衝撃の現実
社会人初日は、諸々の手続きと関係各部署への挨拶回りで終了した。
17:00終業ベルが鳴り、残業する人以外は退社する時間となる。
そこで、神戸正志人事部長が、俺に話しかけてくる。
「火吹君、君の予定が開いているならこれから君の歓迎会をしようか?」
俺は即座に返答する。
「ありがとうございます。」
神部部長は、人事部の春日百合にも声を掛けて、3人で渋谷の繁華街に繰り出した。
俺はそっと、トイレに行くふりをして、ツネさんに食事はいらない旨をメールする。
渋谷の繁華街の中心、東急109を横に見ながら、物凄い人込みを3人で歩いていく。
古民家風の個室がある【夕凪】という居酒屋に、神戸部長が入っていく。
店内は、閑散としており他に客はいなかった。
6人は座れる個室に俺達は案内され、上座に神部部長を自然に座ってもらい、それぞれの飲み物を聞き、注文を俺が頼みに席を立つ。
神部部長はずっと、黙ったまま座っていた。
生ビールと梅酒ソーダとウーロン茶が運ばれてきて、3人は乾杯する。
「火吹君の入社を祝って、乾杯」
神部部長が音頭を取る。
「乾杯」
「よろしくお願いします。」
梅酒ソーダとウーロン茶で、グラスを軽くぶつけ合う。
高く澄んだ音が響く。
カン。
神戸部長がおもむろに話し出す。
「来月の4月から、こういう居酒屋には社会人である火吹君でも、入店できなくなるんだよ」
俺は不思議に思い
「確かに、未成年なのでアルコールは飲めませんが、入店すらできないとはどういうことですか?」
部長は生ビールを一気に飲み干し「ぷはぁ~」と一日の疲れをビールと共に吐き出して喋る。
「健康増進法という法律があってね、このお店は煙草に関して喫煙可能店として申告しているから、未成年者、子供も含めてね入店は一切禁止になるんだ」
「お昼の定食も安くておいしくんだけどね、ランチタイムは禁煙となっているけど、小さな子供連れのママさん達の入店も出来なくなるんだ。」
「禁煙なのに、入店できないんですか?」
「うん、そうなんだ。それが法律と言うものなんだよ。」
「法律は万能ではないと言う事だね。」
「それに、今世界中をにぎわしているコロナウィルスの影響もあって、こういった飲食店始め、日本経済は大打撃をこうむっているんだ。」
「本来このお店は、安くて美味しくて繁盛店なんだ、この時間でも満席になるほど忙しいお店だったのに、今日は僕達しか客がいないだろ」
「会社が、コロナウィルス感染拡大防止のために、宴会自体を禁止しているせいもあるんだけど、君の歓迎会も我々で個人的にしなければならないのが現状なんだ。」
俺は、神部部長が飲み干したカラのジョッキを持って、おかわりを頼みに行く。
戻ってくると、神部部長は話し続けた。
「このままでは、日本経済に深刻な打撃があるのは必至だね、煙草についても今年、オリンピックが日本であるから、無理やり【世界基準】に合わせた感がとてもあるし、末端の国民にとっては無理に無理を重ねた上に、パンデミック発言で、株価は暴落。小さな会社は下手したら倒産が相次ぐんじゃないかな?」
俺は心底驚いた。
ニュースで、コロナウィルスの事は知っていたし、オリンピックを東京でやる事も当然知っていた。
しかし、身近でその影響がこれほど感じられるとは思いもよらなかったのだ。
神部部長は、運ばれてきた料理をつまみながら話を続ける。
春日百合さんが、お刺身の盛り合わせからいくつか刺身を取って、部長と俺に分けてくれる。
醤油とわさびを少しずつ入れて。
「まぁ、余り暗い話ばかりしても仕方ないからね、話を変えよう、今日一日君を見ていた感想を言っても良いかな?」
俺は勿論即答し
「お願いします。」
神部部長は、かなりお酒は強いようで2杯生ビールを飲んでも全く普段と変わらず話す。
「君は、良い家で正しく躾けられて育ったようだね」
「どうして、そう思われるのですか?」
