横恋慕
「候葺社長、お戯れは容赦ください。」
俺は、いきなりの想定外の物凄く早すぎ、過激なる展開についていけずに思わず敬語を使って優しく拒絶する。
全身白のワンピースドレスは胸元が大きく開いていて、女性らしさを強調している。
しかもスカートの丈がとても短く、細く長い美しい足が色香をこれでもかこれでもかというくらい強調している。
「駄目よ。仕事の話がしたいなら私の膝の上に乗りなさい。」
「・・・・・」
俺はこの女性社長が何を考えているのか全く分からなかったが、仕事はしなくてはならない。
俺は後ろを振り返り、ガラス張りの扉を大きく開け放し、候葺社長が待つ、社長執務机の椅子に腰かける、女性の美しい膝の上にちょこんと腰掛て、持ってきたタブレットを起動させる。
驚いたのは、美しい社長だ。
若い一介の営業が、社長の膝の上に座って、仕事の話をするところを他の社員が開け放たれた扉の向こう側から見ているのだ。
「な、な、な」
驚きに声が詰まる、麗しき社長は珍しく言葉が続かない。
俺は、構わず社長のお膝の上で、話し出す。
「御社の内情を失礼ながら、調べさせていただきました。」
「な、な、ちょっと、皆が見ているじゃない、、、」
俺は無視して話を続ける。
「売上高、利益共に順調に推移しており。現状では全く何の問題もないと私は思います。」
「しかし、ファッションブランドという浮き沈みの激しい業界において、今のうちに新たな手を打つのが得策と考えますが、社長のお考えはいかがでしょうか?」
俺はミニのワンピースの膝の上で、仕事の話を続ける。
「わ、わかった。分かったから、膝から降りなさい。」
「はい」
素直に俺は言う事を聞き、麗しき社長の膝から腰を上げる。
真っ赤な顔をして、総ガラス張りのブラインドを上げるボタンを押して、興味本位に見つめている外の社員に向かってパンパンと手をたたき
「何でもないから、仕事を続けなさい!!」
大声で、叫ぶ。
そして、また、中に入ってきてため息をつく。
「ふぅ~、君って子はなんてことをするのかしらね」
「仕事をしているだけですよ」
平然と答える。
じぃ~っと、候葺社長は俺の顔を見て、観察する。
俺は何もなかったかの様に、堂々といつものように立っていただけだ。
そして、美しい足を交互に前に出して近づいてきたのは、COBB社長だ。
胸の谷間から、自分の名刺を取り出し俺に渡す。
「続きは、19:00に帝都ホテルの1階ラウンジに来てくれる?」
「ここでは、ダメですか?」
「仕事がしたいなら、言う事を聞きなさい。」
「わかりました。では19時に帝都ホテルのラウンジに伺わせていただきます。」
俺は90度腰を折り、社長室から退室する。
(全くなんて子かしらね?底が見えないわね、ま、所詮男なんて皆同じ、見ていなさい必ず、私の虜にしてあげるわ)
そして時間は経ち約束の19時ちょっと前になる。
候葺縁社長は、周囲の視線をくぎ付けにしながら、帝都ホテルの玄関先まで優雅に歩いてやってきた。
そのいで立ちたるや、男女問わず皆が振り返る。
深紅と銀のドレスで、胸元と背中は大きく開いており、スカートの丈もタイトで短く、細く長い足を惜しげもなくさらし、かかとの高いピンヒールを履いて、ファッションブランドの社長らしく、華々しく芸能人顔負けの衣装とスタイルと美貌で、モデルの様に華麗に妖艶に歩いていた。
通りすがる、客も従業員もすべての人間が、立ち止まり振り返り自分を見ていく。
候葺縁にとっては、慣れた日常であり、当然の行為だ。
っとそこに、黒の高級車ロールスロイスファントム車両販売価格5000万円の車が滑るように入ってくる。
