意外な条件
帝城高校体育館内は、あり得ない程の盛り上がりを見せていたが、身長2メートルの偉丈夫。
土門武士が、ただでさえ怖い顔を更に厳しい眼付きで、一人の若い女性を見ていた。
撮影を一通り、取り終えたミッドこと、御堂大智が武士の不穏さにいち早く気付いた。
「どうしたの?武士君?」
武士は40センチ以上身長差がある、一個上の先輩のミッドを見下げて
「ミッドさん、あの女子高校生、、、」
っと、一人の女子高校生に指を差す。
ミッドが気付いた。
「2台持ちか!」
そう、武士が指した先にいる女子高校生は、たった今終わったばかりのHANZOの演奏をスマホに録画していたのだ。
すぐさま、ミッドは武士を連れ、その女子高校生の所へ向かい、声を掛け体育館の端に連れ出す。
女子は興奮したように叫んだ「な、何するのよ!」
ミッドが優しく声を掛ける。
「スマホの持ち込み、撮影は禁止だって事前に説明してあるよね」
「私は、な、何も悪いことしてないわよ!」
強気に叫ぶ女子。
葛城仁が、このトラブルに気付き耳を聞きだてる。
ミッドは変わらず優しく丁寧に話す。
「今、スマホで動画撮影していたでしょ。」
「し、していないわよ!」
負けじと叫ぶ、女子。
ミッドは小柄ながらも、変わらずに話し続ける
「データを消去して、くれないかな」
「だ、だからしてないっていてるじゃんよ!」
ついにヒステリックに叫ぶ女子高校生。
ここで、暗黒大魔王の武士がぬっと、腕組みをして女子高校生の前に立ち
「駄目なものは駄目だ、素直に消すんだ」
ドスの利いた声で、遥か頭上から声が降ってくる、、、
武士と目が合う、、、
そこには恐怖しかない。
思わず、怖がって怯む女子。
「わ、わかったわよ、消せばいいんでしょ。後でちゃんと消すわよ」
ミッドはずっと変わらずに優しく語り続ける。
「今、この場で確認さしてもらえないと駄目だよ。」
「今日の事は、絶対に外には洩らせないんだ。君もHANZOのファンならわかってくれないかな?」
「もし、聞き入れてもらえないなら、スマホは僕が勝手にデータを消去させてもらって、君には退場してもらう事になるよ」
「・・・・・・」
「わかったわよ、私だってここに最後まで居たいもの。」
「悪かったわ」と言い、素直にスマホをポケットから出して、ミッドに渡す。
ミッドは始めから最後まで、ずっと冷静に優しく語っていた。
「わかってくれて、ありがとう。二人を祝福してやってくれよ」
女子高校生のスマホの動画データを消去して預かり札を女子に渡し、スマホは所定の箱にしまう。
女子高校生は、走って自分の場所に戻って行く。
葛城舞の父親、仁は今の騒動をずっと見ていた。
ハプニング続きの式は、興奮冷めやらぬままに、終結を迎えようとしていた。
マルガッス・シュタインさんが、壇上に上がり今日のハプニングの決定版的な行動に出る。
「ミスタータケマサ&マイサン、コチラニキテクダサ~イ」
俺と舞を手招きする。
「????」
俺と舞はマルガッス・シュタインさんの言われるがまま、壇上に上がる。
すると、マルガッス・シュタインさんは壇上でいきなり宣誓を始める。
神父のように、話し始める。
アメリカ式の結婚式をしたいらしい、、、
「カブキタケマサ~アナタハ~カツラギマイト、ケッコンスルコトヲチカイマス~カ~」
思いもよらぬ、ハプニングに戸惑うが、俺ははっきりと
「はい!」
とはっきり、大きな声で答える。
マルガッス・シュタインさんは次に舞に向き、同じように話す。
「、、、、チカイマス~カ~」
思わず、舞と俺の視線が妖しく交わる、、、
舞も、少し頬を赤らめて
「はい」
っと、恥ずかしがりながらもはっきりと答える。
二人の視線が、交わる、、、
もう何年も、一緒に暮らしているのに、子供もいるのに、、、
なんか気恥ずかしい雰囲気が、二人の間に漂う、、、
会場はその雰囲気を感じ取って、若い奴らが騒ぎ出す。
「キ~ス」
「キ~ス」
