退院
彭城楓真をサポートする、チームメンバーの紹介を受けて、水島社長はスタッフを連れて、火吹家を後にした。
俺はふと思った。
(セキュリティという単語がひっかかった、、、確かに録画用カメラは数十台と在り、鍵もすべて電子ロックキーだ、、、でも本気で力業で攻めてこられたら、、、)
(そっちの対策も少し考えておこう、、、)
水島社長達を送り、リビングに帰る途中
「明日さぁ、舞の退院ついでに帝城高校に行って挨拶してこようと思うんだ」
「・・・・・・」
「あっ、別に楓真は来なくて大丈夫だぞ。来週からドラマ撮影が始まるんだろ、台本 憶えないといけないだろ」
「・・・・・・」
楓真はずっと、無言だった。
そして明朝、8時。
食堂に俺と仁父さん、唯母さんが朝食を取っていると、突然に楓真が食堂に入ってきた。
「俺も行く」
「へっ?」
「帝城高校。」
(なになに、どうしたの?昨日台本憶えろって言ったじゃねぇかよ)
「台本憶える方が、大事だろ」
諷馬は、見事に背筋をピンと伸ばし、役にはまった状態で俺に指を突き付けてきた。
「全部覚えた。」
(こいつ、徹夜しやがったな、、、)
「前にも言ったよな、歌手にとって体調整えるのも仕事の内だって!」
「問題ない」
(この不器用男の頑固で言葉が足りないのは、よく知っていたつもりだが、ここでそこ張り合うか?)
思わず微笑みながら、いつもの事の様に朝食を取りながら、俺達のやり取りを聞いていてくれてる。
葛城夫婦であった。
唯母さんなどは、最近 諷真と一緒にいると、妙にハイテンションだ。
まぁ、今更だけどこのイケメンと、声だからな。
デビューが、決まってから唯母さんは、楓真のファンであることを隠そうともせずに、仁父さんの前でも頬を赤らめ、興奮気味である。
横で笑って観ていられる仁父さんは、大人の余裕なのか、夫婦としての絆の太さ故の信頼感なのかな?
俺が、舞が他の男の事を気にかけたり、万一好きにでもなったら、どうなるだろう?
想像もしたこともないし、想像できないな、、、
舞が俺以外の男を好きになる?
自分で自慢するわけでも、己惚れている訳でもないが、有り得ないと思う。
きっと、この気持ちがいずれ信頼という言葉に、置き換わって仁父さんや唯母さんの様な夫婦関係になっていくんだろうな、、、
そうなりたい。
当面、子供たちと舞は葛城夫婦の居住エリアで、生活することになっている。
唯母さんのサポートが受けやすいことと、仕事と勉強で睡眠時間の少ない俺を気遣っての事と思われる。
舞と唯母さんで、決めて既に子供たちのベッドまで用意されている。
っと、話は戻るが、彭城楓真はどうしても、俺達と一緒に帝城高校に着いていきたいらしい、、、
こう言っては何だが、HANZOのメンバー以外、友達もいないだろうに、、、
徹夜して迄して、行く必要あるのか?
まさか、寂しいとか、、、ボッチにされるのが嫌とか、、、
見た目じゃ、わからねぇけど、有り得るぞ。
可愛い所もあるもんだな、、、
ただの負けず嫌いか?
誰と張り合ってんだよ!
まぁ、などといろいろ考えていると時間が近づいてきて、朝食を済まして、スーツに着替える。
校長先生や教員の皆さんに挨拶に行くのだから、大人の戦闘服である、スーツを着るのは当然だと思う。
俺も少しずつだが、大人に近づいているのかな?
