シゲさんの策略
彭城諷真は、長身を折る事無く、堂々と言い放つ。
「将軍の家で、暮らす事が可能なら契約する。」
「契約金はいらない、金は自分で稼ぐ。」
(おいおい、俺はこれから自分の事で手いっぱいになるんだぞ、、、社会の荒波にのまれ、、、子供を産んで育てる一大事業があるんだぞ、、、)
そんな、気持ちは知る由も無く諷真は珍しく沢山喋る。
「その条件が、のまれるなら俺も高校を辞める。」
宣う。
(諷真成りに必死なんだろうな、感情を表すのが下手なこいつが一生懸命喋ってる、、、)
そして俺が、決断する。
「いいだろう。条件を飲もう。」
俺は水島社長に向かってお辞儀をする。
「そういう事なので、諷真をよろしくお願いします。」
水島社長は、満面の笑みで
「お任せください。私の目と耳に狂いはありません。彼はきっと日本を代表するアーティストになるでしょう」
俺と諷真で代わるがわる、目と目を見つめあい、水島社長と固く握手する。
竜治叔父は、微笑ましく見つめていた。
「ところで、舞さんひとつお願いがあるのだが、聞いてもらえるかな?」
舞はごく自然な態度で「何でございますか?」と答える。
竜治叔父は、舞の目を見て話し続ける。
「実は、火吹家には変な仕来りみたいなものがあってね、誕生する男の子には、男らしいと言うか、古風な名前を付けるのが伝統となっているんだ」
確かに、火吹家創始者の曽祖父は【矢武】、祖父が【源蔵】、父が【虎雄】、叔父が【竜治】、俺は【武将】。
なるほど、そういう物があったんだと初めて知る。
舞が微笑みながら
「私は、火吹家に嫁ぐ身です。火吹家の習わしには従います。」
竜治叔父がにこやかに、舞を見つめる。
しかし、ここで舞はとんでもない事を言い始める。
「男の子は、火吹家の習わしに従いますが、女の子は私達で決めてもよろしいのですか?」
「「「「えっ!」」」」
思わず、一瞬周りの空気が止まる。
俺が言葉を絞り出す。
「双子なのか?」
舞は平然と「あれ、言ってなかったっけ?」とあっけらかんとしている。
「恐らく、男の子と女の子の双子だろうって」
竜治叔父が、驚きと嬉しさを顔中に表しながら
「それは、素晴らしい。火吹家の後継ぎが、いきなり二人もできるとは!」
「今日は、素晴らしい一日だ。舞さん、女の子には何の取り決めも無いから自由に付けてくれてかまいませんよ。」
「ありがとうございます。それでは生まれたら、男の子は叔父様に名付け親になっていただけますか?」
「喜んで、ならせてもらうよ。」
舞と竜治叔父は、今日が初対面だと言うのに、既に何十年も身内としているような、人間関係を築いてしまっている。
舞の自然な振る舞いが、相手を安心させ、気を使わせないんだろうなと、、、
何度も思うが、我妻の心臓の太さには敬服する。
竜治叔父が、親族を代表して
「それでは、我々も名残惜しいが、皆こう見えて忙しい身だ。御暇しようかね」
俺と舞は、2人横に並び、火吹家親族の皆に深々とお辞儀をする。
「今日は、お忙しい中、本当にありがとうございました。」
俺と舞は、そのまま体育館の出口まで行き。
一人一人と握手を交わす。
火吹家親族はそれぞれにKABUKIコーポレーションのグループ会社や本体の役員になったりしていて、とても忙しい。
父、虎雄にお世話になった方々も、皆ベンチャー企業として会社を立ち上げた人や、責任ある立場にいて、要職ある人ばかりだ、忙しい中、俺達の為に休みの日に来場してくれたのだ。
父の偉大さに、改めて敬服する。
黒塗りの高級車の群れは、順を追って次々と帝城高校より立ち去って行く。
俺は舞に向かって尋ねる。
「何時の間に、英語をあんな流暢に話せるようになっていたんだ?」
舞は、平然と当たり前のことのように答える。
「今は、令和の時代なのよ、インターネットで世界中にいくらでも友達を作れる時代よ」
「私が、日本語を教えてあげる代わりに、英語を習っていたのよ、アメリカだけで3人は友達がいるわ」
「今は、中国と韓国にお友達がいて、勉強しているのよ」
「・・・・・」
(そりゃ、俺の家で同棲しているとはいえ、舞の私室はちゃんとあって、そこで何をしているか俺は全て知ってるわけじゃないけど、私立の進学校のトップでHANZOの活動して、語学にも堪能って、一体頭の中どうなっているんだよ、、、)
呆れるやら、感心するやら複雑な心境だが、妻の偉大さに今日は何回驚かされたのだろうか、、、
考えたくも無かった。
気持ちを切り替えて、残った俺達はクラスのボランティアとして手伝ってもらってる、クラスメイト達の手伝いに向かう。
