将軍と呼ばれる俺
こう見えて、俺は明るく、社交的だ。
舞の方は、邪な考えや不純な動機、へんてこな崇拝感で声を掛けてくる奴が多いのはいつもの事だ。
今日は模試なので、通常の授業はない。
常慶 貴彦は勉強に関しては舞にライバル心が強くあり、普段勉強している姿はそぶりも見せないが、かなり今日は頑張ったようだ、、、
目の下にクマがある。
負けず嫌いなんだろうな、自分の好きな物や得意な物で負けてへらへらしてるよりは遥かにましだ。
舞は器用に、シャープペンを指と指の間でくるくる回しながら、頬杖ついて何も考えていないように見える、、、
この、見せかけに騙されちゃダメなんだ!
舞が何も考えていない振りをしている時ほど、頭ン中は超集中している事を俺は知っている、、、
そもそも、舞と言いタカヒコと言い、一度頭の中を見てみたいもんだ!
どんな脳みそが詰まっているんだこいつらは、同じ人間とは思えん。
この二人と勉強で張り合っても、無駄なのはよ~く分かっているので俺はマイペースにノートを開き復習する。
そもそも、帝城高校は進学校で毎年、東大に20人以上は進学している。
その進学校の中でも【特進クラス】にいるだけでもすげぇのに、一度舞のテストの結果を見せてもらったが、ぶったまげた。
間違っている箇所が、、、ない。
全教科満点なのだ。
何点取るかで、争うのではなく、どれだけ間違わないかを競い合っているのだこの二人は、、、まったく溜息しか出ねぇよ~
そんなかんだで、模試は無事に終わり、俺はそれなりの点数は取れたと思う。
舞とタカヒコに関しては、知りたくもない。
そもそも、バンドやって一緒に暮らしている訳だが、勉強する時間だって俺とそんなに変わりがあるわけではないのに、結果がこれだけ違うのは、【才能】の問題かね。
俺の才能はいつ目覚めるんだろうか、、、
ずっと、眠りっぱなしって事は無いと思いたい!
お昼はいつも決まって、同じ場所で【HANZO】のメンバーで集まって食べる。
有名私立高校のおかげか、昼食はテラスが校内にあってその一番窓側のはじのテーブルに俺達はいつも集まって食事をしている。
校内では俺達は有名人?
まぁ、これだけ美男美女に才能に溢れた奴等が目立たない筈が無い。
必ずと言っていいくらい、この窓際のテーブルは俺達専用に空けておいてくれてる。
俺と舞はツネさんが作ってくれた、お弁当をいつも頂く。
これが、おふくろの味って奴で滅茶苦茶うまいんだ。
隣には同じクラスのタカヒコが、やっぱりお袋さんが作ってくれた、お弁当を広げる。
模試の結果は良かったみたいだ。顔色が良い。
まぁ、こいつらの良かったは、、、一問も間違えなった。
って事なんだけどな、、、
もう一回言うが、頭ン中見てみたいぜ。
そこに、颯爽とボーカルの彭城 諷真が購買で買った、牛乳とパンを持ってやってくる。
視線が集まる、、、特に女子の、、、だが誰も声はかけない。
オーラが出すぎだっつうの!