「キ~ス」
キスコールが自然と沸き上がった。
始めは数人から始まった、コールが会場中を包み込むほど大きくなる。
当然だが、騒いでるのは若い連中だけだ。
大人はそういうことは言わない。
しかし、収まりがつかないくらいキスコールは大きく渦を巻く。
「キ~ス」
「キ~ス」
「キ~ス」
俺は、会場に向き、舞を後ろに庇うように前に出て、マイクを持ち話し始める。堂々と、、、
「ここに居る、皆さんに僕から【歌】を送ります。」
将軍が、決めた途端に、皆即動始める。
司会のホトは、時間つなぎに話しを始める。
「皆さん、聞いて下さい。実は僕は高校一年生の時に新婦である、葛城舞さんに愛を告白したことがありまして、、、」
思わず聞き耳を立てる様な、話題にキスコールは収まっていく。
彭城諷真が、アコースティックギターを用意して、俺の後ろに控える。
舞はピアノに向かって歩き出す。
タカヒコもベースを用意して、アンプの音量を小さく調整する。
ホトは話し続ける「その時、舞さんが僕に言った言葉は、【ぽっちゃりしてる人はタイプじゃないの】と言われ、僕は必死に頑張って8キロ体重を落とし、再度告白しました。」
「そうしたら、舞さんは【好きな人がいるのごめんなさい】といい再度断られまして、僕のダイエットの努力は無駄になり、そのリバウンドで今はこんな立派なデブになっております。」
「その時、思ったのが始めから【好きな人がいる】って言ってくれれば、僕は無駄な努力もこんなリバウンドもしなかったのではないのかと思う今日、この頃です。」
「「「「あはははは~」」」」
会場中が、笑いの渦に巻き込まれる。
いつの間にか、キスコールは収まっていた。
ポロロ~ン、ピアノがかすかに鳴る。
諷真は、一通りの楽器は扱える。走り始めてる奴の才能は底が知れない。
ギターが合わせて、優しく静かに音楽を奏でる。
ベースも、目立つことなくリズムを刻む。
俺は中央で、マイクを持ってゆっくりと静かに自分で、作詞作曲した歌を歌い始める。
『ゥウウウ~ いつでも~どんな時でも~、連絡くれよ~いつでも飛んで行くよ~』
『スーパーヒーローみたいに強くもないし~早く行けないかもしれないけど~連絡くれよ~』
『俺はいつでも~君の側にいるよ~』
『泣きたい夜は~一緒に泣くよ~辛い時は、黙って話を聞いてあげる~』
『連絡くれよ~スーパーマンみたいに世界中の人を助ける事は出来ないけど~』
『君の事は~守りたいんだ~力になりたいんだ~』
『いつも君の~傍にいたいんだよ~』
『ラインでも、twitterでもFacebookでも何でもいいよ~連絡くれよ~』
『連絡くれよ~』
『連絡くれよ~』
『連絡くれよ~』
し~んと静まり返る会場の中で、俺は自分で作った歌を歌った。
先程迄の、盛り上がりとはガラッと空気が変わり、静寂に包まれる会場だった。
俺の歌を歌い終えると、級友の女子は何人も泣いていた。
俺が、高校を中退する事を知っているから、クラスメイトの俺との別れになるから、、、
俺は桜木優香が言っていたように、自分が思う以上に周りに大切にされていたらしい、、、
ボロボロ泣きじゃくる級友たち、、、
思わず俺自身も、グッとくる、、、
静寂を、そっと破り、式を進行させるのはこの男の役目だ。
ホトが先程は、会場中を笑いの渦に巻き込んだ男が、雰囲気をガラリと変え、真剣にこの結婚式の最後のイベントを進行させる。
「最後に、新婦のお父様である、葛城仁様にお言葉をお願い申し上げます。」
指名を貰った、葛城仁は最前列の席より、立ちあがりその場で、お辞儀をしてゆっくりと壇上に上がる。
中央まで進み出て、再び、お辞儀をする。
話し始める。
「始めに私の娘、舞と火吹武将君の結婚式を許可していただいた、帝城高校校長先生を始め、教員の皆様、協力していただいた生徒の皆さんに心よりお礼を申し上げます。」
「私も、これまで様々な結婚式に出席して参りましたが、これほど心籠った結婚式は初めてであります。」
