卒業式
火吹武将本人の知らぬところで、物事はどんどん進んでいた。
マルガッス・シュタインさんの会社T・T・D Co.LTDを10兆円もの大金で、火吹武将個人が買収したことなど、全く知らぬ事実であった。
またこのことも、その一つであろう
一番身近にいる、妻の舞の決意。
【一流の戦士】になる覚悟。
元々のポテンシャルの高い人間が、本気になった時の凄さは、また、身近にいる彭城楓真の生き様からよく理解している。
朝は、武将が起床するより早く起き、勉強を始める。
武将たちが、起きてきたころには子供たちにミルクをあげているところだ。
塾も行かずに、家で黙々と勉強する。
従来、それほど口数の多い女性ではないが、最近の舞は候葺縁さんとの事でも、いちいち口出しせず自分の部屋で勉強に没頭している。
子育てと勉強の両立。
いくら、両親のフォローがあるとはいえ、高校生の彼女には身が重いだろう。
しかし、彼女は睡眠時間も4時間取らずに、寡黙に闘志と頭脳をフル回転させて、自分と戦っていた。
週末は、子供の面倒と勉強で一日を費やし、遊ぶことやリビングで皆と談笑する姿は全くなくなった。
そんな彼女の生活も、2か月を過ぎ。
進高校3年生に進学する頃、、、
流石の俺も心配して、声をかけてみるが、「大丈夫」の一言で、遠ざけられる。
こういう時の人間に、余計な事はかえって邪魔になる。
夫である自分でも、黙って見守ることしかできない。
約一名、候葺縁さんはこれ幸いと俺にちょっかいをかけてきたが、そっちの方面では俺は毅然とした態度で隙を与えなかった。
ただ、経営者としての勉強に関しては、熱心に勉強させてもらった。絶対隙だけは与えずに!
肉食系女子の見本でもある、候葺縁さんでも、本低で仁さんや唯母さん、周囲の目もありそれほど過激には振舞えず、上手く火吹家屋敷の内情は回っていた。
楓真のデビュー作となる、ドラマの撮影も順調に行ってるらしく、来週の月曜日には第1話が放送される。今のドラマは収録撮影しながら、放送も開始されるらしい。
皆売れっ子のスターばかりだから、ギリギリのスケジュールで進むらしい、、、っど素人のあいつがいきなりそんな中に入って大丈夫なのか?
まぁ、俺が心配してもしょうがない事だからな。
俺が作った主題歌【ジャスティス・ロー】の録音も完了して編集も済んでいるらしい。
正直凄い楽しみだ、あいつがどんな芝居をしどんな曲になったのか!
ワクワクが止まらないな。
本人は全く生活に変化はないんだが、、、
それがあいつの凄い所なんだな。
あいつのゴールはどこにあるんだろう?
まだまだ先にある事だけは事実だ。
そこに、シゲさんが一通の手紙を持って、夜リビングでくつろぐ俺のところに、手紙を持ってきた。
「武将様、お手紙が来ております」
と、礼儀正しく言い。
開封されていない、立派な手紙を渡す。
俺は受け取り、裏の宛名を確認する。
【私立帝城高等学校 校長】とある。
(な、なんだ?)
おれは急ぎ、立派な封筒を銀で出来た、ペーパーナイフで切り中身を確認する。
すると、驚きの内容が書いてあった。
俺を帝城高校卒業式の来賓客として誘う案内状だった。
しかも、卒業生に向けて一言、メッセージを壇上で話してほしいと書いてある。
(俺でいいのか?俺中退だし、未成年だぜ、、、)
そこに、葛城仁父さんが、話しかけてきた。
「僕にも招待状来てるんだよ、一緒に行こうじゃないか。確か卒業する先輩も、内に入社が決まっていたよね」
(安藤聡先輩だ。俺が面接したんだもんな)
「わかりました。丁度日曜日なので、予定は空いてますから、ご一緒させていただきます。」
丁度そこに、さっきまで考えに耽っていた張本人が、帰宅してくる。
「お疲れ様、楓真。」
身長180センチの俺より少し高いが、俺よりはるかに体重の軽い、未来のスターは一言だけ
「ああ」
とだけ答えて、お洒落な上着を脱ぎ、細く長い足を交差させて大型ソファに頽れる様に、身を投げ出す。