俺は舞に向かって「後片付けは、俺達でやるから君はお義父さん達と先に帰って楽にしてなよ」俺なりに気を使っている。
今日一日、立ちっぱなしで、着物姿でいたのだから、お腹の子供にも母体の舞にもかなり負担をかけただろう、後は少しでも早くゆっくりしてもらおうと思って
舞は「わかったわ、悪いけど先に帰らせてもらうわ」と言い、父親の仁さんと母親の唯さんに連れられ、帰宅の途についた。
俺達は、後かたずけに追われた。
5時までに片付ける約束だ。
何百とある、パイプ椅子を片付け、音響関係のアンプやスピーカー、マイク、楽器を片付け【ゴンスタ】のバンに載せる撤収作業。
体育館のモップ掛けをする級友。
校門から校庭、体育館周辺のごみ掃除する級友。
みんな、俺達の為に日曜日なのに、協力してくれて文句ひとつ言わない。
俺は明日から、この学校の生徒ではなくなる。
級友でも何でもなくなる。
そんな俺の為に、一生懸命働いてくれる。
【感謝】
しか思いつかない。
何とか、ギリギリ5時までにすべての片づけを完了して、ボランティアに来てもらった人たちに俺はお礼を述べた。
「みんな今日は、休みなのに悪かったな」
級友たちは、俺の気持ちとは裏腹に俺を励ましてくれた。
「火吹、頑張れよ!」
「いろいろ、あるだろうけど負けんなよ!」
「舞さんの事は、私達がしっかり守るから心配しないで!」
(俺、泣きそうだよ、、、)
こういう時に、こいつは
「最後に、みんなで、火吹武将を胴上げしようぜ!」
クラスの秀才、常慶貴彦だ。
「「「「おう!それはいいな!!」」」」
バッと俺の周囲に集まる、男友達。
俺の身長180センチの巨体が、宙に浮かべられる。
「「「「わ~しょい!」」」」
「「「「わ~しょい!」」」」
「「「「わ~しょい!」」」」
俺が、3度宙を舞う。
クラスメイトの女子たちは、涙ぐんでいた。
拍手と喝采で、ハプニング続きの今日一日が、締めくくられた。
クラスメイト達と最後、一人一人と握手して別れると、残ったメンバーはこいつらだ。
HANZOのメンバーと土門武士だ。
俺が皆に向いて
「今日はほんとありがとうな」
っと、声を掛けると
彭城諷真が一言
「俺達は、誓いを忘れない」
ホトが賛同する。
「俺も、今日から走り出すぜよ。皆に負けないように」
ミッドは半べそかきながら
「今日の事は一生の思い出になるだろうな、僕もチームの一員として恥ずかしくないように頑張るよ」
最後は、常慶貴彦だ。こいつの一言一言には重みがある。
「今の俺達は、まだ半人前だ。だが、25歳までには約束通りきっちり一人前になって見せる」
武士は静かに「うっす」とだけ、答える。
一年年下の、自分が出しゃばる所ではないと思ったのだろう。
口下手で、外見が強面だから諷真と違う意味で、誤解されやすいが、武士は優しく、気を使う事が出来る人柄なのだ。
俺はみんなに、一人一人と熱く目を合わせ最後に
「またな!」
っと、声を掛け校門を出て行く。
残った、メンバーは横一列に並び、敢えて共に帰らずに、俺を送り出してくれる。
俺は着物姿で、一人母校である、帝城高校の正門を出て行く。
明日からは、社会人として新たなスタートを切る為に!
ー火吹家ー
俺が、自宅に付くと舞は、既に私服に着替えてリビングで寛いでいた。
横には仁父さんと唯母さんが、黒い礼服のままお茶を飲んでいた。
俺の顔を見ると、仁父さんが早速話しかけてきた。
「とても素晴らしい、結婚式だったね」
「ありがとうございます。いろいろハプニング盛り沢山でしたけど、何とかまとまりました。」
ツネさんが、そっとお茶を入れてお盆に載せて持ってきてくれる。
「お疲れさまでした、坊ちゃま」
と言い、お茶をテーブルの上に置いてくれる。
(そろそろ、そのお坊ちゃまもどうにかしようよツネさん、、、)
そこで、仁父さんが一言。
「私も、今日からこの家に住んでも良いかな?」
俺は驚いた。それはそうだろう。
「お、お義父さん、どうしたんですか?」
葛城仁は、照れながら
「い、いや、一人で家に居てもだね、、、その、、、」
歯切れが悪い、仁父さんに娘の舞が、とどめを刺す。
「寂しいんでしょ。」
(いやいや、そんないい方しなくても、明日から俺の勤める会社の社長だし、、、)
「良く持った方ですよ」
唯母さんが、追い打ちをかける。
た、確かに火吹家本家の家には部屋の数なんて、数えた事が無い程あって、敷地内にはツネさん一家の家とシゲさん一家の家も建ってるけど、、、
普通、子供出来たら実家に里帰りするもんじゃねぇの?