俺が諷真に声を掛ける
「お疲れ、模試どうよ」
諷真は静かに「やったよ」とだけ答える。
こいつは大学に進学する気はないんだろうな、プロになるつもりなんだろうな、、、
今時、高学歴の芸能人は沢山いるから、帝城高校から帝城大学に学科さえ選ばなければいけるのに、、、
こいつはもう走り始めている。
そこに、大きな声でうちのドラムスが、大盛りの学食トレーを持ってドスドス歩いてくる。
保東 康臣身長170センチ、体重80キロ、、、
どちらかと言うと、、、デブ。
通称ホト
血液型はО型。ボサボサ頭、丸い顔につぶらな瞳。
人の好さがにじみ出ているんだ、これが、、、
でも、女子にはもてない、、、
「頭、使ったから腹減ったぜよ~」
「お嬢はどうだった?」
と言い、ちゃっかり舞の隣に座る。
「ホト、言っとくけど、その【お嬢】って言うの辞めてって何度言ったらわかるのかしらね~」
「タケマサは武将だから【将軍】、舞ちゃんはお嬢様だから【お嬢】でいいじゃん」
憎めないんだよな~こいつは、、、顔と体で得してるな。
音楽のセンスは悪くないが、プロで通用するレベルではない。俺も舞もそうだが、間近にとてつもない天才を見ているので、音楽でプロになろうなどと気軽に言えない。
でも、ドラムのリズムを取るのにブレが無いし、無茶もしない。確実にリズムを刻むのが好きなようだ。
バンドとしては、こういうドラムが一番やりやすい。
内は変わり者が多いからなのかもしれないけど、、、
っと、そこに最後のバンドメンバー通称【ミッド】こと御堂 大智が、学食のトレーにカレーを持ってやってくる。
「ちぃーす。」俺の隣に腰かける。
こいつは、【HANZO】のプロデューサー兼、マネージャー的存在だ。
SNS系の情報発信は全部ミッドが担当しているし、YouTubeにあげるミュージックビデオの撮影から画像や音楽の加工からアップ迄、一人でこなしている。
【HANZO】のフォロワーが10万人超えているのも、こいつの技術とセンスが大きく貢献している。
楽曲の作詞や作曲にも参加している。
こう見えて、【HANZO】のオリジナル曲は50曲を超える。
まぁ、良いか悪いかは別としてな、、、
何しろ、変わりもんの集まったバンドだ。いろいろな曲があるし、この間なんか演歌を入れようなんてタカヒコが言い出したもんだから、それだけですったもんだする。
良い言い方をすれば、【個性的】で、
悪い言い方をすれば【まとまり】が無いだ。
諷真が歌えば、どんな曲もそれなりになるのが不思議だ。
ミッドが皆を見回しながら、話しかける。
「良い話と悪い話どっちから聞きたい?」
舞が綺麗な黒髪をかき揚げる。そんな些細な仕草がグッとくるんだよなぁ、、、
「後で落とされるのは嫌だから、先に悪い話からしてくれる?」
「オッケー」ミッドは軽いノリで話し出す。
「JCB主催関東エリアのアマチュアバンドフェスコンの決勝の結果は没でした~。」
「あのフェスコン自体、出来レースっぽかったよな、有名事務所のタレントとか歌手とか普通に出てたし、一般参加で決勝まで行ったのは俺達くらいだったな」
タカヒコが銀縁の眼鏡を外して、胸元からハンカチを出して眼鏡を綺麗に拭きながら淡々と答える。
「っで、良い話は?」舞がふる。
「FM東京から出演依頼がありました~しかも生ライブ3曲だけどね」
「まじかよ!やったじゃないか」ホトが大きな体を揺さぶり叫ぶ。
(高校生のバンドでラジオで出れるのは、異例だろう、、ミッドが作るミュージックビデオが目に留まったんだろうな、、、)
「ちなみにギャラは発生しないよ、あくまで広報活動の一環ね」
「番組名が【未来の音楽家達】って、タイトルだからさぁ~しょうがないよね~」
「後、俺達全員未成年だから20時前には、絶対終わる様にしてくれって、うるさく言われた。」
「ドラムセットとシンセサイザーは向こうにあるのを使って、後は自分の楽器を持ってきてくれってさ」
俺が一つ気になって、タカヒコに聞いてみる。
「塾の曜日と被らないか?」
「問題ない。」
一言で返してくる。こいつなりに皆に気を使っているんだろうな、舞は別としてもタカヒコは進学塾に通って遅くまで勉強している。
スタレン(スタジオ練習)の時も先に上がる事が多い。
そして、俺達は昼飯を食っていつもの駅前のスタジオに練習に歩いて行った。
楽器はスタジオに預かってもらっている。
手ぶらで歩き出す。
6人、、、、
これが、俺のチームだ。