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KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
30/107

天才が努力すると

ー夕刻ー


楓真は、飯も食わずにずっと、演技の練習を続けていた。

始めは、ただ立ってるだけで大丈夫だなんて言っていた割には、物凄い集中力と持続力だ。


シャツもズボンも汗でびっしょりになっていた。


思わず俺が、冷たいお茶のペットボトル500mlを持って行き、諷真は一気に飲み干し、また練習に入る。

もう俺の手助けなど必要のない、領域まで進んでいる。


一人で、磨き研究し、練習を反復する。

惰性(だせい)や手抜きなどどこにもない、ただ一心不乱に演技を練習している。


俺は、邪魔になると悪いと思ったので、地下スタジオにいるミッドの様子を見に行った。

軽食と飲み物は、ツネさんに頼んでいたので、ぶっ倒れている事は無いだろうが、あいつも楓真とは違う意味で、ぶっ飛んでいるから、心配になるになるのは仕方がない。


頼み込んだのはこちらだしな。


スタジオの扉を開けたら、ミッドこと御堂大智が、ペットボトルのお茶を飲んでいる所だった。


「ミッド、お疲れ、調子はどうだ?」


声をかけてびっくりしたのが、こいつもシャツびしょ濡れじゃねぇか!!


髪の毛も風呂上り並みに濡れている。


どんだけ、集中すればデスクワークともいえる、楽曲作りでこんな風になるんだ?


っと、思わずびっくりするやら感心するやらで、驚いていると、ミッドが話しかけてきた。


「凄いよ、自分で言うのもなんだけどさぁ、今までの最高傑作になったんじゃないかな?」


「出来たのか?」


「うん、聞いてよ」


パソコンのリターンキーをパンと叩くと、スタジオのスピーカーから音が鳴り始める。


勇壮な管楽器の重奏とファンファーレから始まる。

超元気で、荘厳な滑り出しだ。


続いて、ギター、ベース、ドラムとパソコンで作ったと思われる音が幾つも重なり、曲に厚みを持たしている。


そこに舞の鼻歌の様な軽やかなハーモニーが、涼やかに軽やかにスタジオに響きわたる。


どうやったら、病室でスマホで録音した音がこんな風になるんだ?


っと、思うくらい、舞の声は美しく鳴り響く。


っと、突然曲が一度途切れて、いきなり諷真の強力で重量感モリモリのハイトーンボイスがスタジオ中に響き渡る。


そこからは、もう諷真の主演主役の独壇場だ。


舞のハーモニーやミッドが作った音が、諷真の回りを飛び交うが、主役を越える事は絶対にありえない。


俺のギターもいつの間にか、音を変えられてアコースティックギターとは思えない響きになっていた。


(すげぇ、すげぇ、こりゃ化けるかもしれないぞ、、、)


密かに、期待と自信を膨らます。俺だ。


ジャン!!


曲が終了する。


俺が興奮して「すげぇかっこいいじゃん。これ!やっぱミッドお前も、天才だな」ミッドの肩を叩くと、ミッドの体は汗で全身びっしょりだった。


地下室のスタジオとは言え、換気空調は当然だがちゃんと整備されているのに、これだけの汗をかくとは、、、


「ミッド、ありがとう。とりあえず一緒に風呂入ろうか?」


「うん、いいの?」


「ああ、着替えもあるからさ」


楽曲のデータをミッドのパソコンとUSBにバックアップを取り風呂に入る為に、1階のリビングに上がる。


リビングでは、こちらも汗まみれで集中して演技しているモデルの様な顔に長身、痩せ型の男がびしょびしょになっていた。

こいつが、こんな汗まみれでも、不潔とか汚いと感じないのはやっぱり顔のせい?


一人 貴公子は、舞い踊り、セリフを叫ぶ。

その繰り返し、繰り返し。


声のかけずらい、雰囲気の中俺は、普通に大声で話しかける。


普通の奴らは、こう言うゾーンに入った時のこいつを怖がり、遠巻きにしてしまうから、友達が少なく勘違いされる。


だが、俺はそんな事を既に乗り越えるだけの人間関係をこいつと築いている。


だからごく普通に


「諷真、曲できたぞ。」


楓真の集中力が途切れる。


「ふぅ~」


この男は、こんだけ長時間練習して、汗だくになっても「ふぅ~」しか言わない。呆れるやら感心するやら


「一緒に風呂入ろうぜ、ミッドも汗でべたべただからよ」


「いいな」


楓真は、振り返りミッドを見つめる。

汗まみれの小動物系のITスペシャリストは、にっこり微笑んで


「いい感じの曲に仕上がったよ」


「感謝する」


楓真はこれでも、精一杯の感謝を表現している。

それを知っている俺達HANZO(_)のメンバーは、別に何も言わない。


だが、このコミュニケーション能力の低さから様々な誤解を招き、トラブルになった事も多々あったのは事実だ。

しかし、この男は絶対自分を変えない。


それが、彭城諷真だから。


芯がある男は、強く美しい。



火吹家1階にある風呂は、銭湯並みに広い。


3人で一緒に入っても、全く狭さを感じない。

シャワーも5本付いている。

誰が使うんだ?っと、本気で不思議になる我が家だが、俺が作った訳じゃないのでそこは、スルーと言う事で、、、


裸になると、諷真の鍛えられた細マッチョは、驚くばかりの美しさだ。


同じ生物とは思えない。


腹筋は割れてモコモコしているし、手足は長く細い。


首も長く、顔は小さく、まつげは女性の様に長く多い。

髪の毛は豪奢(ごうしゃ)でカールがかっていて、アパレルショップにいるマネキンを更に美しくした感じ。


こんな男と一緒に暮らしていれば、多少は顔に自信のある俺でも、コンプレックスになりかねない程だよ。


ミッドはデカい風呂に、喜びながら浴場に飛び込んでいた。


「ひゃっほう~」


バッシャーン!!


