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神は見通し  作者: 千代 龍太郎
第一章
12/125

11 訪問と誤解

 放課後の教室。一日の授業も終わり、生徒達は部活やバイトなど各々の予定に合わせ、教室から散っていく。

 輝と真のクラスメイトの時雨も、これから習い事の予定が入っている。

 今日出された教科の宿題のノートをカバンの中にしまいながら、ふとある席をチラ見した。

『東山君、大丈夫かな……』

 昨日早退してから今日も欠席をしている。真に聞いても分からないの返答しか返ってこない為、不安が募っていた。

「あ、時雨さん。丁度良かった」

 担任の鈴村エリカ三十歳中盤(推定)は時雨の近くに寄った。

「何かあったんですか?」

「ちょっと、おつかいを頼まれてほしいんですけど」

 そう言って時雨の目の前に、今日一日の授業で使用された配布プリントがまとめて入れられたファイルが出された。

「これを東山君に渡してほしいんです。上杉君に頼もうとしたけど、もう帰っちゃったみたいで。頼れるのが時雨さんしかいないの」

「分かりました。今日は部活はお休みする予定なので行けます」

「ありがとう、助かったわ。これから職員会議なのよ。あ、東山君の部屋番号は二◯二だから。じゃ、よろしくね」

 慌ただしく教室から出ていき、廊下で会う生徒たちに挨拶をしながら、職員室へと向かって行った。

 一人残された時雨は渡されたファイルもカバンの中にしまい、腕時計を見る。

「うん。全然大丈夫」

 会う口実ができ、ちょっと心が舞う時雨は急いで靴箱に向かった。



「暇だなぁ……。学校のみんなはそろそろ下校の時間だなぁ」

 安静にするというものは本当につらい。風呂でも入ってさっぱりしたいけど、この傷だし今は地佳さんと水玖ちゃんが入ってる為、おとなしくしてるしかない。

「それじゃあ日本の歴史と世界の歴史みっちり教えてあげようか?」

 僕の独り言を聞いていた天子が布団の横に座り、意味の分からないドヤ顔をして聞いてきた。

「えっと……できればお勉強以外を」

「一二七四年と一二八一年の二度にわたる元軍の来襲を元冦(げんこう)といい、その時私が吹かせた神風が日本を救いました」

 あの歴史の舞台裏では僕の彼女が活躍していたのか。

「こんなに面白い話がいっぱいあるのに輝は聞かないのかぁ」

 いや、地味に聞きたい。日本は疎か世界にこんな話があるのか。

「他には……」

「密着! ◯◯教師の特別授業。なんてのはどう?」

 ひいちゃんの唐突な言葉にここにいた僕、天子、雷夢さんが凍りついた。

『何を言って……。いや、待てよ、そのタイトルって!?』

 恐る恐る、ひいちゃんの方を見る。彼女が持っていたのは、僕が処分した中にこれだけはと残していた秘蔵品!

「火奈! 一体何を言ってるんですの!?」

「ひいちゃん、どこでそいつを?」

「兄さんの机の引き出しの裏」

 しまった。すっかり忘れていた。そして、気まずい。果てしなく気まずい。

「火奈、ちょっと見せて」

「どうぞ」

 え、天子見るのかよ!? どさくさに紛れて雷夢さんも見てるし!?

