表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒衣の主と七色の従者  作者: キロール
第二話、人形街の攻防
12/21

魔術師

 魔導人形達(マジックドールズ)は、混乱を来しつつあるこの現状の中でも、何を成すべきか明確にしていた。人質の解放と襲撃者の撃退。


 最も脅威となりうるのは、今、空より来る赤い魔甲の魔術師。魔術師としての名を『赤い竜(ルーベル・ドラコ)』。彼等、魔導人形達(マジックドールズ)の生みの親であり主人である『人形遣い(マスター)』を殺した憎き相手。


 だが、今の主の危機を放って憎悪のままに『赤い竜』に戦いを挑むことは彼等には許されていない。心とでも呼ぶべき物がその様に作られているからだ。


 複雑で小さな歯車の集合体を魔力エーテルが動かす魔導人形達(マジックドールズ)。歯車の集合体はブラックボックスと呼ばれる黒い箱に収められ、彼等の体内に埋め込まれている。それが各人の脳の役割を担っていた。其処に魂が宿っているのかは不明だが、心、の様な物は宿っていた。


 十体の魔導人形達(マジックドールズ)の内、五体が赤い竜の来襲と共にドールタウンより飛び出して、人質であるイリナと敵であるラゾの元へ駆けた。


 残った五体は迫りくる脅威より街の人間を逃がそうと避難指示を行うべく街に留まる。



 リュンクス(大山猫)の名で呼ばれる魔導人形(マジックドール)は、肩口まで伸びる金色の髪を靡かせて、端正な顔を必死の形相に歪めながら駆けた。そのすぐ後を続くのはぼさぼさの黒髪と目つきの悪さが目立つヒュストリクス(ヤマアラシ)


 彼女らは真っすぐにイリナとラゾの元へと駆けた。その最中、不意に背より衝撃を感じて彼女たちは吹き飛ばされた。宙でくるりと回り体制を整え着地したリュンクス(大山猫)と転がりながらも無事に立ち上がったヒュストリクス(ヤマアラシ)が背後を見やると、大地が抉れていた。


 少し遅れて駆けていたガゼッラやルトラと言った残り三人の魔導人形達(マジックドールズ)の姿はなく、一瞬で焼き払われた事を二人は悟る。それでも、呆然とする暇すら惜しみ、成すべきことに変わりはないと再びイリナとラゾの元へ駆けだす二人。多くの仲間を失った過去が、脳裏を過る。それでも、成すべき事があるのだ。


 一瞬だけ振り返った彼女らの目には、ドールタウンにも『赤い竜』の魔術の力が降り注いでいるのが見えた。同胞の死と同じくらいに歯車が砕けそうな光景だが、今は最優先にすべきことを行うのみ。



 一方、喧騒と言うよりは狂騒に溢れ返った街を横切り、人気のない牢に赴いたのは短く刈り上げた金髪の巨漢ウルスス()と呼ばれる口数少ない男性タイプの魔導人形(マジックドール)。彼は牢に囚われている一人の女を救いに向かたのだ。


 コノト、街の指導者である少女イリナの良き理解者。外を知り、街の異様さにも気づき年若い友を救うべく立ち回った彼女。結果は指導者が賊に捕まると言う事態になってしまったが、この現状の中、座して死を待つような事をした訳ではないと言うのが彼の考えだった。


「コノト、敵の襲来だ。動けるな?」

「……ウルスス? この喧騒はあの賊がまた来たからじゃないのね」

「ああ。三百年前の再来だ――赤い竜が来た」


 魔術師『赤い竜』についてはコノトは知らない。ただ、黒く艶やかな髪を一つにまとめて動きやすい様に準備を整えた。


「何かは分からないけれど、魔導人形(マジックドール)である貴方が恐れるのならば、とても恐ろしい事なのでしょうね。――行きましょう」


 多くを問わず時間の浪費を避けたコノトにウルススは僅かに湾曲した優美な剣を差し出した。


「――取り返して置いた」

「感謝します」


 一瞬微笑みを浮かべてコノトは礼を述べ、その剣を腰のベルトに佩いた。


 二人がその場を離れて数分とせずに、火球が牢に降り注ぎ周囲を焼き尽くした。



 この様に『赤い竜』は初手で破壊をまき散らした。クィーロ・ルスティアとあの街が手を結ぶことは危険だ。如何に資源乏しいこの世界であり街は貴重と言えども手を結ぶ恐れがあるのならば潰すしかないと考えたのだ。


 街一つ潰すのと、魔術師一人屠るのと何方が楽か。本来ならば言うまでも無く後者だ。だが、敵はあのクィーロ・ルスティア。黄金瞳の男(偉大なる首領)に魔術武器を使わせた曲者である。


 或いは当時のままであればそこまで警戒は必要無かったが、『赤い竜』が万が一に備え人の死体と土くれで作り上げた守護者を、如何やら一撃で屠ったと知れば一気に警戒感は増すと言う物だ。あり得ない。だが、あの男ならばやらかすかも知れない――三百年前からそう思わせる何かがクィーロにはあった。


 故に、遠方のテームの地よりロムグの大地へと使い魔(ドラゴン)を駆り、街の無力化を狙って数名を唆していた悠長な計画ゲームを変更し、完全なる破壊へと切り替えた。


 大魔術「多頭竜の大炎」で全てを焼き尽くせれば楽だったが、早々上手くはいかないかと、『赤い竜』は五度目になる魔力を乗せた拳の一撃を放つ。迎えるのは艶の無い黒色の魔甲で覆われたクィーロの拳。


