未来
京仁織物株式会社 戸塚営業所の人事が進むにつれて今まで隠れていた事実が一つ一つとはっきりと動きだす。
そんな中、火吹武将に思いを寄せる寸動永子の思いは?未来はどうなるのか?激動の戸塚営業所はここに新体制をはっきりと位置付ける。
安藤聡という男が、俺との決別を決意して号泣していた。
しかも決別する理由は、【足手まとい】になりたくないという安藤聡の個性をとてもよく表している言葉と判断だと心から思う。
俺はその判断を正しいものとして、受け入れ今後は京仁織物株式会社 戸塚営業所 営業部長に昇格して営業部をまとめ上げ新所長の土井田敦さんをサポートしてもらおうという結果になった。
俺は握り合った右手に俺の左手をのせて
「安藤聡先輩、これからは親友としてよろしくお願いします。」
「ハイ!!」
安藤先輩ははっきりと大きな声で、己の意思を吐き出す。
武将は顔をそっと安藤新部長に近づけて、彼にだけ聞こえるように
「先輩にだけお話しますが、京仁織物株式会社もKABUKIコーポレーショングループの傘下に入ることになると思います。」
「ですので、全く仕事の縁が切れるというわけではありませんよ」
「!!」
安定安全の安藤先輩が泣きはらした目を見開き俺を見つめる。
俺は黙ってうなずく。
そして握り合った手をゆっくりと離して、再び全員に向き直る。
俺は振り返り、四角い顔の中に細く光る鋭い眼光の男に声をかける。
「木島工場長。」
突然名前を呼ばれた、昔気質の職人は驚いてように俺の語り掛けに答える
「な、なんでぃ」
俺はいつものように誰が相手だろうとかまわず、普通に話しかける。
それがここ戸塚営業所の恐れられる職人オヤジであろうとも
「以前、私がこの営業所に赴任した際 お話したことは責任持ってまいりますのでご安心ください」
若造の俺が京仁織物株式会社 戸塚営業所 所長として赴任した際に、木島工場長は中途半端な気持ちでやるなら辞めるか責任をきっちりとるかどちらかにしろと俺に明言(脅迫?)してきた数少ない男だ。
「おう、そんなこともあったな。」
「だがよ、火吹所長よ俺らはこの3年間でおめえのことをキッチリと認めているからこそ、ここまでこれたんじゃねぇか」
「それを今更ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ」
「これまでおめぇが決めたことに間違ったことなんか、一度として俺には無かったぜ。世間がどう言おうとな」
俺は心を込めてお辞儀をする。
強面だがぶきっちょで、職人気質で、言葉数が少なく誤解されやすい、俺はこういう人間が大好きだ。
くだらない名誉や権力、金などより
火吹武将という俺を信じてくれるその気っ風のよさに心が感動で震える。
「ありがとうございます。」
そこでいきなり堪り兼ねたこの女性が割ってはいる。
「所長!!」
高く響く大声で女性特有のソプラノが響く
「私たちはどうなるんですか!!」
寸動永子秘書兼係長だ。
以前より今後も俺と行動をともにしたいと意思を強く表示してきた俺の初めての部下だ。
俺は一呼吸おいてゆっくりと話し始める。
「近藤直子係長に寸動永子係長の今後人事は、正直に話しますと 今でもとても悩んでます。」
「そこで、お二人のご希望を先にお聞きしようと思い、最後になってしまい申し訳ありませんでした。」
「そ、そんなこと決まっているじゃないですか!!私は所長と今後も、、、、、」
「永子!!」
今では寸動永子の親友とも呼べる近藤直子係長が思いもかけずに友人の言葉を遮った。
「火吹所長がおっしゃりたいことは、そんな簡単なことじゃないからよく考えろ!ってことよ。」
「なによ、それじゃ直子はどうするつもりなのよ」
「私だって心は火吹所長と行きたいと言っているけど、先ほどの安藤課長の態度はとても素晴らしく立派に見えたわ。」
「いく!!っというのは簡単だけど、それには言葉以上の責任と重圧が伴うから一度自分たちで考えろと所長はおっしゃっているんだと思うわ」
「まぁ~まぁ~、お嬢さん方の気持ちもわからくないですじゃ、」
「こんな突飛な話を朝一から聞かされちまってはの~」
五十吾源吉顧問役がわってはいる。
生きている時間が違うから当然その言葉にも重みが伴う
「そうですね。僕も早急に決めるべきではないと思いますよ」
とても珍しいが、火吹部隊が発足されたときの上司であり社会人初めの先輩は大きな身体に似合わず心優しく穏やかな性格であった。
この様な時に言葉を発するような性格ではないのに、とっても珍しいと俺はふと感じた。
