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KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
31/107

17歳の取締役

月曜日 朝、俺は何時もの様に地下鉄迄歩いていく。


隣には、彭城諷真が月9ドラマのプロデューサー兼監督の事務所に、昨日作り終えたデモ曲を持って、一緒にオフィス街を歩く。


一応、デモ曲はネットで添付して送信してあるが、マスターとして持っていたのである。



しかし、いつものことながら、こいつと一緒に歩くと、とにかく自分が惨めな気になる。


身長190センチの細マッチョで、手足は長く、顔は小さく整っており、強い意思を表す様に目は鋭く、髪は豪奢(ごうしゃ)だ。


身体にピッタリしフィットした、濃いグレーのTシャツにこれまた細く長い足にピッタリとした、黒のパンツをはき颯爽(さっそう)と歩く姿に振り向かない女性は、まずいない。


俺だって、身長180センチあって、顔だって、そこそこイケメンだと自分では思っている。

体の線は、諷真よりがっしりとしてはいるけど、カリスマ性みたいな見た目は俺にはない。


そして、こいつの横に立つと、そのわずかに残っていた、【男】としての自信が消えうせ霧散する。


向こうから歩いてくる、女性はほぼ、100%諷真に見とれていく。


もう慣れたことだけど、男の嫉妬(しっと)はみっともないので、平然として、それぞれの行く先に合わせて分かれる。




俺は渋谷にある、京仁織物本社に行くので、山手線に乗り換える為、六本木に向かう諷真とは逆方向になる。


「それじゃ、頑張ってな。」


俺が、未来の芸能人に向かって声をかける。


「ああ」


(今更だけどやっぱ、お前コミュニケーション能力低いな)




会社に着くと、最近ではいつもの事の様に、木下課長に呼ばれ、朝の挨拶をする間もなく


「火吹君、至急社長室に行ってくれないか?」


「わかりました。」


もう、最近では日常の様に、俺は社長に呼び出さえれる。


営業3課の皆も、慣れたもので、木下主任などは最近では、心配もしてくれない。


逆にちょっとからかうように


「殿のお呼びでござるな」


などと、信頼感を持って俺を送り出してくれる。


木下主任は、心優しい良い大人だ。出世欲とはあまり縁がないかもしれないが、人としては尊敬する。


「行ってきます」と言い


俺は、(かばん)を自分のデスクの上に置き、直ぐに第2営業部の部屋を出て、最上階にある社長室に向かう。


エレベーターで最上階まで上がると、入り口には秘書の木原柑奈(きはらかんな)さんが、いつものように一部の隙も無く、俺を迎えてくれる。


この自然な緊張感を生む女性を俺はとても、好感を抱く。


自分を安売りせず、媚びる事をせず、高潔な意思と厳しさを感じる。


なかなか、若い女性に持てるようなものでは無い気がする。


自分にも、似たようなものがあるのかな?と考えるが、これほど厳しく、高潔に振舞うことは俺には無理だ。


木原さんは、黒色のスーツに細いパンツをはいた、いかにも仕事できますって感じで、俺を社長室にある貴賓室迄案内してくれた。


入る前に一言俺に小声で


「契約というのは、とても大切なことです。覚悟を決めてからサインしてください。」


っと、忠告してくれた。


(契約?な、なんの?)


貴賓室には、葛城仁社長と蛇目野社長と京仁織物上層部の人間3人とジャメノ靴製造会社幹部らしい人間が5人、いかにも銀行員らしい人間が2人座っていた。


俺は、その場にいる大人の人数に圧倒されながらも、堂々と動じることなく


「遅くなりまして、大変申し訳ありません。」


腰を90度曲げて、そこにいる全員に挨拶と謝罪する。


蛇目野社長が、にこやかに笑いながら


「今日の事は火吹君に、知らせていなかったものだから、逆に朝から急に呼び出すような形になってしまい申し訳ない。銀行さんが、君に同席してもらいたいと言うものでね」


俺は、変わらずに「いえ、大丈夫です。」とだけ答える。


仁社長は俺の方を見て、目線で空いてる席を見て【そこに座りなさい】と暗に、言ってくれる。


「失礼します」


と声をかけ、皆と同じテーブルの席に座る。



蛇目野社長は、その場を仕切るように話を始める。


「今日、皆さまに集まっていただいたのは、新会社設立に伴う、経営人の取り決めもろもろをご相談いたしたくお集まりいただきました。」


一呼吸おいて、蛇目野社長は話し続ける


「新会社名称は【TAKERU】コーポレーションと決まり、我が社の靴製造技術に京仁織物さんが特許を取られている特殊繊維で作る、高級運動靴を主製品に置き、幅広く様々な靴を【TAKERU】ブランドとして開発、製造、販売していく。ということでよろしいですか?」


葛城仁社長は変わらず自然体で「結構です」と一言答える


(なになに?これってもしかして、新会社の設立契約ってこと?)


