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KABUKIコーポレーション  作者: イー401号
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未来への投資

「それでは、先輩。話を聞かせてもらえますか?」


神部部長が優しく

「そこは、先輩じゃなくて安藤聡君とフルネームで呼ぼうね」


「はい、安藤聡さんはどうして、弊社に入社したいのですか?」


帝城高校の一年上の先輩は、かなり緊張しながら話す。


「はい。本来、私の学歴では御社の様な上場企業には就職出来ませんが、葛城舞さんが、紹介してくれたので、こうしてここにおります。」


「舞が、、、どういった成り行きなのかお聞きしても良いですか?」


安藤聡は、事実をそのまま真摯に話した。


俺と神部部長は、黙って話をずっと聞いていた。

神戸部長には、営業部に移る時に、全てを打ち明けてある。

社長の一人娘と結婚している事、もうすぐ子供が生まれる事、25歳までには経営を全て学びたいと言う事。


(KABUKIコーポレーションの一族という事は言っていないが、、、なんか、自分で築いた物でもないのに、えばってる様で、自分で自分を好きになれないから言わなかった)


神部部長は、35歳にして人事部長という要職に就くだけあって、口は堅いし尊敬する大人の一人だ、だから話したのだが、籍を入れれば自然にわかる事なので、自分から言っておきたかった。


安藤聡先輩がここに居る、成り行きを聞き終わると、俺は質問をした。


「安藤聡さんは、将来目標にしたい事や、やりたい事などありますか?」


「やりたい事や目標はありませんが、母は一人で私と姉をとても苦労して育ててくれたので、これからは私が母に楽をさせてあげたいです。」


俺は安藤さんの履歴書を見て、父親の名が無い事に気が付いた。


「それでは、別に弊社でなくともいいのではありませんか?」


俺は厳しい質問を投げかけた。


安藤聡は「(おっしゃ)る通りです。母を楽にさせて上げられれば、私はどんな仕事でもどんな苦労でもするつもりです。」


俺は感情を込めずに目を見て話す。安藤聡先輩も目を逸らさず堂々と話す。


「どんな苦労でもとは、具体的にどの程度の事をお考えですか?」


「休みなど、要りません。残業も平気です。給料が高ければ言う事はありませんが、真面目に一生懸命働く事しか今の僕には出来ません。そこについては自分を楽にさせるつもりはありません。」


はっきりと宣言する。安藤聡だ。


(俺はこう言う人間が好きだ、理屈や教養ではないんだ、決意。それが一番大切だと思う。)


(先輩の場合、シングルマザーの母を大切に思う【覚悟】が決まっているんだな)


「神部部長、僕が聞きたい事は、聞きました。人事部長として聞かなければならない事がありましたら教えて下さい。」


「うん、かなり変則的な面接だけど、面白いね。」


「それでは、安藤聡君、君はお母様を楽にしてあげたいと言う事だけど、君自身の人生の事はどう考えてるのかな?」


安藤聡は初めて、眼が泳いだ、、、


「わ、私の人生ですか、、、それは考えた事もありません。これから考えていくとしかお答えできません。」


神部部長は変わらず優し気に


「では、話を変えて、自分の長所と短所を言ってもらっても良いかな?」


「はい、長所は健康で我慢強く、優しい所です。短所は決断力にかける事、、、です。」


神部部長は口調を一切変えずに優しく話す。


「短所の決断力に欠けるとういうのは具体的にどういう事かな?」


「はい、正直皆を引っ張っていくリーダーのような性格ではありません。仕事についても与えられた仕事を一生懸命出来るだけ効率的に進める努力は惜しみませんが、独立や経営者などには向いてません。」


神部部長は笑いをこらえながら、、、


「若いと言う事は良いね、普通社長になる為に就職する人間なんてまずいないよ。」


「たまに、独立志望の人はいるけど、成功したと言う話はまず聞かないね」


「最後に、ここに他社で内定が出ていると書いてあるけど、弊社が内定を出した場合は、君はどちらを選ぶのかな?」


安藤聡は即答して「もちろん、御社に就職させていただきます。」


「わかりました。」


「後は決めるのは火吹君だよ」


俺の答えはもう決まっていた。


「安藤聡さん、あなたの面接結果は、合格です。」


「これからよろしくお願いします。」


俺は立ち上がり、握手を求める。


安藤先輩も喜び、立ち上がり強く俺と握手を交わす。


「ありがとうございます。」


神部部長は一人(なんか内も面白い人材が、増えて来たな、、、年甲斐も無くワクワクするよ、、、)