門田応史新副所長が、腰をやや曲げながら手を前に出して、一生懸命話をしようとしている。
その様子からしてもこの男に一番ふさわしい言葉は
【優しさ】
っといういたって簡単な単語がピタリとはまる人間だった。
「こんな時にこんな事を言うのは、可笑しいことを知っている上で皆さんの前で言いたいことがあるのですが、、、、」
「どうしたんです?門田課長?」
思わず俺が話す許可を出すように促す
門田応史課長は緊張したように顔を真っ赤にしながら背筋をピンと伸ばして、直立不動になりながら腹の底からこんな大声がこの男性から出るのかと思うくらい大音量で魂の叫びを発する。
「近藤直子さん!!結婚を前提に ぼ、僕とお付き合いしてください。」
「「「!!!」」」
「こんのぼんくらが~、門田の課長よ~いくら何でもこんな時に告るのは場違いじゃねんかい!」
木島工場長の一括にも珍しく反抗して
「ぼ、僕は本気なんです。」
「はぁ~、恋につける薬はねぇ~って言われちゃいるがこんのあほんだらが~」
「いいですよ。」
「「「「!!!!」」」」
近藤係長の思いもかけない言葉に逆に全員驚かされる。
「こんな私でよければ、喜んでお付き合いさせて頂きます。」
木島工場長が、ため息をつきながら両手を上に向けて降参のような身振りをする。
「今どきの若い奴ってのは~」
「羨ましいんじゃろ~木島君。」
五十吾相談役が笑いながら、人世の大先輩同士感じることがあるようで微笑みが止まらなかった。
土井田新所長が広がりすぎた話の内容収集に取り掛かる。
「みなさん、そろそろ始業時間ですし朝礼に行かねばなりません。近藤直子さんと寸動永子さんの人事に関しては、明日の夜就業時間後にもう一度話し合って決めるということでよろしいですか?」
一番まともな話を全員が納得して、朝礼の為表玄関横にある小さなグラウンド兼駐車場に向かう。
人生の先輩たちは主に五十吾顧問役と木島工場長と十柄氏顧問役の三人は最後までニヤニヤが止まらなかった。
もう一人この世の春。人生で一番幸福な時間を堪能している門田応史課長は真っ赤な顔を見ているこちらが恥ずかしいほど嬉しさを体現してスキップしながら廊下を走っていく。
最後尾では、二人の女子がささやきあっていた。
「ナオ、一体どういうことなのよ。何も聞いてないわよ」
「えへ、課長とは二回 食事しただけなんだけど、とても初心なところが良くてね~」
「あんただけ、先に幸せ掴んでいたってことね」
「あ、でも火吹所長の話とは別に考えているのよ。実際今の私で世界を舞台に政治やとんでもない金額の受注案件の処理とか接待とかできるかと聞かれたら、正直私は無理だわ~。あんたも上智出てるから英語くらいは話せるだろうけど、火吹所長の事だからそんなことくらいじゃそれこそ安藤課長の言うように【足手まとい】になるんじゃないの?」
「火吹所長のお友達見てもそうじゃない?」
「奥様は以前ここにおにぎり差し入れてくれたけど、この間聞いた話ではあの容姿に東大で主席卒業、15か国語を話せるそうよ。COOBデザインのCEO女性だって滅茶苦茶仕事できますってオーラだったじゃない。」
「それに、あの彭城楓真が親友なんてありえないでしょ」
「一番ダメなのは、火吹所長は既婚者で子供までいるっていう事実だわ。」
「そんな中に入ってあんたやっていけると本気で考えているの?現実的に自分の将来を考えることも大切よ。」
「あ、あんたにそんなこと言われなくても、、、、」
「わかっているならいいわ。後は永子の好きにすればいいじゃない。私は友人として言うことは言ったわ。」
「選択はあなたの自由だからね」
コツコツコツ
ヒールの音を廊下に響かせながら近藤直子係長は永子を一人置き去りにして走り出す。
「・・・・・・」
一人誰もいなくなった廊下で考え込む寸動永子係長の眼は、正直なところ悩んでいるように見えた、、、
場所は変わり六本木にある言わずと知れたCOOBデザイン本社ビル最上階の上級役員会議室では、緊急の議案がCEOであり大株主でもある侯葺縁が上席に優雅と気迫をまき散らしながら座っていた。
左右それぞれに副社長、専務、常務、執行役員、取締役8名と社外取締役2名と監査取締役1名と今では公然の秘密になっている
侯葺縁さんの婚約者、俺の親友である保東康臣ことホトが末席に座っていた。
当然、一番年齢は若くこの場には似合わなくもないが、彼の実績はここにいる皆が知るところである。
年齢以上の結果を出し、次期CEOと言われている彼はごく自然体で堂々と座っていた。
この辺も俺の妻がよく言う
《武将化》が進んでいるということなのだろうか?