入室する時、秘書の木原さんが言ってくれた言葉が、脳裏をよぎる、、、


蛇目野社長は、仁社長の肯定する言葉を聞き話し続ける。


「【TAKERU】コーポレーションの製造工場及び本社ビルは川崎の重工業地帯に500坪の敷地に95億円の資金を投入して製造されます。」


「代表取締役には、弊社より営業本部長の武田敦史(たけだあつし)君を登用し、専務取締役に弊社人事部長と常務取締役に経理部長をそして、取締役に別に2名選任し合計5人を弊社から出します。」


「京仁織物さんからは火吹武将君を含む4人を選任いただければと思います。」


葛城仁社長は、相変わらず自然体で「どうぞ、続けて下さい」と言う。


そこで、唐突にハプニングが起こる。


蛇目野社長ではなく、今回の新会社設立資金を融資してくれる、三井銀行と三菱銀行の渉外(会社にお金を貸す部署)担当部長が、手を挙げ発言を求めてくる。


三菱銀行のいかにも銀行員らしい、柔和な顔の中に厳しさを持ち紺色のスーツに真っ白なシャツを着て、大きな黒のカバンを持っている男性が、発言を求めてくる。


蛇目野社長が「どうぞ」と話す許可を出す。


三菱銀行部長は、いきなり本題から入ってきた。


「95億円の融資を新会社に、弊社と三井銀行さんで行うわけですが、連帯保証人をつけていただきたいのです。」


蛇目野社長は、少し慌てた様に


「それは、私がなると言うことで話がついているのではありませんでしたか?」


銀行屋は、続けざまに話を畳み込む


「大変失礼なお話ですが、95億円の連帯保証人を蛇目野社長お一人では、銀行として万一の場合、なかなか厳しいお話になると判断いたしました。」


(連帯保証人、勉強していて出てきたワードだ。確か、会社が融資された、借金を会社がうまくいかなかった場合、会社に代わり個人で支払うと言うことだったと思うが、保証人と連帯保証人では全くの別物だと、記憶している。)


(連帯保証人は、会社が借りた借金イコール自分の借金ということで、問答無用で支払う義務がある。)


(保証人は、お金を借りた人に先に支払い請求を求めることが出来ると書いてあったな、、、)


(要は、それだけのリスクを負ってるから、社長となると言うことだな)


銀行屋は更に発言を続ける。


「そこで、もう一名、火吹武将様に連帯保証人になっていただきたく思います。」


『えっ!!』


思わず、言葉が出てしまった。


変わらず、自然体で葛城仁社長が、静かに話し始める。


「失礼ですが、銀行さんは17歳の青年に何故、95億の連帯保証人なれとおっしゃるのでしょうか?」


三菱銀行担当部長は当然だと言わんばかりに


「火吹武将さんの資産は、95億円の担保に充分なりうると判断したからです。」


どんな時も静かに、仁社長は話し続ける


「順序としては、蛇目野社長の保証で足りなければ、次に来るのは私に来るのが当然と思いますが、そこはどうお考えですか?」


銀行屋は少し言いづらそうに「確かに、葛城様の資産でも、充分連帯保証人としては、なんの問題もございません。」


「ただ、これは銀行としての事情になってしまいますが、私どもとしてはどうしても(・・・・・)火吹様とご契約したい次第です。」


黙って聞いていた、蛇目野社長が始めて感情的に大声を出す。


「ふざけるな!!」


「この事業に魅力を感じるから、投資していただくものであって、そんな銀行の都合とは全く関係ない話じゃないのか!!」


ガタン!


仁社長が、静かに椅子から立ち上がり、蛇目野社長の所に歩み寄る。


そして、話しかける。全く変わらない自然な姿で


「三菱銀行さんと三井銀行さんには、今回のお話から外れていただきましょう。我が社のメインバンクである、YOTSUBA銀行さんが一行で、全額融資してくださると話がまとまっています。」


「「!!」」


大手都市銀行の渉外担当部長二人が、おもむろにおたつく。


「そ、それは困ります。」


銀行屋が、必死の形相で葛城仁社長に頼み込んでくる。


仁社長は、全くいつもと変わらずに辛辣(しんらつ)な言葉を述べる。


「あなたがた、銀行の都合など知ったことではありませんよ。この事業を提案したのは確かに火吹君ですが、17歳の青年に95億円の連帯保証人になれなど、ふざけたことを言う(やから)に、用はありません。新会社の株式配当の件も含めて白紙にさせていただきます。」


