異例の結婚式
リビングに戻ってくると、ツネさんが人数分の飲料水と茶菓子を用意していてくれていた。
10人は座れる、ソファに俺と舞が座り、迎いに桜木優香を案内する。
ソファの沈み込む、深さに驚き思わず声を出し、恥ずかしがる、桜木優香。
(大体の人間は、皆同じ反応するんだよな、、、そもそもこんなソファ買ったの誰だよと文句を言いたくなる。)
俺の記憶がある頃には、あったのだから父親の虎雄か祖父の源蔵のどちらかだろう、、、趣味が良いとは、、、俺個人はあまり思わない、、、
ツネさんが用意してくれた、飲み物を桜木さんに勧めて、水分を取り少しゆっくりしてから、舞が話し始める。
「構成は何とでもなりそうだけど、衣装はどうするの?」
(そうだ、それがあった、そもそも俺はどんな格好すりゃいいんだ?)
桜木優香はそれについては考えがあったようで
「舞さんと火吹君は新郎新婦だから、着物なのかな?」
「私は、父に作ってもらったイブニングドレスをどうしても着たいの、この演奏会には絶対に、、、」
「いいんじゃない、多分私達は着物だろうけど、優香さんのバイオリンは立派にメイン張れるから、思いっきり好きにやっちゃいましょ」
舞が今日は、ずっと珍しい行動を取り続けている。
誰も案内した事がない、地下室に連れて行き
桜木優香をメインに据える。
不思議がる俺をよそに、演奏会の準備は着々と進み。
夜も8時を回る頃、舞が「今日は遅いからこの辺にしましょ、後は音源をスマホでやり取りすればいいんじゃない?」
俺は素直に同意して「シゲさん、申し訳ないけど時間も遅いから桜木さんを送ってあげてもらえますか?」
シゲさんは直ぐに静かに「かしこまりました」と言い、腰を折り車を用意しに部屋を出る。
舞がそこで、今日驚きの決定版みたいな発言をする。
「武将、あんたも一緒に家まで送ってあげなさいよ」
「へっ?」
「送って来いって言ってるんだけど、聞こえなかった?」
(いえ、、、)
(かしこまりました、、、ここ俺んちだよなぁ~)
俺は桜木優香のバイオリンケースを自然に持って、立ち上がる。
「じゃ、いこうか」
桜木優香は今日は動揺しっぱなしの様だ
「い、良いのですか、、、」
「ああ、大丈夫。舞がああなったら誰も逆らえないから、、、」
こそっと、小声で話しかける。
「そういう事は本人に聞こえないように言いなさい。武将君」
舞はこちらを見ずに、ソファに腰かけたまま俺の女王陛下は声だけ掛けてくる。
「行ってきます、、、」
桜木優香を案内しながら、そっと逃げるように出て行く。
(ここ、俺んちだよなぁ~)
玄関まで行くと、シゲさんの運転するファントムが静かにゆっくりと俺達の前で止まる。
いつものように、流れる様な動作で、シゲさんは運転席より降りてきて、後部席のドアを開けてくれる。
昭和の執事の見本。
先に俺が乗り込み、後から桜木優香が乗り込んでくる。
桜木優香を送っていくのだから、先に降りるのは桜木だから、出入りしやすいように俺は一応気を使う。
そんな気遣いを知ってか知らずか、桜木は俺に続いて車に乗り込み、ファントムが動き出すとすぐに俺に話しかけてきた。
「舞さんは、きっと私の病気の事を知っているんだと思うわ」
「えっ、桜木さん病気なの?」
「ええ、二十歳までは生きられないだろうって、、、」
「・・・・・・」
俺は衝撃を受けた。そして何も言葉が浮かばなかった。
普通にクラスメイトとして、接していた女性が、そんな病気とは少しも知らず、、、
