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KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
32/107

楓真のチーム

高校を中退して、10か月、、、


最近、毎日がどたばたとした日々が続いている。


今日はやっと、週末の金曜日18時、退勤の時間だ。


明日は土曜日、仕事は休みで、妻の舞と子供たちの退院の日だ。


珍しく、突然に葛城仁社長が、退社時に俺のいる、営業第2部3課に入室してくる。


残ってる社員、全員が驚き、立ち上がり【社長】に対し、挨拶(あいさつ)する。


「「「「お疲れ様です!」」」」


仁社長は、これまたいつもと全く変わらずに、ごく自然体で「ご苦労様です」と皆に優しく、声をかけながら俺の所まで来る。


「たまには、一緒に帰らないかい?」


小声で、話しかけてくる。


俺は、当然「はい」と短く答える。


社内では、まだ俺が社長の義理の息子だと知っているのは、ごくわずかだけだ。


俺は少し疑問に思いながらも、仁社長とともに裏手に止まっている黒塗り高級セダンの社用車に乗り込む。


車内で仁社長は、俺に話しかけてくる。

運転手は、仁社長が信頼のおける人物で、「武井君」と呼ばれていた。

会社の送迎、移動時は全て、武井さんが行っており企業秘密的な話も車内では、行われるそうだ。


口が堅く、信頼無い人間は、社長の運転手には選ばれない。

仁社長が選んだ、人間だ。間違いはない。


「明日、舞たちが退院する日だよね」


「はい」


「僕たちも、一緒に行こうと思うんだけど、帰りに帝城高校に挨拶に行かないかい?」


有名進学私立高校は、土曜日も平常通り授業があるのだ。


「かまいませんが、急に行って大丈夫でしょうか?」


「うん、校長先生にはアポ取ってあるから大丈夫だよ」


(さすが、と言うしかない。確かに学校にも、舞の出産についても多大な迷惑をかけたことだろう、、、夫として挨拶に行くのは当然だ。)


「是非、よろしくお願いします。」


「それじゃ、9時に出られるようにしておいて」


「はい」


久しぶりの、帝城高校だ。


何かワクワクするな。

みんな、元気かな?


そういえば、桜井優香さんの病気は治ったのかな?

まだ、アメリカにいるのかな?


いつも、仕事と自分の周りの事で手いっぱいの、武将は久しぶりに級友たちの事を考えてみた。


(うん、会いたいな!)


懐かしさを込めて、思考に(ふけ)っているうちに、車は虎ノ門にある自宅正門についた。


俺は仁父さんより先に降りて、扉を開けたまま横に立つ。


葛城仁という義理父は、いつもどんな時も、仕事でもプライベートでも変わらない。怒ったり怒鳴ったり感情的になるところを今まで、俺は一度も見たことがない。


こんな大人に、俺自身成りたいと心から尊敬するのだ。


「ありがとう」


っと、俺に微笑んで、車を降りる。


社用車である黒塗り高級車は、武井さんが運転しながら、引き返していく。


高級住宅街にある、とてつもなく馬鹿でかい正門に、俺と仁父さんは車から降りて、立つと自然に正門の扉は開き、中から今度は、ロールスロイスファントムが静かに滑ってくるように近づいてくる。


