22 火奈のお手柄
「美術室。開けるよ」
僕の言葉にひいちゃんはササッと後ろに隠れる。また僕一人で開ける事に。
深呼吸をし、取っ手に力を入れる。今回も職員室同様にすんなり開いた。そして一歩中に入る。
「おぉ!?」
安全確認で右を見た瞬間、全身の毛が逆立った。
「何!? どうしたの!?」
不安そうにひいちゃんが尋ねた。
「いや、中々の大きさの仏像があったから」
「仏像? ホントだ」
そ〜っと顔を覗かせ、仏像を確認した。
「あ、でもさっきの紙に書いてあった仏像って絶対にこれの事だよね。次なる道を示すってなんだろ」
改めて仏像に近づいてみる。大きさは土台を含めて大体ニm強。
「ボール?」
赤と青の二色、三個ずつのボールがあり、土台に縦一列の窪みが並んでいる。一番上には『天』の字で赤いボールが、そして一番下には『地』の字が青いボールに書かれていて、窪みにハマっていた。
「このボールを正しい色の位置に置けって事?」
天と地……。何か意味あるのか。
「これって……六道じゃない?」
「リクドウ?」
「うん。仏教の六道」
初めて聞いた言葉だ。ひいちゃんはそのまま続けた。
「六道には天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の六つがあるの。私の予想が正しければ、この『天』は天道。『地』は地獄道の事じゃないかな」
なるほど! 確かにその推測でいくと、残りの四つのボールはそれで合致する。
「でも、それだけじゃこのボールをどこに置くか分からなくない?」
「六道には三善趣と三悪趣に分かれるのよ。天から修羅が三善趣、畜生から地獄が三悪趣。この色分けに意味があるなら、多分……」
そう言って、ひいちゃんはボールを窪みに置いていった。
「なんのこっちゃない。上から赤三つ、青三つのこれが正解。どうだ!?」
〈ガコッ〉
「ギャッ」
突然、仏像から変な音がした。それと同時に落ちてきたUSBメモリ。もう、どんな仕掛けなのかは気にしない事にしよう。
「ひいちゃん、やったよ。次の手掛かりだ!」
速攻で僕の後ろに隠れたひいちゃんの頭を撫でる。
「えへへ……ブイ!」
彼女の手柄なくしては辿りつく事はできなかった。本当にありがとう。
「あれ、でも次のヒントないじゃん」
「こいつはパソコンに繋ぐ物なんだ。だから次はパソコン室だよ」
パソコンは僕の得意分野だ。てか、まだ終わらんのか?
さっき撮った地図の写メを見てみる。どうやら次の目的地は二階にあるみたいだ。
「ひいちゃん、次は二階だ」
「よし、じゃあ行こう。兄さんエスコートして」
「はいよ」
僕達は二階に向かった。
「それにしても、よく仏教の事知ってたね」
「世界宗教と有名どこの民族宗教は天界で勉強したの。面白いこと考えるなぁって思って」
確かに当の本人達からしたら、滑稽に見えるんだろうな。ご利益云々に関しては野暮なので聞かない事にしよう。
Cルート、水玖、地佳ペア。
最後のヒントも得て、音楽室にたどり着いた二人。彼女達の前には四つの楽譜があった。
「全部童謡みたいですね」
地佳は全ての楽譜を手に取り、題名を見た。
『森のくまさん』
『どんぐりころころ』
『お正月』
『かえるの合唱』
天界住みの女神達も聞いた事がある、どれも有名なものだった。
「『最後の謎解きの答えだと思う一つの楽譜を持って正面玄関に向かえ』だって。お母さん、どれだろう」
ここに来るまでにヒントはあった筈。
「とりあえず、弾いてみましょうか」
地佳は楽譜を四つ全て持っていくと、取り残されたピアノの前に座った。
「え、弾けるの?」
「少しは弾けますよ。下界で見よう見まねで練習しましたから」
初耳だった。恐らく水玖だけではない。他の三人も知らない事実だろう。
鍵盤の蓋を開き、そっと指を置く。
「じゃあまずは『森のくまさん』から」
そう言って、地佳は弾き始めた。見よう見まねで練習した割には、つっかえる事なく綺麗に弾けている。
「……はい。では次の曲」
二曲目も三曲目も弾いていく。もはやヒントを探すというより地佳の一人コンサートになっていた。
「全部終わりました。水玖ちゃんどうでした?」
「上手だった」
「うぅん、嬉しいですけど、今謎解きのヒントです」
両手を頬にやって首を振る地佳。それを尻目に水玖はもう一度理科室で入手したヒントを読み、平仮名、カタカナに書き直してみた。
「身がない人体模型が曲を奏でる……みがない……あれ?」
「どうしました?」
「お母さん、四つの楽譜の中でミが無い曲ってある?」
地佳は急いで楽譜の音符を再度読み直す。
「あ! ありました! 『お正月』はミの音がありません」
「やった。あとは楽譜を持って出るだけ」
水玖、地佳ペアはどの三組中、一番となった。




