメノ靴製造株式会社】だ。
あの蛇目野社長に、挨拶と安藤先輩の紹介に行くのだ。
新会社【TAKERU】の工場本社の建造も始まっており、その辺の打ち合わせもすることになる。
スタバで、一息つき山手線に乗り込み蒲田に向かう、京仁織物株式会社の未成年者営業コンビの二人。
蒲田に着き、久しぶりに来るジャメノ靴製造会社工場兼本社ビルにきた。
初対面が、激しく印象的だったので忘れられない取引先だ。
しかし、正門をくぐり受付に着くまでに俺は何だか、凄い違和感を感じていた。
違和感、、、
いや、雰囲気の違いだ。
この会社は、以前はこんな明るくなかった。
今では、トラックに荷物を積む作業員から作業服を着て、書類片手に走っていく社員の顔が皆、明るく笑い声さえ聞こえる。
(どうしたんだろう、、、)
以前俺と蛇目野社長との間がこじれた時、心配してくれた受付の女性の所に向かう。
女性は、俺の事をしっかり覚えてくれていて、俺の顔を見るなり、受付卓からでてきて俺の前で、お辞儀をする。
「ど、どうしたんですか?」
思わず聞いてしまった。
受付嬢は、頬を赤らめて俺を見つめて
「火吹さんが、来られてから社長の人柄がガラッと変わって、私たち社員の給料も上がって、会社自体が違う会社になったみたいです。」
「これも、全部火吹さんが、ガツンと社長に言ってくれたおかげだと、皆言ってます」
「ありがとうございます。」
思わず、自分の両手で俺の両手を取り感謝の気持ちを体現してくれるが、妙齢の美しい年上の女性に手をつかまれ、こちらこそ照れてしまう。
頬が赤くなるのを感じる。
そこに、噂の人物が都合よくあらわれる。
蛇目野社長本人だ。
秘書と社員を数人連れ、仕事の話をしているようだったが、前の様な暗さ陰湿な感じは全く受けなかった。
蛇目野社長が、俺を見つけると、年甲斐もなく。
話しを打ち切って、小走りに走ってくる。
(年齢考えて、転んだら大変ですよ!)
などと、考えていると蛇目野社長が、文字通り転がり込むように俺のところにやってきた。
思わず、蛇目野社長の身体を支えて
「大丈夫ですか?社長」
っと、声をかける。相手はゼェ~ゼェ~年甲斐もなく走るもんだから、息切れが激しい。
それでも一生懸命に話そうとする。
「か、火吹君、、、来るなら連絡、、くれれば、、迎えに行ったものを、、、」
(そんな、無理しないで下さいよ~)
「社長、ちょっと落ち着きましょう。大きく息を吸ってください。」
「そ、そうだな。」
すぅ~っと、大きく息を吸った後に思わずむせこむ、蛇目野社長だった。
それを見ていた、受付嬢から一緒にいた社員が皆、明るく笑いだす。
「社長無理しないで下さいよ」
「もうお若くないんですからね」
「す、すまん。つい、火吹君の顔を見たら走り出してしまった」
(なんか、良い雰囲気だ)
火吹武将という人間が、ひとつの会社を丸ごと変えてしまった。
社長が変われば、
会社が変わる。
会社が変われば社員が変わる。
社員が変われば、、、、
やる気が生まれる。
お金だけが会社を変える方法でないという、立派な証である。