シゲさんだ。


唯母さんが言っていた、『恵まれている』というのはこういうことなんだろうと思う。


会社の帰宅に、自分が勤める会社の社長と社用車で帰り、家にはシゲさんとツネさんがいる。

確かに、普通の家ではないのは俺でもよく分かる。


だが、何度も言うが、俺が生まれた時からこれが自然で当たり前なのだ。

俺が自分で築いた物でもなく、俺が稼いだ金でもないが、これも【火吹武将】という人間を作り上げた、環境の一つであるのは事実だ。


もちろん、本人の努力や頑張りがあっての事だが


っと、、、強く言いたい。



21:00


火吹本家、1階のメインにある、リビングで仁父さんと唯母さんとで、明日の予定を確認しあっていたところに、チャイムが鳴り、彭城諷真(さかきふうま)の帰宅を告げる。


シゲさんが、無駄の動きが全くない仕草で、諷真を迎えに玄関まで向かう。


「そういえば、彭城君のドラマと歌の件は、どうなったのかな?」


仁父さんが、愛飲するフランス製の赤ワインを大きなワイングラスにいれて、ゆったりと飲みながら俺に話しかける。


「どうでしょうか?所詮素人が作った歌ですから」


「作ったのは、素人かもしれないけど、心に響くとても素晴らしい歌だったよ」


そんな、話をしている中に、諷真を先頭に5人の大人が一緒に入ってきた。


思わず、俺が叫んでしまう


「水島社長!どうしたんですか?」


そう、彭城諷真と一緒に家に入ってきたのは、他でもないKABUKIエンターテイメント社長 水島浩二その人だ。


帝城高校で行われた、俺と舞の結婚式以来だから約一年ぶりくらいかな?


相変わらず、お洒落なスーツで清潔感と気品を持つ業界屈指の社長である。


「こんな時間に、ご自宅まで来てしまい、大変申し訳ありません。」


水島社長は、慇懃(いんぎん)にお辞儀して、俺に挨拶する。


俺は立ち上がり、水島社長の近くまで歩み寄って


「水島社長、来訪を心から歓迎いたします。」


「しかし、私の様な若者に年長者でおられる、水島社長が敬語を使わないで下さい。」


水島社長は、お洒落な青銀色スカーフをネクタイの様に巻き、微笑みながら言葉を返してくる。


「お気持ちは、分からなくもありませんが、それは無理です。」


「私が、故虎雄社長に受けた御恩、それに火吹本家当主であられる武将様にグループ会社代表として、敬語を使わないわけにはいきませんよ」


赤ワインを優雅に、飲みながら仁父さんが、間に入ってくれる。


「武将君、水島社長の言う事は大人のルールだから、仕方ないね。」


「慣れるしかないよ。」


(はぁ~)


お洒落で(いき)な姿をした、水島社長は続け様に俺に話しかけてくる。


「今日、ご自宅に押し掛けましたのは、彭城楓真君のデビューが決まった事のご報告と、デビュー曲をお作りなれたのが、火吹武将様だと伺い、夜分で申し訳ありませんが、お礼に参った次第です。」


俺は、水島社長の丁寧すぎる言葉使いに、少し辟易(へきえき)することを感じながらも、黙って話を聞いていた。


(デビューが決まった?)


「それでは、諷真のドラマ主演とオープニング曲を歌う事は決定したんですか?」


水島社長は、悠然と両手を肘を伸ばし、前で組みながら、じっと俺の目を見て


「はい。決まりました。」


「オープニング曲は、武将様がお作りになった曲がそのまま採用され、来週からドラマの撮影が行われます。監督もスポンサーも大変お気にいられたようで、デモ曲をちょっと加工してそのまま使うことになりました。」


「出演者は、検察官助手役に福原遥さん、検察官上司に陣堂孝道様、周りを堀越真紀さん、高貴歩君、藤北久美子さんなどが固めます。」


(すげぇ~、大御所から超売れっ子の有名人ばっかじゃないか、、、)


「そこで、この業界に長く携わる、私が言うのも(はばか)れますが、諷真君のデビュー曲【Jastice Law】(せいぎのほうりつ)の作詞、作曲を実際お作りになれた、火吹武将様ではなく、ご友人の編曲をなさったと言う御堂大智様で全て、登録してよろしいものなのかという事です。」