候葺縁社長の前で、高級車は停車すると中から、黒服の正装した執事のような年輩の男性が、運転席より出てきて、後部扉を開ける。
中から出てきたのは、もちろん【火吹武将】だ。
だが、今晩の武将はいつもと違っていた。
濃紺と銀色に近い高級スーツを着込み、靴は高級革靴を履き、髪は後ろにオールバックの様にワックスで固められていた。
両手には大きな花束が顔が見えないくらい抱えられており180センチある、17歳の青年にはとても見得ない容姿であった。
こちらもまた、候葺縁社長とは違う意味で、周囲の視線を釘付けにしながらCOBB社長に歩み寄る。
「お待たせしてすいません。」
候葺縁社長は、思いもよらぬ衝撃に
「あ、あなたは、一体誰なの?」
っと呟く。
「私は、火吹武将。京仁織物株式会社の営業ですよ。」
「これは、ご挨拶代わりにどうぞ」
と言い、抱えきれない花束を渡す。
「あ、ありがとう、、、でもこんな沢山もらっては話もできないわよ」
「そうですね、気が付きませんでした。シゲさんちょっとこの花束を持って、車で待っていていただけますか?」
昭和の執事は、慇懃に腰を折り
「かしこまりました」
と、一言だけ答え花束を受けとる。
唖然としている、候葺縁社長に俺は声をかけ
「では、ラウンジで仕事の話をしましょう」
と言い、男性としてのマナーである、左手を曲げて自然な仕草で美しい女性をエスコートする。
思わず、火吹武将の左手に自分の右手をかけて、エスコートされる候葺縁社長だ。
彼女が驚いたのは、いろいろありすぎて当たり前と言えば当たり前だが、火吹武将の自然なマナーと行動が安心感を生む。
周囲では、映画の撮影ではないのかと疑われるほど、この二人は豪華で華麗で愁眉であった。
ラウンジ迄、女性をエスコートして、自然な行為で女性の後ろに回り、座る椅子を軽く引く。
「・・・・・」
候葺縁社長は、ラウンジの引かれた椅子に優雅に腰掛ける。
そっと、優しく静かに女性が座るタイミングで、音を立てずに椅子を少しだけ前にだす。
そして、自分は候葺縁社長の向かいの席に座る。
やはり先に話し始めたのは、美しき女社長だ。
「あなた一体、何者なの?」
俺はごく自然に
「ですから、京仁織物株式会社の営業担当、火吹武将ですよ」
「一介の営業が、なんでこんなことが出来るのかしら?」
「候葺縁社長は、仕事の話をするのに帝都ホテルをご指定いただきました。ですからこうしてドレスコードをしてきただけですが」
「17歳の未成年が、出来る対応じゃないでしょ」
「お恥ずかしいお話ですが、このスーツもこの靴も全て、無き父親の物でして、この帝都ホテルはよく両親と来ていたので、普段着ではこれないと思いまして」
「亡きご両親、、、か・ぶ・き、、、」
「あなたもしかして、KABUKIコーポレーションの一族なの?」
「はい、KABUKIコーポレーション創始者の曾孫、火吹家現当主の火吹武将です。」
「な、なんです、、、って、、、」
驚愕に驚きに心と頭がガンガン振り回される候葺縁社長だが、立ち直るのも早い。
「ふぅ~、仁さんも全くとんでもない爆弾投げ込んでくれるわね」
「わかったわ、それではお互い信頼関係を築くために、自己紹介から始めましょ」
「わかりました。では営業の私から失礼します。」
「火吹武将17歳、最終学歴は帝城高校中退。配偶者がおり2人の子供がいます。」
「な、なんですって!!もう結婚しているの!!」
「しかも、子供が二人もいるの?」
「君には、驚かさられっぱなしね。」
俺は、静かに自然と「よろしければ、私の事は火吹と呼び捨てにして下さい。」普通に言ったつもりだが、驚かれた。
「規格外と言う言葉は、君にぴったりの言葉ね。火吹家当主を呼び捨てにしろと言うの?」