 魔力のぶつかりで生じる衝撃波と不協和音が周囲に迸るが、降り注いだ炎が周囲の余裕を奪い、彼らの戦いを見物させるような時間は与えない。その筈であった。


 空中で三度、拳を叩きつけ合い、弾かれ合いながらも大地に降り立った二人は、大地の上でも既に二度この様に拳をぶつけ合う。これは、ある意味では意地の張り合いでしかない。魔術とはエゴを通す事。その我を乗せた一撃を互いが弾かれたと在っては引くに引けない。


 次の攻撃手段の転じた方が良いのだろうが、『赤い竜』には引き下がる気は全くなかった。如何やらそれはクィーロも同じようで、今回は魔力のぶつかり合いにも、それによって生じる衝撃に弾かれる事なく、拳と拳を突き合わせたまま互いに魔力を注ぐ。


 互いの腕から魔力が蒸気の様に立ち上り揺らめく中、ぎしぎしと魔甲が軋む音を響く。彼等が足を付けて拳を突き合わせる場所の土や小石が、ぶつかり合う魔力の余波で浮かび上がり、大地がその力に耐え切れず亀裂を走らせ彼等の二人を中心に円形に抉れた。


 均衡が崩れればこの魔力が一方に激しく流れ込み勝敗が決する……。そう『赤い竜』が現状を判断した途端、クィーロが少し仰け反ったかと思えば勢いをつけて頭突きを繰り出した。一層響く不協和音は、さながら雷の様な激しさと喧しさ。


 衝撃に揺らぐ視界の中、『赤い竜』は歯を食いしばって自身もまた頭突きを繰り出す。全身を覆う魔甲は、世界の法則を捻じ曲げた反動から身を守る物ではあったが、それだけに魔力的にも物理的にも防御力も高い。遠方からの魔術攻撃では世界の法則により大抵の魔術は減退する、そうなれば魔甲に防がれる。そのため魔術師が争うとこの様な泥臭いものになりやすい。


 反撃の成果かクィーロの拳から一瞬魔力が抜けたと感じた『赤い竜』は、一気に勝負を付けるべく一層魔力を拳に注いだ。それが功を奏して均衡が破れ一気にクィーロの拳が押され、上半身が半身になった――それでも視線は切らずに赤い竜をクィーロは見据えていたが……無駄な足掻きか。均衡が破れ魔力の奔流がクィーロを襲う!


 だが……。すぐに『赤い竜』は予測と違う事に気付く。おかしい、均衡が破れればわだかまっていた魔力が一気にクィーロに押し寄せ吹き飛ばす筈。そう考えた途端、『赤い竜』はヘルムの奥で目を見開いた。


 クィーロの黒い魔甲のヘルムの奥から、銀色の炎が燃え盛っていた。それは己の師である黄金瞳の男(偉大なる首領)が大いなる業を扱う際に双眸が燃えるように輝いて居た事を思い起こさせた。


 そう、クィーロは襲い掛かって来た互いの魔力の奔流を制御しようと試みていた。それが証拠にクィーロの拳に互いが込めていた魔力が螺旋状に集まりだしていた。


「しまっ」


 『赤い竜』は自身の失策に気付き僅かに狼狽した。ほんの僅かな時間。しかし、勝負を揺り動かすには大き過ぎる隙。その機を感じ取ったクィーロは拳を叩きつけるべく、捩じっていた身体を戻す。戻る勢いを利用して、唸る拳を『赤い竜』の真紅の魔甲に叩きつけた! 螺旋状に渦巻く魔力の奔流と共に放たれた一撃が真紅のヘルムを打ち抜いた!


 


 インパクトの瞬間にクィーロの肘辺りから一瞬七色の光が煌めき、打ち抜いた拳は勢いのままに、飛ぶ。簡易な術式による拳の切り離しの為、守護者を屠った時に様な威力はない。だが、『赤い竜』の身体を吹き飛ばすには十分な一撃となった。


 螺旋状に纏わりつく魔力は奔流となり『赤い竜』を、真紅の魔甲を纏った魔術師を吹き飛ばす。『赤い竜』を吹き吹き飛ばした拳は、魔力の尾を引きながら反転し回転しながら、立ち上がりかけた『赤い竜』のその頬と顎を再び捉え再度襲い掛かる。荒れ狂う魔力が真紅の魔甲を侵食し、ヘルムに遂に亀裂が走った。


 もし、彼が『赤い竜』と呼ばれた彼が三百年前と変わらずに居たならば、ここで頭を砕かれ終わっていただろう。だが、クィーロがそうであったように『赤い竜』もまた力を付けていた。


「ぐぁあああああっっ!」


 獣染みた咆哮を上げて、回転し続けるクィーロの飛ぶ腕を両手で掴み抑え込もうとした。螺旋状の魔力が指を吹き飛ばしかねないと言うのにだ。


 魔甲の強度は自我の強さに比例する。砕けかけたヘルムを思えば、指先を守る小手部分は虚弱になりがちのはずだが、『赤い竜』は……いや、人としての名をリュウジと言う魔術師は遂にはクィーロの腕を掴み取り、大地に叩きつけた。


「……やって……くれたな」


 ごぼごぼと言う音が混じる言葉を告げた『赤い竜(リュウジ)』にクィーロはゾッとするような恐怖を初めて覚える。ウアトは――まだドラゴンと戦っている。地上ではあまり力を振るう訳には行かないと言っていた事を思い出しながら、今の一撃で仕留められなかった事でクィーロは密かに思う。


(難儀な戦いになりそうだ……)


【続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