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神は見通し  作者: 千代 龍太郎
第一章
16/125

15 天子なりの愛情表現

 花屋でお彼岸用の菊を七本買った。いつもなら一色や二色で済ませてしまうが、今回は黄色に白、ピンクに紫と女神様の意見を参考に色とりどりにしてみた。

 両親の悪戯の後、天子達を心配させた事に息子である僕からきつく言っておいた。そして今、夕飯までの間の空いた時間に墓参りに行こうという事になったのである。

 先祖代々、東山家の墓は家から徒歩五分の場所にある。近い日に母さん達が来たのだろう。周りに雑草やクモの巣などはなく、綺麗にされていた。

 買った菊を水玖ちゃんとお供えし、ひいちゃんに点けてもらったお線香も手向け、墓前で手を合わせる。じいちゃんが死んで今年で五年か。月日が経つのは早いものだ。生前は僕の彼女が見たいなんて言ってたけど、連れてきたよ。遅くなっちゃったけど。

「よし、帰ろう」

 じいちゃん、次は冬休みに来るよ。それまで空から見守ってて下さい。

 墓参りで出たゴミを一つの袋にまとめて持ち帰る。

「夕食の時はなにもやらないだろうな、父さん達は」

 食事の時までふざけた事やられたらたまったもんじゃない。

「まぁまぁ、ご両親も久々に輝と会えて嬉しいんだよ、きっと」

「そうなのかなぁ」

 にしては、やりすぎだったけど。

「あら、自分の親を信用できない人は……えい!」

 そう言って天子は僕のわき腹をくすぐってきた。しかも地味に神力を使ってくすぐってきたので、速さが人のそれと訳が違う。

「アッハハハ! ちょ……やめ…」

「ご両親を信用する?」

「する!! する!!」

「……面白いからもうちょっとやってよ」

 おい! 実家に帰ってもドS発動かい! もう笑い過ぎて苦しいのがなくなった気がする。あれ、なんか向こうに綺麗な小川が……。

「ち、ちょっと天子。輝君の様子が」

「え?」

「おわあぁ! に、兄さん!」

「お姉ちゃん、ストップ!」

 ぐったりした僕を見て「ヤバ」と一言放ち、くすぐりを止めた。

「がぁ……ハァ……ハァ…」

 なんとか黄泉の国から戻ってこれた。足りなくなった酸素を目一杯吸って脳に身体に巡らせる。

「ゴメンね。やりすぎちゃった。てへっ!」

 『てへ』じゃないだろ。けど、可愛いから許す。

「ちょ……ちょっといいかしら?」

 今のやりとりを目の当たりにした雷夢さんは妹二人と地佳さんを連れて、僕と天子から少し離れる。

「天子は本当に貧乏神を守ろうとしてますの?」

 雷夢のストレートな問いに三人は苦笑いをした。

「もちろん、してるんだけど……ねぇ?」

「……やりすぎ」

「まぁ、死なせない程度にしてくれれば、私達は二人がどうしようと見守るつもりです」

 三人も雷夢と一緒で疑問を抱いていたようだが、聞くのも野暮な事だと思い、密かに胸の中にしまっていた。

「天子なりの愛情表現なのかもしれません」

「よく分かりませんわ……」

 愛故に半殺しにするなど、雷夢には到底理解できなかった。

「雷夢も……また分かる時が来るといいですね」

 地佳は優しく微笑むと、水玖と火奈の背中を押して、輝達のもとへ歩んだ。

 一人残った雷夢。夕暮れに染まる橙の空を飛ぶカラスの姿を見たのち、大きく息を吐いた。

「そんなの……」

 雷夢は右手で胸を軽く押さえながら力なく呟き、五人の後ろを付いて行った。

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