火吹財閥の歴史
※この物語はフィクションです。
リビングでは、誰も話をする者もおらず。
ただ、ただ、沈黙という言葉が空間を満ちる。
俺は希道直真さんの研究施設について話し合うつもりだったのだが、とんでもない方向に話が言っていることが、竜治叔父の立ち居振る舞いからヒシヒシと伝わり空間が緊張という帳で満ちてくる。
この場の中心にいる火吹竜治叔父が、皆の視線を見ながらゆっくりと威厳ある態度と覇気ある言葉で話し出す。
誰も一言も聞き漏らすまいと緊張感がマックスになる。
「武将、これから話すことは本来であれば君の父親である竜雄兄さんが君に話す事柄だ。」
父が他界してから竜治叔父の口から直接父の名前を聞いたことはこれが初めてだと思った。
「火吹家の歴史を武将はどこまで知っている?」
俺は動揺を隠すように
「曾祖父が火吹財閥を創設して、今の財を築いたということくらいしか、、、、」
「それは表向きな話だ。」
一刀両断してくる威厳を崩さない叔父は続けざまに話しかけてくる。
「皆さんも武将もよく聞くんだ。」
「火吹家の歴史は、1000年以上前の平安時代いわゆる平家の時代に遡ると言われている。平家の持つ軍資金を何倍にも増やすという偉業とまた、一方では戦いにおいて最大の功績を立てて、火吹家の歴史の基盤を祖先様が築いたんだ。」
「しかし、御祖先様はその犠牲になった仲間の事をとても悲しまれ、今後このようなことが起きないようにするべく、陰に廻り潜みこの国を少しでも良い方向に進めることを火吹家の家訓と定められたんだ。」
「その後戦国の歴史の中でも時には織田信長に仕えたり、また時には徳川家の家臣になったり、時には天皇陛下の知恵袋として天皇陛下を支え、時には第二次世界大戦では好戦派と守戦派の間を取り持ったりしていたんだ。」
とんでもない歴史に、一同は頬から汗が伝うのも忘れて聞き入っていた。
「火吹家は人や派閥、物に対して忠義を尽くすのではなく、時には商人、時には武将、時には使者として形を変え、この国を陰ながら支えてきた。」
「火吹家はその時代時代に合わせた最良の方法を持ってこの日の丸だけに忠義を尽くす家系なんだよ。」
「そうでもなきゃ、矢武祖父が敗戦後とはいえ日本中のインフラ整備を任されたり、この虎ノ門の一等地にこれだけ広大な屋敷を構えたりできるはずないだろ」
「余談だが、火吹家の婚姻の中には天皇家との婚姻もあったんだ、だから火吹家には天皇家の血が入っていることは覚えていた方がいい。」
一同が驚きの余り、沈黙という会話を緊張という態度で表していた。
しかし、竜治叔父の驚愕の話はさらに過激さを増す。
「ここまでが過去の話で、そしてここからがこれからの話だ。」
「我が家に代々使えてくれている、重道家、松茸家は常にわが家にとってなくてはならない忠臣中の忠臣だ。」
(え、シゲさんやツネさんの家系はそんな昔から火吹家と共にいたのか、、、、)
「そして仁先輩もご存じなかったと思うのですが、葛城家は火吹家の分家なんです。」
仁父さんは全くいつもと変わらずに
「それは、知らなかったな~」
「江戸時代、徳川に本家である火吹家がついていた時に火吹家当主の弟が天皇家をお守りするため京都に移ったのです。その時に火吹の姓を変えて葛城家が誕生しました。それが葛城家の始まりなんです。京仁織物を作り上げたのも葛城家で世間を欺くための体裁で始めたものが今では、文化遺産に匹敵するほどの商品になっている。」
「片手間で始めた、織物業が今では日本を代表する世界的文化的織物になってしまったのは流石。としか言いようがないですね」
葛城仁父さんが、珍しくハニカム。
「そして、最近分かったことだけど、縁というのはこういうことなんだろうなと思うんだがね、、、、ここにいる侯葺家、常慶家、保東家、御堂家 皆、過去に火吹家と共に時には助け合い時には共に戦い、背中を預けあった家系なんだ。」
「あ、それとこれは私も驚いたんだけど、彭城楓真君、彼の家系も火吹家とは浅からぬ縁で、彭城家と火吹家では何度も婚姻が結ばれていてね、親戚と言ってもおかしくない間柄なんだよ。」
ここまで一気に話し続ける竜治叔父を俺は初めて見た。
