天才との同棲生活
営業第2部3課の歓迎会は、人事部の神部部長達と交わした雰囲気、時間とは全く違った空気感だった。
場所は、渋谷区繁華街のパイプ椅子で天井から裸電球がぶら下がっている、いわゆる酒場?赤提灯?だった。
席に着くなり、生ビールがジョッキで人数分運ばれてきて、勿論俺は未成年なので、烏龍茶だが
力強く、ジョッキをぶつけ合い全員で唱和する。
「おつかれ~」
ガシャン!!
俺が、何か食べ物を頼みに行こうとすると、門田主任がそっと俺より先に立ち、手で俺を制して自分で店員に注文に行く。
門田主任のほんのわずかな、こういった気遣いが俺にはすごく嬉しい、正直何を頼んで良いかも良く分からないからだ。
こういう、お店に来ることも初めてだし、勝手が良く分からないのが、本音だ。
木下課長が、遅ればせながら聞いてくる。
「火吹君、営業部の仕事はどうだい?」
俺は素直に自然体で、烏龍茶をおいて背筋を正して答える。
「楽しいです。」
課長は更に生ビールを飲み干し注文しながら、話してくる。
「あの、ジャメノの社長と上手くやったんだって?」
「上手くかどうかはわかりませんが、人間関係は気付けたと思います。」
俺は至って、普通に喋ったつもりだが
木下課長は驚きの表情で
「あの、オッサンには俺もかなり手を焼いたからなぁ~」
「たった、一日で人間関係を作れるなんて大したもんだよ」
っと、本音を漏らしてくる。
営業3課の歓迎会は、基本ざっくばらんで、体育会系のノリだった。
段々酒杯も増えていくにつれて、話題は仕事の話ばかりになる。
愚痴を言ったり、説教されたり、仕事の事で討論したり、これが営業の酒の飲み方なのかと密かに俺は観察していた。
俺の歓迎会という、名目の飲み会は1次会を22時頃終わり、2次会はそれぞれ個々に行く者と帰る者とに別れ、解散となった。
当然俺は、未成年なので帰宅の途についた。
夜22時、渋谷区の繁華街は、ヒトでごった返していた。
これでも、コロナウィルスの影響で、いつもより人が少ないそうだが、地下鉄の中はほとんどの人が、マスクをしていた。
23時前に、虎ノ門にある自宅に帰宅する。
正門を指紋認証して扉を開けると、自宅まで真っすぐに石畳の道が続いている。
この正門を入ると、自宅にいる人間には誰が帰って来たかわかるシステムだ。
当然、自宅の前で背筋を伸ばし直立して俺を出迎えてくれえるのはシゲさんだ。
「おかえりなさいませ、武将様」
「ありがとうございます。」
声を掛け、シゲさんが開けてくれた、自宅玄関の大きな扉をくぐると、怖い顔で俺を迎える超イケメンの親友と天才で美しい妻が立っていた。
「二人して、どうした?」
愛する妻が、両腕を胸で汲みながらプンプンして怒りながら話してくる。
「諷真がね、今の部屋じゃなくて私達の隣の部屋にしろっていうのよ!」
190センチの小顔で髪は豪奢で少しカールが、かかってる音楽の天才は、短く端的に言葉を発する。
「将軍の生活を真似ながら、自分を磨きたい」
俺は納得する。
舞は、俺との新婚生活を邪魔されたくない。
諷真は、俺が社会人として頑張ってる姿をみて、自分にも発破を掛けたいと言う事か。
確かに俺は、大体この時間まで、仕事をしてそれから経済や経理、法律等、様々な勉強を大体、夜3時くらいまでしている。
睡眠時間は大体3~4時間。
ん~、ナポレオン並みか、、、
要は、その姿、様子を間近で見て、自分も見習いたいと言う事か、、、
確かに俺の自宅は、全ての部屋をこの間数えたら36部屋あった。
俺達の部屋というか居住ゾーンは二階の南角にある。
俺の私室兼仕事部屋。
舞の私室。
俺達夫婦の寝室。
風呂、トイレ、リビングなどがある。
諷真の部屋は、同じく2階の一番北側の端、俺達夫婦の居住ゾーンとは一番離れた場所に舞が作った。
一応、私室、寝室と音楽が出切る様、防音壁にして風呂とトイレが付いている。
ちなみに葛城仁父さん夫婦に使ってもらってる居住スペースは、1階の東側にある、亡き両親が使っていた居住ゾーンを使ってもらっている。
部屋ではなく、ゾーンと言うのが、居住スペースの豪華さを物がっている。
俺はとりあえず、プリプリ怒りながら着いてくる黒髪の妻と長身細身のイケメンを連れて、1階にあるメインのリビングにある10人は座れるソファに、鞄を投げ出して、「まぁ、座れよ」と二人をソファに座らせる。
俺の横には、舞が座り、迎いに諷真が座る。
そこに、ツネさんが「お疲れさまでした、坊ちゃま」と言いながら人数分の温かい緑茶を入れてくれる。
俺はツネさんが入れてくれた、お茶をすすりながら隣にいる枚に声を掛ける。
「学校の方はどうだ?」
全く関係ない話を振られ、舞は答えに僅かだか間が開く
「帝城高校のナンバーワンとナンバーツーのイケメン男子が突然、学校を辞めたもんだから、女子は大騒ぎよ。」
「中には、泣き出す娘もいるほどよ。」
俺は彭城諷真を見て