「高校生で、結婚するという異例な形ではありますが、皆様には温かく見守っていただけたらと嬉しく思います。」
「火吹武将君の事は、幼少の時より知っておりますが、今日改めて、彼の本当の力を思い知りました。」
「それは、【彼のチーム】です。実に優秀で、才能溢れる友人たちが彼の回りにいます。」
「先ほど、校長先生は武将君の財産に、私達大人の事を申し上げておりましたが、【彼のチーム】は彼が自分で築き上げたものです。」
「学校側に迷惑をかけないように、スマーフォンを預かる配慮、様々なハプニングにも柔軟に対応する能力、ルールを破った者に対しての対応、そして最後のラブコールに武将君は歌で答えると決断した途端に、動き出すチーム」
「楽器を準備し、時間を繋ぐために司会でわざと笑いを取り、雰囲気を和ませる。」
「このチームこそが、彼が自分で築き上げた財産だと思いました。」
「武将君と言う、素晴らしい人間を夫と選んだ、娘を心より褒めて誇りに思いたいと存じます。これからも二人を見守っていただけるようお願い申し上げます。」
「最後に本日は、お忙しい中、2人の為に集まっていただき心よりお礼を申し上げる。」
拍手 拍手 拍手
俺と舞、HANZOのメンバーは、会場の客席に降りて、親戚親類その他、お世話になった大人たちの中にいた。
俺は始めに叔父、火吹竜治さと叔母の京香さんに感謝の意を伝えた。
竜治叔父は、「とても素晴らしい結婚式だったよ」と満面の笑みで返してくれた。
京香叔母は、「本当に良かったわ、一生の思い出になりましたわよ」と子供のようにはしゃぐ。
賑わいを見せる、火吹家親族関係者の中で、一人だけ真剣な顔をして、ずっと見つめる男がいた。
高校生たちは、預かったスマホを校庭の中央で返却し、そのまま退場を乱呪のメンバーとボランティアのメンバーがスムーズに誘導していた。
大人たちは、落ち着くまで、車も出れそうになかったので体育館内で、話を続けている。
親族が揃うことなど、結婚式か葬式くらいしかないのが、忙しい大人の事情である。
HANZOのメンバーもその場にいた。
やはり、何処にいてもこの男は目立つ。
彭城諷真である。
長身とイケメンと才能に溢れた天才児が努力すると、俺なんかの凡才にはとても音楽でプロになるなんて思いもつかない。
ずっと、黙ってこちらを見ていた男が動き出した。
俺と彭城諷真が並んで、立っている所に歩んできて喋り始める。
KABUKIエンターテイメント社長水島浩二だ。
「ちょっと、話をしてもいいだろうか、彭城君と言ったかな?」
竜治叔父がにやりと笑い
「君の触覚に触れるものが、やはり彼にはあるんだね」
水島社長は、竜治叔父に向かって
「はい、天才とは彼のことを言うものだと確信してます。」
竜治叔父が、俺と彭城に向かって、話しを始める。
「彼はKABUKIエンターテイメント社長の水島君だ。彭城君、君に話がある様だよ」
俺と彭城は、少し緊張して話を聞いた。
それは、当然の話だったのだが
水島社長は言い切る
「彭城君、君をKABUKIエンターテイメントにスカウトしたい」
HANZOのメンバーが全員息をのむ中、当人は平然と答える。
「条件がある。」
大人に対しても変わらぬ対応の奴だ。
水島社長は「契約金かな?」
諷真は一言
「違う、俺が将軍の家で暮らす事だ。」
「「「えっ!!」」」
俺が、慌てて聞きなおす。
「なんで、うちで暮らすのと契約が関係あるんだ?」
諷真は何ら変わる事なく
「俺は、自分をぬるま湯の様な中に置くつもりはない」
俺が更に言い続ける。
「だから、なんで俺んちなんだ?」
「将軍の家なら、全力で走っていられる環境だからだ」
舞が決定的な一言を吐き出す。
「新婚家庭に入り込むなら、相応の覚悟があるんでしょうね」
諷真は一言だけ
「当然だ」
っとだけ答える。
(おいおい、これからどうなるんだこりゃ)




