火吹武将の願い
帝城高校の駐車場からグランド迄、真っ黒な高級車で埋まっていた。
火吹家、父虎雄の恩を受けた人々の突然の来訪の影響だ。
そして葛城家の親類縁者も、来場していた。
葛城家の本家は京都で、京都織物を作る大正の時代から続く超老舗の御家柄だ。
舞の父親である、葛城仁は次男に生まれ東京の大学まで進学し、独立開業して今の地位に一代で登り詰めたのである。
よって、火吹家だけでなく葛城家からも大勢の来訪者が訪れていた。
全て重道勘蔵ことシゲさんが手配した結果だ。
火吹家の中には、KABUKIエンターテイメント社長 水島浩二も出席していた。
水島も、父虎雄に世話になった一人だった。
ホトだけでは、すでに手が回らなくなっており、帝城高校教員から、職員まで日曜日にも関わらず、校舎にいる大人は全て駆り出されていた。
そこに葛城舞(これからは火吹舞となるが)の親友の遠藤美月が息を切らし全力で走り込んでくる。
舞とは帝城小等部からの付き合いだ。
遠藤美月は舞の耳に自分の口を当て何かを伝えた。
舞は、目付きを変え俺の所に来て、そっと伝えた。
俺は「わかった」とだけ答え、「チケットの準備を頼む」と遠藤美月に語り掛ける。
遠藤美月はすぐさま、走り去っていく。
俺は近くにいた、常慶貴彦に
「体育館の準備は、どうだ?入場できそうならとりあえず大人の人だけでも誘導してくれ」
っと、頼む。タカヒコは一言だけ
「了解」
ッと答える。
受付は彭城諷真と綺麗どころの女性たちが、俺と舞のプロフィールを印刷したパンフレットと式次第を手渡ししながら、女性たちが声を張り上げ
「会場内の撮影は、できませんのでご協力ください」
「体育館内での撮影は、できません。ご理解よろしくお願いします。」
連呼していた。
黒塗りの車の一団が、体育館に吸い込まれると次は他校から来たHANZOのファンや俺や舞の、友人たちが押し寄せてきた。
入口では、乱呪のメンバーが黒スーツに大柄な体格、鋭い目つきで警備にあたる。
受付で、ホトとミッドが加わり、連呼する。
「スマホは、こちらで責任もって預かります。」
「ロックナンバーを掛けて、電源を切って、引き換え札を貰って入場して下さい。」
ホトは、この結婚式を外に流すつもりは、全くなかった。
高校生で、高校の体育館で結婚式なんて、世に知れたらせっかく許可してくれた、先生たちに迷惑がかかるからと思ったからだ。
だから、写真や動画を撮影できないように、大人を除いて高校生にはスマホを預かる事にしたのだ。
予め用意した、付箋を預かったスマホに番号を記入して貼り付け、丁寧に段ボール箱にしまっていく。
そして、管理役に乱呪のメンバー二人についてもらう。
結婚式に参加する人たちには予めその旨、メールで伝えてあるので、それほどのトラブルも無く、順調に入場は進んだ。
結婚式の撮影は、ミッドとボランティアのクラスメイト数人が専用の機材を使って、写真と動画の撮影を行う。
俺達本人と両家に1枚ずつ、データを編集して渡してくれる手はずになっている。
それ以外の、撮影は一切不可としてスマホを預かったのだ。
高校生にとっては、動画を取ってネットにアップすことなど日常の事なので、何処でどんな事が起こるかわからない。
だからホトは先生と約束した【学校には迷惑かけるな】という事を守っていたのだ。
結婚式の時間は限られている。
ハプニング続きで、遅れている。
ホトは焦った。
しかし、ここからさらにハプニングは果てしなく続く。
式次第とは別に、いきなり壇上に火吹武将と葛城舞と桜井優香が登壇してきたのだ。
壇上には、HANZOの活動休止報告会の演奏会もやる予定だったので、ドラムセットとピアノ、マイク、アンプなど機材は既に準備されている。
もちろん、ゴンゾウさんから借りた機材だ。
当然、この場所にもゴンゾウさんは正装で、パイプ椅子に座っていた。
壇上の3人は、俺を中心に左に舞。右側にバイオリンを持った、桜木優香が青色と銀色の間の色調の背中が大きく開いた体の線にピッタリと合った、イブニングドレスを着ていた。
異様なのは、俺と舞だ。
着物姿(舞は白無垢だ)に少し太めの赤い紐で、襷掛けしているのだ。舞は白無垢の被り物も後ろに流し顔をさらしていた。
俺が、マイクで話し始める。
「皆さん、今日は私と葛城舞の結婚式に参列頂き誠にありがとうございます。」
「まずは、2曲歓迎の演奏会をしたいと思います。」
「聞いて下さい。」と言い、俺と舞は後ろにあるピアノに二人で腰かける。
中央には、バイオリンを肩に乗せ、顎で挟む桜木優香だ。
舞がいきなり、アップビートでピアノを弾き始める。
それに合わせて、俺は舞の横でピアノを弾く。
そう連弾だ。
高音域と低音域で、奏でるオリジナル曲だ。
拍を取り、絶妙のタイミングで、桜木のバイオリンが力強く入って来る。
会場は、体育館一杯で、何人いるのかわからない程だった。
外まで、入りきれずに並ぶ人たち。
そんな、大勢の前で桜木優香は実に堂々と凛々しく、良い音を力強く出す。
それに答えるように、夫婦で連弾するピアノも絶好調だ。
俺と舞は、2歳から一緒に同じ音楽教室に通っており、連弾だって慣れたものだし、相手が次はどうしてくるかなんて手に取るように感じる。
こんな大勢の前での演奏するのに、楽譜なんてなくてアドリブの嵐だ。
桜木優香も実に見事に、上手く合わせ逆にこっちに振ってくる。
やはり、彼女のバイオリンは上手い。
腰を軽く振り、足でリズムを刻み、右手のバイオリンの弓を魔法の様に前後に動かす姿は実に【かっこよかった】
ジャン!