そして、火吹家の歴史が教科書に出てこないのが不思議なくらい物凄いことなのだと初めて知った驚きに心が震える。
俺がいち早く立ち直り言葉を喉の奥から振り絞る。
「叔父さんはどうして、今そのお話をされたのですか?」
竜治叔父は俺に視線を移して、初めて微笑みながら
「それは武将が25歳になった時にKABUKIコーポレーション社長になるからだよ。」
「「「「「!!!!!」」」」」
とんでもない核爆弾が投げ込まれた。
「何をびっくりしているんだい?」
「武将は以前自分から25歳で起業すると宣言していたじゃないか。」
俺はもう動揺を隠しきれずに
「い、いやいや竜治叔父さん、、、、そ、それはそんな意味では、、、、」
しどろもどろの俺に対して、ニコリと笑みをこぼしながら
「火吹家の習わしで、必ず長兄の男児が家長となり一門すべてを統べることになっているんだよ。」
「そ、そんなことが、、、1000年以上続くわけ、、、」
「あるんだよ。」
「現に兄も25歳で家督を継いでいるしね。1000年以上にわたって、火吹家に男児が誕生しなかったことがないんだよ」
妻の舞が初めてこのとんでもない会話に交じりこむ。
母親として
「それでは竜治叔父様、尚武は次の火吹家の当主ということでございますか?」
「うんそうだね。」
この人は常に断定して決定する話し方をする。
これが王者の振る舞いなのか
「実は尚武には、ツネさんに頼んで様々な帝王学を学ばせているんだ」
「君たちは、忙しすぎるようだからね」
(そんなことになってるなんて、俺のキャパオーバーだよ)
「で、でもKABUKIコーポレーションは竜治叔父さんでうまく回っているじゃないですか、今更僕が変わる必要なんてありますか?」
「ある。」
「さっきも言った通り、火吹家の家督は長兄の男児が継ぐものなんだ。」
「私はあくまで非常時のつなぎだよ」
非常時とは言うまでもない、父虎雄の事故死だ。
「武将、君はもう立派な当主として一門を統べるに足る立派な男に成長しているんだ。」
「それとね、私の能力ではつなぐのが精いっぱいだ。これ以上KABUKIコーポレーションをひいては日本を良い方向に進ませるなんて私には到底無理だよ」
両手を掌を上にして肩を上げて見せる。
これまでの時間の中で、火吹竜治が初めてお道化て見せる一瞬だった。
「あとね、武将には内緒にしていて悪かったが、仁先輩とシゲさんは君がKABUKIコーポレーションを継ぐことを知っていたんだ。そして、その二人が君をこれからは火吹財閥の本当の当主に相応しいと言ってくれたんだ。」
「そ、そうなんですか?仁義父さん」
葛城仁はいつもと全く変わりなく
「そうだね~そもそも武将君を京仁織物に入れてくれと言ってきたのは竜治君だったからね」
「僕は君のお父さんとも竜治君とも大学生の時から親友として共に経済界の中心にいたから、武将君を鍛える責任者としてはこれ以上の適任者はいなかったんじゃなかったかな?」
「それに君は戸籍上とはいえ僕の息子だからね」
(だから、年齢や経験に関係なくメガバンクの頭取やユタカ自動車の豊社長に引き合わせてくれていたのか)
「血縁関係とは関係なく、経営者の目線で見ても君はもう立派な一人前だよ。」
「自分で考え、自分が行動する。それを見て周りが君の後に続く。指導者として基本中の基本だけど君ほどの経営才能ある若者が本気で働いたときこれほど凄いものかと僕自身は心の中でとても驚いていたんだよ」
「実際君の活躍ぶりは僅か5年余りで、我社の売上げも利益もとんでもない数字にしてしまったからね~」
「おかげで、僕も忙しくてたまらないよ」
(ははは~笑うしかできないよ もう~)
綺麗な高音が響き渡るようにリビングに流れ込む
「お父さん。社長が忙しいのは当たり前です。」
「でも、そういう大事なことはもっと前に話してくれてもよかったんじゃないの」
父には手厳しい華麗な妻の舞が、両腕で胸を持ち上げるように組みながら実父を睨む。
竜治社長がニコニコしながら
「舞さん、その辺で仁先輩を許してやってくれないかな?」
「私は思うんだけどね、この世の中で経験しないと絶対に分かりえないものが二つあると思うんだ。」