神部部長は、俺の目をしっかり見ながら話す。
俺もしっかりと、目を見て話す。
「17歳にして、君の自然な堂々とした態度、きちんとした敬語、自分より目上の者に対する気配り、この居酒屋での席順を決める順序、どれをとっても17歳の青年に出来る事ではないよ。」
俺は、褒められてるにも変わらず、自分で何と言っていいか分からず、ただ「ありがとうございます」とだけ答える。
神部部長は微笑みを浮かべながら優しく語り掛ける。
「今朝、話したと思うが、良い大学を出たから会社にとって優秀な人材とは限らないと言ったと思うけど、君はまさにその真逆じゃないかな?」
「高校中退だが、君の人事考課は僕の判断では【AAA】だよ」
春日百合が思わず口をはさみ込む。
「部長が、そんな事を言うのを始めてみました。」
「それはそうだよ、人事部長が社員の評価を本人に伝えるなんてあって良い訳無いからね」
「でも、君には不思議な魅力があって、大人をそういう気分にさせるんだ。」
俺は何と言っていいかわからずに沈黙を持って、返答する。
部長の目をしっかり見つめて。
春日百合は料理を取り分けながら、会話に入って来る。
「それに、部長がこんなにたくさん話をするのも珍しいですね」
「そうだね、きっといろいろ面倒を見たくなる気に彼がさせるんだろうね」
「これは、火吹君にとってとても素晴らしい素質だよ、大事にしなさい。」
俺は、お辞儀して「はい、わかりました」と素直に答える。
春日百合さんが「それにイケメンですしね、私ももう少し若ければ、、、」
思わず俺は叫ぶ
「イヤイヤ、俺なんてそんなでも無いですよ、それに結婚してますから」
「「えっ!!」」
俺は言い訳がましく
「18歳まで、戸籍は入れられませんが、妻のお腹には子供もいるので、、、、」
神部部長が、びっくりした様に
「これは驚いた。戸籍に入ってないから人事部の僕でも知らなかったんだね」
「君は謎に包まれていて、奥が深い男の様だね」
「うん、今晩の事はお互い内緒にしておこうか」
「はい、わかりました。」俺は元気に返事する。
神部部長は春日さんの方に目配せして、【君もだよ】と暗黙に言っていた。
春日さんは神部部長と長く一緒に仕事をしているらしく、ただ、首を少し下に向け頷いただけだった。
その後、2時間程いろいろな話をして、店を出た時には21時近かった。
神部部長と春日百合さんと挨拶を交わし、別れ地下鉄の駅まで歩いていく。
コロナウィルスに、オリンピック、経済効果、今までワードとしては知っていた事だが、現実としてこんな事が起こっているという事実に正直、驚きを隠せずにいた。
地下鉄に乗る、乗客はほぼ全員がマスクをしている。
マスクの品切れによる、経済効果、コロナウィルスの影響がこんな身近な所にあったのかと痛感する。
今までの自分は、通学に高級車で送迎してもらい、それを当然と思っていたが、現実はこんなにもかけ離れているのだと当惑せずにはいられなかった。
夜22時頃には、虎ノ門にある自宅に着いた。
門をくぐり、家まで自分の敷地を歩く。
家の前には、静かに直立不動でシゲさんが、待っていてくれた。
「お疲れさまでした、武将様。」
と言い、ごく自然に俺の持つ鞄を持とうとする。
俺はそっと、シゲさんに話しかける。
「これからは、そう言う気遣いは無用にお願いします。」
「僕は、大人へ走り始めました。まだ一兵卒にも足りません。甘やかさないで下さい。」
シゲさんは、差し出した手をす~ッと引き込め
「かしこまりました。」
と言う。
俺はシゲさんの目を見て
「その代りとは言って何ですが、舞には気を使ってもらえませんか?」
シゲさんはにこりと微笑み
「かしこまりました」
と短く再び同じく答える。
俺の後姿を見て、思わず目を細め微笑む重道勘蔵であった。
俺は自分の家のリビングに入っていくと、妻の舞と母唯、父であり社長である葛城仁がソファで寛いで、談笑していた。
