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神は見通し  作者: 千代 龍太郎
第二章
110/125

59 光と影、相反する神力の戦い(中編)

 光と影のラッシュは続いた。お互い防御しつつ、相手の手薄の部分を狙う集中力を欠いた方が攻撃を食らうシンプルな状況。

表裏(おもてうら)の神力とはいえ、ここまで似てるなんて驚いたよ」

「……くっ!」

 正直なところ、真には余裕がなかった。明はこの針ラッシュを得意としているのに対し、真は初めて連続で射出している。

『やべぇ……。この速さ比べ、想像以上に神力を消耗する。これ以上これに付き合ってたら、俺の神力がなくなっちまう。もう何発か食らうの覚悟で近距離戦に持ち込むしかねぇ。……行くか!』

 影のラッシュを出しながら真は走り出した。しかし出しているといっても、走り出す前のそれと比べると明らかに攻撃の手数が減っている。

「フムフム。間合いを詰めて得意な鎌による攻撃で勝負を決めると。……でもね」

 明はチラッと真の足を見る。彼が逃げながら射出する影クナイは腹から下は生成されていない。この隙を彼女は見逃さなかった。

『もう一度、その軸足に刺してあげる』

 狙いは真の右膝。狙いを定め、放たれた針は合計十二本。その全てが狙い通りの場所に命中した。

「ッ!?」

 上げた足が丁度地面についた時に刺された。踏ん張りが利かず、真の身体はガクンと右に態勢が崩れる。

「ゲームオーバー。ハリセンボンになりなさい」

 真にトドメを刺そうと明は両手を上げた。両手はポウッと光り輝き、その明るさは次第に強くなっていく。

「……それはどうかな?」

 万事休すかと思われたが真は至って冷静だった。真は態勢を崩し、床に倒れようとする身体をそのままに、手から影を伸ばして明の影と重ねた。すると真は伸ばした影を『スパイダーマン』のスイングのように地面を滑り、明の背後に周った。

「な、なんだと!?」

 明の放った攻撃は獲物のいない床に着弾し、粉塵を巻き上げるだけとなった。攻撃が失敗に終わっただけでなく、あまりの予想外な動きに動転し、明は真が忍ばせていた影クナイを見逃していた。

 ついに見せた明の隙。この瞬間を待ち侘びた真はここぞとばかりに生成していた影クナイを連続五本を投げた。

「ぐぁ!?」

 放った影クナイは明の脇腹、背中に全て命中した。針ほど多くはないが一つ一つの刃が大きい。食らえばダメージはこちらの方が上だ。

「お前の影をアンカーに利用させてもらった。シャドースイングってところかな。お前がピカピカ光ったおかげでハッキリとした影で幸いしたぜ」

 明は無言で真を睨みつけながら刺さったクナイをゆっくりと抜いていく。

「そうは言っても、君の膝に針を食らった事実は変わりない」

 クイッと人差し指を動かすと真の膝から針が飛び出した。飛び出す瞬間は顔を歪めるが、声は出さなくなった。痛みに慣れたのだろうか。真は冷静に膝から出た針を抜くと、鎌を構えた。

「相手に不足はねぇなぁ」

「それに関しては認めてあげる。君は本当に面白い存在だよ。敵じゃなかったら、コンビを組みたいくらいにね」

「俺は嫌だね」

「あらあら。それは残念」

 とても残念そうには聞こえない。今度は何を企んでいるのか。真は明の動きに細心の注意を払い、警戒を怠らなかった。

「でも気付いた? 君が自分の芸術作品になるのに、あと百本。これは君の身体に潜行して中から針串刺しにする必要な本数」

「多いな」

「どう捉えるかは君次第」

「なら、俺も一つ言わしてもらう」

 ポケットからタバコの入った箱を取り出し、一本口に咥え、火をつけた。肺の奥深くに煙を入れ、それをゆっくりと吐き、まだ吸い始めだというのにその吸い殻をポケット灰皿に入れる。

 たったひと呼吸の喫煙だけでも気分がだいぶ落ち着く。真はすっきりとした表情を浮かべるも顔は引き締め、明に向かって睨みをきかせた。

「俺はこの戦いに勝って輝と合流する約束をしている。下界で帰りを待ってる人もいる。何がなんでも生きなきゃならねぇ。お前らが最高神の下に正義掲げて俺らを殺るならよぉ、俺らは悪としてお前らを殺る」

