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黒衣の主と七色の従者  作者: キロール
第三話、魔の城よりの刺客
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水鏡

 魔術師『赤い竜』との戦いに傷付いたクィーロは、上空で行われているウアトとその妹サヌアの戦いやその推移を詳しく知る事は出来なかった。


 彼はただ、ぼんやりと上空を眺め、そして落ちてくる存在に気付いただけだった。


 波打つような金色の髪よりも尚目立つのは、その下半身。スカートと思しき布地より垣間見える数多の触腕である。その上空には慌てたようなウアトの姿が垣間見え。


(これは……?)


 一体どういう状況だと思いながら、ふと思い出すのは幾つかの物語だ。空より娘が降ってくる。その様な物語が幾つかあるのだ。


 物語ではそれは美しくも恐ろしい魔城の姫であったり、大地を造りし神の眷属であったりと様々だが、現実に降ってくる存在はそれらの物語とは違い、今すぐ動かなければ命が危ないとクィーロに思わせるに足る勢いがあった。


 大地が物体を引っ張る力には、異形と言えども逃れられぬ様だ。ましてや意識を失っているようであれば尚更に。


 一瞬でそこまで思考したクィーロだが、それ以上に彼の身体は俊敏であった。


 クィーロが気付けば、既に降ってくる存在の落下コースから逃れるべく後方に飛んでいた。


 クィーロが宙に舞い着地してから時間にして数秒のタイムラグの後に、先程までクィーロのいた場所にその存在が降って来た。


 激しい物音と共に土埃が舞う最中、クィーロは衝撃を感じながらも落ちてきた存在をつぶさに観察した。大地に叩きつけられて尚、傷を負う様子すらなく五体――そう称して良いのかは分からないが――は無事な様子。


 その頑強さに舌を巻きつつも観察を続けると、大地に叩きつけられた事が逆に気付になったのか、降ってきた存在が指先に力を込めるのを視認した。


 その上体を起こして、緑色の双眸でクィーロを認めると、ウアトに似た所の在るその美しい顔を歪ませた。


 が、何故かクィーロをじっと見据えたまま動きを止めてしまった。


 それが、己の灰銀の瞳を覗き込んでしまったからだと言う事には、クィーロは気付かなかった。



 サヌアが大地に叩きつけられた衝撃で目を覚ましたのは、僥倖と言えた。程なくして上空からウアトが――恐るべき魔王が彼女を滅ぼす為にやってくるからだ。


 急ぎ迎撃の態勢を取らねばと起き上がった所に見知らぬ人間を見つけ、そしてその灰銀の瞳を覗き込み――恐怖した。


 その恐怖が何を意味するのか? その理由は程なく知れた。


 それが、目の前の人間が魔力の痕跡に七色が混じっていた魔術師であると悟ったからだ。


 いや、それだけであるのならば恐怖まではしなかっただろう。


 その灰銀の瞳が、まるで水鏡の様に己を映している事にサヌアは恐怖した。


 そして思い至るのはウアトが先程口にしていた主との言葉。


 ウアト程の者に忠誠を誓わせると言うのであれば、この見てくれは人間の魔術師は――黄金瞳の男と同様に、あるいはそれ以上に危険な存在では無いのか?


 ……いや、今恐怖を抱いたのはこの男に対してではない。そうだ、銀の瞳に映る己に対してだ。


 嘗ての主に牙を剥くと言うのに、現状を守る意思すら希薄な自分自身の醜さを、水面の如く映し出されて恐怖したのだ。


(この者は何だ?)


 今まで鏡を見たとて、そんな感慨など浮かんだ事はなかった。


 だが、水面の様に静かな瞳に映る自分自身を垣間見て、サヌアは恐怖したのだ。


 

 一方のクィーロは、己を見て動きとを止めた存在を静かに見つめ返していた。


 これは多分、魔城に住まう者だろう。そうであれば、ウアトを討つ為に放たれた刺客と言う事になる。ウアトを討とうと言う奴だ。まともに攻撃を受ければ、死を迎えるより他はない。


 死ぬ事は避けたい。死んでしまえば、黄金瞳の男に借りを返す事が出来ない。それは御免だ。


 では如何するかと逡巡した際に浮かんだ言葉がる。


 水鏡みつかかみ、ロムグの大地の極東に位置する島国カオルーンの剣士より聞いた言葉。


 敵と相対した際に心穏やかに相対し、無想の内に打ち込み勝利する事を理想とした流派が伝える奥義。


 心構え一つで死地から転じてチャンスにする教えと解釈したクィーロであるが、今なら或いはその境地に至れるやもしれぬ。


 何せ、心残りは一つだけ。


 復讐の一文字だけなのだから。


 その為に今はそれすら投げ捨て、無想のままに相対すれば――。


 そう考えた結果、心静かに、ただただ相手を見据え続けた。



 互いに見つめ合う魔術師と異形。

 

 その時間は僅かな物でしかなかったが、上空より降り来るウアトが動きを止めているサヌアの首を狩るべく着地と同時に手刀を振るわんと腕を上げて大地に降り立つと同時に、サヌアはクィーロに頭を垂れて告げた。


「御見それしました――」


 突然の成り行きにウアトは片腕を上空に向けたまま固まり、クィーロも流石に苦笑を禁じ得なかった。


 そして、その光景を遅れてきたイリナやラゾが見てしまったのだ。


 そこに大きな齟齬そごが生まれる要素が出来てしまったが、今のクィーロとウアトには分からぬ事であった。


【続く】

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