俺の高校生時代の親友達はそれぞれに修行に励みそれぞれの形で結果を出しつつあるが、妻の舞が言うにホトにしろ常慶貴彦が俺の影響を受けて俺に似てきているというのである。
本人の俺は全くそんな気はないのだが、一番近くで見ている舞が言うのだからおそらくそういうことなのだろうが、、、、
実際悪いことではない。
一番の親友と言っても過言でない彭城楓真は高校生以前から我が道を行くように、己を鍛えただ一人その才能に磨きをかけ、戦い続けているいわば俺の一番信用できるライバルの様な存在だ。
あいつは別格だ。
俺が思うだけでなく、チームの皆が感じている事実だ。
俺という将軍に楓真という天才は、タイプは全く別だが存在理由としては同格以上、対等上等、異体同類、天然の帝王にに努力家の天才。
どちらが欠けてもこのチームは成り立たない。
COOBデザイン上級役員会議室に戻ると
縁CEOは拒否を許さぬ炎という烈火のごとき言葉を吐き出す。
「わかったね。来季からのCEOはわたくしの夫となる保東康臣が就任しますわよ。反対はもちろんありませんことよね!」
この話し方が、実に侯葺縁という個性を良く表している。
父親が創業者で、自社持ち株の50%以上を保有するからこそ言える会話でもあるが、反対は一切許さないという徹底的な強制命令である。
全員が勿論、賛意の意思を顔中に表す。
一人を除いて
「CEO、私は辞退させていただきます。」
「「「!!!」」」」
そう、次期CEOとなる本人であるホトだ。
「な、なにを言っているのホト、あなたはこの椅子に座りたくはないんですの?」
一番驚いているのは、縁さん本人のようである。
珍しく、歯切れが悪い。
ホトは優し気な眼で皆を見渡し
「私はCEOと結婚したいとは言いましたが、COOBデザインCEOになりたいと言ったことはありません。なのでありがたいお言葉ですが、CEOに就任するつもりはありません。」
「はぁ~まったく~」
麗しの美女にして経済界の女帝は思わずため息を漏らす。
「あなたも《武将化》が進んでいるらしいですわね。COOBデザインCEOの椅子より武将様を選ぶとは、、、」
ホトは縁さんの眼を見てしっかりと
「貴方ならこの気持ちお分かりいただける思うのですが」
「そういう言い方は、ずるいですわヨ。ホト。」
上級役員会議室の中で夫婦喧嘩の真似事の様な事をするとんでもないパワーカップルだ。
副社長であり、縁さんの従妹にあたる女性が言葉をはさむ
「CEO、保東康臣室長の意思も大事かと存じますので、時期もCEOは侯葺縁様でお願いできればと愚考致しますが」
縁さんは親族経営であり、大した能力も実績もなくこの席にいる従妹に向けて苛烈に言い返す。
「それは本当の愚考かしらね。ホトがこの会社を継がないのでしたら、COOBデザイン株式会社はKABUKIコーポレーションとM&Aで結ばれKABUKIコーポレーショングループの傘下に入りますわ。」
「「「!!!」」」
「し、CEO、、、そ、それは、、、、」
速攻即決のこの女傑の判断に上級役員たちは驚きを隠せずにしどろもどろになっていた。
それはそうだろう、、、、
業績も安定していて、売り上げ 利益共に右肩上がりのCOOBデザインがなぜ他社グループの傘下に入らなければならないのか、誰もが疑問と安定と不安を感じながらも中々言葉に出せずにいた。
「皆さんは、反対意見がおありのようね」
竜眼のごときひと睨みで、全員が下を向く。
この場に侯葺縁CEOに面と向かって物を申せるものは一人を除いていなかった。
「CEO、いきなりそのようなお話をされては、皆さん驚いてしまいますよ」