 真は左手を前に出すと、その手をグッと引き寄せる動作をする。その刹那、明の影から大、中、小の人型の影が一体ずつ現れ、それぞれが違った高さから手刀を放った。

「ほうほう、悪なら悪らしく勝つ為なら貪欲になる。姑息な手を使っても……って事か」

 明は影の手刀をジャンプで避けるが、この瞬間を真は見逃さなかった。高く飛び、空中に逃げた明目掛けて真は鎌を振るう。死神が最も得意とする技、鎌鼬を放った。

「空中じゃあ身動きが取れねぇだろ!」

 鼬の形をした四つの斬撃が明に向かって一直線に駆けていく。対して宙を舞う明は追い詰められているにも関わらず、余裕な笑みを浮かべていた。

「自分の攻撃は針飛ばしだけじゃない。牙猫(がびょう)

 彼女は徐ろに手のひらを前に出して四つの光の玉を出すと、それを向かってくる斬撃目掛け投げつける。すると光の玉は徐々に形を変えて猫の姿になった。

「俺の技にそっくりだと!?」

 神力の攻撃方法が多少似ているのは承知していたが、まさかこれまでとは思わなかった。

 鎌鼬の斬撃と明の神力、それぞれの射線が一致した。

相殺(そうさい)させる気か!?』

 二つの攻撃が重なった。その瞬間に生まれる衝撃と突風が真の身体を通過していく。

「そっくりだけじゃない。光は影を照らす」

 勢いそのままに、明の放った光の猫は今度は真目掛けてやってくる。

『相殺されてねぇ! 掻き消された!』

 自分の攻撃だけが綺麗に消されている事に納得いかないが、文句を受け付ける者は誰もいない。真は舌打ちをしながら鎌で防御の構えを取る。

「な!? 速ぇ!?」

 四つのうち、対処できたのは一つだけ。残りの三つはトリッキーな動きをしながら真の身体に食らいついていく。

「うぐ!?」

 腕に脇腹に肩に食らった。今までの蓄積されたダメージも相まって、真は意識を一瞬失いかけた。鎌を持つ手に力はなく、するりと指から抜け、床に音を立てて落ちると黒い光となって消えていく。

「まだまだ」

 空中を舞う明は右手に光の針を結集させて竹槍程の太さ、大きさの針を生成した。地面に着地すると、そのまま地面を蹴って滑空し、真の胸倉を掴む。そしてその針を真の身体を貫いた。

「ガはッ……!!」

「ジ・エンドね。……それにしても残念。意外と自分好みの男だったのに」

 明はお互いの吐息が感じる程に顔が近づけ、真の顔をまじまじと舐め回すように見る。これから殺す好みの男の顔を目に焼き付けようとしているのか。

『参ったな……こりゃ。感覚がどんどんなくなっていく』

 明の言動や行動には目もくれず、真は薄れいく意識の中で迫ってくる死への感覚に妙な親近感と冷静さがある事に驚いた。

「見える? あと一本、この針を君にブスリと刺すだけ。それで自分の芸術作品になれるのよ?」

 真は霞む目で明が摘む針を見た。キラキラと輝くまばゆい光。今の真には眩しく感じる程だった。

「どう? 怖い? ……フフフ、最期に何か言いたい事はある?」

「あぁ……一つだけ……な……」

 荒い呼吸はそのままに、真はゆっくりと顔を上げると明の目を見た。

「深海って……知ってるか?」

「……は?」

 死を間近にして錯乱したのだろうか。この状況で何を言ってるのか明には理解できなかった。

「日光なら……水深二百メートルで海面の一%以下になり、水深千メートルで……百兆分の一程度の光となる。……それより先は暗黒の世界なんだってよ」

 真の意味不明な言動に明は言葉を失った。憐れだとか呆れだとかではなく、単純に何を言ってるのか理解しようとした結果で意味不明と答えが出たのだ。

「……人生最期の言葉になるかもしれないのに随分くだらない事を言うのね。まぁ、君がそれで言うなら別にそれでいい──」

「お前に……暗黒を見せてやるよ」

 真は悪巧みを狙う過去の死神、宮城のような不敵な笑みを浮かべると神力を解放した。途端に真の背後からブワッと影が拡がっていく。

「こんなにボロボロなのに、どこからそんな力を……!?」

『いや、死神の底力なんて今はどうでもいい。この針を刺すだけで……!』

 明は最後の一本を突き刺そうとするが、鼬の最後っ屁ともとれる真の蹴りによって、それは阻止された。

晦冥(かいめい)、夜の(とばり)

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