当然、その場にいる今日の仕事終わりに一杯好みの赤葡萄酒を嗜んでいる肉食系女王が、優雅に短いスカートなのに両足を楓真と同じように組んで、語りかけてくる。
「楓真さんのドラマ放送開始は、確か来週の月曜日でしたわよね」
「ああ」
誰が相手でも、どこにいてもこいつは変わらない。
半年の同居生活で、候葺縁さんもその辺は既に理解しており、コミュニケーション能力の高い彼女にとっては、楓真の無口など何の問題にもならなかったし、気にするような、そんな小さな心臓も持っていなかった。
「とても楽しみですわ。楓真さんがどのような演技をされるのか?」
楓真は沈黙のまま。
隣に座る、葛城唯母さんの方が大はしゃぎだ。
「絶対視聴率15%は超えるわよ!」
確かに、前宣伝のコマーシャルや電車内の吊り広告、ネット広告、かなりの頻度でドラマのCMを見かけるようになってきた。
楓真の顔も、写真で載っているので、帝城高校のみんなは驚いていることだろう。
そこで楓真がいきなり、俺の手紙を見て
「俺も行くぞ」
「はい?」
「卒業式」
「いや、お前呼ばれてねぇだろ、それよりお前のスケジュール空いてるわけねぇじゃん。」
「宣伝活動だって言って、抜けていく。」
(おいおい、KABUKIエンターテイメント社長の水島さんの顔が浮かんで、思わずとてもすまない気持ちになる。)
「まぁ素敵。それでは私も参加させて頂こうかしら」
帝城高校とは、全く無関係の肉食女王が、参戦する。
卒業式を運営する方々には申し訳ないが全く関係のない所で、全く関係のない人たちが、話を決めていた。
そして、恐らくそれは現実になるんだろうな
この人たちの行動力と性格からして、一度口に出したからには、絶対完遂させるんだよな、、、
中間にいる俺の方が、モヤモヤしちゃうよ。
まったく、、、
そこで、大人の仁父さんが話をまとめてくれる。
「校長先生には、僕の方からお願いしておくから大丈夫だと思うよ。ただ、楓真君のセキュリティだけはしっかり確保した方がいいだろうね。ドラマ放送の後だからね」
「わかりました。その辺は、水島社長に僕の方から連絡しておきます。」
「楓真のガードは、谷樫さんと武士たちに頼みましょう。」
等と言っている間に、卒業式の日はやってきた。
楓真のドラマの放送は、第4話迄進み、人気絶好調。
期待の彗星の如く現れた大型新人、現ると世間を大騒ぎにさせていた。
ドラマの主張率はうなぎのぼり登っていき、先週は16%を超えた。
当然、主題歌の【ジャスティス・ロー】も大ヒット!!
50万ダウンロードを超え、ユーチューブのプロモーションビデオ再生回数は80万回を既に超えていた。
最近では、類を見ない大ヒットとなりそうであった。
そんな中、帝城高校体育館では、卒業式の準備が整い在校生が後部の座席に入り始めた。
そこに、オヤジのスーツで正装した俺と仁父さん、縁さんを乗せた、シゲさんが運転するロールスロイスファントムが、教員用の駐車場に滑り込む。
かつて、毎日の様に通っていた学び舎だ。
肉食女王も卒業式ということで、多少派手さを抑えた服装になっているが、開いた胸元とくびれた腰に魅力的なヒップなど、その色香を全て覆い隠す事は不可能だった。
楓真は、事務所の黒色でガラスもすべてスモークで隠されたワンボックスで、待機していて後で登壇する予定になっている。
俺達一行は、勝手知ったる母校なので、俺が先頭に立ち皆を案内する。
候葺縁さんが優雅にモデルの様に歩きながら行きかう人たちの目をその細い足と豊かな胸元にくぎ付けにしながら一言。
(高校生には刺激強すぎないか?)
「ここで、武将様は勉強し、汗を流し生活されていたのですね、何だか不思議な気分ですわ」
(そうか?普通じゃね、、、それに最近、俺の事を呼ぶとき、君から様に変わったよな、、、)
体育館会場裏口には、校長先生はじめ、元担任だった先生方が、並び出迎えてくれた。
俺は校長先生始め、教員の皆さんに深くお辞儀して、挨拶を交わす。
仁父さんが、二言三言校長先生と話をしている。
来年の舞たちが、卒業する時はどんなことになるのだろう?
