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神は見通し  作者: 千代 龍太郎
第一章
43/125

42 因縁の対決(前編)

「輝君……」

「び、貧乏神」

 雷夢さんと地佳さん、二人の心配をよそに僕は宮城に向かって歩き出した。

「宮城……いや、死神」

 ヘラヘラと笑うその顔が憎くて仕方ない。だが、怒りは自分を見失う。この戦いにおいては、如何(いか)に冷静でいられるかが勝敗を分かつ鍵となる。

「真打ち登場って訳か。勇ましいな……それとも単なるバカか?」

「どっちもだよ」

「はっ! おもしれェ」

 ペロっと舌を出し、唇を舐める動作をした宮城も僕の方へ歩み寄り始めた。

「下がりなさい貧乏神! またやられますわよ!?」

 雷夢さんが心配そうな顔して声を荒げている。

「雷夢さん。悪いけど、やられる自信がありません」

 ニコッと笑顔で彼女に返し、また宮城の方を見る。

「て、天子! 貧乏神に何をしたんですの!? なんであんなに神力を!?」

 訳が分からない雷夢は天子をまくしたてた。しかし彼女は動じる事なく雷夢の質問に淡々と答える。

「私達を守りたいって。何故だか分かる?」

 雷夢は眉間にシワを寄せ考えるが、皆目検討がつかない様子だった。

「家族だからだよ。それに雷夢とした約束の為に、輝は戦おうとしてる」

 雷夢は言葉を失うと同時に複雑な思いが胸を駆け巡る。

『家族とは思えない』

 今朝自らが放った言葉。彼はこんな酷い事を言った自分に対して、まだ信頼を寄せているという事なのか。

「輝君に勝算はあるんですか?」

 地佳も心配そうな声で天子に尋ねる。

「あるよ。だからここは輝に任せて」

「それなら……」

 天子の力強い返答に地佳は神聖武器を戻し、傍観役へとまわった。



「宮城、お前との因縁に今日決着をつける」

「つれねェなァ。俺はもっとお前と()()()()()()ぜ」

 僕と宮城。お互いの距離が手を伸ばせば届く位置まで近づき、そこで止まった。

「他の低級神とサシでやるのは初めてでよォ。正直……森羅万象神達を殺るより楽しみだ。……出しな、てめぇの神聖武器を」

 そう言って宮城は鎌を音もなく消した。準備をするまでは攻撃しない事を示しているようだが、不意打ちも奴のご法度(はっと)だろう。宮城の行動に細心の注意を払って、神力を右手に集中させる。

 神聖武器の出し方はさっきドームの中で天子に教えてもらった。

『神力を一点集中させ、武器をイメージ……』

 ぼんやりと輝く右手の光が強くなる。その光は横に伸び、やがて実体となった。

『きた!』

 天子と同じ日本刀。右手で柄を、左手で鞘を持ち抜刀する。鏡のように写る刃に、波打つ刃紋。その美しさと自分で出した感動に浸るが、すぐに顔を引き締める。

「まるで天神のと一緒だな。そいつも折ってやるよ」

「やってみな」

 僕の挑発に乗った宮城が目の色を変えた。右手を後ろに回し、瞬時に鎌を生成しだす。

「ウラァ!!」

 地面と水平に鎌を振るうが、それを寸前の所で上体を反らし避けた。所謂『マトリックス』の銃弾避けってやつだ。

『身体が軽い……これなら!』

 倒れる前に左手を地面に付き、足を浮かせ、そのまま宮城の顎を爪先で蹴る。

「おグ!?」

 顎は人間の弱点。死神とて例外ではない。後ろへよろめいた宮城へ一気に詰め寄り刀を振るう。

「野郎ォ!」

 ダメージが浅かったか。近づく僕の姿を捉えた宮城はよろめく足に力を入れて踏ん張り、狙ってくる上半身を鎌で防御した。

「やっぱり、一筋縄じゃあいかないか」

「やってくれんじゃねェか」

 鍔迫り合いとなるが、すぐに弾き、お互い間をあける。

「てめぇ、神力の戦闘はこれが初めてじゃねェな?」

「まぁな」

 ひいちゃんに貰った神力で一度地佳さんと天子の攻撃を止めた事がある。あの時の感覚が残っている為、宮城と対峙しても何ら抵抗や違和感はなかった。

「なるほどな。だが、こちとら長年死神をやってるんでねぇ……。てめぇの付け焼き刃のような戦い方じゃあ──」

「貧乏神! 後ろですわ!」

 雷夢さんの声に反応した僕は後ろを振り向く。僕の影を利用して自らの分身を作り、僕を一刀両断する気だった。

「!?」

「この俺はやられやしねェよ!!」

 宮城の刃が僕の身体をとらえた。その切れ味は鋭く、なんの抵抗もなく腕を、そして腹を裂いていく。

「貧乏神!」

 雷夢さんの悲鳴にも似た声が響き渡る。

「影は物体が存在する以上、切っても切れねェ存在! これが死神の力だ!」

 高笑いする宮城にブワァッと向かい風が吹く。人肌のような生暖かい風。何か嫌な予感がする。

「僕が持ってる神力は天界最速の天子のものだ。お前が斬ったのは残像だよ。勝負を急いだな、宮城!」

「な……!?」

 宮城の背中に袈裟斬りをお見舞いする。右から斜めに左下へ僕の刃がスッと入っていく。途端に溢れ出る真っ赤な血液。

「う……があぁぁ!!?」

 宮城の聞いた事のない苦悶な声と表情。そのうち彼は片膝立ちとなって呼吸を整えていた。

「もう投降しろ。終わりだ」

 刀の切っ先を宮城の眉間に突き出す。さすがの死神もこの状況では太刀打ちできず、抵抗する事も微動だにしなかった。

「ハァ……ハァ……うるせェんだよ。たかだかこんな切り傷一つで勝ったと思ってんのか?」

 形勢はこちらが有利な筈なのに不敵な笑みを浮かべている。

「何を企んでいる!?」

「フフフ……。なぁに、そんな大した事はしねェよ。ちょいとお前と刃を交わらせ、ダメージを負って気がついた。てめぇ、神力を常に解放して戦ってるな?」

 神力を常に解放? そんなつもりはなかったけど。

「てめぇを徹底的にいたぶる為に、俺も持ってる神力を解放して戦ってやるよ!」

 その瞬間、宮城を中心に風が巻き起こり、足元から影が伸びて自らを包み込むように球体となった。まるで空間に開いた底なしの穴のようで不気味に感じられる。

「まずい! 輝君! 死神にとどめを!」

 神力がどんどん膨れ上がり、先程とは比べものにならない程の殺気がビリビリと感じられる。地佳さんもそれを感じとったようだ。

「言われなくとも……!」

 腕を引いて突きを繰り出すが、硬く、刃が通らない。そのあまりの硬さに持っていたこちらの腕が痺れる程だった。

「刀がダメなら神力(こっち)でどうだ!?」

 一歩下がり、左手で放った衝撃波。しかし砂埃が舞うだけでビクともしない。

「落雷撃 麒麟!」

 雷夢さんも神力攻撃の加勢に来るが状況は変わらない。

「くそ! 打つ手無しかよ!」

 もはや手の施しようがなかった。僕達の抵抗も虚しく、何もできないままついにその時がきた。

 頑丈だった影が熱さで溶ける氷のように上から下に流れ落ちていった。その中から現れる宮城。相変わらず笑みを浮かべている。

「待たせたな……。さぁ、始めるとしようか」

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