「仕事の方は、どうだよ」
諷真は短く
「楽しい、だがまだぬるい。」
「どんな、事を実際やっているんだ?」俺は素直な気持ちで聞く。
諷真は変わらず短く
「ボイトレや専属スタッフとの顔合わせ、打ち合わせがほとんどだ。」
「何か新しい事はやらないのか?」
「今度、民放月9ドラマ主役のオーデションを受ける」
俺は驚きを顔いっぱいに広げて
「凄いじゃないか、まだデビューもしていない新人がドラマのオーデションに出るなんてさ」
「俺の力じゃない、事務所の力だ」
「それに俺は、芝居などしたことが無い」
俺は立ち上がり、諷真に聞いてみた。
「台本はあるのか?」
「ああ、まだ、本物ではなくイメージみたいなやつだけどな」
「ちょっと、練習しようぜ」
俺は台本もどきを借りて、一階のリビングの横にある事務所兼執務室に置いてあるコピー機を使って、台本もどきをコピーする。
物語は、イケメン検事が、巨悪を裁いていくと言うありがちな物語だが、共演する俳優陣が物凄い大御所ばかりだ。
「舞、ちょっと、この主人公のイケメン検事を補佐する検察事務官役やってくれよ」
「俺は、悪役代議士をやるから」
「しょうがないわね」と言いながら、ソファから立ち上がり台本もどきを受け取る。
シーンは悪役代議士が、散々私腹を肥やし、悪行を重ねた証拠をイケメン検察官に捕まれ、開き直って検察事務官を捕らえイケメン検察官に証拠を渡さなければ、事務官を殺すと脅すシーンだ。
俺は舞(事務次官役)を後ろから羽交い絞めにして、セリフを読む。
「証拠を渡せ!渡さなければお前の事務次官を殺すぞ!」
自分で言うのもなんだが、なかなか迫力ある演技だな。
俺、そう言う才能ある?
「キャー、検察官助けて~」
高く響く声で、叫ぶ。
舞もなかなかな物だ。即興でここまでやれる奴はそうはいないだろうな。
「だ・い・じょ・う・ぶ・だ」
「お、俺が必ず助けてやる」
(おいおい棒読みじゃねぇか)
「諷真、感情でセリフを言うより、歌を歌うようにセリフを呼んでみろよ」
諷真は黙って頷き
「あ~あ~あ~」
音を取り出す。
「大丈夫だ~♬ 俺が必ず♬助けてやる~♪♪♪」
高音で響く、声音。
俺が「もちょい低めで、メリハリ付けて」指示する。
「大丈夫だ~♬!! 俺が必ず♬助けてやる~♪♪♪!!」
「どうだ舞?」
「いいと思うわよ、それに諷真も無理して役を作るんじゃなくて、諷真自身そのままでも、この役ならこなせる気がするわ」
「あくまでも、歌手を目指すんだから無理して役者ぶる事ないわよ、諷真なら立っているだけで何とかなるんじゃない?」
「台本自体を無視しても、監督に納得してもらえばいいんでしょ。今までと同じように自分を貫きなさいよ」
「わかった」
短く答える諷真。
いつの間にか、舞と諷真の言い争いはどっかへ飛んでいた。
リビングの隣の和室で、夫婦揃ってワインを静かに嗜んでいる、葛城仁父さんと唯母さんが、見つめあい微笑み合って、俺達の子芝居を聞いていた。
俺は、その後風呂に入り、私室に戻り蛇目野社長が提案していた新会社立ち上げの【取締役】の事を学んでいた。
コンコン
俺の私室の扉がノックされて、ゆっくりと開く
「まだ、寝ないわよね」
愛する妻の舞だ。
俺はデスクから振り返り、傍にある椅子を引き寄せ妻に座る様に促す。
「どうした?お前は早く寝ないと、体に障るだろう」
ゆっくりと優雅とも思われる動作で、舞は俺の用意した椅子に腰かける。
女優の様に、、、
「あなたのいなくなった、帝城高校は全然面白くないの」
呟くように、不満を吐き出す。
「こうして、あなたと一緒に居る時が一番、落ち着くし楽しい。さっきの子芝居もそう、あなた以外にはあんな事思いつきもしないし、やれないわ」
「きっと、諷真も同じ考えよ」
「そうか?」俺の中では特別な事をした、感じは全く無いのだが、、、
舞は緩やかに立ち上がり、羽織っていたガウンをそっと広げ俺の顔を自分のお腹に優しく包み込む。
「子供たちの、心臓の声が聞こえる様になったの」
俺は舞のお腹に耳をあて、耳を澄ませた。
トクン トクン トクン
小さいが、はっきりと心音が聞こえる。
「凄いな舞!!」正直びっくりした。
今日も一日、いろいろあったが、今が一番びっくりしていた。
舞が優しく微笑み母親の顔をしながら
「今日も、お母さんと一緒に病院行って来たけど、順調ですって」
と言いながら、お腹の中にいる子供の写真を見せてきた。
まだ、人間の形らしきものしか映っていなかったが、俺は無性に感動した。
「俺の子供、、、」
「きっと、親に似て二人共、美男美女に生まれるわよ」
思わず、優しく舞を抱き寄せて素直に今の自分お気持ちを表した。
舞の小さな唇に、自分の唇を重ね合わせる。
そっと、優しく。
そして
「舞、俺を選んでくれてありがとう」
というと、舞はゆっくり眼を開け
「それは、違うわよ、私があなたに恋をしたのよ」