「はい、もしお許しいただけるなら私も候葺縁社長の事を縁社長と呼ばせていただきます。」
「わかったわ、それじゃ私も武将君と呼ばせてもらうわ」
「よろこんで」
軽くお辞儀をする。
「それじゃ、私の自己紹介の番ね、私は候葺縁30歳。未婚、現在彼氏も無し。特別募集もしていない。父親が作ったCOBBブランド株式会社をファッションブランドとして継いだ親族経営のCEOね。」
「男性経験も聞く?」
「いえ、プライベートな事なので、ご遠慮いたします。」
「女性として、私は魅力がない?」
「とんでもない、私の知る中では5本の指に入るくらい美しく女性らしく魅惑的です。」
「私と同等かそれ以上が、あなたの中にはあと4人もいるのね」
「いえ、そういう意味では、、、」
「冗談よ」
(妻の舞が、その中に含まれるなんて言えないよなぁ~)
候葺縁社長は、態度と纏う空気を変えて、俺に向き直る。
「それじゃ、お互い信頼関係が築けたと言うことで、仕事の話をしましょうかね」
「はい。」
俺は折り畳み式のタブレットを取り出して、縁社長に見せる。
「会社でもお話しさせていただきましたが、御社は売上高、利益率、社内留保金、離職率どれをとっても、全く問題ありません。しかし、浮き沈みの多いブランド業界で10年後も今のままでいるのは難しいのではないでしょうか?」
麗しき社長はドレスと言う戦闘服を纏い戦場を歩むように静かに闘志を燃やしながら話す。
「それで」
「はい、今の内に別会社を立ち上げる事をご提案申し上げます。」
「どんな会社を?」
「はい、ファッション性に富んだ相場より安価なデザイナーズハウス建設会社をご提案申し上げます。」
「土建屋?」
麗しき女王は柳眉を寄せる。
「はい、専任の設計師と下請け工事会社のリストはこちらにご用意させていただきました。」
タブレットの画面を候葺縁社長に向けて見せる。
「こんなにたくさん、、、」
「はい、子会社として設立して代表を御社から出すと言うのはいかがですか?もし、建築工事という業種に抵抗があるようでしたら、COBBブランドの名前だけ貸して、実質的な運営、工事は下請け会社にやらせてもいいと思いますが?」
「ちょっと、聞きたいんだけど、それで京仁織物さんに何の得になるの?」
「はい、今度弊社で新製品が出来上がりまして、屋根の下地に使う防雨シートを使って頂けたらと考えます。」
「それなら、武将君のKABUKIコーポレーションでやればいいんじゃないの?」
「今の私は、京仁織物株式会社の営業社員です。KABUKIコーポレーションとは全くの無関係です。」
「・・・・・」
候葺縁社長は黙って考えだした。
そしてこの女性の決断は早い。
「わかったわ、武将君が私と一夜を共にしてくれたら、その話飲んであげる。」
「はい?」
「一夜を共にすると言うのは、、、」
「もちろん男女の中になると言う事よ」
魅力的で、麗しい女王様はここにもいたのだ。
「縁社長のような、誇り高く美しい女性がそんな風に自分を安売りしてはいけません。」
「私では釣り合いません。」
「家族がいるから不貞は出来ないと言うことなの?」
「それは無いと言えば嘘になりますが、私は仕事をしにこの場に来ています。一晩縁社長と共にすると言う事は仕事ではありません。」
「仕事でなければ、私がこれ以上ここにいる理由はありません。」
「帝王学。」
「はい?」
「火吹君は、ご両親から既に帝王学を学んできたと言う事なのね、優秀な王としてしての資質、行い、品格全て学んで体にしみ込んでいるのね」
(前に、舞も同じようなこと言っていたな、、、)
「わかったわ、条件撤回で火吹君の提案に乗りましょう。」
「ありがとうございます。」




