安藤聡初出社
帝城高校体育館は、爆発的な熱狂と喧騒で白熱した。
今を一世風靡する元級友であった、彭城楓真の初ソロライブが、母校の卒業式に行われたのである。
しかも、舞と俺の3人でアカペラだけの本物の【生】だ。
卒業生はもちろん、在校生から来賓、教師、職員その場にいるすべての人間を楓真は彼の虜にしていた。
約1年前まで、ここ帝城高校で共に学んだ学友だ。
当時から、アーティストとして芸能界を真剣に目指していた楓真は、周りからその風貌と実力と性格によって、一線を置かれてはいたが、全くの知らない人間ではない。
それが今では、人気急上昇中の大スターになりつつあるのだ。
興奮しないはずがない!!
歌った曲は、1曲だけ。
時間にして10分も無かっただろうが、その10分の中身の濃さは、半端なかった。
女子生徒の中には、泣き叫ぶ子や 座り込んでしまう子まで出てきた。
歌い終わり、ふと周りを見ると校長先生から教師の方たちまで涙を流して、手を叩き喝采を俺達に送ってくれている。
楓真はマイクを取り
「頑張っていこうぜ!」
と、叫び壇上より駆け下りて、火吹衛士隊に囲まれながら事務所の黒色のワンボックスに駆け込み、車はすぐさま走り出す。
校門から道路に出るまで、火吹衛士隊は通路と安全を確保して、楓真の乗る黒ワンボックスを誘導する。
楓真の巻き起こした、興奮と喧騒は中々収まらず、本人が居なくなった後もザワザワと会場内が、揺れていた。
しかし、その後 生活指導を兼ねる教育に厳しい教頭先生の一括で、生徒たちは収まり、その後は無事に卒業式も終了した。
在校生は、卒業生を手を叩き送り出していく。
来賓の客も帰り始めた時だった。
候葺縁がトイレに行って、出てきた時に偶然にも火吹舞と1階の廊下で、鉢合わせた。
大人の余裕からか、縁さんから声をかける。
「とても素晴らしい、卒業式でしたわね。舞様の声も大変素晴らしかったですわ。」
舞も全く普段と変わらず、「ありがとうございます」と言葉少なに返答する。
同じ屋根の下に住み、同じ異性を恋する同居人同士毎日顔を合わせてはいるが、仲良しというわけでは決してない。
そんな所で、1階の中庭から男の声が聞こえる。
「なんだよ、あの火吹の上からの言い分はよ~」
「金持ちがマウントして、庶民の俺らにどうしろってんだよなぁ」
「家は、金持ち、ダチはスター、奥様は超美人と来て、一体何様のつもり何だか」
以前 舞が妊娠中にクラスにからかいに来ていた卒業生の3人組だ。
舞が、一歩前に出ようとする。
自然な態度で、候葺縁は舞の前を塞ぎ、中にはにいる卒業生3人に向かって歩いていく。
そして、色気を溢れ出しながら辛辣な言葉を投げ込む。
「あら~他人の噂話は聞こえないところでしないと、ダメじゃないの~」
腰を曲げて、小顔で小さい唇に人差し指をあてて近寄る。
3人は、明らかに動揺した。
っが、屈みこむ、候葺縁の豊かな胸元に3人とも目が行き、言葉を失う。
「それとね~他人を僻む前にねぇ~自分を磨かなくちゃだめよ~」
「「「・・・・」」」
縁さんの胸元から目を離せずに、3人は押し黙る。
「あなたたちにも、彼女とかいるでしょ~もし彼女が妊娠したら、あなた方結婚出産するなんて、考えらる~?」
3人の1人が顔を赤らめて「そ、それは無理じゃないですかね」っと、照れながら言う。
女豹はそこで、突然として牙をむく。
「あんたら、男にとっちゃ彼女が妊娠したら降ろせばいい。くらいにしか考えてないかもしれないけどね、女性にとって堕胎は一生の問題なのよ!」
「てめぇのケツも拭けないガキが、立派に胸張って、頑張ってる男を陰でこそこそ言ってんじゃねぇよ!!」
「「「!!!」」」
3人の内、1人が顔色を今までとは全く違った、どす黒く染めて、自分のこぶしを握る。
「お前たち、金持ちに何がわかる!!」
「ああ、努力もしないで貧乏人ぶってる馬鹿どもの気持ちなんてこれっぽちもわからないね!!」
経済界の女王陛下は、胸を張り憤然と言い放つ。
「この野郎!!」
男が、候葺縁に殴りかかってきた。
舞が驚いて止めに、入ろうとした時には、殴りかかった男は綺麗に空中に弧を描いて、空を舞い。
背中から、地面に叩きつけられる。
候葺縁は体を半身下げて、遅い掛かってきた男のパンチを交して、腕をつかみ上げ自分の左足で、男の右足を蹴飛ばし、掴んだ手を引き付け体を丸める。
見事な一本背負いが見事に決まった瞬間だ。
ズン!!