舞の今日の不可思議な行動はその為だったのか、、、っと納得する。
全く自然に、そういう行動が出来る愛する妻に改めて、尊敬と愛情を抱く。
話を変え、俺は会話を続ける。ここで黙ってしまっては逆に桜木さんに気を使わしてしまうと思ったからだ。
「桜木さんは、俺のどんな所が良かったの?」
優しく尋ねてみる。
頬を朱に染め、桜木優香は俯き話し始める。
「高1の時、学校のイベントで希望者だけのフルマラソン大会があったでしょう」
「ああ、あれはしんどかったな。」
「あの時、火吹君は5位でゴールしたの」
「そうだったっけ?辛かったのしか覚えてないけどな」
「普通に考えて、42キロを走るなんて苦しいに決まっているよね、でもあなたはゴールした後も、後ろか来る人達に最後の一人まで【がんばれ】って、応援していてて、、、」
「自分だって、凄く辛い筈なのに他人の事を本気で応援する火吹君の姿が、とてもとても素敵だったの。」
「そうか?普通じゃね」
「・・・・・・」桜木さん少しの沈黙
「あなたは自分で思うより、とても魅力的で素晴らしい人だと思います。」
「っで、なければ舞さんはあなたのこと好きにはならなかったでしょうし、HANZOのメンバーだってあなたを中心に集まっている。あの彭城君でさえ、あなたの事をとても大切にしている。」
「私も、、、、」
真っ赤に顔を染める、桜木優香はとても可愛かった。
静かに堂々と走り続ける、ロールスロイス ファントム。
シゲさんは黙って、会話を聞いていたが、何も喋らなった。
この人には何を聞かれても大丈夫。
絶対の信頼感。
そうでなければ、火吹家の金庫番など任せられる筈が無い。
父の右腕として、KABUKIコーポレーションを支えた、俺にとっては亡くなった父の次に信頼する、立派な尊敬する大人だ。
30分も走っただろうか、桜木優香の自宅に付き、いつものようにシゲさんが左後部扉を白い手袋をはめた手で、静かに開け、直立不動で立つ。
桜木優香はゆっくり車から降り、俺も続いて降りる。
そして、俺は桜木さんに向かって、自分の右手を差し出す。
「演奏会、楽しくやろうな。」
「ありがとう」今にも泣きだしそうな、桜木さんだった。
しっかり、右手を差し出しきつく握手する。
しばし、握手したまま見つめあう二人だったが、シゲさんが横に直立不動で立っている事を知った桜木さんが、「送っていただいて、ありがとうございました。」とシゲさんにお礼を言って、黄色のバイオリンケースを胸に抱えて、俺達にお礼を述べて、家の中に駆けこんでいく。
珍しく、シゲさんが一言
「良い、お嬢様ですね」
「そうですね」
俺は、桜木さんの病気の事を考えていた。
そして、あっという間に一週間は過ぎて、ホト主催の俺達の結婚式当日となった。
ホトもミッドも他のメンバーもこの一週間ほとんど、まともに寝ていないようだ。
皆、目の下にクマを作っていた。
中でも、ホトとミッドの疲労感は相当凄いようだ。
ホトは、実行部隊責任者として様々な物を手配し、ボランティアしてくれるヒトを振り分け、指示して段取りを組む。
自ら、先頭を動き回る。ホトのスマホは指示を仰ぐ電話で鳴りっぱなしだった。
ミッドは俺と舞から提供された、画像や動画のデータを編集して、思い出回想シーンを感動的に作り上げていた。
元々、こういった仕事が得意な質ではあるが、一週間で作り上げるのは相当な無理をしたのだろう。
教員の方々も、日曜日だと言うのにほとんどの方が集まってくれた。正装で!