ー09:00ー
火吹家玄関には、いつもの様に自然と、緊張感をはらみながら、ロールスロイスファントムの横で、直立不動で待つ、昭和の見本の様な、シゲさんである。
葛城夫妻は、仁父さんが運転する国産高級車レクサスLS(車両本体価格約1400万円だそうだ)という車を運転してくる。後部席には、チャイルドシートが2個設置されていた。
ちなみに車体カラーは、やっぱりブラックだ。
なんで、高級車に乗る人は、圧倒的に黒を選ぶのだろう、、、
総理大臣とか、天皇陛下がよくテレビで、黒塗りの高級車に乗る姿を見ているが、やっぱり高級感があるのかなぁ~
などと、くだらないことを考えているうちに、帝城高校に向けて、2台の高級車は出発した。
車内で、俺は楓真に聞いてみた。
「有名人と一緒に仕事するって、どうよ?」
「普段とかわらない」
(おいおい、もうちょっとなんかあんだろぅ~)
「でもよぅ、福原遥さんも出るようだけど、めっちゃ可愛いじゃん。ドキドキしたりしねぇの?」
「ない」
(だめだこりゃ、、、)
ヒトとして、何かが欠落している、今更だけど、、、
そんなことを考えていると、諷馬は思い出したように
「その話は、まだ誰にも言ってはいけないそうだ」
俺は、はッと気が付き
「そうか、契約があるのか!」
「それは、気が回らなかった、すまん。仁父さんと唯母さんにも話しておくよ」
「謝る必要はない、そういうものだと理解してくれ」
(なんか、上からじゃねぇ、、、今更俺にマウントしてどうすんの?)
などと、他愛無いことを考えていると、舞と子供たちが入院している大学病院に着く。
シゲさんは、いつもの様にシートベルトを外し、後部扉を開けようと、全く無駄のない動きで、運転席から出るが、俺はいち早く降車して、仁父さんの車に近づき、助手席に座る唯母さんの扉を開けてあげる。
唯母さんは「まぁ、ありがとうございます。武将さん」
と言い、車を降りる。
そのまま、仁父さんと唯母さんを先頭に、俺と楓真とシゲさんは続いて、病院の中に入っていった。
産婦人科の担当医師(女性)が、わざわざ俺達一行を出迎えてくれた。
仁父さんと唯母さんは、感謝を述べ、お土産に持って来た高級菓子を女性医師に手渡した。
女性医師は、明るい性格のようで、お土産を受け取ってくれて、お礼を言ういいながら、とても安産だったことを報告してくれた、仁父さんはそのまま女医さんと話し込んでしまい、目で僕たちに先に行っていいよと合図してくれた。
唯母さんは、看護婦さん達に何度もお辞儀して、お礼を言って回っていた。
そして俺と諷馬は舞がいる個室の前まで来ると、赤ん坊の泣く声が聞こえる。
(尚武と結紬の鳴き声かな?)
ガラッと、俺が扉を開けて俺と楓真は病室に入る。
すると、驚く光景があった、、、、
舞が、尚武にオッパイのミルクをあげていたのだ。
「ちょ、ちょっと、入る時はノックぐらいしなさいよ!」
「す、すまん」と俺は言うが、楓真は全く動じず
「母親が、子供にミルクをあげるのは自然なことだろ」
っと、照れもしないで、堂々と宣う
舞は怒りマークをおでこに付けて叫ぶ。
「あんたねぇ、私は確かに母親だけど17歳の女子高校生でもあるのよ!もっと気を使いなさい!」
「そういうものか?」
(ダメだこりゃ、、、)
そこに、仁父さんと唯母さんが入ってくる。
「おっ、ミルクの時間だったかな?」
そこで、唯母さんが、仁父さんを小突く
「子供が、泣いた時はおなかが減ってるか、おむつを替えるか、眠いかのどれかよ、もう忘れてしまったのあなた?」
「いやぁ、舞は人見知りもしないし、あまり泣かず 手のかからない、いい子だったからなぁ~」
等と昔話を話しだしたが、
「まるで、今の私が手のかかる、面倒な子供みたいないい方ね、お爺ちゃん。」
舞は、たとえ父親だろうと、言われたら言い返す。
黙って、我慢すると言うワードは、彼女の辞書には掲載されていないらしい。
などと、戯れていると、看護婦さんが入ってきて、終了の合図を促す。
病室にはすでに、大きめのベビーカーが2台用意されていた。
唯母さんが、手伝って子供たちをベビーカーに寝かせる。
尚武も結紬もまだ、当然首が座っていないらしく、首がガクガクでユルユルで触るのが怖いくらいだ。
唯母さんは、手慣れたもので、左手で子供の首と頭を軽く押さえて、右手で持ち上げる。
流石は、経験者!
