11 合格
家に戻った後、荷物を置いて天子と水玖ちゃんと共に再び大学へ。
「今日で習得しよう」
「うん。天子、お願いします」
「はいよ〜」
天子から神力を受け取ると、顔をパンパンと叩いて気合いを入れ、早速座禅を組む。
「あ、ストップ。お兄ちゃん、今日は違うやり方でやろ」
「……え?」
一瞬、精神集中を邪魔する罠かなと思ったけど、どうやらガチの提案らしい。
立ち上がるよう指示された僕の目の前に、水玖ちゃんは自らの神力によって生成した氷人形を一つ置いた。
「この氷人形に神力を当てて、崩さずに全身にヒビだけを入れてほしいの」
「うん、分かった」
五メートル程離れた場所から手のひらを氷人形に向け、狙いを定める。
「ハッ!」
放たれた神力は狙った氷人形を捉えた。だがその瞬間、凄まじい音を発し、氷人形は跡形もなく粉々に砕け散った。
「あ……」
やりすぎた。というか、僕的には普通に放ったつもりだったんだけど……。
恐る恐る先生達の方を見ると、二人は固まっていた。とんでもないものを見せてしまったようだ。
「輝……あなたずっとこんな威力のぶっ放してたの?」
呆れや怒りではなく、驚愕の声色で天子は呟いた。
「ぶっ放してました……」
恥ずかしさとえらい事をしてしまった焦りから、つい敬語で返す。
「ところで、どうして違うやり方なの? 座禅は?」
「お姉ちゃんと話したの。お兄ちゃんは思考じゃなくて、反射で覚える人なんじゃないかなって」
頭で覚えるより身体で覚えるタイプって事か。
「え〜、なんかそれバカっぽくない?」
「理屈で覚えるより遥かに早く習得できる。むしろいい」
「そっか。よし、そうとなれば……」
水玖ちゃんが再度作り出した氷人形を睨み、手のひらを向けて狙いを定める。さっきよりも威力が弱いのを意識しなければ。
「てぇ!」
弱く放った神力は氷人形を捉えたが、砕けもせず、ヒビも入らず、人が押したようにそのまま後ろにゴロンと倒れた。
「フ……フフ……」
「笑わんでよ、天子!」
「ゴメ……ちょっと……つぼに入った……」
さっきの一発目のものと比べてあまりの威力の差に、堪えるようにクックックッと小刻みに笑っていた。もういいや、ほっとけ。
「水玖ちゃん、もう一回お願いします」
「勿論」
こうして失敗しては何回もトライし、新しい修行方法に没頭していた。時が経つのも忘れて。
氷人形とにらめっこして、早三時間が経っていた。いつの間にか日は沈み、星空が見え始めている。かなり長い時間やっていた事が分かる。
「ヒビは入れられるようになったけど、全身にはいかないな〜」
なかなか良いところまで来てるんだけど、人形の手先にまでヒビがいかない。
「そうだね。でももう大丈夫かな」
「え、何が?」
二人は笑顔でこちらを見て、首を縦に振っていた。
「このやり方に変えてから、何回私から神力を貰った?」
「え〜っと……最初に貰って、途中に一回……あれ?」
二回だ。二回しか貰ってない。こんだけ長い時間やってたのに。
「神力の威力だけに集中させたから、知らず知らずの内にコントロールができるようになった」
「……」
水玖ちゃんの言葉を聞いて、自分の両手のひらを見ながら、実感のない余韻に浸ると同時にある事を思い出す。
「待って、出された課題ができてないけど」
「アレね。まぁ、なんていうか……欠けずに全身にヒビを入れるなんて水玖ちゃんでもない限り、無茶なんだよね」
「へ?」
そう言って天子は氷人形の方を向くと神力を放った。傷一つない透明な像が一瞬にして白くなる。
「ほら。こうやってどこかしらは欠けちゃうし、今のより弱い神力を放ってもヒビが全身に行き渡らないんだよね」
「じゃあ、神力のコントロールの修行は……」
「合格」
「やっ……たー!」
ついにモノにした。嬉しさのあまり、声が大きくなる。
「神力初心者……ってわけじゃないけど、かなり早いよね」
「まるで使い方を忘れてたみたい」
そんな彼女達の呟きも耳に入らなかった僕は一人はしゃいでいた。
次はいよいよ対神戦闘訓練。気を引き締めねば。