投げられた男は思わず、「ぐわっ」と声を吐き出す。
長い髪の毛を、右手で払いながら、息も荒らさずに更に叩きつける 鋭く激痛を伴う言葉を
「口で負けたら、暴力に訴える。」
「最低の男だね。あんたら」
女王陛下の勅令は、更に加熱する。
「力に勝る、男が女を殴れる奴は、心の底から腐ったクズだね」
残った2人が、思わぬ出来事に躊躇していると騒ぎを聞きつけた男性が横から、やっと現れた。
「それ以上は、止めるんだ。どうしてもやるというなら僕を殴れ。」
両手を広げて、3人の悪玉卒業生の前に立ちはだかるのは、同じ卒業生の【安藤聡】だ。
雀斑だらけの顔とは、正反対に燃えるような決意を表した眼力に3人は、怯む。
卒業式には似合わない、緊張感を含んだ校舎の中庭。
ズン!
この男の登場で全てが、霧散する。
悪態をついて、逃げ惑う3人の悪玉卒業生だ。
当然、それは土門武士の登場の為である。
身長2メートルを超し、体格は厳しく鍛えられて、腕の周囲だけで、細い女性のウエストぐらいありそうなぶっとい腕。
心とは真逆に目つきの鋭く、強面の顔。
普通の人間で、太刀打ちする どうのってレベルをはるかに超えた心優しい超人だ。
「大丈夫っすか?」
不器用に声をかけてくる。大きな巨人。
舞が、皆を代表して無敵の巨人にお礼を言う。
「ありがとう、武士君。助かったわ」
次いで、他の2人に向き直してそれぞれ、声をかける。
「縁さん、護身術もやってらしたのですか?」
日本を代表するとまではいかなくても、世界に通用する数少ない日本の洋服やアクセサリー、バックを販売するCOOBデザインの社長は、優雅に舞に向かって一礼して
「美しい、女性の嗜みですわ。よろしければ舞様にもご教授させていただきますが」
「ありがとうございます。でも今は勉強と育児に手いっぱいなので、もう少ししましたら是非お願い致します。」
候葺縁さんのポテンシャルの奥深さを更に深く認識して、自分の心の中で候葺縁さんの認識が少しずつ変化していくのを感じていた。
そして、いまだ両手を広げて 大の字になってる心優しいシングルマザーの先輩へ声をかける。
「安藤先輩もありがとうございます。」
安藤聡は、両手をおろし 顔を真っ赤にしながら
「結局、僕は何の役にも立たなかったけどね」
「ふふふ、、あなたのナイト振りはカッコ悪いけど、とても心籠った、素敵な姿でしたわよ。」
安藤聡とは、初対面になる美しき女豹の女王陛下は言葉を投げかける。
平服せよ、庶民どもとばかりにある意味、神々しさを放ち候葺縁は微笑みながら、安藤聡に優しく話しかける。
色香と共に
思わず、顔を真っ赤にする。
京仁織物株式会社の新入社員である。
そして、少々のトラブルはあったものの、無事卒業式は閉会し、ほとんどの卒業生にとって、【彭城楓真】と【火吹武将】の名は心に刻まれたことだろう。
そして4月を迎える。
今日はエイプリールフール。
嘘をついても怒られない日だが、嘘をつく事が出来ない男の入社式でもある。
渋谷の一等地に立つ、京仁織物株式会社本社ビル 最上階の社長室の脇にある大会議室で新入社員の入社式が執り行われていた。
当然だが、俺は一営業なのでその場にいる事はなかったが、営業から会社に戻ってくると、いつもの様に木下課長が声をかけてくる。
課長の脇には、見知った顔の男性がスーツという戦闘服を纏い立つ。
「火吹君、今日から君とペアを組むことになった、新入社員の【安藤聡】君だ。」
「よろしく面倒見てやってくれよ。」
「は?俺で良いんですか?」
「うん、社長直々に神戸人事部長に通達があったらしいから、そう言う事でよろしく。」
「・・・・・」
忙しそうに、髪が少し薄くなってる小太りの課長は、すぐさま自分の仕事に戻り、後の事は俺に任せられた。
いきなりで、何と言っていいかわからないでいると、先輩の門田応史主任が、助け船を出してくれた。
「安藤君の席は、火吹君のデスクの隣に作ってあるからね、用意が出来たら、皆に紹介するから声をかけてくれるかい?」
「門田主任、僕とペアってどういうことなんでしょう?」
心優しい主任は、この1年ですっかり俺に心を許してくれて何でも話してくれる。
「火吹君のこの1年の成果は、皆が知ってるように見事なもんだろ。社長としたら火吹2号を作りたいんじゃないかって、噂だよ」
(なんだよ、その火吹2号って、、、)
脇にいる、安藤聡さんが俺に向かって
「よろしくお願いします。火吹先輩!!」
と言い、90度腰を曲げてお辞儀する。
(おいおい、先輩はそちらですよ~)
「それでは、とにかく慣れるまで、一緒にやりますか?」
軽く言ったつもりなんだが、、、
帰ってきた言葉は、フロア全員に聞こえるほどの大きさで
『よろしくお願い致します!!火吹先輩!!』
だった。
(どうなるんだこれ?)




