母は強し
パンパンパン
3度、乾いた手の平の音が響き渡る。
収拾のつかなくなった、火吹家をまとめるのは意外にも葛城唯母さんだった。
「話し合いは、顔を合わせてゆっくりと、感情的にならずにするものよ。一度全員リビングに集まりなさい。」
「だって、お母さん」
「舞もよ、感情的になってはダメ。話し合いになりません。」
「ツネさん、皆さんのお茶をご用意いただけるかしら?」
「かしこまりました。」
急いで走りすぎる、天然だが心優しいオフクロ替わりの家政婦さんだ。
10人は座れるソファに火吹家と葛城家の人達が座る。
テーブルを挟んで向かい側に候葺縁が座る。
その隣に、彭城楓真が長く細い足を組んで、優雅に腰掛ける。
ドラマの撮影が、丁度終わって帰宅してきたらしい。
運転手兼マネージャーの武藤さんは、楓真を玄関まで連れ、既に帰宅したらしい。
楓真が家を出たのは、昨晩の夜中だったからほぼ徹夜だが、疲れは見えない。
むしろ男性フェロモン全開中な感じだ。
撮影帰りのせいか、薄くメイクもしていて、ファッションも専門スタッフが付いてくれているおかげで、最近のこいつの男っぷりたるや半端ねぇっつう感じ。
尚武と結紬は子供部屋に運ばれて、お茶を入れてくれたツネさんが、お世話してくれている。
始めに事の成り行きを葛城仁が、唯母さんに強制されながらも話し出す。
大体の話の流れが、全員に伝わったところで、当事者である。
候葺縁社長が、話し始める。
「私の気持ちは真実であり、嘘も偽りもありません。舞様にご迷惑をおかけるようなことも致しません。」
舞は両腕で、豊かな胸を持ち上げる様に組みながら
「既に、充分迷惑なんですけど」
縁社長とは、13歳の年齢差があるのに、舞は全く動じない。引かない。対等以上に話をする、度胸の良さでは武将より上だ。
黙って聞いていた、楓真が一言
「それで、将軍はこの女性とやったのか?」
「ば、ばか。そ、そんなことある訳ないだろ」
「そんじゃ、将軍が決めれば済む話じゃねぇの?」
「彼女はここに住みたい。将軍とは男女の関係ではない。それなら決定権は、この屋敷の主人が決めればいいじゃねぇか」
切れ長の気の強さを絵にかいたような、双方の目が細くなり舞は、楓真に物申す。
「居候のあんたが勝手に仕切ってんじゃないわよ!この人は武将の妾になりたいって言ってるのよ!!」
楓真は全くいつもと変わらず、こいつも心臓の毛の数は舞に負けてない。
「それを決めるのも、将軍だろ。自分の旦那の事が、そんなに信じられねぇのか?」
「くっ。」
ギリリと歯ぎしりする音が聞こえそうな、表情と気迫が舞から発せられるが、飄々としている楓真だ。
昨今の楓真は変わった。
少しは喋るようになったし、度胸も以前よりはるかにレベルアップしている。
環境が、立場がこいつを変えていっているのだろうか?
しかし、話し合いは感情的になり泥沼化の想定、、、
ここでまた、唯母さんが救いの手を差し伸べる。
「そもそも、今回の元凶は仁さんですからね、あなたが余計な事しなければこんな事にはなっていなかったことですから、充分反省してくださいね」
「いや、僕は武将君にだね、異性に対する免疫も着けておいた方が、本人の成長の為にもいいと思ってだね、、、」
「「言い訳しないの!!」」
舞と唯母さんの声がだぶる。
(ちょっと、仁父さん可哀想じゃない?)
