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神は見通し  作者: 千代 龍太郎
第二章
62/125

11 合格

 家に戻った後、荷物を置いて天子と水玖ちゃんと共に再び大学へ。

「今日で習得しよう」

「うん。天子、お願いします」

「はいよ〜」

 天子から神力を受け取ると、顔をパンパンと叩いて気合いを入れ、早速座禅を組む。

「あ、ストップ。お兄ちゃん、今日は違うやり方でやろ」

「……え?」

 一瞬、精神集中を邪魔する罠かなと思ったけど、どうやらガチの提案らしい。

 立ち上がるよう指示された僕の目の前に、水玖ちゃんは自らの神力によって生成した氷人形を一つ置いた。

「この氷人形に神力を当てて、崩さずに全身にヒビだけを入れてほしいの」

「うん、分かった」

 五メートル程離れた場所から手のひらを氷人形に向け、狙いを定める。

「ハッ!」

 放たれた神力は狙った氷人形を捉えた。だがその瞬間、凄まじい音を発し、氷人形は跡形もなく粉々に砕け散った。

「あ……」

 やりすぎた。というか、僕的には普通に放ったつもりだったんだけど……。

 恐る恐る先生達の方を見ると、二人は固まっていた。とんでもないものを見せてしまったようだ。

「輝……あなたずっとこんな威力のぶっ放してたの?」

 呆れや怒りではなく、驚愕の声色で天子は呟いた。

「ぶっ放してました……」

 恥ずかしさとえらい事をしてしまった焦りから、つい敬語で返す。

「ところで、どうして違うやり方なの? 座禅は?」

「お姉ちゃんと話したの。お兄ちゃんは思考じゃなくて、反射で覚える人なんじゃないかなって」

 頭で覚えるより身体で覚えるタイプって事か。

「え〜、なんかそれバカっぽくない?」

「理屈で覚えるより遥かに早く習得できる。むしろいい」

「そっか。よし、そうとなれば……」

 水玖ちゃんが再度作り出した氷人形を睨み、手のひらを向けて狙いを定める。さっきよりも威力が弱いのを意識しなければ。

「てぇ!」

 弱く放った神力は氷人形を捉えたが、砕けもせず、ヒビも入らず、人が押したようにそのまま後ろにゴロンと倒れた。

「フ……フフ……」

「笑わんでよ、天子!」

「ゴメ……ちょっと……つぼに入った……」

 さっきの一発目のものと比べてあまりの威力の差に、堪えるようにクックックッと小刻みに笑っていた。もういいや、ほっとけ。

「水玖ちゃん、もう一回お願いします」

「勿論」

 こうして失敗しては何回もトライし、新しい修行方法に没頭していた。時が経つのも忘れて。



 氷人形とにらめっこして、早三時間が経っていた。いつの間にか日は沈み、星空が見え始めている。かなり長い時間やっていた事が分かる。

「ヒビは入れられるようになったけど、全身にはいかないな〜」

 なかなか良いところまで来てるんだけど、人形の手先にまでヒビがいかない。

「そうだね。でももう大丈夫かな」

「え、何が?」

 二人は笑顔でこちらを見て、首を縦に振っていた。

「このやり方に変えてから、何回私から神力を貰った?」

「え〜っと……最初に貰って、途中に一回……あれ?」

 二回だ。二回しか貰ってない。こんだけ長い時間やってたのに。

「神力の威力だけに集中させたから、知らず知らずの内にコントロールができるようになった」

「……」

 水玖ちゃんの言葉を聞いて、自分の両手のひらを見ながら、実感のない余韻に浸ると同時にある事を思い出す。

「待って、出された課題ができてないけど」

「アレね。まぁ、なんていうか……欠けずに全身にヒビを入れるなんて水玖ちゃんでもない限り、無茶なんだよね」

「へ?」

 そう言って天子は氷人形の方を向くと神力を放った。傷一つない透明な像が一瞬にして白くなる。

「ほら。こうやってどこかしらは欠けちゃうし、今のより弱い神力を放ってもヒビが全身に行き渡らないんだよね」

「じゃあ、神力のコントロールの修行は……」

「合格」

「やっ……たー!」

 ついにモノにした。嬉しさのあまり、声が大きくなる。

「神力初心者……ってわけじゃないけど、かなり早いよね」

「まるで使い方を忘れてたみたい」

 そんな彼女達の呟きも耳に入らなかった僕は一人はしゃいでいた。

 次はいよいよ対神戦闘訓練。気を引き締めねば。

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