神部部長が最後に


「それじゃ、入社時期は安藤聡君が高校を卒業する。4月1日からという事になるね、内定を頂いている会社にはきちんと丁寧に辞退する旨を伝えて下さいね」


「あと、必要書類は郵送で送るから記入して、返送してください。」


「あと、万一だけど、保証人を記入する欄があるんだけど、普通はご両親と親戚の方がなるんだけど、いない様なら相談して下さい。」


安藤聡は頭を膝につきそうなぐらいお辞儀して、感謝の意を表す。




そして、俺は営業部に戻って行く。


第2営業部に俺が顔を出す成り、3課課長の木下さんが焦っているように、声を掛けてきた。


「火吹君、直ぐに社長室に行ってくれ、急用だそうだ」


「わかりました。」


俺はいつもと変わらずに、自然体で来た道を戻り、エレベーターで最上階の社長室に向かう。


コンコン


「火吹です。」


社長秘書の木原柑奈(きはらかんな)さんがいつもの様にタイトなスカート姿で扉を開けてくれる。


葛城仁社長は、スーツの上にコートを羽織りながら


「話は車の中でしよう。一緒に来てくれるかい」


「木原君も一緒に頼むよ」


「かしこまりました。」


仁父さんが、こんなに慌てている姿を俺は初めて見た。

(どうしたんだろう何ごとかな?)


俺は、コートも着ずに、エレベーターに乗り、1階に待っていた社長用の送迎者に乗り込む。

俺は後部席の扉を開けて、仁社長と木原秘書さんを案内すると直ぐに助手席に乗り込み、車は静かに動き出す。


車中で、仁社長が話し始める。


「蛇目野社長がね、私と君に至急来て欲しいと言うんだ」


「何かトラブルでもあったのですか?」


「恐らく、以前から話し合ている、新会社立ち上げにかかわる事だとは思うけどね」


「何しろ行き先が、三菱銀行本店だからね」


その時はまだ俺は自分の置かれている場所に何も感じていなかった。


仁社長が乗る、国産車高級自動車は三菱銀行本店の地下駐車場に滑り込む様に入っていく。


地下駐車場には、銀行員らしい髪型は7.3分けの紺色のスーツを着た、40代の男性と30代くらいの若めの男性が、俺達を迎えてくれた。


俺は、車が止まると同時にシートベルトを外し、後部扉を開けて仁社長をエスコートする。


「京仁織物株式会社 社長の葛城仁様でございますか?」

出迎えてくれた、年配の銀行員が声を掛けてくる。


仁社長は自然な態度のまま


「そうです。」


と一言だけ答える。


年配の銀行員は、手を差し招きながら


「蛇目野社長始め、皆様お揃いです。」


若い銀行員が、先導して扉を開け、エレベーターのボタンを先手先手に押して、仁社長を案内する。


三菱銀行本店本社ビル最上階にある、貴賓会議室に案内される。


先導していた30代の銀行員が扉をノックして


「京仁織物 社長 葛城仁様お見えです。」


この銀行員はかなり緊張している。

動きからして、気を使い過ぎなのがわかる。

何か大切な人か、物事が決まるのか?


後ろの40代の銀行員も緊張している。


貴賓会議室の中に入ると、20人は余裕で座れる大きなテーブルに銀行らしからぬ豪華さを装飾した部屋に、10人ほどの男性が、座っていた。


皆、地位の高そうな男性ばかりだ。

俺はこういう人達が身近にいるからすぐにわかる。


始めにジャメノ靴製造会社の蛇目野社長が声を掛けてきた。


「急に呼び出したりしまして、誠にすいませんでしたな」


仁社長は変わらず、自然体で


「いえ、遅くなり大変申し訳ありません」


(その理由は、俺のせいじゃないか?)