彭城楓真がソファから立ち上がり横目で舞を見つめる。
「舞、俺達のリーダーがそんなに信頼できねぇのか?」
楓真は一言残して、自分の部屋に戻っていく。
(多分眠いんだろうなぁ~)
だが、楓真の最後の一言は、舞にとって大きな衝撃だった。
(武将は、私の夫でもあるけど、私たちのリーダー、、、)
舞も立ち上がり、縁社長を見下ろしながら宣言する。
「あなたは信用していないけど、武将は信用している。武将が良いって言うんならその言葉に従うわ」
全員の目が、俺に集中する。
(おいおい、俺が決めんのか、、、マジかよ)
「候葺縁社長、あなたを私の妾にするような事は出来ません。」
「しかし、私はあなたの経営能力を高く評価してます。見習いたい部分、教えていただきたい事も多々あります。」
「私の経営者としての教育係として、この家に住むと言うことでしたら、許可いたしますが、如何ですか?」
縁社長は、毅然と美しい顔をあげて言い放つ。
「それで結構です。武将さんのチームに私も入れて下さい。」
(良い落としどころね、、、)
舞と縁は二人とも一文字の名前であり、気の強さでも張り合う程のライバルであるが、同じ屋根の下で武将を取り合う暗黙の戦いが、これから始まるのであった。
しかし、数年後には候葺 縁は皆から【アネゴ】の愛称で親しまれる事になるのだった。
それはやはり、縁本人のポテンシャルの高さと、大人として経営者として、自分たちより優れているものを持っていると皆が感じたからでもある。
火吹家本家の屋敷に、また一人居候が増えたのであった。
候葺縁の部屋作りは、本人の希望もあって、屋敷本館2階の中央あたりにある部屋を二つぶち抜いて、一部屋として使ってもらう事になった。
デザイン、施工会社を武将が選んだ、新会社設立のリストにあった5社から選び、翌日には面接していた。
火吹本家屋敷に、夕方に呼び出された5社の人間はちょっと緊張気味に直立不動で立っていた。
そのうち4人は、スーツ姿で1人は作業服姿だった。
美しい候葺縁社長は今後の事も踏まえて、子の5人を選択したのだ。
会社の規模、実績、仕事の丁寧さ等、口コミを調べて呼びつけたが、最後はやはり人間性で決めたいらしい。
火吹本家夫妻と葛城家夫妻の見守る中、面接は始まった。
美しく、麗しの美女社長は現場を担当者に見せ、自分の意見を言い、それぞれ感想と納期と見積もりをその場で提示させる。
スーツを着た1人目の男性が、始めに言葉を発する。
「当社では、候葺縁社長の御意向に沿った、プランを全ての条件通りに施工させていただきます。」
礼儀正しく、清潔感があり好感の持てる営業マンだ。
しかし、スタイル抜群の社長は一言
「それじゃ、ただで明日までに完成させなさい。と言ったらできるの?」
「そ、それは、、、」
言葉に詰まる清潔感のある営業マンが言葉に詰まる。
「駄目ね、次の方。」
女王の決断は早く、絶対だ。
次のスーツを着た、営業マンは現場上がりで、年の頃は45歳くらいに見えた。
「内としても、これからの事を考えて、社長さんとはお付き合いしていきたいが、これだけ特別な部屋を作るとなると、今予算出すのも、工期も難しいです。後日ご連絡させていただくと言うのではだめでしょうか?」
女王の決断はまたしても即決英断。
「並みの返答ね、不可よ」
3人目の作業服姿の男性が話し始める。
年齢は30歳ちょっと過ぎくらいだろうか?