唯母さんと舞がそれぞれ、ベビーカーを押してゆっくり進んでいく。
会計をシゲさんが、支払おうとすると、サッと仁父さんが、支払いを済ませてくれた。
「いつもお世話になってますから、娘の出産費用くらい出させて下さい。」
シゲさんは、慇懃に一言
「申し訳ありません。」
大人同士のやり取りだ。
シゲさんとしては、俺の父親代理を自認するところもあるのだろう、、、だからと言って、話を無理に通さずにサッと引く姿は、やはり大人だ。
まぁ、後で聞いた話だが、出産費用のほとんどは、後から戻ってくるらしい、、、全額ではないが、当然、個室部屋利用代金などは自腹になる。
こう言う事も、学校では教えてくれないよなぁ~
社会勉強って、奥が深いよ。
仁父さんのレクサスに子供二人を乗せ、舞が後部席の真ん中に乗って子供たちの胸にそっと手をやり安心させてやる。
尚武や結紬にとっては、初めての下界世界だ。
車ももちろん初めて、不安に思うことだらけだ。
そんな、子供たちに気づかい安心させるように、胸に手を当てている姿は、母親そのものだ。
俺も、早く父親らしくならなくては!
一人、決意に燃える。
そして、2台の高級車は大学病院を後にして、帝城高校へと向かう。
舞には、唯母さんが事前に話をしていたらしく、反対せずに一緒についてきた。
車内での会話
「お爺ちゃんになった感想は、どうですか?お父さん」
「そうだね、実感がまだわかないのが、本音かな?多分、武将君も同じだと思うよ」
唯母さんが割って入る
「男の人は、これだからねぇ~、舞 いい?」
「子供が小さい時は、今しかないのよ。武将さんにも忙しいだろうけど、出来るだけ今の時間を大切にして、子供と接点を少しでも多く持って、可愛がるように言いなさい。」
「すぐに子供なんて大きくなっちゃうんだから」
「わかったわ、お母さん」
経験者の言葉は、実に重い。しかもそれが自分たちにとって未経験の事となると尚更だ。
育児、子育ては一大事業だと、本で読んだことがある。
今、仕事で立ち上げてる、ジャメノ靴製造会社さんとの事業も大変だけど、それ以上に不安になるのは俺だけか?
それでも、自宅に仁父さんや唯母さん、シゲさん、ツネさん、楓真が居てくれるのは、本当に心強い。
もし、俺が普通の高校生だったら、、、、KABUKIコーポレーションとは何の関係もない、一高校生だったら、、、
今現実にここにある未来があったかは、、、、
正直、わからないと言うのが本音だ。
でも、そんなことを考えても、意味が無いことに気づき思考をやめた。
俺は火吹武将で、それ以外の何者でもないのだから。
そうこう、車の中でいろいろ考えていると、帝城高校正門に2台の高級車は、到着した。
久しぶりに来る高校は、何かワクワクした。
しかし、その気持ちも一瞬で吹き飛ぶ。
正門には、なんと校長先生が自ら待っていてくださった。
仁父さんと唯母さんが、急いで車を止めて、校長先生の所まで足早に近寄る。
俺と楓真は、葛城仁父さんたちの後から、着いていった。
仁父さんは、いつもと変わらず全く自然体で話しかける。
「校長先生、わざわざお出迎え頂き、ありがとうございます。」
唯母さんともども、静かに腰を折り、お辞儀する。
大人の対応だ。
唯母さんも、言葉を仁父さんの言葉に足す。
「この度は、娘が大変ご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ありませんでした。」
柔和に微笑み校長先生は、ゆったりと
「葛城さん、おめでとうございます。」
校長先生は、右手を差し出し仁父さんと握手を求める。
仁父さんは両手を出し、校長先生の右手を自分の両手で握る。
「校長先生には、いろいろと大変ご面倒をおかけいたしまして、感謝しております。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ今時、高校生で子供を産み育てると、決断された娘さんを誇りに思われた方がよろしいと思いますよ」
「学年主任にも聞きましたが、娘さんは実に立派に妊娠の時期を乗り越え、無事出産されました。しかも成績は常に学年トップクラスで、友人にも大変恵まれていると聞いておりますよ。」
「葛城さんのおっしゃられた様に、他の学生にとっても良い経験になったようです。」
「そうですか、そう言っていただけると、私も嬉しく思います。」
右手に、仁父さんの両手が乗せられた上に、校長先生は自分の左手を乗せ、お互いに両目を合わせ、大人二人で感極まっている。
きっと、初孫誕生の嬉しさみたいなものを二人で共感しているのかな?




