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黒衣の主と七色の従者  作者: キロール
プロローグ
4/21

ウアト

 目覚めた黒衣の男は深淵を調べる事にした。このままここでじっとしていても死ぬ以外に道が無いからだ。目覚めた以上は、黄金瞳の男に借りを返すために足掻かなければならない。


 だが、深淵の探索は明らかに困難である。光届かぬ真の闇では、男の視界は全く効かない。如何なる生命が住んでいるかも不明であり、対抗する術は限られている。それに、今現在は呼吸自体は可能だが、危険なガス溜まりにでも足を踏み入れればひとたまりもない。


 第一、今、手元に飯が無い。


「詰んでるな」


 この先食料が手に入らなければ、活動可能時間は二、三日と言った所かと肩を回し男は呟く。鳴り響く関節の音にか、呟き声に反応したのかは不明だが、七色の泥土が揺れ動きながら、ノロノロと動き出す。


 男がそれを見送っていると、ある一定の距離まで動いてからは、如何にも男を伺うようにその場に佇んで、ふるふると揺れている。


「……なんなんだ?」


 命の恩人(?)である七色の泥土が、まるでついて来いと言っているように思えて、そんな自身の思考に毒づきながら、男は後を追う。


 それを確認した七色の泥土は、男を誘い、深淵の地に多く偏在する奇怪なロケーションに黒衣の男を誘た。


 その旅路とでも呼ぶべき行程は、黒衣の男に多くの智慧を与えたが、何かを知る度に男の中で何かが壊れて行った。


 例えば、光差さぬ深淵に刻まれた文字めいた紋様が、七色の泥土の輝きに浮かび上がるのを垣間見た男は、そこに描かれた文字と言うよりは刻んだ物の真意を汲み取り、魔甲なくとも肉体に変容が生じない魔術の使用法に気付く。


 それは、黄金瞳の男と同じ地平に足を踏み入れたことを示していた。


 幾つかのロケーションでは死の危機に陥りながらも、七色の泥土の力を借り、如何にか切り抜け、多くの恐るべき知識を得るに至った。


 最後に桃色のガスが噴き出す祭壇めいた巨石の連なりにたどり着く頃には、それが何を祭る物か。誰を祭っているのか、そして、その対象は誰であるのか明確な物となったのだ。


「お前は、待っていたんだな。この悪環境に耐え、知恵ある者が己の名前を呼ばわるのを」


 全てを案内終えた七色の泥土は揺らめきながら、そう呟いた男の前に佇む。


 男は、これから行う事に対する危険を既に熟知していたが、この深淵を抜け出す為にはどうしても必要な事であった。


 いつまでも、七色の泥土から栄養を貰い、それを還元すると言う不毛なサイクルに身を浸している訳にも行かない。


 何より、この深淵より這い出ない事には、黄金瞳の男に借りを返せない。


「遥かなる宇宙ソラより落ちし魔王、魔城の主、七色に輝く女王、時間と空間を歪める者、ウアトよ。その戒めを解き、我が前に姿を現せ」


 一瞬の静寂の後に、黒衣の男の身体すら吹き飛ばそうと言う暴風が吹き荒れる。男の纏う魔術礼装でもある黒いコートが狂ったように風にはためく。


 風が過ぎ去った後も、深淵内に渦巻く三つ気流は、荒れ狂う三首の龍が戯れる様に上空に首を伸ばして、絡まり合っているかのよう。それぞれに炎や雷、それに水の魔力が渦巻く大気の奔流が周囲を舞い、煌々と深淵を照らし出す。


 荒れ狂う風も渦巻く気流も、不思議な事に全く音を出す事は無かった。そう、全ては静寂の中で起きているのだ。


 男のはためくコートが落ち着きを取り戻す頃、不意に高らかにラッパに似た音が鳴り響く。

 その音色は出鱈目であり、狂ったように吹き鳴らされたラッパの音色にフルートやヴァイオリンの音色も混ざりはじめ、苛立つような射竦むような不協和音が男の周囲を満たした。

 奏でられる不快な音色に混じり、深淵を一層に淀ませる重苦しい気配が遂に姿を現す。

 男が重苦しい気配に胸元を抑えながら、七色の泥土が居た場所へと視線を向けると、そこに彼女が立っていた。


「クィーロ・ルスティア、敗軍の将。深奥に迫り、最奥に届き得た大魔術師。偉大なる戦士にして、深淵を生き抜いた者。――我が主よ」


 魔力の奔流が照らし出したのは七色の泥土ではなく、褐色肌に金の髪、右目は青く、左目が七色の光を放つ年頃の女の姿だった。


【続く】

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