奥に座る壮年の男性が挨拶する。


「葛城社長初めまして、三菱銀行頭取の田島です。」


(頭取!!都市銀行のトップじゃないか、、、)


その隣に座る壮年の男性も挨拶してくる


「初めまして、私は三井銀行頭取の道堂(みちどう)と言います。」


(三菱に三井の銀行トップが二人も、、、)


残りの人は、ジャメノ靴製造会社関係者とそれぞれの銀行関係者だそうだ。


(これは場違いだ。俺がここに居ていい場所ではない。)


確かに、東京都心のど真ん中にある三菱銀行本店の最上階の貴賓会議室なんて一般ピーポーは入る機会すらないだろう、、、


当然、高校中退の17歳の俺がいていい場所では決してない。


各頭取は、自分の席を立ち仁社長と名刺交換する。


仁社長も全く自然体でいつもと変わらずに、堂々と大手銀行頭取相手に物怖じしないで、名刺交換している。

木原秘書が、仁社長の後ろに控えて、名前と顔と役職を記憶する。


仁社長は名刺交換が終わると、それぞれの名刺をテーブルの上端に置き、腰かける。


異常事態が起きたのはここからだ!


な、なんと、大手銀行頭取二人が、俺に歩み寄り名刺を差し出すのだ。


俺は、たまげて慌てて、自分の名刺を先に渡す。


それこそ、生きていれば自分の父親以上の年齢の各銀行頭取が俺の名刺を見て


「火吹武将君、とてもいい名だね」


っと、にこやかに笑って、二人共右手を出して握手を求める。


俺は、戸惑いながらも固く握手を交わす。


一通り、挨拶が済んだところで、蛇目野社長が話し始める。


「今日、急に集まってもらいましたのは、三菱銀行さんと三井銀行さんの頭取が是非、新会社設立に立ち会いたいと申されまして、お声を掛けさせていただきました。」


三菱銀行頭取の田島さんが話す。


「丁度、別件で道堂頭取と打ち合わせがあり、蛇目野社長担当から、今回のお話を伺い、是非 葛城社長、皆様とお会いしたいとお願い申し上げました次第です。」


「無理を申し上げ、大変申し訳ございません。」


三菱銀行の頭取が頭を下げている。


絶対ここに俺が居るべきではない、、、


そんな気持ちを知ってか、仁社長は自然と


「私ども、経営者に取り銀行とのお付き合いは、とても大切です。まして、頭取のお誘いとあれば、何をおいても駆け付けますよ」


(俺に話しかける様に話す仁社長、、、俺の教育も兼ねているのか、、、)


(仁社長に恥はかかせない。俺もしっかりしなくては!)


蛇目野社長が話しを進める。


「今回の新事業は、新工場兼新本社ビル建設、運転資金他などいれて、およそ95億円の事業となります。」


(95億!想像つかないぞ)


「融資は、三菱銀行さんと三井銀行さんから受諾されてます。株式は51%が弊社で持ち、49%を京仁織物さんで持つと言うお話でしたが、三菱銀行さんと三井銀行さんも新会社の株式を分けて欲しいとの申し出がありました。」


「葛城社長、如何ですかな?」


「51%の経営権は、蛇目野さん側で持ち私共の49%の株式を銀行さんがそれぞれお持ちになりたいと、、、言う事ですかな?」


「そうです。京仁織物さん、三菱銀行さん、三井銀行さんそれぞれで約16%ずつの株式保有したいと言うお話です。」


仁社長は、全く変わらずに話す。


「何故、その様なお話になったのですかな?」


三菱銀行頭取 田原さんが、体を前に乗り出し


「それは、私からご説明させていただきたいと思います。」


「我々、銀行としては優良な投資には、是非関わりたい。」


「それと、天下のKABUKIコーポレーションと繋がるご縁があれば、それは喉から手るほどの事です。」


俺は思わず叫んでいた


「わ、私とKABUKIコーポレーションは関係ありませんよ、確かに曽祖父がKABUKIコーポレーションの創始者ではありますが、今の社長は叔父がやっております。」


三菱銀行頭取の田島は微笑みながら


「存じておりますよ、しかし火吹武将さんが火吹家当主であるのも事実です。5年後、10年後どうなっているかなんて、わからないですからね」


「私ども、銀行屋としては、現在の火吹武将さんではなく、将来の武将さんに投資したいと考えております。」


思わず俺は呟く


「俺の未来への投資、、、」

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