等と、まだ1年も先の事を考えていたら、女子生徒が花の形をしたリボンを胸に付けてくれた。
それぞれに名前の書いてある花形リボンを付けて、お世話になった教諭の皆様に再度きちんと挨拶して、自分の席に座った。
生徒は全員着席にしており、卒業式という環境のせいか厳かな雰囲気の中、式は直ぐに始まり校長先生の挨拶。
卒業生を代表して在校生の挨拶。
っと、進み来賓客を代表して、俺の名前がマイクで呼ばれる。
この体育館は、俺と舞の結婚式をした思い出深い場所だ。
俺は、スッと立ち上がり、周囲の人たちに向かってお辞儀をする。
そして席に座るにいる帝城高校を卒業する先輩方を見て、校長先生を見て目礼して、自分の右足からしっかりと歩き出す。
座席には、在校生として妻の舞や親友のタカヒコやミッド、ホトや元クラスメートの級友がいるだろう、、、その視線を一身に浴びながら、俺は堂々と登壇して一呼吸おき、皆を見渡す。
マイクを自分の背の高さに、合わせて話し始める。
「卒業生の先輩の皆様方、本日はご卒業大変おめでとうございます。」
深くお辞儀をして一拍 置き
「などと、当校を中退した私が言うのもおかしなものだと思いますが、ご容赦ください。」
瞬間、在校生の席の方で、爆笑が起こる。
それは、直ぐに会場中に伝播されて体育館内が笑いに包まれる。
笑いが収まるまでゆっくり待ち、話を続ける。
「私の様な、若輩者が諸先輩方を差し置き、祝辞を述べさせていただく事を本日はお許し頂きたく存じます。」
「私は、人の親となり、この帝城高校を去ってより約一年の月日が経ちますが、社会に出て思う事は、家族や友人、仕事で携わる様々な方々、一人一人を大切に思う事だと実感いたしました。」
「困った時、悩んだ時、行き詰った時、助けてくれたのは皆、いろいろなことで関わってきた方々でした。」
「卒業される先輩方は、当然ながら、ここにいらっしゃる在校生皆さんとは、私は深い関わりがあります。」
「どうか、困った時は一人で悩まずに連絡をください。」
「一緒に考え、一緒に悩みましょう。」
「ですから、どうかどんな時も皆さまの心の中に【火吹武将】という人間がいたことを忘れないで下さい。」
「そして、簡単に諦めないで下さい。」
「共に走り続けましょう!」
「次のこの国の主役は私たちです!!」
「簡単ではありますが、以上を持って私の祝辞とさせていただきます。」
パチパチパチ
「火吹~!!」「火吹~!!」「火吹~!!」
連呼される、俺の名前。
ほとんどが、在校生の席から聞こえてくる。
会場が収まるまで待って、最後に
「それでは、最後に私の親友をご紹介いたします。」
「最近、有名になってちょっと天狗になってますが、皆さんもご存じかと思います。」
「彭城楓真です!!」
会場が、ドッカンっと会場が爆発する!!
「「「「ワァー!!」」」」
火吹衛士隊に守られて、式場内に走って入ってきて俺の横に登壇する。
盛り上がりは最高!!
「「「「キャー!!キャー!!」」」」
「「「「楓真君!!楓真君!!」」」」
物凄い盛り上がりに楓真は、騒ぎが収まる様子がない事を悟ると、いきなり俺のマイクを取り上げ
「先輩方!ご卒業おめでとうございます。」
とんでもなくたっかく響く声で、祝辞を述べる。
途端に、静まり返る会場内
楓真は変わらずマイクを持っまま
「はっきり言っておくが、俺は天狗じゃない!」
「「「「ハハハハハー!!」」」」
「俺は口下手なんで、歌を送る。舞、上がってこい!」
上から後方に座る、舞に命じる。
舞は、その場でシャキッと立ち上がり、人並みの中を堂々と歩き登壇して、俺と楓真と舞の三人で、並ぶ。
俺は喋ることが不器用なこいつの事だから、こういう事になるだろうと既に予想していた事なので、指をパチンパチンと鳴らし体を揺らして、リズムを取る。
すると舞が、きれいな透き通るような声で、ハミングしだす。
そして、俺と楓真が一斉に歌いだす。
現在大ヒット中の【ジャスティス・ロー】を作詞作曲したのは、俺だから丸暗記しているし、舞は出産の際に曲を聞いて自らハミングアレンジしているからお手の物だ。
そして、いま日本中を虜にしている、この男の声と存在。
俳優なんて、全くできないと思っていた諷真だが、実際テレビを通してみると、実に堂々としていて味がある演技をする。
間の取り方が、普通の役者さんとアーティストの違いの為かわざと自分なりに外しているのか、それが新鮮で逆に新しい演技となっている。
当然声も素晴らしい。
その本人が、今ここにいる。
盛り上がらない訳がない!!
会場内が大爆発だ!
火吹衛士隊も今は総勢20名を数えるが、総動員しても前に出てくる生徒を押し止めるのにかなり苦労していた。
一人一人が、全員巨躯の持ち主で、候葺縁さんが、デザインした制服は黒地に銀色の線と金色の線を階級によって分けてあり、実にかっこよく、火吹衛士隊というより今は楓真親衛隊の様に見えた。
校長先生はじめ、教員はもちろん、来賓の方々迄そこにいるすべての人間を楓真と言う人間が,支配していた。
彭城楓真のプロとしての初デビューライブが、母校である帝城高校卒業式であった。
卒業生にとっては、忘れられない式になった事だろう。