「内は、人工も5人しかいない会社です。今受けてる仕事を一端全部止めて、1週間でやります。夜も出来れば静かな仕事のみ徹夜でやらしてもらいたいです。特別な材料は直接私が買い付けに行きますので、工期は必ず守らせていただきます。ただ、ご予算の方は材料代に関しては今後の事も踏まえて原価で構いませんが、人工代、、、作業工賃の事ですが、こちらは一日一人18000円頂きます。ですから税別63万円は原材料費とは別に頂戴します。」
女王は腕を組んだ状態で、じっと作業服姿の男を見る。
「あなた、お名前は?」
「清水号建設の清水郷壱と言います。」
「皆さま、おいで下さりありがとうございました。この仕事は清水号建設さんに依頼します。」
(おいおい、後二人何も話していないぞ、、、読んどいて話も聞かないって、、、かわいそうじゃね)
「他の皆様の名刺は、きちんとお預かりさせていただき、弊社が今度新しく起こす新会社の下請けとして、工事依頼いたしますので、よろしくお願い致しますわ」
作業服姿以外の4人のスーツを着た、年齢もバラバラな男性が、同時にお辞儀をする。
「「「「よろしくお願い致します。」」」」
「それでは、清水さん以外は、今日の所はお引き取り下さい。」
4人は、この仕事を受注できなかったことは残念に思ったかもしれないが、口約束とはいえCOOBデザインが作る新会社に関係することが出来る事に、喜んで帰宅していった。
麗しの女王は、清水号建設の清水社長に向かって、テキパキ指示を出し、話を始める。
急ぎ、メモを取る清水郷壱。
約一時間後、清水郷壱社長も帰宅し、いつもの我が家に戻ったところで、俺は候葺縁社長に尋ねた。
「どういう理由で、今回の工事を清水号建設さんに決めたんですか?」
経済界社交界の女王は一言。
「やる気ね」
「他の仕事を全部止めて、私の依頼を受けるけど会社として人件費は出してほしいと言う正直な言い分かしらね、いくら自社の未来にかかわる大きな依頼とはいえ、何でもハイハイと受ける所は信用しない。きちんと自分の意見。立ち位置を言えることが肝心ね」
俺は言う「それでは、2人目の男性はかなり誠実だと思いますが」
「あのおっさんは、ただの馬鹿正直なだけ。やる気にかけるし、当たり前の事を言っても私は納得しない。」
(きびしぃなぁ~、これが、経営者として実績かぁ~)
そして、1週間後。
候葺縁社長の部屋は完成した。
風呂、トイレ付きの豪華な一室に生まれ変わっていた。
しかし、一番驚かされたのは壁紙が床、壁、天井と全て皮で出来ていることだ。
しかも、色使いが大変上品でお洒落な作りになっていた。
天井は白の皮。
壁は薄いベージュの皮。
床は濃いこげ茶の皮。
ところどころにアクセントとして、黒色の皮がストライプに入っている。
俺と舞が完成した部屋を見て
「素晴らしい、出来ですね。」
「こんな部屋見たことないわね」
清水号建設の清水社長が引き渡し確認の為、立ちあっており自分たちの仕事っぷりに大満足の様だ。
俺が、候葺縁社長に讃嘆を顔中に表して尋ねてみる。
「御社の革製品をふんだんに使った、革製品の部屋ですか。とても素晴らしいですね」
COOBデザインの社長は、姿勢もいつも美しく胸を張り自然と話す。
「床材の皮は、合皮で当社の新製品なのよ。机や椅子を引きずっても傷も跡も残らないわよ」
(そりゃ、すげぇな)
「壁や天井の皮も、合皮よ。」
「「えっ!!」」
俺と舞が、驚く。皮と言えば、高級素材の代名詞じゃないか、その高級素材を扱う会社の社長の部屋に使われている皮が合皮とは、、、
「最近はね、車のシートなんかもそうなんだけど、合皮の方が手入れが簡単、丈夫で長持ち。うちも全力で今、この合皮の製品開発を行ってるところなの」
「武将君が提案してくれた、デザイナーズハウスに使用する外壁や屋根に使えるような、屋外でも劣化しない丈夫な合皮が出来ないかってね」
「今回の仕事に関しては、清水さんに感謝してますわよ」
いつも、作業服の現場第一主義の社長だ。
「この部屋を作るのは、正直職人ともども試行錯誤の連続でした。合皮を壁材に使用したことなんて一度もないですからね。」
「しかも候葺縁社長は、仕事に関しては中々手厳しい、、、」
頭を掻きながら、照れ笑いする。
今では、社員5人の小さな会社の社長だが、5年後には上場企業にまで育つ【清水号建設株式会社 代表取締役】である。
この仕事ひとつで、人生が変わった人間の一人だ。
次の仕事は、当家の警備塔のデザイン施行をお願いしよう。
こうして、候葺縁社長の部屋は、火吹家本家本棟2階の中央に出来上がった。
引っ越しは、翌日に行われた。
候葺縁の行動力に、皆 唖然としながら見守ったのだ。
新しき麗しい住人に対して