「凄く大きな風呂だね、」


3人は、疲れと汗と自分の成果を一緒に、風呂で流す。


気持ちの良い、ひと時だ。


俺は、昨日から今までほとんど休みなく動き回っているが、若さゆえだろう、体は疲れているのに、なんか愉快に笑ってしまう。


良い仕事が出来たら、きっとこんな気持ちになるんだろうなと思う。


【いいな!!】


こんな疲れなら大歓迎だ。



メインリビングに、俺達はさっぱりとして、戻ると 仁父さんと唯母さんが、目を見張って緊張した様に、俺達を見つめてくる。


(わくわく感満載ですよお義父さん、お義母さん、、、)


唯母さんは、風呂浴びて出て来た、諷真に男の魅力に魅了されているように、乙女みたいに頬を赤らめている。


(お義母さんも、女性なんだな、、、諷真がそれだけ魅力的という事か)


期待に答える様に、俺は声を掛ける。


「諷真の曲、出来たんですけど、聞きますか?」


2人は、両手を胸の間に固く結びながら


「是非にも、聞きたいね」


仁父さんは、話し方は変わらないが、興奮している事が、眼に出ている。


瞬き(まばたき)してないですよ、お義父さん)


リビングにある、ステレオアンプの電源を入れて、起動するのを確認すると、USBをスロットに差し込む。


俺達3人も、ソファに腰かけ、濡れた髪をバスタオルで拭きながら、腰かけてくつろぐ。


馬鹿でかいスピーカーから、いきなり【ドン!】とファンファーレの様に、管楽器の重奏が響き渡るクラシックのような出だしだが、直ぐに曲調は変わり、それぞれの作られた楽器の演奏が、順番に始まる。


ベースが入ってきて、ドラムがきて、ギターがガンガン鳴り響く、そしてそこに女性の軽やかだが、良く響く声で美しく壮麗にハーモニーが、響き。


突如として、曲は止み


重量感のある彭城諷真の声量ある、ハイトーンボイスがこれでもか!これでもか!というくらい響きわたる。


お義父さんもお義母さんも、何も言わない。


お、お義母さん、、、


泣いてる?


曲が終わると、唯母さんは感動の余り、ボロボロ泣き出していた。


仁父さんが、優しく唯母さんに、ハンカチをそっと渡す。

(大人な振る舞いだな、、、俺も見習おう)


仁父さんも感動を隠そうともせずに


「これは、素晴らしい歌だね。大ヒット間違いないよ」


唯母さんは、感激の涙を流し、感想を体中で表現してくれている。


「ドラマの主題歌で、彭城君のデビュー曲を 一番初めに聞いたのが、僕達だと言う事は、自慢になるね。」


「ところで、作詞 作曲 編曲は誰の名前で、登録するんだい?」


仁父さんは、感動とは別に現実的な大人な発言をする。


俺が、普通に答える。


「全部ミッドで良いんじゃないか?」


ミッドは風呂上がりの、シャンプーの良い匂いを撒き散らしながら


「た、たしかに編曲は、僕がやったけど、作詞と作曲は【将軍】じゃない?」


俺はツネさんから貰った、冷えたお茶を飲みながら、ソファにゆっくりとくつろぐ。


「もし、この曲がヒットしたら印税が入って来るよな、ミッドお前、大学院まで行くって言っていたけど、マサチューセッツ工科大学にも留学したいって、前に言ってたじゃん。」


「その金に使えばいいじゃん」


「えっ!!」驚くミッドは、まさに小動物系の様に小さい目をクリクリと輝かしながら、素直に驚きを表現する。


「でも、それじゃ、将軍に悪いよ」


「俺は良いよ、お前自身のスペックが上がればそれだけ俺にとっても、助かる事になるだろうし、、、それに俺に金は今の所必要ない。」


「遠慮するなよ、お前の名前で登録しよう」


将軍の決断だ。


誰も文句は言わない。


そして、それを聞いていた、葛城仁だけは、眼を(ほころばせ)ばせながら、俺を見つめていてくれた、、、、実の息子の様に、、、


平日は、朝から晩まで仕事に打ち込み、帰宅しても仕事の勉強をして、睡眠時間は約4時間。


そして、週末の休みの日も、親友たちの為に身を粉にして動き、一言も「辛い」とか「眠い」とか「きつい」などと、泣き言を言わない俺に、仁父さんは人間としての俺を認めてくれているのだ。


娘の婿(むこ)として、認めてくれているのだ。


俺にとっては、別に特別な事をしている気は無く、全く自然な出来事なのだが、そう小さい時から育てられたせいかもしれない。


前に、妻の舞が俺に言っていたことがあった。


帝城高校、人気ナンバー1の彭城諷真でなく、俺を選んだのはどうしてかと尋ねた時に、舞は胸を張り答えた。


「武将の人間性や、見た目は勿論あるけど、一番の理由は【帝王学】を学んでいる事ね。」


「大勢の人の上に立つべく、育てられたあなたの生立(おいた)ちね」


その時、俺は舞が何を言っているのかよくわからなかったが、今はなんとなく分かる気がする。


もし、この曲がヒットしたら、何十億というお金が動く事になる。


それを俺は、友の為に『いらない』と決断する。


確かにこんな決断できる人間は、早々いないかもしれない。


だが、これが【火吹武将】という人間なのだ。


それは、俺が、全財産を失っても、この世界がひっくり返っても絶対に変わる事が無い、不変の事実だ。




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