土門武士率いる乱呪のメンバーも総出で、黒いスーツをはち切れんばかりの体格を中に収めて、校門前からホトの指示通り、配置に着いていた。
俺と舞は、体育館近くの教室を控室として、使わせてもらい着付けをしていた。
俺は、葛城仁父さんに結婚を申し込みに行ったときに来た、父虎雄のお気に入りの、茶色がかった銀色の着物を出張してもらったツネさんに着せてもらっていた。
舞は、母の葛城唯が着た【白無垢】を着つけてもらっていた。
一言で言うと、とても素晴らしかった。
元々、女優の様な顔とスタイルの持ち主が、化粧をして立つ姿はとても高校生とは思えない程、素敵だった。
そこにホトが飛び込んできた。
「将軍、大変だ。ちょっと来てくれ」
「どうした?」
「いいから、ちょっと外に来てくれ」
かなり焦ったように、ホトは俺と舞を外に連れ出す。
そこには異様な光景があった。
なんだこれは、、、、
黒い高級車の車列が、校門から何十台と続いている。
恐らく、30台以上はいる。
先頭の国産最高級車、販売価格2000万円は軽く超える車の後部座席から出て来たのは、意外な人物だった。
俺が叫ぶ
「竜治叔父さん!!」
そう、亡き父の実弟。
現在のKABUKIコーポレーション社長の火吹竜治本人だ。
横には叔母の竜治の妻、火吹京香が礼服で胸には立派なコサージュを指して車から出て来た。
竜治が俺に向かって声を掛ける。
「結婚するなら、招待状くらいくれよ武将。」
いつの間にか俺の後ろにいたシゲさんが、静かに
「勝手とは思いましたが、私が皆様に連絡いたしました。」
っと、するとこの長い高級車の車列は、俺達の結婚を祝いに来てくれた人たちなのか、、、、
叔母の京香が、品の良い物腰で俺と舞に話しかける。
「火吹家本家当主の結婚式に、私達が出席しないなんてありえませんことよ、それにこんな綺麗な方を奥様にされるなんて、武将さんも隅に置けないわね」
「舞と申します。不束者ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。」
舞が、自然な動作で、一歩前に出て、京香叔母に挨拶して握手する。
極々、自然に、、、
この環境でよくそういう行動がとれるな、っと、心底愛する妻の心臓のぶっとさに驚く俺だ。
俺達の後ろにいた、葛城仁父さんが前に進み出る。
「久しぶりだね、竜治君」
葛城仁と父火吹虎雄は大学時代の同級生だ。
弟の竜治とも、よく【赤提灯】で酒を飲んでは、くだらない話を良くしていたそうだ。
「仁さん、本当にお久しぶりです。」
竜治は、自ら仁に歩み寄り両手で握手する。
「お互い、これからは親戚同士と言う事ですね、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、娘をよろしくお願いします。」
二人は、何十年ぶりの再会を喜び、固く握手する。
竜治叔父の後ろからは身長2メートル近くある、青い目をした金髪の外国人が、俺を見て感極まる様に抱きしめる。
「ミスタートラオにソックリデスネ~、ワタシハニューヨークカラキタ、マルガッス・シュタイントイイマス」
「トラオニハトテモトテモオセワニナリマシタ」
そこで、舞が驚きの行動をとる。
ネイティブな英語で、マルガッス・シュタインさんに話しかける。
「【英語】お会いできて、嬉しく思います。私は舞と申します。遠い所を私達二人の為にお越し下さり、心より感謝申し上げます。」
皆が、驚く。
そりゃそうだ、高校生が普通こんなネイティブな英語は話さない。
しかも【白無垢】で流暢に英語を話す姿は、傍で見ていても神がかってるよ。
「【英語】あなたの英語はとても素晴らしい発音です。私は虎雄さんに昔スカウトされて、日本で小型カメラの研究をしていました。」
「【英語】研究が、成功して私はニューヨークで会社を立ち上げました。その時、虎雄さんがスポンサーとなってくれたのです。今の私があるのは虎雄さんのおかげです。」
「【英語】虎雄さんが事故で亡くなったと聞いた時はとてもとてもショックでしたが、息子さんがこんなに立派で、奥様はとても美しく教養がある。虎雄さんも天国で喜んでいるでしょう」
舞はハニカミながら
「【英語】そうであると、私もとても嬉しく思います。マルガッス・シュタインさんも今日はゆっくりとしていって下さい。とても個性的な結婚式になると思いますので」
「【英語】それは、とても楽しみです。」
武士達だけでは、整理の仕様が無くなり、教員の先生方が車の整理誘導をし、ホトは大慌てで最前列に大人の人達の席を用意する。
ここでも、クラスの友人達やボランティアの生徒たちが大活躍してくれた。
テキパキと走り回り、列を作りパイプ椅子を渡し並べていく。