婿の家に、嫁の両親が同棲するってちょっとおかしくない?
「お義父さん、それで今の家はどうするんですか?」
「うん、いっそ売却して武将君さえ良かったら、ここの敷地に家を建てようかななんて思ってるんだ。」
「どうかな?」
(いや、どうかなって言われても、、、)
そこに救いの手が入る。唯母さんだ
「そんな、性急に物事を進めるものではありませんよ、仁さん」
「とりあえず、一緒に暮らして、家の事は後でゆっくり考えましょ」
(お義母さん、それもちょっと違う気が、、、)
ガチャ、扉が開き静かに入室してくる。
シゲさんだ。
桜木優香を空港まで送って帰って来たのだ。
「無事に、桜木優香様はご両親と共に、日本を発たれました。」
報告してくるシゲさんに、俺は真剣な顔で話をする。
「シゲさん、ちょっと座って話をしたいのですがいいですか?」
「もちろんでございます。」と言い、白い手袋を脱ぎながら俺が座るソファの反対側に「失礼します」と静かに言い、腰をゆっくりと下ろす。
俺はシゲさんの目をしっかり見つめて話を始める。
その場にいる全員が聞き耳を立てているのはわかったが、聞かれて困る人間はここにはいない。
俺は話し始める。
「桜木優香さんの事は、全てシゲさんの手配した結果ですよね」
「・・・・・」
「武将様はどうして、そのようにお考えになりましたのですか?」
「結婚式、当日に桜木さんに適合するドナーがアメリカで見つかり、飛行機のチケットが取れない事を知っていたシゲさんはマルガッス・シュタインさんをプライベートジェットで来るように頼んだ。」
「そして、お金のある火吹家や葛城家の人達を招待した」
「こんな、偶然がいくつも重ねり、起こるはずがありません。」
「誰かが、手配をしたはずです。それは僕の知る限り、シゲさんしかいません。」
「・・・・・・」
「武将様、立派におなりでございます。」
「私が手配いたしました事は、事実です。」
「桜木優香様の未来を救って差し上げたいと思う気持ちと、火吹家当主の結婚式にご親族様方にお声を掛けぬわけにはいかなかったからであります。」
俺はわからなかった点がいくつかあったので尋ねてみた。
「桜木さんのドナーはどうやって、見つけたのですか?」
シゲさんはいつもと変わらずに物静かに
「アメリカという国は、お金で何とでもなるお国柄です。」
「こういう患者がいて、適合するドナーがあれば、キャッシュで2億円支払うと申し上げましたら、丁度本日連絡が参りました」
俺は更に聞いてみた。
「もし、あそこで俺が、2億円集められなかったらどうするつもりだったのですか?」
シゲさんは皺深い目を柔和に細めて誇らしく宣言する。
「火吹家の金庫番を仰せつかっております。重道勘蔵をなめてもらっては困ります。火吹家に取りまして2億円のはした金など、用意するのは簡単でございます。黙っていても毎日5億円は入って参ります。」
(はい?)
(毎日5億って、、、どんな事になっているの、、、)
シゲさんは珍しく、自分から話を続ける。
「武将様は、あの場で頭を下げられご自分で、2億円をご用意されました。私は正直、感服いたしました。先代の虎雄社長と同じ事をされたので」
「父も土下座した事があったのですか?」
「はい2度。」
「1度目は、虎雄社長が25歳で社長に就任された時、全社員の前で、頭を下げられました。」
「2度目は、好調だった半導体工場の半分を小型カメラの製造研究施設に変更する時。役員の大反対にあった時でございます。」
「2度とも、今日の武将様と全く同じご様子で、堂々と何事にも動じることなく頭を下げられました。」
「その結果はご存知のように、大成功を収めております。」
「本日、武将様が何の打ち合わせも無く、同じ行動を取られた事に不詳、私も思わず無きお父上の事を思い出し、涙腺が緩みました。」
「そうですか、、、マルガッス・シュタインさんの件も、、、」
「ミスターシュタインとは、私も共に研究に携わった仲であります。事情を説明しましたら、その場で快く了承していただきました。」
(結局、この人の掌で、踊らされていたんだな、、、、)
シゲさんは話を続ける。
「桜木優香様の様な、病気を患っていらっしゃる方は、日本にも大勢いると思われます。先代社長が良くおっしゃられたた事ですが、【縁】を大事にするようにと口を酸っぱく申しておりました。」
「日本中の病気を患ってる方、全てを救う事は出来かねますが、桜木優香様は武将様と【ご縁】がおありでした。ですから、差し出がましくも私が手配させていただきました。」
「わかりました。いろいろ気を使っていただきありがとうございます。これからも僕に足りない事があったら何でも言って下さい。」
「恐れ入ります。」
リビングにいる、全員が今の話を聞いていた。
しかし、誰一人として、チャチャを入れる事無く俺とシゲさんの話を黙って聞いていた。