つぶらな瞳の中に揺るがない心己魂を持つ、ホトだ。
「なら、どうしたらいいのかしら?ホト」
ホトは全く動じずに
「CEOのご意見のメリットとデメリットを事細かく分析して話し合う必要を感じます。」
「なぜ、そんな面倒くさい事をしなくてはならないのかしら?」
「知っていて話して言われていると思われますが、このCOOBデザイン株式会社に勤める社員は、関連会社や工場、営業所、派遣社員からパート、アルバイトまで含めますと1万人を優に超える大会社です。そこで働く人たちの不安をまず初めに解消することが最も大事なことだと思います。」
「それをCEOの独断でこの場で決めてしまうことは、我社の未来と従業員の生活を蔑ろにしているとしか思われせん。」
華麗なる女帝は美しく長い髪をかき上げながら
「ホトの言う通りですわね。でもこんな当たり前のことを何故誰も言わないのかしらね?」
「きっと、わたくしが悪いのでしょうね。大株主にして創業者の娘。この私に面と向かって当たり前の意見さえ言えるのが長年勤めてきた上級役員でなく、20代のたかが一介の室長であるホトだけだという事実。」
「これが、わたくしがKABUKIコーポレーショングループ傘下に入り新しい風を吹き入れたいということかしら」
(さすが縁さんだ、わいが思っていたこと以上のことを考えておったとはの~)
坂本龍馬に憧れる、ホトは変な竜馬節で心の中でつぶやく
結局、COOBデザイン株式会社がKABUKIコーポレーション傘下に入るかは、今後こと細かく分析して話し合い各部署と連携していくということになったが、、、、
おそらく縁CEOの意見でまとまるだろう。
アメリカ帰りの御堂大智ことミッドも言っていたが、これからの世界の激動する変化に順応挑戦していけない会社、人は淘汰されるだろうということだ。
しかし、もしこれらがすべて俺が25歳の時に現実化したとしたらKABUKIコーポレーショングループは世界的に見てもとんでもなく大きなグループ会社となることになる。
そして話は、その翌日 京仁織物株式会社 戸塚営業所 支店長室に戻る。
そこにいるメンバーは、昨日と全く変わらないメンバーだ。
俺は椅子をガラスでできた、テーブルの周囲に配置して皆に座ってもらい話を単刀直入に切り出す。
「寸動永子さん、昨日の件考えてどうですか?」
寸動永子係長は、美しい顔に疲れを見せながらも言葉少なに話し出してきた。
「・・・・・私、何度も何度もじっくり考えました。」
「安藤課長のお考えや近藤さんの意見、、、、それぞれ思うところはあるのですが、わ、私は、、、、」
「火吹所長と一緒に本社に行きたいです。」
「もちろん役不足なのは、百も承知です。それでも一緒に行きたいです。」
「もし、もし私が自分で火吹所長たちの足手まといになると感じたら、、、、、」
「その時は、、、、自ら身を引きます。」
俺は周囲を気にせずに、寸動永子という女性一人だけを見て彼女にだけ語り掛ける。
「ご両親にもご相談されましたか?」
「はい、初めは反対されましたが、私の意志が固いことを理解してもらい、、、、最後はダメな時は気軽に戻ってこいと言われました。」
俺はゆっくりと考えて、この一日で相当消耗した彼女の容姿にその覚悟を感じ取り
「いいご両親ですね。」
っと、一言添えると
永子はついに泣き出し、大きな涙を流しながら
「私、こう見えて頑固者なんですよ。」
こうして、寸動永子係長は火吹武将と共に京仁織物株式会社 社長室長 補佐という役職に就いたのだ。
物事は大きく動き出した。これからの火吹武将と共に激動する人間たちの活躍をお楽しみにしてください。