「竜治叔父様、それはなんですか?」
舞もこのような場面でも、全く動じず肝の据わった態度で年長者で威厳バリバリの火吹竜治と対等に話ができる数少ない人間だ。
「それはね、子育てと会社経営だよ」
「知識や見識、難しい文学や数式は勉強すればいくらでも理解できる。だけどこの二つだけは経験しないと私はわからないと思うんだ。」
「貴重なご意見ありがとうございます、竜治叔父様。心の中に留めて置きたいと存じます。」
小声で
(お父さん竜治叔父様に感謝しなさいよ)
「いや~」
ポリポリ頭を掻きながら、娘の目を見ないように天井を見つめる尊敬する俺の最高上司だ。
(でも、そうすると沢山気になることがあるな、、、ひとつずつ聞いていこうかな?)
「竜治叔父さんいくつか今のお話の中でお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「ああ、かまわない。」
「竜治叔父さんは、オヤジが他界した時何故この屋敷を出て行かれたんですか?」
数舜、周りの人間が気付かないほどの時間、竜治叔父の返答が遅れた。
「兄が他界したと同時に、次の火吹家の当主は武将。君に移ったんだ。甥の当主に年長者の私がこの屋敷に留まっては、色々と問題があってね」
「正直、君には辛い思いをさせてしまってとても私自身も慚愧の念が強いが、火吹財閥当主という立場はそのくらい大変なことなんだよ」
「それでも君には、仁先輩をはじめシゲさんやツネさん。それに素晴らしい仲間や女性に囲まれていたから私は仕事に専念できたということだ」
「そうですか、わかりました。もう一つ宜しいですか?」
「いいよ」
「僕が保有するKABUKIコーポレーションの株はどのくらいあるのですか?」
主導権を握ってずっと話していた火吹竜治が初めて驚いたように話す。
「そこに気が付くとは、さすがだね武将。仁先輩の修行の成果だね。」
「それは、シゲさんから話してもらおうかな?」
一番端にいる、昭和の執事シゲさんに手のひらを開いてゆっくりと横に腕を振る。
シゲさんは即座に立ち上がり
「今日現在、武将様が保有するKABUKIコーポレーション株は発行株数全体の70%に当たります。本日のレートで金額にしますと約120兆円余りになります。」
「追記ではございますが、武将様自身が経営する法人 |T・T・D.ltd《トラオテクノロジーデペロップメントリミテッド》初め他24社ありますが、その総資産を総額しますと200兆円を超えております。」
「「「「「!!!!!」」」」
(なになに?何その数字!!俺の年収700万円だよ)
「|T・T・D.ltd《トラオテクノロジーデペロップメントリミテッド》はミスターマルガッス・シュタインさんの会社じゃないですか?」
竜治叔父以外のその場にいる大人たちだけが、目配せをして結局一番美しく覇気のある女帝が話し出した。
「以前、武将様の二十歳の誕生日お祝いの時に、ミスターマルガッシュ・スタイン氏の会社で新しい技術。今では武将様もよくご存じの塩が原料であるコーティング剤の開発に成功した時ですわ。社内取締役全員の裏切りによって、ミスターの会社は乗っ取りの危機に直面致しました。」
「ちょうどその連絡がきたのが、今この場所だったものでわたくし初めここいる方々は知っていたのですが、火吹家の金庫番であるシゲさんがお金を融通してミスターの会社を救ったのですわ」
俺はおとなしく話を聞きながら疑問に思うことを聞いてみた。
「いくらでミスターの会社を救ったのですか?」
白い手袋をぎゅっと握り老兵が淡々と返答する。
「1兆5千億円でございます。」
舞やタカヒコ、ミッドが驚愕の顔をする。
ホトはすでに縁さんにその辺の勉強は済んでいるので、それほど驚きはしない。
従業員1000人以上いる会社で新しい技術を開発した、現在も将来も有望な会社を買い取ろうと思えば、そのくらいの金額になるのは妥当だろうなと思っているようだ。
俺が出した答えは
「皆さん、本当にすいません。僕が頼りないばかりに、、、気苦労ばかりさせてしまって、、、、」
下を向く俺の瞳から自然と涙が出てきた。
頼りない!!