 本の存在と閲覧していたという結果は免れないが、被害は最小限に阻止せねばならない。

『恐怖というのは過去からやってくる』

 人気少年漫画の敵の心情がよく理解でき、まさしくこのセリフが合う今日この頃。

 布団から起き上がり、本を持つ天子に一直線に向かう。

「す……すごく、ハレンチですわ」

「必見。◯◯の〈ピー〉が丸出し」

「音読すなー!」

 恥ずかしいったら、ありゃあしない。早く取り返さないと、どんどん被害は大きくなっていく。

「男の子だねぇ。うんうん……」

「やかましか!」

 もし、今風呂に入ってる地佳さんが出てきて、彼女の手に渡ったら何と言われるか。考えただけで末恐ろしい。

「追い詰めたぞ」

「〈ピー〉の〈ピー〉が」

「ぬああああ」

 天子に飛びかかった。下はベッドだ、安全だ。

「キャッ!」

 やった! ようやく捕まえた。

「ほら、さっさと……」

〈ドサッ〉

 何やら玄関から物音がした。ゆっくり振り向くと、そこにいたのは制服を着た女子。時雨さんだった。

『時雨さん!? なんで!?』

 さて、今の僕の状況を振り返ってみよう。学校の寮で女の子複数と暮らし、僕が天子をベッドに押し倒す。どう考えても誤解される。

「あ……あの、私……その…あの……ご、ごめんなさい!」

 逃げ出す時雨さん。先生や彼女の友達に言わないとは思うが、これは追わないとマズイ。

「待って、時雨さん! 天子、時雨さんを連れてくるの手伝って!」

「連れてきてどうするの?」

「誤解をとくんだよ。みんな協力して!」



 その後、何とか時雨さんには再び部屋に入ってもらったけど、かなり気まずかった。

 時雨さん、テーブルを挟んで五人の女神様達。彼女らを東、西に分けるなら、僕は行司の位置にいた。

「あ、今お茶でも……」

「大丈夫」

 立ち上がりから、再度正座になおる。ああ、ダメだ。いつまでもこうしてたって埒があかない。

「時雨さん。全部を説明するけど嘘でもふざけてもいない事を約束するね」

 時雨さんは黙って頷いた。

「まず、こっちの五人。彼女達は女神様なんだ。僕の隣から天空の神の天子。水の神の水玖。火の神の火奈。雷の神の雷夢さん。地の神の地佳さん」

 紹介し終えてから五秒。また沈黙が流れる。

「神……様?」

 時雨さんは眉間にシワを寄せ、半信半疑といった様子だった。

「水玖ちゃんとひいちゃん、神力を見せてあげて」

 妹二人は二つ返事で神力を披露した。

 ひいちゃんは人差し指からマッチの火くらいの大きさで、理科室のガスバーナーのような勢いの火を着火させ、水玖ちゃんは掌から水を溢れ出し、空いたもう片方の手でその水を氷にしていった。

「嘘! 本当に!?」

 本当なんです。最初は僕も驚いたよ。まぁ、あの時は生きるか死ぬかの瀬戸際で大変な思いをしてたけど……。

「信じてくれた?」

「うん。まだ頭の整理ができてないけど。ねぇ、どうして東山君と神様が一緒に暮らしてるの?」

「その質問には私が答えます」

 地佳さんはスッと手を挙げ、時雨さんに分かりやすく丁寧な説明をした。途中、先程見せてしまったベッドの事も正直に僕から話した。

 時間にして三分もかからずに僕の事、神引きの事、神様の事、これからの事など全てを説明した。

「……そうだったんだ」

「ごめん、今まで黙ってて」

「謝んないでよ。私だって貧乏神になってたかもしれないんだから。それに正直に言ってもらえてよかった」

 時雨さんの表情にまた笑顔が戻った。

「あ、もうこんな時間!」

 壁にかかった時計をおもむろに見た時雨さんは急に慌てだした。

「今日は習い事?」

「うん、これからね。東山君は明日学校来られる?」

 どうなんだろう? 水玖ちゃんの方を見てみる。

「傷の治り具合を診てからね」

「だそうです」

「分かった。無理しないでね。天子さん、火奈さん、水玖さん、地佳さん、雷夢さん、これからもよろしくお願いします」

「うん。こちらこそよろしくね」

「よろしくお願いしまーす」

「よろしく……」

「よろしくお願いします」

「今後ともお見知り置きを」

 玄関で見送り、ドアが閉められた。

 いやぁ、一時はどうなるかと思ったけどなんとかなった。

「とりあえず、一件落着かな」

「いいえ、まだですよ輝君。私とちょっとお話ししましょうか」

 天子とは違ったオーラを背中に感じつつ、僕はお説教された。

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