1曲目は唐突に終了した。
2曲目は俺はピアノから立ち上がり、桜木優香の横で準備してあったアコースティックギターを手に持ち、ストラップを肩に掛け、ピックでワン、ツーと始まりのリズムを取る。
コツコツ
静かに始まる、バラード調の曲だ。
これもオリジナルで、俺の自宅で即興で作った曲を舞が練り上げた曲だ。
バイオリンがメインで、俺のギターと舞のピアノは裏方に回っていた。
優雅にそして、綺麗に流れるバイオリンの綺麗な音色。
心が、頭脳が身体が音楽で洗われる。
静まり返った、体育館に輝き、響き渡る音色。
誰も、音を立てずに静かに無言で拝聴していた。
高校生の連中でさえ、音を立てずに聞き入っていた。
それほど、桜木優香のバイオリンの音色は涼やかに、厳かに流れ、心に染み込んでいく。
そして、ゆっくりと演奏は終了を迎える。
桜木優香は、火照った顔で満面に嬉しそうに笑顔を作っていた。
俺は中央に出てマイクで話し出す。
「皆さま、如何でしたでしょうか?」
「ブラボー!!」
大声で張り上げる外国人、マルガッス・シュタインさんだ。
「ありがとうございます。」俺は丁寧に腰を折り、話を続ける。
「バイオリンを弾いた、彼女は私の友人でクラスメイトの桜木優香さんと言います。」
「実は、皆さまにお話があります。」
「彼女は、病気を患っていて日本の病院では、20歳まで生きられないと宣告されています。」
「しかし、アメリカの病院で手術をすれば治る可能性があります。そして、先ほどアメリカの病院から彼女に適合するドナーがあると連絡が着ました」
「36時間以内に、彼女が手術を受ければ、彼女の命は助かります。」
「しかし、アメリカでの手術には2億円近いお金がかかります。」
パン!!
体育館に鳴り響く、気合の入った音。
着物の裾を思い切り叩き、俺は両膝を壇上の床に膝まづき、両手を前に付く。
影の様にスッと、自然に静かに、俺の斜め後ろに舞も同じく、両膝を付け両手を前に出す。
『火吹武将が、皆様に心からお願い申し上げる』
「どうか彼女の命を救っていただきたい!」
土下座で、頭を下げる。
高校生の新郎新婦。
思わず、桜木優香、本人もしゃがみ込み、頭を下げる。
火吹竜治叔父が呟く
「に、兄さん、、、」
葛城仁も呟く
「虎雄にそっくりだ、、、」
「3000万出しますわよ!」
竜治の妻、京香叔母である。
「火吹家の当主が頭を下げているのよ、あなたもドンと男を見せなさい」
叱咤する、京香叔母
「5000万寄付させて頂こう」
虎雄叔父は、すぐさま妻の言葉に答える。
京香叔母は「KABUKIコーポレーションの社長が5000万なんて少ないんじゃないの」と宣う
竜治叔父は笑みを浮かべ
「僕達だけで、そんなに出したら、他の皆さんの顔が立たなくなるよ」
「1000万円私も寄付します。」
KABUKIエンターテイメント社長の水島浩二だ。
後は洪水の様にお金が飛び交った。
「私は2000万円出しましょう」
「こっちも1500万円! 俺も2000万円!」
「私達も協力させて頂こう」
あっという間に、目標の金額以上のお金が集まった。
俺は再び頭を下げ
「皆さま、本当に心より感謝申し上げます。」
と、言ってる所に、舞の親友の遠藤美月が駆け込んでくる。
「大変よ、飛行機のチケットが3日後まで取れないって!!」
それを聞いていた、この人が大声で答える。
マルガッス・シュタインさんだ
「ワタシノプライベートジェットデイキマショ~ウ」
「ヒコウプランモダシテアリマスカラ、キョウジュウニシュッパツデキマ~ス」
俺は立ち上がり、壇上を降りマルガッス・シュタインさんの元迄歩いて行き
「感謝します。」
と声を掛け、がっしりと握手する。
「ワタシガ、アナタノオチチウエニウケタオンハ、コンナモノデハアリマセン」
「キニシナイデクダサイ」
竜治叔父が、後ろから話しかける。
「それでは、急いだ方が良いのではないかな?」
マルガッス・シュタインさんが
「ワタシノ、ヒショヲカノジョニドウコウサセマ~ス。」
「アメリカデノセイカツハ、クィーンノヨウニワタシガセキニンモチマ~ス」
シゲさんが、「車は準備できておりますよ」とひっそりと声を掛けてくる。
桜木優香が思わず泣きだす。
「わ、私生きられるんですね、、、あきらめていた未来が、、、なんて言ったら、、、」
舞が優しく
「そんな事は良いから、急いで。」
桜木優香は泣きじゃくり「は、はい」と言い、会場に来ていた両親は、皆に頭を下げ続けながら、マルガッス・シュタインさんの秘書の人と一緒にシゲさんの車で、会場を後にした。