自分の知らないところで、自分にとって大切な人を救えなかった事実。
それほど重要な事柄が自分の知られぬところで決められて解決していたなんて、、、、
自分が、、、未熟する自分が、、、悔しい。
流石の舞も俺が涙を流すことなど、オヤジが死んで以来見たこともなかったために、珍しく動揺していた。
ドン!!
大きな音が床から響く
(?)
俺は自分の未熟さという泥沼の中にい自分から現実に引き戻される。
その異様な光景で
絶対信頼の昭和執事シゲさんが
両膝を床に付き土下座していたのだ。
さっきの音は、シゲさんが両膝をついた音だったのだ。
「武将様に相談なく勝手致しました、不詳 重道勘蔵。心よりお詫び申し上げます。」
俺は未熟とかそんなことより、俺が誕生してから今までずっと俺の側で常に見守り親以上に愛情ある老兵が、俺に首をたれ土下座して謝っているその姿の方が遥かに驚きは強く、自然と俺はソファから腰を上げていた。
俺は何も考えるでもなく自然に身体が動いていた。
皆が座るソファをぐるっと外側を駆け回り、一番端で床に手をつく俺の信用するオトコの手をそっと取り声をかける。
「シゲさんは僕の未来に投資しようとしてくれたんですよね。悪いのはその時、僕が未熟だったことです。」
「顔を上げてください。僕の事でシゲさんがそんなことする必要は全くありません。」
シゲさんは、顔を上げて
「武将様は私のことをお許しいただけると」
俺は涙を流しながらも
「当たり前です。僕がシゲさんにそんな感情を抱くはずがないですよ」
シゲさんも俺の言葉と態度に白髪の眉に囲まれた瞳から光る粒が落ちていた。
「不詳 重道勘蔵。火吹武将様の為、生涯この身を粉骨砕身お仕えすることをお誓い申しあげます。」
「それじゃ~僕らもそうしようかね?」
義理の父親である、葛城仁が音頭を取り座っている全員に立つように促し
若い舞やミッドやタカヒコたちには大人たちが小声でささやき同じ行動をとらせる。
俺の前で一列に整列して、右ひざをつき一気に背丈を半分ほどにする。
当然その中には、火吹竜治叔父の姿もあった。
そして、葛城仁は大きな声で宣誓するように
「我ら一同、火吹武将当主に生涯の忠誠をお約束します。」
「「「「お約束します。」」」」
異様な光景だが、俺の心は熱く熱く興奮していた。
今の時代に、こんな古風なやり取りがあるのかと突っ込みたくなる光景だったが、やはり俺の心は熱く熱く燃えたぎっていた。
未来になって、「テラスの誓い」に続く「武将当主への誓い」などと言われるようになるかもしれない。
火吹武将にとっては、大きな非常に大きな人生の分岐点であった。




