19 きっと星のせいじゃない
海で遊び、ヘトヘトになりながらも無事に家に着いた僕達は風呂に入り、夕食を食べ、すぐ寝ることになった。
ただ僕にはある方と約束があった。約束場所は二階にある僕の部屋。みんなが寝たのを確認してから行くとの事だったから、もう少しかかるかな。
ベッドの上に仰向けになり、手枕をして天井をジッと見た。昔は木の模様が人の顔に見えて怖かった記憶があるが、今は微塵も感じない。成長したなとしみじみ感じる。
程なくして階段をトントンと上がる足音が聞こえた。
『来たか』
ベッドから身体を起こし、伸びをする。ドアがゆっくり開き、見慣れた顔がひょっこり現れた。
「輝、ゴメン。待ったよね」
声の主は天子だった。そう。約束していたのは僕の恋人だった。
「ううん、大丈夫」
ベッドに座るよう促すと、天子はいそいそと隣に座った。
「それで、話って?」
「うん……今日はありがとうね。初めての海、すごく楽しかった。で、その海での水玖ちゃんの事なんだけど……。あの子、泳げないの?」
「……」
バレた。ヤバイな、このままじゃ水玖ちゃんとの約束が。
「いや、あれは僕が似合うかなってだけで……」
「ウソ……」
あ、ダメだこりゃ。何もかも見透かされている。観念するしかない。水玖ちゃんには申し訳ないけど。
「……水玖ちゃん、泳げないんだって。本当は海に行く事自体が嫌だったんだけど、断るに断れなかったらしくて」
「そうゆう事か」
天子はため息一つつき、髪をかきあげた。それからしばらく沈黙の時間が流れる。張りつめた空気の中、その沈黙を破ったのは僕だった。
「ゴメン。嘘つくつもりはなくて……。いや、何でもない」
「? 何をそんなにガックシしてるのよ」
「だって、嘘ついたよ」
天子は小さく笑うと、優しい目をしてこちらを見た。
「いいよ。水玖ちゃんのために嘘ついたんでしょ? 自分の利になる嘘は嫌いだけど、相手を思う嘘なら私は怒らないよ」
天子はポンポンと僕の頭を撫でるとエヘッと笑った。
「天子、言わないと思うけど……水玖ちゃんの事、誰にも言わないで」
「もちろん」
それから僕らは寄り添うように窓から星を見た。田舎の夜空は星が多く輝いている。自分の家から見ているのに、どこかロマンチックに感じる。
「ねぇ、輝。どうして輝は私の事好きになってくれたの?」
「へ?」
「初対面でいきなり殺そうとしたんだよ? 普通恐がるでしょ」
まぁ確かに天子の事は怖かったけど。
「うまく言えないけど、女神様っていっても女の子なんだなぁって思える事がいっぱいあったからかな。それにひいちゃんや地佳さん、雷夢さんからも守ってくれたでしょ? 本当に僕の事を想ってくれてるんだなってね」
「……恐れ入ったか」
照れで口角が上がって顔が真っ赤な天子。初めて見る彼女の表情、かわいいな。
「恐れ入りました」
「今後もよろしくね」
「こちらこそ」
そして重ねるお互いの唇。実家ということもあり、かなりドキドキする。
「もう寝ようか」
「うん」
温かな胸の高鳴りをそのままに、僕達は音を立てずにゆっくり階段を降りた。




