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黒衣の主と七色の従者  作者: キロール
第三話、魔の城よりの刺客
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姉妹と言う名の主従

 ウアトが肩を貸していたクィーロを大地に降ろして、慈愛に満ちた眼差しで休む様に伝えたのは、追跡者に気付いたからだ。


 人間が数名と魔導人形達(マジックドールズ)と呼ばれる人形数体。それに、己の血族の誰かが迫った居る事も気づいていた。


 ウアトにとっては、人間や魔導人形達(マジックドールズ)達の事が気に掛かりはしたが、魔城よりの追跡者については手早く始末しようと冷淡に思うだけであった。


 空の高みにある魔城より見下ろしていた時も、地の底で不定形の何かに身を堕とされていた時も、人やそれに類する者にこそ彼女は気にかけてきた。


 その一方で、同属とも呼べる者達には非常に冷淡に接してきたし、それは今も変わりはない。


 反乱を起こされ、鎮圧できなかった時は力無き者が支配者である事は出来ないと然程の抵抗も無く深淵に投げ落とされたが、今は違う。


 魔城の者がクィーロとの旅路を邪魔するのならば、確実に屠らねばならない。ただでさえ、黄金瞳の男(ゴールデンアイ)と言う厄介な敵を相手にせねばならないのだから。


 ウアトは自身の同属が非常に厄介である事を理解している。


 その厄介さがクィーロの旅の障害となると言うのならば、確実に排さねばならない。


 何より、ウアトは深淵より戻り来た。確実に返礼はしておかねば納得は出来ない。少なくとも、クィーロを生かすためにその身に取り込み、その思考の一端に触れたウアトは強くそう思うのだ。


 復讐するは我にあり。


 クィーロに向けていた視線を上空に向け直せば、隻眼に暗い感情を湛え、ウアトは軽く大地を蹴った。


 音もなく、しかし、尋常ならざる速度で重力を無視し、スカートを靡かせ上空へと飛び上がる姿を、クィーロは呆れたような眼差しで見つめていた。


 

 一陣の風より尚速く、ウアトは『彼女』のいる高高度まで飛び上がり、一撃で勝負を決しようとしたが、七色を帯びた手刀は生憎と『彼女』の首を撥ねるに至らなかった。


 『彼女』の双眸に驚愕の色を見て取り、流石に侮り過ぎだと侮蔑的な笑みを浮かべウアトは言い放つ。


「この程度の一撃に驚きを覚えよるとは。それでもわれ同胞はらからかえ?」

「ウアト様――今の世に貴方様の居場所はありませぬ。今一度、深淵にお戻り願いたく馳せ参じました……」

「はははっ、未だにわれを恐るるか。愛い奴らめ。――だがな、断る。われは主の復讐を手助けするのだ。それに、汝等うぬらの抱く恐怖を、現実のものにせねばなるまいて」


 尊大にして古風な物言いのウアトは、正に魔王の如く『彼女』と相対している。その威圧感をまともに受けながら、しかし、『彼女』は全く別の事に驚きを禁じ得なかった。


「あ、主?」


 ウアトの予想外の一撃にすら対処し、精々双眸に驚きを垣間見せただけの彼女が、声を上ずらせて、この状況下であまりに無防備に驚いて見せた事が、ウアトには不愉快であった。


「何だ。われに主が在るのがそれ程おかしいか!」

「――ウアト様――いえ、姉上……。これを驚かずに居れましょうか! 貴方様の他に、貴方様の主が在るなどと……。もしや、その主とは魔術師では?」

「痕跡を追ってきた故に分かるか。そうだ、われの主は魔術師クィーロ・ルスティア様に他ならぬ。――サヌアよ、興が覚めたわ。ね」


 その言葉に、今度こそ『彼女』ことサヌアは一瞬背中の羽を動かす事すら止めて驚きに固まった。魔王ウアトが、敵を前にして興が乗らぬから去れと言うのだ。あのウアトが。


「――」

「つくづく無礼な奴め。早うね。旦那様は手負い故に、この様に側を離れているのは不愉快だ」


 サヌアは、続く言葉にぐらりと視界が揺らぐような心地を覚える。旦那様? 今そう言ったのは誰だ? ウアトだ。目の前のこれは本物か? いや、騙りなど出来るはずもないし、何より血族である己には目の前の不可解な言葉を連発する存在が姉であることは疑いが無い。


 サヌアの驚愕を他者が推し量るのは難しい。だが、それが如何程の驚きであったのかは、誰の目にも明らかになる。


 『彼女』は、サヌアは羽ばたくのも忘れてしまった為に、不意に重力に引かれ地面に向かって墜落を始めた。上半身は人と同じような形ながら、下半身は多足の海洋生物の様に数多の触腕を備えた姿だ。その重さは相当な物だ。


 その体が一度重力に引っ張られては、早々に態勢を立て直せる筈もなく。また、ウアトを見据えたまま暫し落ちて行ったために、尚更に立て直せず。あれよあれよという間に大地に落ちて行く。


「――そ、そこまでか――。いや、それよりも旦那様が!」


 以前を知る者が今のウアトを知るとここまでのショックを受けるのか。その実例をまざまざと見せ付けられたウアトは、聊かショックを受け。そして、地上のクィーロに危険が迫ると我を取り戻せば、昇って来た時の様に速やかに降下を始めた。


【続く】

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