「正直、このドラマと曲、彭城楓真(さかきふうま)君は歴史に残る大ヒットとなることは、皆様が想像する以上に、物凄いこととなるでしょう。」


「当然のごとく、動くお金も桁違いですし、楓真君の身辺にも気を配らねばなりません。」


「それらを踏まえたうえで、作詞 作曲 編曲全て、御堂様で登録してよろしいのでしょうか?」


俺の目をじっと睨む、水島社長だが、、、


俺は全く、動じずに結論を再度答える。


「全くかまいません。全て御堂大智で登録してください。」


「本当によろしいので?」

再度、訪ねてくる。水島社長


(俺の判断が、間違っていると言いたいのかもしれない、、、だが俺の決定は(くつがえ)らない)


「かまいません」


じっと、水島社長の目を見てしっかりと迷いなく答える。

王者の決定だ。


「わかりました」


水島社長は、慇懃(いんぎん)にお辞儀をして俺の言葉を肯定する。


葛城仁父さんが、赤ワインを飲みながら、今の会話をずっと、微笑みながら聞いていた。


水島社長と一緒に来訪してきた、人達を水島社長が紹介し始める。


「彼は、楓真君のマネージャー兼運転手をやります。武藤真一君です。」


武藤真一と呼ばれた、小柄だがすらっとした男は俊敏に一歩前に出て俺に(・・)挨拶する。


「武藤ですよろしくお願い致します。今後、こちらに来ることも多くなると思いますので、お見知りおきください」


続いて水島社長が、紹介したのは


「彼はSNS系やファンレター等、広報宣伝活動をする清水雄太君です。」


清水雄太君も一歩前に出て俺に(・・)に挨拶する。


「清水です。写真のカット撮影などでお邪魔することもある思います。よろしくお願い致します。」


水島社長は次から次へと紹介してくる。

何故か、全員俺に(・・)挨拶する。


まぁ、ここは俺の家だからとはいえ、ちょっと普通じゃないだろこれは、、、


「スケジュールや出演オファーの管理をします。山田仁造です。」


「ファッションやメイクを担当します。錦田連です。」


っで、全員が俺に(・・)に挨拶する。


(でも、まてよ、、、全員男だな、、、)


「水島社長、このスタッフの人選に女性が一人もかかわっていないのは、そういう事ですか?」


水島社長はポンと、手をたたき


流石(さすが)は、武将様。お気づきになれましたか」


「芸能人、特に楓真君のようなカリスマ性と雰囲気、イメージを大切にするタイプにスキャンダルはご法度(はっと)です。」


「命取りにもなりかねません。今まで異性とのお付き合いも一切ないと言う事ですから、これからそういう(やから)が近づかないようにするためです。」


「この世界は、足の引っ張り合いで、出る(くい)は打たれます。契約事務所としまして、楓真君を完全にそういったゴシップから守りたいのです。」


「住居として、武将様のご自宅はセキュリティ、立地場所、プライバシー保護の観点から見ても、完璧です。」


胸を張って、宣言する


水島浩二社長だ。


こんな時間に、スタッフ全て揃えて、内に挨拶に来ると言うこと自体、異例でありあり得ないことだ。


もちろん俺が、火吹家当主というのはあるのかもしれないが、彭城楓真が(たぐい)まれな才能を持っていることを見抜いた数少ない大人の内の一人でもあるので、それを報告に来たかったのだろう、、、


印税の話も含めて、、、


楓真が認められることは、俺としてはとても嬉しい。

有名になるのも、こいつなら当然かもしれない。

だが、皆に伝えておかねばならないことがある。


「皆さん、楓真はコミュニケーション能力に、非常に難があります。どうか、そこを皆さんでフォローしてあげてもらえますか?」


今まで黙っていた、諷馬本人が


「それ、()めてんの?」


(いや、親心ってやつに近いんじゃね)


最後に水島社長が


「この業界で、活躍する人間は大抵、ちょっと変わり者が多いものです。皆もそこら辺はプロなので、ご安心してください。」


「それって、俺が変人みたいじゃん」


未来のスターは、一言(のたま)


(いや、自覚がないのは知ってるけど事実だから、、、)

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