「どうぞお引き取り下さい。」


「そして、この出来事を蛇目野社長はじめ私も火吹君も決して忘れることはないと、頭取にお伝えください。」


「い、いや、それでは私の立場が、、、」


「はっきり申しますが、あなた方のお立場がどうなろうと私の知った事ではありません。お引き取り下さい。」


重ねて、退場を命ずる。


信頼する父であり社長である。


実に堂々としており、【かっこいい】。尊敬する父であり上司であり大人である。


仁社長が、貴賓室の扉を開けて秘書を呼ぶ。


「木原君、銀行さんがお帰りだ、案内してくれるかい」


すぐさま、黒い戦闘スーツに包まれた、全く隙のない女性戦士は、容赦なく


「お帰りはこちらになります」


と、手招きする。


物凄いショックを隠そうともせずに、大手銀行の二人の部長は、顔を見合わせながら、しぶしぶと退室していく。


俺は心配になり、父である仁社長にそっと駆け寄り、声をかける。


「よろしいのですか?あのようなことを言ってしまって」


(以前に、仁社長は経営者にとって、銀行との付き合いはとても大切だと教えてくれた。)


仁社長は、にこやかに俺の顔を見て


「大丈夫だよ、見ててごらん。すぐに電話でもかかってくるんじゃないかな?」


「とりあえず、蛇目野社長と話を進めようよ」


蛇目野社長は、興奮したように葛城仁社長に話しかけてきた。


「いやぁ、すっきりしましたなぁ~」


流石(さすが)は、葛城社長ですな」


仁社長は、褒め言葉も平然と受け流し席に着き話を始める。


「蛇目野社長、95億円の連帯保証人に、なられる予定であったことをなぜ、話してくださらなかったのですかな?」


蛇目野社長は、頭をかきながら


「まぁ~それは、お恥ずかしい話ですが、、、」


「罪滅ぼしみたいなものです。」


(罪滅ぼし?)


「我が社の悪習慣に、ついては火吹君から指摘された様に、親族経営で利益を(むさぼ)ってきたことへの償いと言いましょうか、、、」


仁社長は優しく、静かに


「万一、新会社がうまくいかなかった場合は、お一人で責任を取られる覚悟であったと」


「まぁ、そんなかっこいいものではありません。それに失敗する気など毛頭も考えておりませんよ」


「御社の特殊繊維と我が社で作る、靴製造技術が生み出す、全く新しい運動靴。軽くて、防水、しかも空気を通し蒸れない。」


「デザインさえ間違えなければ、ヒット間違いなしですよ。」


仁社長は、全くどんな時も変わらずに話す。

怒る時も、辛辣な言葉を吐く時も、褒める時も、嬉しい時も


「それでは、私も取締役に入りましょう。蛇目野社長の作る靴を間近で見てみたくなったので、よろしいですかな?」


恰幅(かっぷく)の良い蛇目野社長は、心底嬉しそうに


「それは、大歓迎です。葛城社長の意見もどんどん取り入れていきますので、容赦なく何でもおっしゃってください。」


っと、その時扉がノックされる。


コンコン


「入りなさい」


仁社長が、声をかける。


「失礼いたします。」秘書の木原柑奈さんだ。


「三菱銀行頭取田島様よりお電話でございます。」


ほらねっと、いった感じで俺の方を見て、片目をつぶってみせる。


「こっちに回してくるかい?」


(かしこ)まりました」仕事のできる人は余分な、ことは言わない。すぐに行動し、動きに無駄がない。


貴賓室の仁社長が、座る席の机上に設置してある、受話器が鳴る。

ワンコールで、仁社長が出る。


相手は、超メガバンク頭取。


仁社長は全くいつもと変わらずに話す。


「お電話変わりました、葛城です。」


「三菱銀行の田島です。先ほどは当行の者が大変失礼したようで、お詫びのお電話でございます。」


「そうですか、わざわざ、頭取自ら申し訳ありませんな」


「いえいえ、どうもお互い、勘違いがあったようで、電話ですいませんが、重ねてお詫びさせていただきます。」


「わかりました。今回の件は水に流しましょう。」


「ありがとうございます。どうぞ、今後ともよろしくお願い申し上げます。」


「こちらこそ、また何かありましたらよろしくお願い致します。」


ガチャ


受話器を置き、今回の事業には参加させない旨の引導を渡す、葛城仁社長。


俺を見て小声で話す


「銀行屋はこんなもんだよ、でも経営には絶対必要なパートナーだよ。」


小声で返す「わかりました。」


父の偉大さに改めて、感動する。


火吹武将の戦いはまだまだ、始まってもいない!!


これからだ!

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