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黒衣の主と七色の従者  作者: キロール
プロローグ
2/21

深淵に堕ちる

 敗れた。


 そう自覚する前に黒衣の男は喀血して、よろめいた。


 だが、まだだと、ここに至るまでに倒れて行った部下達、今尚、囮として奮戦しているであろう仲間を思い、気力を奮い立たせる。


 ロムグの地に生きる者達の為にも負けられぬ!


 零れ色褪せていく己の命に鞭打ち、四肢に力を籠めなおす。


 そして、屈しかけた膝に力を込め体勢を立て直しながら目の前の敵を……黄金瞳の男を睨む。

 

 だが、件の敵は既に次の行動に移っていた。


 その手の甲に埋め込まれた魔術武器ライト・アンド・ダーク――異様な陰陽紋とコンパスが入り混じった見目の奇怪な武器が力を開放し、その腕をアカシャ色に染めた。第五元素アカシャ、空の色、エーテルその物の色。つまり暗紫色に。


 黒衣の男はまずいと歯を食いしばり腕を持ち上げクロスさせ、その一撃に耐えようとした。腕に魔力を注ぎ結界の構築を図る。


 既に魔甲が破壊され、生身で戦っているので下手な魔術は使えば体が変容する!

 これで耐えきれれば……。その思いが無意味である事は先刻承知しているが、それでもそう思わずにはいられない。


 槍の穂先の如く鋭い貫手の一撃が黄金瞳の男より放たれた途端、全てを吹き飛ばす圧倒的なまでの力の奔流が男を襲い、垂れ流す血も涎も奔流に吹き飛ばされ、背後に散っていく。


 荒れ狂う魔力の奔流をそれでも堪えた男の胸を、クロスした腕ごと奔流に紛れ気配を消しながらも強烈な一撃が打ち抜く。


 尋常ならざる衝撃に一瞬止まった心臓。


 数多の武勲を誇る黒衣の男も堪えきれず奔流に吹き飛ばされ、砕かれた腕や、迸った鮮血と共に奈落に続く大穴へと落ちていく。


 本来は黄金瞳の男を、眼前の敵を封じるためのロケーションが、文字通り墓穴となるとは。


 皮肉な事だと唇の端を吊り上げ、何処までも続く奈落の底へと落ちながら男は嗤った。砕けた両肘の先から噴き出た鮮血が、光差さぬ大穴の空中に、落ちる男の航跡となって一瞬残った。


「これが最後か……」


 奈落の底、噂でしか知らぬ迫りくる深淵は、多くの戦を経験し、戦闘魔術師たちを率いてきた黒衣の男にも諦めと絶望を与えかけた。


 そのまま、如何ほど落ちたか分からないが、地面が見えた。


 そこで黒衣の男は双眸を見開いて驚きを露わにする。


 意識を失う直前ではあったが、はっきりと見えたのだ。深淵に蟠る七色に輝く泥土が。


 それが、まるで生き物のようにゆっくりと隆起した。そして、それ目掛けて落ちていく黒衣の男を抱き留めるかのように伸び、黒衣の男に絡み付けばその身は七色の泥土に包み込まれた。


 不思議と息苦しさも痛みもなく、ただただ七色が目に煩かった。


 奇妙な最後だと、黒衣の男は内心ボヤき、意識を手放した。


 気を失えば暗闇が訪れる筈だが、男が直面したのは一面七色の闇……そうとしか形容できぬ物であった。


【続く】

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