21 おいたが過ぎる
「あら、明るくなりましたね」
「仕掛けかな? 雷姉さんかな?」
Cルートの地佳と水玖は理科室にいた。様々な仕掛けに驚かされながらも、順調に二つ目の部屋に入っていた。
人体模型の臓器を全て引きずり出し、胃の中を調べていた水玖は不思議そうに上を見た。
「あれ? だんだん明るく……」
〈パァァ……ン!〉
「キャ!?」
降り注ぐ蛍光灯の破片が水玖を襲う。しかし、落ち着いて見ていた地佳が咄嗟に生成した神聖武器で水玖はおろか、自分に降り注ぐガラスを全て防いだ。
「大丈夫でしたか?」
「あ、ありがとう。お母さん」
「やれやれ、雷夢は後で叱っておかないと」
そういってまた懐中電灯のスイッチをつけ、水玖の持つ人体模型の胃を照らした。
「あ、中に紙があった」
「まぁ、次はどこですか?」
「『身がない人体模型は音楽室で曲を奏でる』だって。ここで最後みたい」
「これで最後ですか。中々楽しいのに残念ですね」
水玖は人体模型の臓器を元に戻すと、地佳の手を引いて音楽室に向かった。
「兄さんいる〜?」
「いるよ」
女子トイレ。ドア一枚隔てて妹の用が済むのを待つ。
ひいちゃんはまたびっくり系が来るかもしれないという恐怖があるようだが、僕はこんな所にいるという事実が天子達にバレ、社会的に死ぬという恐怖があった。
「もう終わるよ。今拭いてるから」
んな事実況しなくていいわ! 妙な事意識してしまうだろうが!
〈ジジ……〉
「何?」
蛍光灯から変な音がした。まさかこんな所にもトラップが仕掛けられてるのか?
そう思った矢先、当の蛍光灯がパッと明かりがついた。
「え!? ちょ、兄さん。おいたが過ぎるよ」
「いや、僕じゃないよ。これ……」
なんか、心なしかだんだん明るくなってきている。
「ねぇ、兄さんじゃないの!? え、本当に兄さんじゃない!?」
「だから、違……」
〈パァァ……ン!〉
急な破裂と音、そして再び闇の世界に誘われた。
「わぁあぁぁぁ!!」
ガチャガチャと乱暴に個室トイレの扉を開け、ズボンを持ったパンツ丸出しのひいちゃんがこの世の終わりのような形相になって飛び出してきた。
「うわぁああ! もぉ何ぃ!?」
ひいちゃんは僕の身体にしがみつき、どこに向けたらいいのか分からないモヤモヤした感情をぶつけていた。
「ず、ズボン履こうか……」
「うぅ……」
目のやり場に困る。恐怖で恥がなくなった彼女は目の前でズボンを履いた。
「オッケーです……」
この短時間でぶっ続けで恐い思いをした為、随分と憔悴しているのが分かる。
「大丈夫? リタイアして、みんなが来るの待とうか」
「それでも、兄さんは行くでしょ?」
「まぁ……ね」
あのノートだけは必ず取り戻さなければならない。僕にとってこれはゲームではない、使命だ。
「なら、私も行くよ。ペアだからね。その代わり、不意に抱きついても許してね」
「うん。さっさと終わらせて帰ろう」
女子トイレを出て、もう一度次の目的地の確認をする。
「美術室か。何階にあるんだろう」
「兄さん、昼ドラで見たんだけど、こうゆう特別教室は職員室に行けば鍵が置いてあって、何階にあるって地図が無いかな?」
この子本当に昼ドラ好きだな。だがしかし、ひいちゃんのこの意見には納得できた。
「よし、じゃあ職員室に行こう。正面玄関に職員室は二階と札があったから上にのぼるぞ」
それから真っ暗で蛍光灯の破片が散乱した廊下をゆっくりと歩いた。
途中階段を上がっても、特に恐怖体験はなかった為、何か仕掛けがあるのは指定された教室だけのようである。
「職員室は……あった。これだな」
職員室の引き戸に手をかけた瞬間、側でくっついていたひいちゃんが離れた。
『完全にトラウマになってるな』
「開けるよ」
一応声をかけて、彼女に心の準備をさせてあげる。コクンと頷くのを確認し、職員室の引き戸を開いた。
さっきとはうって変わってすんなり開いた。仕掛けは……とりあえずはなさそうだ。でも油断はできない。僕が先に中に入り、安全を確認した後にひいちゃんを入れよう。
中に入り、左右そして上。ヨシ、何もない。
「ひいちゃん、大丈夫。ここは仕掛けが無いよ」
僕の言葉に安心した彼女はトテトテ走ってまたさっきみたく、くっついてきた。
中はさっきの教室と同じようにホコリが溜まっていたが、荒らされた形跡などはなく、机が整然と並べられたままだった。
「兄さん、あれじゃない?」
ひいちゃんの指差す先。校内地図があった。
「でかした」
地図に近づき、写メを撮る。
「現在地がここで、美術室は……三階の奥か」
「一つ上だね。早く行こう」
「よし、行くか」
そうして僕達は職員室を後にした。地図があれば余計な探索をしない分、すぐに終わらせる事ができる。ひいちゃんの負担も軽くなる筈だ。
そして僕達は美術室に到着した。