父仁が声を掛けてくる。
「大人への一日目はどうだったかな?」
俺は素直に仁の目を見て話す。
「いろいろ、知らない事ばかりで驚きの連続です。」
「でも、凄く楽しいです。」
父仁は、赤ワインを優雅に飲みながら、微笑む。
この人は、余計な事は言わない。
心配する事もあるだろう、自分の会社で全ての人が良い人間ばかりでないのもどんな会社でもある事だ。
それを踏まえて、何も言ってこないのは俺と自分の会社を信じているからなのかと思いながら、俺は風呂に入りに行く。
火吹家の風呂は、20畳ほどの広さがあり、そこら辺の銭湯より広いかもしれない。
シャワーも4個並んで設置してあり、サウナもある。
顔を洗い、髪を洗っていると誰かが風呂に入って来る音がした。
シゲさんか、父仁さんだろうと思い俺はシャンプーしている事で目をつぶっていたので、そのまま髪を洗い続けた。
背中に柔らかく温かい感触が振れる。
「えっ?」
妻の舞が、裸で俺の背中にぴったりくっついていた。
俺は驚き慌てて「ど、どうした?舞」
舞は妊婦にも限らず、見事なプロポーションで俺の背中に体を密着させて、豊かな胸を押し付けながら優しく
「お疲れ様。お父さん」
と俺の耳元で、ささやく。
俺は髪を洗う事も忘れて、シャンプーまみれの頭で振り向き愛妻と初めて目を合わす。
身長も175センチあり細く、手足が長く、見事な真っすぐ伸びた黒髪は腰まであり、艶やかに輝いていた。
ほんの少し、お腹が膨らんできた感があるが、女性らしさは全く失っていなかった。
思わず、シャンプーまみれなのに、妻と接吻する。
風呂場なのに、シャワーのお湯は出っぱなしで、どのくらいの時間がたったのだろう、、、
俺は時間が止まったように、妻の小さな唇と俺の唇を合わせ続けた。
唾液が、シャワーで流される。
思わず、俺は舞の豊満な胸を優しく、右手で掴む。
舞が我慢できずに
「あっ、、」
っと声を出す。
そこで、シャンプーだらけの泡が俺の目の中に入る。
「いてててー」
急いで、シャワーで髪と目を洗い流す。
びしょ濡れになりながら、思わず二人で見つめあい貯まらず、笑い声が大きな風呂に響き渡る。
「体を冷やすと、良くないだろ。湯船につかれよ」
「わかったわ」と、素直に聞き見事なお尻を右に左に振りながら、長い足と高い腰骨の位置で大股に歩きながら、まるでモデルの様に湯船に歩いていく。
俺は(綺麗だなぁ~)っと密かに心の中で思う。
2人で一緒に、風呂につかりながら話をする。
舞は帝城高校の現状を話し出す。
「私達の結婚式は、物凄い話題になってるわよ。」
「それと、あなたが思っている以上にあなたの抜けた穴は大きかったようよ」
「そうか?」俺は特別自分に自信があるわけも無く、俺一人が抜けたくらいで、何も変わらないだろうと思っていたが、多感な青春期の高校生にとって、俺の中退は衝撃を与えたらしかった。
(人徳?いやいやそんな事ねぇな)
「武将の事を好きだったって言う女子が大勢出て来たわよ」
「えっ」
「ま、相手が私だから、みんな諦めたけどね」
(女王様降臨、、、)
俺は思わず、目線を下げると前に湯船に浮いてる妻の豊満な胸に目線が行く。
自然と、顔が赤くなる。
「武将、今私の胸見てたでしょ」
舞は、ズバリ中心を射抜いてくる。
「す、すいません」
思わず謝る俺だが
舞は構わず
「私の体と心は全て、あなたの物。恥ずかしがる必要はないわ」
女王様の決定は覆る事も口をはさむこともできない。
舞は平然と話を続ける。
「そういえば、諷真、高校を辞めて来週の日曜日に内に引っ越してくるそうよ」
「また、あいつらしく決めると行動が早いな」
「部屋を用意しなくちゃね、なるべく私達の部屋からは遠ざけましょ」
「何でだよ」
「新婚生活を邪魔されたくないもの」
我が家の決定権は全て舞女王様が握っている。




